今年も「歌舞伎ショー」だった総合火力演習

9月8日(金)6時8分 JBpress

2017年8月27日に公開演習が行われた「平成29年度富士総合火力演習」

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 今年も富士総合火力演習が実施された。昨年、筆者は、元米海兵隊大佐のグラント・ニューシャム氏が富士総合火力演習を「歌舞伎ショー」と批判する論説を紹介した(「こけおどしのショー『総火演』はやっても無意味」)。今年、約10年ぶりに2日間見に行ったが、はっきり言ってまさしく中身のない「歌舞伎ショー」であった。走る棺桶というべき水陸両用車「AAV7」が登場するなど、そのひどさに磨きがかかっている。

 以下では、今年の総火演が露呈した問題点について述べよう。


何の訓練にもならず、疲弊するだけ

 第1の問題は、総火演のような「動かない敵を一方的に叩きのめす」イベントが、一般市民に過剰な期待感を持たせることである。

 総火演を見て感激するか疑問を持つかで、プロとアマチュアかがよく分かるという言葉がある。残念ながら、総火演を見た多くの人は感動して、自衛隊は精強だ、問題は政治家や憲法だと誤解してしまうだろう。

 しかし現在、多くの自衛隊幹部が危惧しているのが、自衛隊の“東京電力”化である。要するに、原発事故前の東京電力は非常に評価が高い組織であった。しかし、福島原発の事故後は評価が地に落ち、日本で最も批判される企業となってしまった。

 同様に、現在の自衛隊の評価は年々高まるばかりである(それこそ、総火演のチケットの倍率が年々高まることが証明するように)。一方、実際の戦闘能力は危惧されている。実際の戦争になった際、災害派遣のようには上手くいかない可能性が高く、東電と同様に強い失望を受ける公算が高い。

 第2の問題は、総火演は何の訓練にもならず、ただ疲弊するだけだということだ。

「富士総火演は貴重な実弾訓練の機会」などと言う向きもあるが、一部の応援部隊を除けば、主力は富士に展開する部隊であり、何の意味もない。最前線に出る確率が低い富士教導団ばかりが能力を高めてどうするのだろうか。それも、砲弾で富士山を描くような、実戦で何の意味があるのか分からない職人芸を鍛えてどうするのか。

 むしろ、隊内では「各方面隊での持ち回りにすべき」「より実践的な訓練に時間と予算と弾薬を振り向けるべき」「米国からの演習の誘いをお金と時間がないと断っておきながら、こうしたイベントをするべきではない」との声もあり、筆者も同感である。


AAV7に「高い機動力」などない

 もう1つの問題点は「AAV7」である。今回の総合火力演習では、水陸両用車のAAV7が初展示された。本機は25名の陸上自衛隊員を積載して、水上を疾走し、上陸作戦が展開でき、当日のパンフレットにも「上陸適地まで到達可能な高い機動力を有している」とある。

 しかし、AAV7は走る棺桶でしかない。このような装備を自慢げに展示し、高機動などと記載するのは、まさに虚偽と言わざるをえない。

 なぜか。それは第1に、AAV7に高い機動力などどこにもないからである。確かにAAV7は地上では時速70キロメートル以上を誇る。だが、水上では最高速度は時速13キロメートル、巡航速度は9.6キロメートルとママチャリよりも遅い。しかも、これは波が穏やかな場合だ。波が1.24メートル以上になると速度は大幅に低下し、操縦も困難になる。このような鈍足の車両が離島奪還などを行えば、文字通り射撃の良い的(まと)である。

 米海兵隊はAAV7を沖合25キロメートルから出撃させるとしているが、その場合、沿岸につくまで2時間、波が荒ければ3時間以上かかることになる。その間に時速10キロメートル前後の移動物体を攻撃するのは容易であろう。20メートル程度の高台から水平線を超えて目視可能になるのが16キロメートル前後なので、目視でも悠々と準備できる。中国の対戦車ミサイルの射程距離は4〜10キロメートル以上を誇るので、余裕でアウトレンジからの一方的な攻撃が1時間から30分間も可能である。


容易に待ち伏せされるAAV7

 しかもAAV7は、海兵隊のマニュアルによれば、2.43〜3.65メートル以上の波では身動きが難しい。強襲揚陸艦からの出撃も困難かつ危険であり、乗員も極度の船酔いを起こすとしている。また、マニュアルでは3.65メートルまでは転覆しないとしているが、言い換えれば「3.7メートル以上の波では転覆する」ということだ。

 ここで、自衛隊がAAV7を投入する東シナ海の海象を考えてみよう。

 東シナ海はかなり波が高い。例えば、長崎海洋気象台の専門家である、田代知二氏は、1999年2月の日本財団発行の雑誌で、「秋の波の平均は台湾近海では2.5メートル前後。東シナ海南部での3メートル以上の波の出現率は25〜30%。冬の平均は東シナ海南部では、2.2メートル前後、3メートル以上の波の出現率は25〜30%」としている。つまり、尖閣諸島や沖縄周辺では、秋冬におけるAAV7の運用がそもそも難しいのである。

 沖縄開発庁の尖閣諸島調査報告書(1980)も同様である。これによれば台風通過時の尖閣諸島近海では16メートルの波、冬の季節風通過時は最大6〜7メートルであるとしており、尖閣諸島周辺の気象環境の厳しさがよく分かる。

 また、筆者が気象庁のデータを基に、AAV7が転覆する4メートル以上の波浪が発生した2016年の日数を計算したところ、沖縄南部海域では73日間、東シナ海では63日間となった。AAVの性能が低下する1.24メートル以上、運用不可能な2.43メートル以上の日数を加算すればさらに運用は難しくなる。しかも、その他の軍事的状況を加味すれば、上陸可能な日数はさらに限定され、敵の待ち伏せを容易にするだろう。

 また、AAV7は0.9メートル以上の高さの障害物を越えられないが、沖縄と南西諸島は、あの米軍すら沖縄戦時に難儀—上陸ポイントが限定された—した珊瑚礁地帯であって、そこら中に上陸不可能な0.9メートル以上の障害物にあふれている。そのうえ、いまだ宮古島などでの上陸演習もほとんど行われておらず、有事にAAV7の上陸作戦は困難なのではないか、仮に可能だとしても上陸ポイントが限定されて容易に待ち伏せされるのではないかと危惧される。


東シナ海で離島奪還に使おうとするのが間違い

 第2は、このように水上では鈍足かつ低機動のAAV7の装甲が、極めて貧弱だということである。

 AAV7は水上走行を可能にするために軽量なアルミ装甲を使用しているが、これは機関銃弾までしか跳ね返せない。もちろん、総火演に出演したAAVのように、陸自の一部の車両は増加装甲(EAAK)を側面等につけている。しかし、正面や上部や下部をやられればおしまいだし、14.5ミリ以上の装甲を破壊可能なロケットランチャーやミサイルが相手では無力である。実際、イラク戦争では、複数のEAAK装備のAAV7が地雷等で破壊され、多くの死傷者を出している。

 また、AAV7の武装も貧弱で重機関銃と擲弾銃しかない。中国のそれが30ミリ機関砲や対戦車ミサイルを装備しているのとは大違いであり、正面からぶつかれば間違いなく負けるだろう。

 AAV7は兵員25人、操縦3名と30人弱もの大勢の人間を積載する。もしも撃破されればこれが溺死することになる。このようにAAV7は、まさしく走る棺桶なのである。

 しかし、これらはAAV7の責任ではない。そもそも米海兵隊の任務に、厳重に防衛された離島の奪還はない。彼らの主要任務は、内陸部へ侵攻するための橋頭保の確保である。おまけにそれは、基本的に穏やかな海域において、敵の防備の薄い地点を突破するということである。その任務ならば、AAV7は「まだ」適している(他方、ゲーツ国防長官を筆頭に、こうした任務でさえ、近年の環境下ではリスクがあるとの指摘が米国では根強いことに強く留意すべきである)。それを、中国の強大なA2/AD戦力が待ち受け、荒波が頻発し、珊瑚礁の起伏だらけの東シナ海で、この種の水陸両用車を離島奪還に使おうとする陸上自衛隊が間違っているのである

 こうしたAAV7(52両)を442億円もの巨費を投じて調達し、あまつさえ有効な兵器であるかのように総火演で展示することはいかがなものか。今からでも遅くないから、調達を中止し、既に導入した車両は他国に供与すべきであるし、中国のA2/AD戦力を無力化する為の態勢強化こそ注力すべきだ


総火演の見直しを

 このように、今年の総火演も多くの問題を露呈させた。2日間の演習を拝観して、その意を強くした。もはや、広範な世論の支持を持ち、しかも災害派遣の様子が多数報道され、その度に過剰な期待が高まる自衛隊に「総火演式」の広報は不要である。

 何の抑止力にもならず、疲労と手間により対処力を低下させかねない観閲式・基地祭等は、廃止もしくは頻度を縮小し、総火演もまた各方面隊で持ち回り制とすべきだ。プログラムも見直すべきである。少なくとも、こうした広報はするべきではない。

(最後に、当日の運営や多々気配りに心より御礼申し上げます。)

筆者:部谷 直亮

JBpress

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