文在寅政権を頑なにさせる韓国の「歴史的事情」

9月13日(金)17時15分 プレジデント社

1000年以上にわたって大国に支配され続けてきた歴史を克服すべく、中国とアメリカに二股外交を仕掛ける北朝鮮は、韓国にとって「希望の光」なのか——地下鉄駅のテレビで、北朝鮮のミサイル発射のニュースに見入るソウル市民(2019年9月10日) - 写真=AP/アフロ

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日本による一連の輸出管理強化措置以来、日本を「不法な加害者」として激しく批判し続ける韓国の文在寅政権。著述家の宇山卓栄氏は「文在寅政権は、歴史的に属国であることを強いられた『被害者の伝統』に自ら進んで依拠しているようにも見える」と指摘する——。

写真=AP/アフロ
1000年以上にわたって大国に支配され続けてきた歴史を克服すべく、中国とアメリカに二股外交を仕掛ける北朝鮮は、韓国にとって「希望の光」なのか——地下鉄駅のテレビで、北朝鮮のミサイル発射のニュースに見入るソウル市民(2019年9月10日) - 写真=AP/アフロ

■なぜ韓国にとって日本は常に「加害者」なのか


経済産業省が2019年7月1日に「韓国向け輸出管理の運用の見直し」を発表して以来、韓国は日本を激しく批判しています。さらに8月2日、日本政府が韓国を輸出優遇対象であった「ホワイト国」から除外する政令改正を閣議決定すると、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「加害者である日本が、盗っ人猛々しく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない」(*1)と応じました。


文大統領は8月15日、「光復節」の式典で「日本が対話と協力の道に進むなら、われわれは喜んで手をつなぐ」(*2)と演説しました。これは軟化ではなく、一種の恫喝(どうかつ)ととらえるべきです。「徴用工問題や慰安婦問題で、日本が誠意を見せれば対話してやる」と言っているわけです。国内世論のバランスを取りながら、「悪いのは日本」というイメージを国際世論にも訴える格好になっており、巧みな誘導感覚も見て取れます。


文大統領はいつものように、「日本の朝鮮統治が不法」とする捉え方に固執し、日本を不法な「加害者」と決め付けています。その上で、日本の輸出管理の一連の措置を徴用工問題の「明白な経済報復だ」と断じています。市民のデモも連日催され、「100年前に加害者だった日本が再び韓国を対象に明白な経済侵略を犯している」(*3)などという主張が繰り返されていました。


韓国は自分に不都合なことがあると、「日本の不法な植民地支配のせい」というところにすべての問題を帰結させようとします。結局、自分たちが属国支配されていたという被害者意識や甘えの構造から抜け出せないのです。



朝鮮半島にはまず、7世紀に唐の冊封を受けた新羅が半島を統一して以来、千数百年にわたって中国の属国として支配されてきた歴史があります。中国による支配は、日清戦争の講和交渉の末に調印された下関条約(1895年)によって、清が李氏朝鮮に対する宗主権を放棄し、その独立を承認するまで続きました。


しかしその後は日本とロシアが、朝鮮半島の支配権をめぐって対立。日露戦争中から戦後にかけての3次にわたる日韓協約で日本は韓国の保護国化を進め、1910年に「韓国併合に関する条約」によって、日本は韓国を併合しました。第2次大戦で日本が連合国に降伏した後、朝鮮半島は日本の統治下から離脱。38度線から北はソビエト連邦、南はアメリカによる占領統治を経て、1948年に現在の北朝鮮と韓国が誕生しました。


それから70年を経た今も、韓国は歴史的に属国であることを強いられた「被害者の伝統」に、自ら進んで依拠しているようにも見えます。8月1日、韓国の与党「共に民主党」の李仁栄(イ・インヨン)院内代表は、日本の一連の輸出管理強化措置に対し「第2の独立運動となる経済・技術の独立運動に火がつくだろう」と発言しました。国際的なサプライチェーンの中では、国ごとの役割分担があります。それを「属国」的構図としてとらえ、「独立運動」という言葉でナショナリズムをあおる姿勢は、あまり穏当とは言えません。彼らの被害者意識に対して毅然とした態度を取らず、甘やかしてきた日本にも責任はあると思います。


■北朝鮮にはひたすら融和的


奇妙なことに文政権は、北朝鮮に対しては自ら進んで「属国」的な態度をしばしば見せています。核開発問題をめぐって国際社会が同国への制裁圧力を高める中、文大統領は輸出規制や開城工業地域の再稼働などの問題で、常に北朝鮮に融和的な態度を取り続けてきました。欧米メディアには金正恩の「エージェント(スパイ要員)」や「スポークスマン(広報担当者)」だなどと言われる始末です(*4、*5)。


8月5日に青瓦台で開かれた首席秘書官・補佐官会議で、文大統領は「南北の経済協力によって平和経済が実現すれば、われわれは一気に日本経済に優位に追いつくことができる」と述べました(*6)。北朝鮮に追従する文大統領のホンネが出た形です。


一方、北朝鮮の報道官は8月16日、「韓国当局者とこれ以上話すことはなく、再び対座する気もない」と述べました(*4、*7)。このことから、「文在寅は金正恩からも見放された」ととらえる見方がありますが、そうではないと思います。北朝鮮は米韓軍事演習を行う韓国の名を借りて、アメリカを間接批判しているわけです。文政権との蜜月は一切変わりません。韓国の裏支援がないと、北朝鮮は生きていけないからです。



さらにこの間接批判も、「制裁は緩和されず、軍事的圧力も続いている」という被害者としてのポーズを北朝鮮が取るためのものにすぎず、彼らはこれで時間稼ぎをしながら着実にミサイル実験等を繰り返し、兵器技術の水準を高めています。いずれは、日本への恫喝も強めてくるでしょう。


いずれにしても、文政権と北朝鮮はズブズブの関係です。国連安全保障理事会の専門家パネルの報告やアメリカ財務省の報告からも明らかなように、韓国は海上で北朝鮮との「瀬取り」による不正輸出などを繰り返し、北朝鮮を裏で支援しています。そのような韓国に対し、日本が輸出管理を厳格化しようとするのは当然です。


韓国は今、国内総生産(GDP)で約100分の1しかない北朝鮮の言いなりになっているように見えます。日本の輸出管理厳格化に反発しつつ、北朝鮮と経済協力して危機を克服しようと主張する文大統領の発言は、日本から見ると意味不明ですが、彼らにとっては民族が共に「悪辣(あくらつ)な日本」と戦うためのよい機会であり、こういう苦しいときこそ、民族統一の理想へと近づいていけると考えているのでしょう。


文大統領は8月15日の「光復節」の式典で、「2045年までに朝鮮半島の和平と統一を目指す」と表明しています。北朝鮮に追従する「文在寅現象」とも呼ぶべき姿は、属国意識の変種症状と言ってよいものかと思います。


明治時代、陸奥宗光は、朝鮮が中国の属国でありながら、属国としての被害者意識がなく、中国や中国文化をあがめることを道徳的使命と感じているとして、「中国と朝鮮は奇妙な宗属関係にある」(陸奥宗光『蹇蹇録』より)と指摘しています。何を言われても北朝鮮への融和的な姿勢を崩さない文大統領は、北朝鮮や主体思想をあがめることを道徳的使命と感じているのかもしれません。陸奥宗光の言葉を借りるなら、北朝鮮と韓国もまた「奇妙な宗属関係にある」と言うべきでしょう。


■二股外交で「脱属国」をめざす北朝鮮


一方、金正恩委員長の中国に対する属国意識もなかなかのものです。金委員長は自分が話をするときに、部下にメモを取らせます。自分の指示を聞き漏らすのは許さないということらしく、メモを取らなかった部下を処刑しています。その金委員長が、習近平主席と会談するときは自分でメモを取っています。これは中国に対する恭順の意志の表れです(トランプ大統領の前では金委員長はメモを取りません)。



とはいえ、北朝鮮の中国への属国意識には裏に敵意が潜んでおり、完全な隷属状態にあるわけではありません。金委員長の父の金正日は死の間際に、「中国には気をつけろ」と言い残したそうです。金正恩体制に移行してからは、国内のイベントで当局者が聴衆に対し、「日本は100年の敵だが、中国は1000年の敵だ」と、反中感情をあおったこともありました(*8)。


「中国憎し」の感情が、トランプへの接近という「アメリカ抱き付き作戦」に金委員長を駆り立てているのかもしれません。結果として北朝鮮は、中国とアメリカに二股外交を仕掛け、中国という後ろ盾は確保しつつ、アメリカへの接近で中国の過度の介入を牽制するという、絶妙な外交バランスを取ることに成功しています。


金委員長ら北朝鮮の首脳たちは、彼らの祖先が味わった属国としての悲哀を省み、これを歴史の教訓として、中国の属国支配から抜け出そうと必死なのです。


■北朝鮮への追従こそ崇高な使命?


一方、韓国の文大統領は、2017年12月に中国を訪問した際、中国からあからさまな冷遇を受けましたが、何の抗議もできませんでした。空港で大統領を出迎えたのは、格下の外務次官補。訪中初日に習主席は会わず、両国首脳会談後、共同記者会見は見送られ、食事会もありませんでした。


さらに、文大統領に公式随行した韓国の記者2人が、会議場に入ろうとした際に中国の警備員に集団で殴る蹴るの暴行を受け、重傷を負う事件も起きました(*9)。大統領の随行記者がこういう扱いを受けることなど、通常ではあり得ないことです。それでも、韓国は唯々諾々と、かつての宗主国のように、中国に恭順し、逆らいません。


韓国は属国意識にとらわれ、被害者意識で自己を慰撫(いぶ)しながら、甘えの構造の中で閉塞していくばかりです。その意味では、世界最貧国の1つである北朝鮮の方が皮肉にも、自力打開への健全な意志を持っていると言えます。そんな北朝鮮の姿を自分たちの屈辱や虚無を照らす救済の光ととらえ、その光に追従することこそ崇高な使命だとする考え方が、アメリカや日本との関係を軽視し、北朝鮮への宥和(ゆうわ)政策に邁進する文在寅政権、およびその支持層の行動の根底にあるようにも思えます。


大国の無慈悲に踏みにじられ続けた歴史を持つ韓国が見ている風景は、われわれの想像力では及びもつかないものなのかもしれません。


(*1)「文大統領『日本、盗っ人猛々しい』ホワイト国除外で」朝日新聞2019年8月2日夕刊

(*2)「韓国大統領、日本に『対話と協力』呼び掛け=東京五輪『共同繁栄の道』」時事ドットコムニュース 2019年08月15日

(*3)「『安倍政権糾弾』…ソウルで大規模集会」中央日報日本語版(ウェブ版)2009年8月4日

(*4)“South Korea's Leader Vouches for Kim's Sincerity, as Critics See Deception” by Choe Sang-Hun, The New York Times (online) Oct. 29, 2018

(*5)“South Korea's Moon Becomes Kim Jong Un's Top Spokesman at UN” by Youkyung Lee, Sep. 26, 2018, Bloomberg.com

(*6)「文在寅大統領『南北平和経済の実現時は一気に日本経済に追いつく』」中央日報日本語版(ウェブ版) 2019年8月5日

(*7)「北朝鮮、韓国と『再び対座せず』 文大統領の対話呼びかけ拒否」ロイター、2019年8月16日

(*8)“North Korea Stokes Anti-China Sentiment in Response to Tougher Sanctions” Radio Free Asia, 4 Jan. 2018

(*9)「【コラム】中国警護員の韓国記者暴行…暴力を『淡々」と受け止めろとは」中央日報日本語版(ウェブ版)2018年1月19日



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宇山 卓栄(うやま・たくえい)

著作家

1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、著作家。テレビ、ラジオ、雑誌、ネットなど各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説。近著に『朝鮮属国史——中国が支配した2000年』(扶桑社新書)、『「民族」で読み解く世界史』、『「王室」で読み解く世界史』(以上、日本実業出版社)など、その他著書多数。

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(著作家 宇山 卓栄)

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