「もう少し、お安くできませんかしら」セール品に更なる値引きを要求されたスーパーの従業員の憂鬱

9月6日(金)5時30分 文春オンライン

 パワハラ、セクハラと並び、今や世界的な現象になっているカスタマー・ハラスメント(従業員のささいなミスでキレる、暴言を吐く、終わらないクレーム、威嚇・脅迫顧客からの悪質なクレームなどの迷惑行為)。NHKの人気報道情報番組「 クローズアップ現代+ 」の放映後、大反響を呼んだその実例と分析、処方箋をまとめた『 カスハラ モンスター化する「お客様」たち 』が発売された。その中から実際にあった酷い“カスハラ”の2つの事例。


◆◆◆


ニコニコしながら「もう少し、お安くできませんかしら」


「ほとんどの商品が値下げになっている、冬物のバーゲン期間中でした。加えてその日は、販売促進のために『レジにて半額』というタイムセールも行なっていました。


 レジのひとつを担当していたパートの女性が困った様子で、私のところへやって来ました。お客さまから、『もっと値下げ出来ないか』と持ちかけられているという相談でした」


 その商品は、通常価格の4000円をバーゲンだから1000円に値下げし、半額のタイムセールで売値は500円になっているカーディガンだった。商売としては、この時点で原価割れだ。


 加藤さんがレジに向かうと、60歳を少し過ぎたくらいの女性が待っていて、ニコニコしながら控え目な声で言う。



写真はイメージです。 ©iStock.com


「もう少し、お安くできませんかしら」


 加藤さんは、バーゲン期間の上にタイムセールの割引で、原価割れもしているため、これ以上の値下げは出来ない旨を説明した。しかし相手は、引き下がらなかった。


「ほんの少しでいいんですよ」


 500円を300円にできないか、というのだ。



笑顔からの豹変「なんなのよ、あんた!」


 何度も断わったが、しつこく粘る。15分から20分が過ぎ、押し問答のようになってくると、満面の笑みだった相手の顔が、次第に強こわ張ばってきた。


「なんなのよ、あんた! もう少し下げたら買ってあげる、って言ってるのよ!」


 大声になったのは突然だった。


「あんたみたいな従業員は、初めてだわ」


 そう怒鳴ると、おもむろに、手にしたカーディガンのチェックを始めた。そして、商品としては許容範囲内の糸のほつれを無理やり見つけ出すと、こう叫んだという。


「ほら、これ不良品じゃないの! この店は、こんな不良品売ってるの? 検品もまともに出来てないの?」



 明らかに、周りの客に聞こえることを狙った大声だった。加藤さんは、


「お客様から不良品と指摘された以上、こちらとしては販売出来ませんから」


 と伝え、相手からカーディガンを受け取ろうと手を差し出した。途端、その手はパーンと弾かれた。加藤さんはさすがにムッとしてしまい、


「暴力は止めていただけませんか」


 と咎めた。


「あなたが、私に汚い手で触ろうとするからでしょう!」


「防犯カメラに写ってますよ」


「治療費でも慰謝料でも、なんでも請求しなさいよ!」


 客の激高は、さらにエスカレートした。加藤さんも驚いたが、遠巻きにしていたほかの客たちもみなびっくりしていたという。


 収拾がつかなくなり、売り場責任者である上司が出てきた。とにかくお詫びを重ね、ひたすらなだめて頭を下げた。相手は、


「お宅も、こんな不良社員を教育するのは苦労しますね。まったく!」


 などと毒づいたが、上司がお詫びに出てきたことで、少し気が静まったようだった。


 その場はひとまず収まり、問題のカーディガンは取り置き扱いにして、その女性客は帰った。しかし後日「やっぱり要らない」と、キャンセルの連絡が入ったという。



自分の対応がまずかったのかと自問自答……


 加藤さんが後で聞くと、その女性客は“常連”として知られていた。以前から、従業員の口の利き方や態度が気に入らないと、頻繁にクレームを付けていた。バーゲン時期にさらに値引きを迫るのも、初めてではなかった。


「お店側も渋々、もっと安くしたことがあったらしいんです。ごねて得をした経験があるから、今度もどうにかなるって考えだったんでしょう。お友達とかに、『私、ここまで得して買えたのよ』って自慢したかったんじゃないかと思います」


 これは3年前の事件だが、加藤さんにとって忘れられない出来事になっている。


「値切ったお客様だけさらに値下げしたら、ほかのお客様に対して失礼です。まして、たくさんのお客様が見ている前でしたから、引くわけにもいかず、つい押し問答になってしまったんです」


 傷ついたのは、それなりのプライドを持って長年接客してきたのに、“不良社員呼ばわり”されたことだ。


「もしかしたら自分の対応がまずかったのかと自問自答して、適切な対処だったと言い聞かせて、無理やり自分を納得させたんです。けれどいまも、接客しながらあのときの光景が頭をよぎります。


『こう言うと、気分を損ねてしまうのではないか』という気遣いは当然ありますし、『このお客様も、どこにスイッチがあるかわからない』という目で見てしまって、ビクビクしながら接客するのが日常茶飯事になりました」


 ベテラン店員の加藤さんが、昔と比べて変わったと思うのは、クレームが悪質になったことだ。明らかに店に落ち度がある場合の苦情は、以前もあった。


 しかし、理由もなく値下げを要求し、応じなかったからというのでクレームに発展するようなケースはなかった。


 ほかの客の前で大声で喚わめけば言い分が通ると思っているような、店側の弱みを逆手に取る客が増えた。加藤さんは、客との距離が遠くなったように感じている。


◆日本中で起こっている「カスハラ」の対策と改善例は『 カスハラ モンスター化する「お客様」たち 』に収録されています。



「商品の入れ方がおかしい」というクレームが「慰謝料100万円よこせ」に——コンビニ店主の悲鳴 へ続く



(NHK「クローズアップ現代+」取材班(編著))

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