退去してもつきまとう「心中事故物件」の暗い影

9月11日(水)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AlexLinch

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一家4人が心中した「春日部コート」(仮称)に家族と暮らすライターの建部博氏は、次々と起きる異変や災難を乗り越え、事故物件から退去することになった。平穏無事な暮らしを手に入れたかに見えた建部一家を襲ったその後の悲劇とは——。(第4回、全4回)

※本稿は、建部博『一家心中があった春日部の4DKに家族全員で暮らす』(鉄人社)の一部を再編集したものです。



写真=iStock.com/AlexLinch
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■兄の受験票を燃やした美幸にできた友達


2011年4月の初旬。東日本大震災による混乱が多少落ちついてきたころ、携帯が鳴った。母親からだ。


ヤツからの電話がいい話だったためしがない。地震でテレビが壊れたから買ってくれとか言うんじゃねーだろうな。


「もしもし。どうした?」

「あのね、美幸が、なんかヘンな人と友達になったの。今夜ウチに来てよ。もう大変なんだから」


美幸は建部家の小学6年生の次女だ。以前オレが住んでいた事故物件の豊島マンション(仮称)に遊びに来たあとに、三男・雄介の受験票を燃やすという奇行に出たことがあるが、以降は落ち着いていたはずだ。ヘンな人と友達になったってどういうこった?


実家では、母親がリビングで神妙な顔をしていた。美幸の姿は見えない。自分の部屋にでもいるんだろう。


「どういうことだよ?」

「こないだね、美幸がパソコンいじってたのよ」


美幸がパソコンに向かってる姿はオレも何度か見たことがある。ソリティアとかのゲームをやっていた気がするけど。


「それでね、ワタシが後ろを通ろうとしたとき、バッて隠したのよ」。ノートパソコンを閉じて「なんでもない」と、ゴマかしたらしい。


「で、美幸がお風呂に入ってるときにね、あの子の携帯が鳴って。登録してない番号からの着信だったの」


あろうことか、母親はその電話に出てしまった。



■自殺未遂のサイトで知り合った謎の少年


「男の子の声だから『誰?』って聞いたら『池田です』って。中学生なんだって」


池田クンの説明によると、美幸とチャットをしていて意気投合し、連絡先を交換したそうだ。なるほどパソコンを隠したこととスジが通っている。あいつも年頃なんだな。


「そんなに心配しなくてもいいんじゃないの?」

「なに言ってんの。そのなんとかチャットサイト? ってのは自殺未遂する人が集まってるって言うんだから!」


はぁ? なんで美幸がそんなサイトに出入りしてるんだよ。オレまで怖くなってきた。まさか小6が自殺はないだろうけど、最近のガキはませてるからな。悩みでもあるのかも。


美幸の部屋をノックすると、無言でドアが開いた。表情が緊張してる。


「聞こえてたのか?」

「うん」

「池田クンとはまだ連絡とってるの?」

「…とってないよ」


ぜんぜん目を合わせてくれない。でも、あまりガンガン言うのも良くない気がする。


「なんでそんなサイト見てたの?」

「え、別に…」

「そういうのとか興味あるのか?」

「ないよ」

「池田クンは悪い人じゃないかもしれないけどさ、みんな心配するから、もうそういうサイトを見るのはやめろよ」

「…わかったよ、ハイハイ」


美幸はふてくされた様子でベッドに入り、頭まで毛布をかぶってしまった。


数日後、また母から電話があった。


『美幸ね、夜、電話で話してるみたいなのよ。絶対あの池田だよ』


あの年頃だから、中学生の悪っぽい男にあこがれてるだけなら健全だと思う。でももし…。


■少し変わった同級生と偶然の再会


仕事帰りに駅から歩いていると、一人の女性とすれ違った。あれ? 誰だっけ、なんか見覚えがあるんだけど…。


向こうはすぐに気づいたらしい。後ろから声が聞こえた。


「建部くん?」

「へ? …もしかして、水野?」


思いだした! 小学校の同級生の水野だ。久しぶりだなぁ。


「建部くん、元気? 結婚、した?」

「ああ、うん。お前も知ってる同級生の真由美と結婚したんだ」

「そっか、ああ。良かったね。私は、元気です」


水野は少しばかり鈍い子だ。なんというか、感性が独特というか、口ごもったり、急に目線をあらぬほうへやったりするおかしな子なのだ。


「そうだ、じゃあ真由美ちゃんに、これ」


水野はメモを書いて差し出した。住所や携帯番号、メッセージが書いてある。こういうちょっとズレた律儀さもいかにも彼女らしい。




小学校の同級生水野が妻・真由美にあてた手紙

「ありがとう。渡しておくよ。またな」


家に戻ってその旨を真由美に伝えた。


「水野さんってあの?」

「そうだよ。変わってなかったわ」

「会いたいって言われてもねぇ」


ほとんど話をしたことはないのにと真由美は少し引いている。


「今度ウチに呼んでみるか」

「やめてよ〜。なに話せばいいかわかんないもん」


オレはぜひ招きたかった。映画やドラマでも、ああいう少し変わった人は霊的なモノを感じやすいことになっている。このマンションに入って何を思うのか、ちょっと聞いてみたい。



■部屋に入るなり、頭が「きーんって痛い」


「何か感じる?」

「うん、頭痛い」


週末、水野が春日部コートにやってきた。誘えばすぐに来てくれるあたり、やっぱり水野だ。


湯呑みのお茶を一気に飲み干し、そしてまた次も一気飲み。おもしろい子だな。


「真由美ちゃん、久しぶりね。あ、かわいい赤ちゃん、こんにちは」

「ありがとう」


真由美はぎこちない笑顔で応対している。が、しばらく昔話をしているうちに「なんかお菓子用意するね」とキッチンに逃げ込んでしまった。どうにもウマが合わないようだ。


では本題に入ろう。


「このマンションって何か感じる?」

「うん、頭痛い」


いきなりそう来るか! お前、さっき入ってきたばっかじゃん。


「頭? マジで?」

「うん、きーんって痛い」


水野よ、ホントなのか。ていうか、いつも痛いんじゃないのかよ。


「そうですね、うん。もうちょっとしたら帰ります」

「え、誰としゃべってんの?」

「建部くん」

「だよな」

「うん」


なんだこれ、何が起きてんだ。元々がおかしな子だけに判断つかないぞ。


「もう帰るの?」

「ちょっと疲れました」


水野はテーブルのお菓子に手をつけずに、そそくさと帰ってしまった。20分もいなかったんじゃないのか。


謎の頭痛。急に登場した「ですます」調。その理由を探ってみたい気は山々なのだが、なぜか水野は今も電話に出てくれない。


■事故物件から無事退去した「その後」


連載が終了してからも、オレたち一家はしばらくの間(1年半ほど)、春日部コートでの暮らしを続けた。単純に金がないので引っ越せなかったなどといった些末な理由もあるのだが、今思えば、もはやオレらは「オカシなことばかり起こる部屋に住む」ということに麻痺していたのだろう。


今のオレら一家は、春日部コートを後にして、地元の埼玉に戸建を購入し、とりあえずは安定した毎日を過ごしている。


二度の転職を経て「MONOQLO」というモノ雑誌の編集者になったオレ、主婦として毎日奮闘する妻の真由美、春日部コートで出来た愛の結晶・娘の夏美は小学校3年生になった。義母の昌子も相変わらずだ。犬のレオは糖尿病になり、毎日2回のインスリン注射がマストになったがなんとか生きながらえている。


そして我が家には新しい家族もできた。長男の壱太(2歳)は、わずかな期間だけ春日部コートで暮らしたのだが、特に問題なく(当たり前か)すくすくと成長している。


このようにわざわざ近況を報告したのは、連載を読んでいただいた方なら「あの家族はいまどうなってるんだろう」と気にかけてくれるかもと考えたからだ。


思えば幽霊物件に住んで、そこで起こる現象をリポートするところからスタートした連載、どこで歯車が狂ったのか、図らずも我が家の不幸話を披露する展開になってしまった。なぜそんなことになったのか。色々考えてみても、幽霊はいるのか、いないのかといった不毛な論争が頭の中で繰り広げられるばかり。



■心霊物件に住んで分かった唯一のこと


ただ一つだけ言えることがあるとすれば、霊の仕業とするかは別にして、あの部屋に住んだ結果、オレら家族は不幸になった、ということだ。どこに住んでいてもこうなっていたのかもしれないし、そうはならなかったのかもしれない。人間、未来はどうなるかわからない。




建部博『一家心中があった春日部の4DKに家族全員で暮らす』(鉄人社)

だけどあの二つの部屋に住んでいたからこそ、オレには家族の嫌な部分、人の心の奥底にある性悪な一面が目についたのだ。それは毎月の連載で原稿に起こすべく四方八方に目を配っていたからであり、やはり心霊物件に住んだからこそ、気づかされたのだ。幽霊なんているかいないか知らないが、幽霊物件に住むと、不幸になる家族は存在するのだ。


と、本来はここで終了するつもりだったのだが、もう少しだけお付き合いいただけるとありがたい。


これを書き始めたのは、令和元年6月2日の深夜のこと。筆が乗らぬまま半分終わったあたりでパソコンを切った翌朝、オレは娘の夏美が通う小学校の運動会に向かうべく、真由美が運転する車の、後部座席に乗り込んだ。長男の壱太を抱きながら。


■交差点で一家を襲った悲劇とは……


自宅を出発して5分と経たないころだ。オレらの車は時速30キロで片側1車線の道路を走っていた。スピード違反もしていないし、脇見運転もしていない。目の前の信号が青だった為そのまま交差点を通過しようとした。


ところが次の瞬間、突如として左側から軽自動車が現れたのだ。直進するオレらの車の前を横切った、と言えばわかりやすいだろうか。真由美が「ヒッ!」と声にならない声をあげ、車を避けようと慌てて右側にハンドルを切った、そのとき、


ガチャーン!


オレらの車が軽自動車の横側に衝突したのだ。




建部家が乗った車と軽自動車が衝突した事故現場

さらに勢いのついたオレらの車は軽自動車を押したまま、民家の壁に激突し、ようやく2台はストップ。人間、いざというときはどうでもいいことを考えるようで、オレはといえば、衝突して数秒後には、「運動会の日なのにめんどくせーな」と考えていた。


よりによってこんな日に事故だなんて……。


落ち着くと、ふと、このあとがきのことを思い出した。まさか、豊島マンションが、春日部コートが、「本を出版するとは何事だ」と怒っているのだろうか。いやそんなことより、真由美、壱太、大丈夫か!?


幸い、双方に大きな怪我はなかった。実は妻の真由美は3人目を妊娠中であるが、なんともなかったということでホッと胸をなでおろした。事故の原因は相手の一方的な信号無視。車の修理代も全額向こう持ちだし、まあいいのだが……。


やっぱり幽霊っているのかな。いやいるわけないだろ。頭のなかの堂々巡りは今も続いている。



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建部 博(たてべ・ひろし)

編集者/ライター

1984年東京都生まれ。『裏モノJAPAN』元編集部員。広告代理店勤務、フリーライターを経て、現職は『月刊MONOQLO』(晋遊舎)デスク。うらぶれたスポットの取材をライフワークとし成人映画館、ストリップ劇場などの「超個人的潜入取材」を続けている。

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(編集者/ライター 建部 博)

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