なぜトヨタは"EV参入"を決断できたのか

9月13日(水)9時15分 プレジデント社

トヨタの豊田章男社長とマツダの小飼雅道社長

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ついにトヨタが電気自動車(EV)への本格参入を発表した。多くのメディアは「これでEVが普及する」と報じたが、EVにはいまだに「三重苦」と呼ばれる課題が残されている。トヨタは「全固体電池」という技術革新や中国市場の動きから、EV本格参入を決断したようだが、果たして成功するのか。自動車ジャーナリストの桃田健史氏が解説する。

■トヨタとマツダがEVを共同開発


8月4日、トヨタとマツダが資本提携に関する記者会見を開き、そのなかでトヨタの豊田章男社長とマツダの小飼雅道社長は、軽自動車から小型トラックまで使えるEV(電気自動車)プラットフォームを両社が共同で開発すると話した。



トヨタの豊田章男社長とマツダの小飼雅道社長

両社は2年前に、包括的な技術連携を目指して協議を始めたことを明らかにし、これまでそれぞれの長所と短所の洗い出しをしてきた。そして今回、資本提携にまで踏み込む形で、次世代車の開発を共同で行うことになったのだ。共同開発はEV単独ではなく、ビックデータなど情報通信とのコネクテッド領域、また最近何かと話題の自動運転とも連携していく。


この会見を受けて、多くのテレビや新聞、ネット媒体は「EV本格普及が始まる!」と大きく取り上げた。トヨタが本気になったことで、EVが一気に売れるのではないかと予想しているようだ。


ただし、こうした報道の多くが「EVありき」という偏った見方をしているように、筆者には思える。約1時間にわたる同会見の動画はトヨタのホームページで公開されているが(http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/18012121/)、トヨタとマツダそれぞれの説明をしっかり聞けば、両社にとってEVとはどのようなものなのか。それについて同社はこれからどのように挑戦していくのかが分かる。


本記事ではそれを踏まえた上で、EVの本格的な普及が、本当に近年中に始まるのかについて考えてみたい。



■EVの三重苦とは何か


EVといえば、日本では日産「リーフ」や三菱「アイ・ミーブ」が2010年頃に発売され、最近では街中でも見かける“普通のクルマ”になってきた。





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プラグインハイブリッド車「プリウスPHV」のカットモデル(筆者撮影)

とはいえ、トヨタの「プリウス」や「アクア」、最近では日産「ノートe-POWER」など、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車がエコカーの主流であり、EVはまだまだ”特殊なクルマ”というイメージを持っている人が多いはずだ。


なぜEVはなかなか普及しないのか? そこには、“EVの三重苦”がある。


第一は、航続距離が短いことだ。目いっぱい充電しても、ガソリン車を満タンにして走れる距離と同じレベルに達するEVはほとんどない。アメリカのテスラの場合、ガソリン車と同様の航続距離を可能にしているが、それは、モデルによってリーフの3倍から4倍に相当する大容量のリチウムイオン二次電池を搭載しているからだ。これがコストに直結して車両価格が高くなっている。テスラは高級車というブランド戦略なのでコストを吸収できるが、他のクルマでは取れない手法だ。


第二は、生産コスト。EVの主要な構成部品は、モーター、バッテリー、そしてインバーターなどの制御装置である。車両の価格競争力を確保するためには、これらの電装品を大量に、しかも継続的に調達しなければならない。だが、EV市場の今後については自動車メーカーそれぞれがさまざまな見方をしており、リーフやテスラの事例はレアケースだ。順当な方法としては、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車向けに開発した部品を転用、または改良することが考慮される。


第三に充電インフラの問題だ。自宅のコンセントから交流100Vで充電すると、一般的なEVが満充電するには、一晩以上かかる。また、電力会社に工事を依頼して自宅に200Vの交流充電器を完備しても、電池容量にもよるが5〜8時間くらい長時間の充電が必要になる。駐車場が家から遠い、タワーパーキングであるなどの理由で、そもそも自宅の駐車場で充電できない人も多いだろう。


また、カーディーラーや高速道路のサービスエリアには大電力の直流充電器が設置されている。この場合、一般的には30分間で満充電の8割充電がめどになっている。リチウムイオン二次電池の特性上、満充電の8割程度までは一気に充電可能だが、残りの2割の充電には時間がかかる。また、急速充電は電池の劣化を早めると言われており、日産自動車はリーフを発売した当時から、自宅や会社などの交流充電を計画的に行い、急速充電は“バックアップ”という考えを顧客に伝えてきた。


さらに急速充電器ができる場所は限られている。カーディーラーや高速道路のサービスエリア、行政機関など中心に設置が進んでいるが、1カ所に複数台が完備されているケースは少ない。例えば自分の前に2台充電を待っていれば、自分が充電し終わるまでには30分×3=1時間半待ちとなってしまう。ガソリンスタンドで給油するのに比べ、時間がかかりすぎる。


■トヨタがEV参入を決めたワケ


では、どうしてトヨタはマツダと連携して、本格的にEVに参入することを決めたのか。


一つは、EV三重苦の解決策が徐々に見えてきたからだ。航続距離の長い高性能バッテリーを、比較的安いコストで調達できる可能性が高まっている。現在、EV用のバッテリーは、各種のリチウムイオン電池を使っているが、中国の電池メーカーが近年、大量生産による急激なコスト削減を実現し、その影響で世界各地のEV用バッテリーのコストが下がってきたのだ。





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量産化を目指してトヨタ社内で研究開発が進む、全固体電池(筆者撮影)

さらに、トヨタが開発を進める「全固体電池」の量産化にもめどが立ってきたようだ。全固体電池は内部の構成部品が液体ではなく固体でできた電池で、電池容量や充電時間が飛躍的に向上するといわれている。全固体電池の導入時期について、一部で「トヨタが2022年をめどに導入する」という報道があったが、トヨタの内山田竹志会長は8月4日午前中に千葉県幕張メッセで行ったプリウス20周年記念の記者会見後の囲み取材で「全固体電池の量産化は2022年より後になる」と話し、報道を否定した。どちらにしても、トヨタは今後、高性能で比較的コストが安いバッテリーを手に入れるめどが立っており、それによって充電インフラを効率的に活用できると考えたのだろう。


こうしたEVに関する技術革新に加え、トヨタがEVへの本格参入を決めた最大の理由は他にある。



■中国「NEV法」とカリフォルニア州「ZEV法」


最大の理由は、中国で2018年、または2019年から実施される予定のNEV法(ニュー・エネルギー・ヴィークル規制法)への対策だ。これはEV、燃料電池車、またプラグインハイブリッド車を中国で普及させるため、中国政府が中国で自動車を販売する企業に対して強制力を示すものだ。自動車メーカーは中国政府からクリアしなければならない目標点数が設定される。EVでは、満充電での航続距離によって1台あたりの点数が決まっており、その合計点が目標点数に達しない場合、中国政府が自動車メーカーに対して多額のペナルティーを課す。


こうしたやり方は、アメリカのカリフォルニア州が1990年から実施しているZEV法(ゼロ・ミッション・ヴィークル規制法)と同じだ。そう書くと、中国がアメリカのやり方を模倣したのかと思われるかもしれないが、実態はまったく違う。中国政府はアメリカ政府との、中国版ZEV法の実施に向けた正式な協議を進めてきた。具体的には、中国側は政府系の自動車研究所である、中国汽車技術研究中心(通称CATRC)と、カリフォルニア州環境局と各種実験を行っているカリフォルニア大学デービス校で、EV研究に関する覚書を交わしている。


こうした経緯があり、中国のNEV法はカリフォルニア州ZEV法とかなり近い形式になる可能性が高い。トヨタを含め自動車メーカー各社が、世界第1位の自動車大国となった中国、そして中国に抜かれたとはいえ付加価値の高い高額商品の販売台数では中国と匹敵するアメリカ、これら2国の政府の動向に対して敏感に反応するのは当然である。


さらに、ここへきて奇妙な動きが欧州で出てきた。マクロン政権誕生から間もないフランスで2040年までにガソリンおよびディーゼル車の販売を禁止するとの政府方針が出た。その動きを追うように英国でも同様の発表があった。


この仏英の動きについては、政治的な思惑が極めて強いと、筆者は考える。なぜならば、7月にフランスで開催された次世代交通に関する欧州会議などを現地取材しているのだが、EC(欧州委員会)としてのEVや燃料電池車に関する中長期的なロードマップを作成する動きがないからだ。



ミニカー規定で量産されている、小型EVのトヨタ車体コムス(筆者撮影)

とはいえ、自動車産業はいま、自動運転化、コネクテッドカー化、電動化、そしてモビリティサービス化の4つの対流が入り乱れ、100年に1度の大変革に突入しており、仏英政府の思惑がきっかけに、”新たなる展開”が起こらないとも限らない。


EVの本格普及はいつになるのか? 現状で、それを正確に予測することは難しい。


(桃田 健史)

プレジデント社

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