センター試験でムーミンの出身地が問われる訳

9月12日(木)6時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

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2021年1月から始まる大学入学共通テストに向けて、現行のセンター試験でも「思考力」を問う問題が増えている。現役東大生の西岡壱誠さんは、「学んだことや教科書に書いてある知識と結び付けて解を導く能力がある人材を育てるため」という——。

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■東大生の“教材”は日常生活すべて


AIが台頭する時代において、自分の頭で考える力「思考力」が必要になると言われています。


誰かの言った通りに動くだけであればロボットでも代替できるから、自分の頭で考えて行動する力が必要になってくる、と。


これを受けて、知識量を問うセンター試験は廃止され、2020年入試改革で「思考力」を問う問題の出題が増えると言われています。


「思考力」とはいったいどのような能力なのか? これからの教育はどう変わっていくのか?


それを考える上でキーポイントになるのは、「東大」です。実は東大は70年前から「思考力」を問う問題を出題することをアドミッションポリシーにしており、大学でも学生の思考力を養う授業を展開しているのです。


今回は、いかにして東大生が思考力を身に付けているのか、どうすれば思考力が身に付くのかについてお話ししたいと思います。


もったいぶらずに答えを言うと、東大生は「日常から学ぶ」ことによって、思考力を身に付けています。東大の入試問題では「ジェンガの摩擦を物理学的に答えなさい」とか「カードゲームのブラックジャックで勝つ確率を答えなさい」とか「シャッター通り商店街が増えている理由を答えなさい」とか、そういう日常生活を題材にした問題が多く出題されています。


さらに、東大の授業では「高速道路からわかるシステム工学」とか「ゴジラを題材に考えるメディア論」とか「『の』という言葉について考える言語論」とか、そういう自分の身の回りのことを学びにつなげる授業というのが多く展開されています。



■常に「なぜ?」と考える癖をつける


思考力というのは、自分の身の回りのことと自分が学んでいる勉強とを結び付けることで鍛えられます。自分が持っている知識や学んだことを、自分の身の回りのことに応用させて、より自分の身の回りのことを理解しやすくする。それが思考力の本質だと考えることができるのです。


日常生活の何げない事柄の中から「問い」を立てて、「なんで高速道路ってこうなっているんだろう?」「どうしてジェンガって難しいんだろう?」と考え、学んでいる事柄と結び付け、解を導くことを「思考する」という。だからこそ東大は日常生活を題材にした問題を受験生に課し、どれくらい普段から思考しているのかを問うのです。


「問い」というのは、「なぜ?」と理由を考えることです。どうしてそうなったのか? なぜそうなっているのか? そういう問いを突き詰めるのが学びであり、「なぜ?」を考えることでより本質的な情報を得ることができる……というわけです。


東大生は、この「問い」を立てるのが非常にうまいです。いつでもどこでも、机に向かっていない時でも、普段から「これってなんでだろう?」「どうしてこうなっているんだろう?」と常に考えているから、机に向かっていなくても自分の頭をよくすることができる。思考力を鍛える術(すべ)を持っているというわけです。


■思考力があればムーミンの出身地もわかる


そして、入試問題で思考力を問おうとする姿勢は、何も2020年にいきなり出現するものではありません。2018年、2019年と、現行のセンター試験の問題でも「なぜ?」という思考力を問う問題が出題されました。


昨年出題されたのが以下の問題。「ムーミン」の出身地を問うという問題でした。



びっくりするような問題ですね。僕も去年、受験生の教え子から「今年のセンター試験でムーミンが出てたんですよ! 超びっくりしました!」と連絡が来て驚いたのを覚えています。


この問題を解いたその教え子は僕に、「この問題、よくない問題だと思います。ムーミンの出身地なんて、教科書に載ってないじゃないですか」と愚痴っていました。


でも、実はそうではないのです。たしかに教科書には、「ムーミンの出身地はどこか」なんて問題は出題されていません。しかし、「ノルウェーとフィンランドとスウェーデンでは、フィンランドのみ全く異なる言語を持ち、フィンランド語はウラル語に属する」ということはきちんと教科書に書いてあります。この問題は、教科書の知識と、日常にある題材とを結び付ければ答えがわかるという問題なのです。


センター試験は今まで、「教科書に書いてある知識」をそのまま問う問題が主流でした。しかし近年は、「教科書に書いてあること」を、「日常にある普通の物事と結び付ける」という能力がないと答えられない問題が増えているのです。



■授業で習ったことを生活の中で意識する癖を


また今年、センター試験ではこんな問題が出題されました。これも、「日常生活」に立脚した問題です。



「喫茶店がどこに多いか」「牛乳処理場の立地の特徴はどんなものか」という問題なわけですが、これは参考書や問題集にはほとんど載っていません。しかし、「日常生活」と結び付ければ、この問題は簡単に解くことができます。


例えば、東京にお住まいの皆さんは、いつも飲む牛乳がどの県で作られている場合が多いか知っていますか? 「北海道」と答える人が多いかもしれませんが、実は北海道はそこまで多くありません。試しにコンビニやスーパーで牛乳の生産地を確認してみてください。東京で売られている牛乳の多くは、北関東で作られている場合が多いです。群馬・栃木・茨城県の割合が多いのです。


多くの人は、「北関東」と「牛乳」というのはイメージが結び付かないことでしょう。しかしこれは、小学生で習う「ある知識」があると納得できます。


「近郊農業」または「都市農業」という言葉を覚えていますか? これは、大消費地である都市の近くで農業を行うことで、鮮度を保ったまま出荷する、という農業形態です。


牛乳って、賞味期限が結構短いですよね。賞味期限切れの牛乳を飲むとおなかが痛くなってしまいます。北海道から東京に牛乳を輸送すると、時間がかかるので、賞味期限がどうしても短くなってしまいます。そのため、東京に近い北関東で作られる場合が多いのです。


そう考えて問題を見てみると、北関東の●が大きいのはイだけです。イが牛乳処理場・乳製品工場だとわかります。


■コメダ珈琲店が入試を解くヒントに


また、喫茶店はどこの地域に多いと思いますか? これも日常と結び付ければ簡単です。みなさんは「小倉トースト」を聞いたことはありますか? 名古屋のご当地飯で、食パンに小倉あんをのせたおいしい軽食です。


それから、コメダ珈琲店は知っていますか? 名古屋発の喫茶店で、全国にチェーンがあります。コメダ珈琲店のモーニングセットが好きだという方も多いのではないでしょうか。愛知県というのは、このように喫茶店産業が盛んな地域なのです。


また、当たり前のことですが、喫茶店というのはお客さんがいないと成り立ちません。人口が少ない地域よりも、人口の多い地域の方が喫茶店が繁盛する傾向にあります。以上を踏まえて問題を見てみると、愛知県を始め東京や大阪の●が大きいのはウだとわかります。


いかがでしょうか。「都市近郊では近郊農業が盛んである」とか「小売業は人口規模に比例する」とか、そういった知識は教科書にも載っています。しかしそれを日常生活と結び付けたときに答えられるのか? いつも飲んでいる牛乳と、小倉トーストを、知識と結び付けられるのか? この問題では、日常生活と教科書の知識をつなげる思考力を問うものだったと言えるのではないでしょうか。



■教育改革の目的は「思考力を付けるため」


さて、現行のセンター試験でも思考力を問う動きが見られるわけですが、将来的な方向性としても、思考力を養成する動きが見られます。


高校のカリキュラムが、2022年には日本史と世界史が一緒になって「歴史総合」という科目が作られ、「地理」が必修科目になることが決定していますが、この変化も両方とも「思考力」に関係していると考えることができるのです。


従来の日本史や世界史といった科目は、歴史上の事実を覚えることに終始していました。「1853年にはペリーが来航した!」ということを暗記しようと、「1853年!」「1853年!」と何度も口に出したり、語呂合わせで「いやゴーサインでペリー来航!」と覚えようと努力することが多かったと思います。


しかしそれは、何も思考せずにただ丸暗記しようと試みていることに他なりません。これでは、短期的には覚えられても長期的にずっと覚えておくのは難しいですし、何より何も楽しくありませんよね。


■丸暗記では思考力は身に付かない


大切なのは、「なぜ1853年だったのか?」と考えることです。1853年というのが、世界的に見てどういう年だったのか? 何が起こったからペリーが来航することになったのか? そういうことを考えてみるのです。


実は1853年にはイギリスがロシアと戦争をするクリミア戦争が勃発しています。アメリカは、この混乱に乗じて「イギリスが来ないうちに」と日本に来たのです。また、1848年にはアメリカの開拓が進みサンフランシスコまで到着、1849年にはゴールドラッシュで人が流れ込んでいました。実は1853年という年号にはきちんとした意味があるのです。


そういうことを考えずに、「1853年ペリー来航!」とだけ丸暗記するのって、実はすごく大変なことですし、思考力だって付かないのです。1853年に対して「なぜ?」をぶつけてみるということで、1853年という年号も覚えられますし、もっと本質的に歴史のことを学ぶことができます。


そしてそのためには、より広く世界のことを知る必要があります。1853年の日本の歴史だけではなく、世界の歴史や世界の情勢・経済状況や地政学も知っておかなければアメリカの動向や「なぜ1853年だったのか」ということがわからないわけです。だからこそ、歴史総合が作られ、地理が必修化するのではないでしょうか。



■日常生活から学ぼうとする姿勢が大切


ちなみに東大は、年号や出来事の暗記ではなく歴史の「なぜ?」を問う問題を多く出題しています。時代背景や、歴史の大きな流れを鑑みて1つの出来事について記述させる問題や、なぜ歴史上の人物が当時そういう行動を取ったのかを問う問題などが出題されています。


例えばこの問題は、「伊藤博文らの調査団に加わっていたらどう反論するか?」というものです。なかなかユニークですが、教科書には書いていないけれども教科書をよく読んで考えていればわかる、本質的な理解を問う問題ですね。




現役東大生が教える東大のへんな問題 解き方のコツ』(日本能率協会マネジメントセンター)より


西岡 壱誠『現役東大生の世界一おもしろい教養講座』(実務教育出版)

いかがでしょうか? まとめると、思考力というのは日常生活や出来事に対して「なぜ?」という目線を向け、学んだことや教科書に書いてある知識と結び付けて解を導く能力のことであり、そのためには日常生活から学ぼうとする姿勢が必要だということです。


そして、東大は結び付ける知識のことを「教養」と定義しています。何でもかんでも知識をつければいいということではなく、活用できる知識のことをこそ教養と呼び、それを養成する授業が日夜展開されているというわけです。


みなさんも、教養を付けて思考力を養成するための訓練を積んでみてはいかがでしょうか? ちなみに僕も、日々そのための勉強をして忙しい毎日を送っています。みなさんもぜひ!



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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)

東京大学4年生

1996年生まれ。2浪から「暗記術」「読書術」「作文術」を開発し、東京大学経済学部に合格を果たす。全国4つの高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施し、高校生に勉強法を教えている。近著に『現役東大生の世界一おもしろい教養講座』(実務教育出版)など。

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(東京大学4年生 西岡 壱誠)

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