セダンの不人気は今後も続くのか 意外な魅力を体感した3台

9月12日(土)7時5分 NEWSポストセブン

長らく乗用車の基本形とされてきたセダン(ホンダ・アコード)

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 車高にゆとりのあるクロスオーバーSUVが世界的に人気を博すのと対照的に、退勢を余儀なくされている4ドアセダン。不調なのはセダンばかりでなく、ハッチバック、ステーションワゴンと、背の低いクルマが軒並み販売不振に陥っているが、長きにわたって乗用車の基本形とされてきたセダンの復権はこの先も見込めないのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。


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 かつて日本の軽自動車界でスズキが背の高い「ワゴンR」を出したところ、あっという間にスペースを稼ぐための高さ競争が始まり、軽セダン(ハッチバック)がわき役に追いやられたことがあった。今のSUVブームはそのムーブメントの世界版とも言える。


 低車高の乗用車よりスペースを稼ぎやすく、立派に見え、最低地上高にゆとりがあるため悪路や雪道でも有利。1ボックスバンタイプのボディを好まない欧米のユーザーにはその商品性がとりわけ刺さり、一大ブームを形成。それが世界に波及した──というのが現在の状況である。


 そのSUVに押され、フォードが撤退を表明したのをはじめ、各社がセダンのラインナップを縮小するという傾向は加速する一方。数自体はまだ出ているが、人気の低下に伴ってモデルの利益率が落ちているためだ。


 果たしてセダンはクルマとしてそんなにも魅力薄になってしまったのか。筆者はセダンの中でも最大のボリュームゾーンとなっている欧州Dセグメント相当(全長おおむね4.7〜4.9m)のセダンで幾度か長距離ドライブを試している。その印象は、セダンとSUVの美点は異なる部分にあり、セダンにも魅力は依然としてある。ライフスタイルや技術トレンドの変化、気候変動に伴う環境性能要求次第で、未来永劫セダンは廃れると決まったわけではない──ということだ。


ロングドライブ耐性に優れたセダン


 ここでは、ホンダ『アコード』、トヨタ『カムリ』、フォルクスワーゲン『パサート』の3つのDセグメントモデルのドライブフィールを紹介しよう。


 3モデルに共通しているのは、十分なサイズの車体でありながら人の座る位置はSUVに比べて低いということ。この特性は実は長距離旅行向きだ。簡単に想像できると思うが、ロール角が同じ場合、頭部から上半身にかけての揺れ幅は着座位置が低いほうが小さくなる。長距離ドライブの疲れを誘発する大きな要因のひとつは頭部の横揺れだ。過去の超ロングドライブの経験に照らし合わせると、横揺れの幅の小さいクルマのほうがロングドライブ耐性が高い傾向が顕著だった。


 隣県までのドライブ程度であれば、鷹揚な乗り心地のSUVに快適性の軍配を上げたくなることもままあるが、そこからさらに距離を伸ばすにつれ、セダンのアドバンテージが大きくなっていくという感じであった。


 第2の特性は重心の低さが生む敏捷性、同クラスのSUVに比べて軽量な車体が生む動力性能の高さだ。自動車工学の発達によって、最近はSUVでも相当に良いハンドリングを得ることができるようになったが、重心の低さや質量という物理特性を超越してセダンを上回ることはさすがにできない。3モデルの中で優劣はあったが、基本的な性能は非常に高いうえ、クルマの動きもSUVに比べて断然つかみやすい。


 第3はセダンという堅苦しいイメージからはちょっと意外に思えるかもしれないが、ユーティリティの高さ。トランクルームはカムリが524リットル、アコードが573リットル、パサートが586リットルもある。アコードでのツーリングでは数十着の洋服を含め、大量の荷物を鹿児島から愛知まで運んだが、積み込むのは朝飯前という感じであった。


 そのうえで室内は非常に広く、居住感は3モデルとも抜群に良い。全長が長いのだから余裕があるのは当たり前ではあるのだが、Dセグメントセダンは今や、昔のフルサイズサルーンのように使うことができるモデルになっているのだ。


「アコード」のHVを生かしたパワードライブ


 疲れにくい、運動性が良い、居住感や荷物の積載力が良いという3つの特徴を持つDセグメントセダン。もう少しドライブ感を紹介してみよう。まずは直近でロングドライブ(総走行距離4100km)を行ったホンダ『アコード』。もともとアメリカ向けのモデルとあって、全長は4.9mと非常に長い。日本向けの右ハンドル仕様はタイで作られる。パワートレインはハイブリッドのみだ。


 このアコードで魅力的だったのは、とにもかくにもハイブリッドシステムの性能の良さを生かしたパワードライブだった。普段は2リットルエンジンを発電に用い、その電力で駆動用モーターを動かすシリーズハイブリッド式なのだが、応答性の良さは際立って良かった。


 シリーズハイブリッドはスロットルペダルを踏んでから狙った加速Gを得るまでに若干の時間差があるのが常だが、アコードは同じ2リットルハイブリッドを積む『ステップワゴン』より重量が300kg近く軽いためか、その時間差がほとんど気にならないくらい短く、追い越し加速も瞬時に終わらせることができる感じであった。


 段付きのまったくない電気モーター駆動の滑らかさも気持ちいい!の一言で、大排気量6気筒エンジンへのノスタルジーを吹き飛ばす出来だった。燃費は運転の仕方次第だが基本的に優秀で、東京から北九州の門司までの区間は24.4km/リットルだった。


 そのアコードで向かったのは、本土最南端の鹿児島県・佐多岬。旧型に比べてなだらかなルーフラインのカリフォルニアルックは、強烈な陽光が降り注ぐ南国の風景とのマッチングが大変良かった。佐多岬への道はワインディングロードだが、低重心ボディゆえ左右の振られ感は小さく、3人ドライブは快適そのものだった。欲を言えば突き上げ感をもっと軽減できればなお良かった。


SUVにはない「カムリ」のエコ性能の高さ


 カムリでのドライブはアメリカ。ロサンゼルスからサンフランシスコを経由し、州際高速道路80号線を東に走ってカジノで有名なネヴァダ州、一面真っ白な塩の平原であるボンネヴィル・ソルトフラッツで知られるユタ州を超え、映画「シェーン」の舞台であるワイオミング州へ。総走行距離は5100km。


 アメリカではノンプレミアムDセグメントセダンは大衆車である。乗ったカムリは現地仕様のLEという比較的低いグレードのもので、後席ヘッドレストが固定式であるなど簡素な作りだった。エンジンは日本には入ってきていない2.5リットル直4+8速AT。


 ということで、大した期待はしていなかったのだが、このカムリの高速クルージング耐性の高さには度肝を抜かれた。直進性、ハンドリング、静粛性、乗り心地など各項目はむしろ平凡なのに、延々ドライブしていても極めて疲労が小さいのである。サンフランシスコからワイオミング中部までは1日で1077マイル(1732km)を走ったが、それでも身体に違和感を覚えなかったくらいである。


 アメリカは石油ショック時に厳しい速度制限が敷かれたが、近年はそれが緩和傾向にある。ネヴァダからユタ、ワイオミング、そして帰路のアイダホあたりは多くの道路が制限速度80mph(約129km/h)。流れはそれよりおおむね10mphプラスの90mph(145km/h)といったところだった。そこをガッツリ走って燃費は平均でリッター15km台。日本のスピードであれば非ハイブリッドで20km/リットルくらいは走るだろう。このエコ性能の高さはSUVにはなきものだ。


「パサート」は荒れ放題の路面でも滑らかな動き


 パサートはアコードと同様、日本でのドライブ。総走行距離は3800km。パサートで出色だったのはタフな足腰だ。ドライブの途中、京都北方から丹波高地、中国山地の奥部を山口県まで延々縦貫するルートを通ってみた。その間すべて一般道で、盆地や川沿い以外はほとんどワインディングロードで、しかも多くの区間で路面は荒れ放題というとんでもないコンディションだった。


 このクルマなら大丈夫という確信を持って走り始めたわけではない。そもそも国道429号線をはじめとするこの地域の道路がここまで険路だらけだと知らずに踏み込んだのだが、結果から言えば乗っていたのがパサートで本当によかったとクルマに感謝したくなるような走りの良さだった。


 コーナリングでのクルマの動きがねっとりと油圧的で、たとえばS字カーブでクルマの姿勢が右ロールから左ロールへと激しく切り替わるときもガクッという不連続な動きがほぼゼロ。スキーで言えば、ターンをザザッと雪を吹き飛ばすことなく右、左とスムーズにこなすような感じだった。もともとフォルクスワーゲンはそういう動きを作るのが世界的にみても上手いメーカーなのだが、この滑らかな動きは低重心ボディでなければさすがに作れないであろうと思われた。


 このように三者三様の良さがむんむんに感じられたDセグメントセダンたちだったが、これらに共通して足りないものもあった。それは安全装備を満載するなどの時代の要請もあって、今や決してお安くはない価格帯となったにもかかわらず、その出費をユーザーに納得させるような特別感だ。


 ブームに乗っているSUVは、本来はワイルドな車型のエクステリアを滑らかに作ったり、インテリアを上等そうに仕立てたりするなど、ちょっとした工夫がユーザーからプラス評価を受けやすい。が、見慣れたセダンはちょっとやそっと良く作ったからといって、ユーザーからは当たり前と思われてしまう。「近年は市場を問わず、セダンは年金暮らしの高齢者が乗るものという印象を持たれてしまっている」(大手自動車メーカー幹部)ため、なおさらイメージを上げるのは難しい。


SUVが主流であり続けるとは限らない


 そんな中、セダンの新たな活路をスペシャリティ化に見出している例が見受けられるようになってきた。日本でも見ることができるのはプジョー『508』とボルボ『S60』。登場時期が近いこの両モデルについて関係者が奇しくも共通して口にしたのは「脱主流派」。セダンはもはや傍流という現実を素直に受け止め、「あえてセダンに乗る」という層への訴求を狙って作ったというのだ。


 どちらも非常に高質感のあるインテリアと、大胆さを感じさせるエクステリアを持っており、関係者の言葉どおり完全にスペシャリティ志向である。果たして世界販売を見ると、絶対的な台数は先の量販3モデルには及ぶべくもないが、そういう仕立てにする前の旧型モデル比では大幅に販売台数を伸ばしているのだ。


 セダンが少数派になるのであれば少数派のように作ればいいではないかという開き直りで事態を打開できる確信を持っていたわけではないと両社は言うが、成果は大いに出せたと言っていい。


 販売が落ち込む低車高モデルの象徴となってしまった感のあるセダンだが、今のようにSUVが主流であり続けられるとは限らない。先に述べたように、SUVは重く、空力的にも不利という特性があり、CO2規制が急速に強められているという世界のトレンドに反している。環境NGOのCO2削減策に付和雷同しているヨーロッパのユーザーがSUVに走っているのを見ると、何たる言行不一致と思うくらいである。


 今、自動車メーカーがSUVに傾倒しているのは売れるクルマを作るという商売上の判断によるものであって、この車型がクルマとして最良という確信があるわけではないからだ。また、ユーザーサイドもクルマのハイテク化に伴って今以上に車両価格が上がれば、SUV離れを起こして低車高モデルに帰ってくる可能性も十分にある。


 そんな時代が来たときに新たな勝利者となるのは、淡々と安物を作るというスタンスから脱し、低車高モデルをどうやったら特性を生かして魅力的にできるかということに真剣に取り組んだメーカーだろう。今後の展開が興味深いところだ。

NEWSポストセブン

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