サイゼリヤ流に変えたらスタッフの給与が1.5倍になった1つ星店の奇跡

9月15日(火)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/HAKINMHAN

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東京・目黒のミシュラン一つ星イタリアン「ラッセ」のオーナーシェフ・村山太一氏は、2017年からサイゼリヤ五反田西口店でアルバイトをしている。村山氏は「サイゼリヤをお手本にして、自店の席数とスタッフを減らした。その結果、生産性が上がり、スタッフには1.5倍の給与を出せるようになった」という——。

※本稿は、村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。



写真=iStock.com/HAKINMHAN
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■サイゼリヤで受けた人生最大の衝撃


サイゼリヤでは、160席をたった5人のスタッフで回しています。


これには人生最大の衝撃を受けました。内心、「5人!? 絶対ムリムリ」と思っていたけど、全然大丈夫でした。


開店は11時からなので、1時間前にキッチンとホールの各1名が店に入ります。キッチンの担当者はご飯を炊いたり、コーヒーメーカーやドリンクバーの備品を補充したり、お皿をセッティングしたりします。ホールの担当者はフロア全体とトイレの掃除を30分ぐらいで済ませます。


その間に店長は看板メニューのミラノ風ドリアの前年の売れ行きを見て、その日の天気や店の近くでイベントがあるかどうかをもとに、今日はどれぐらい売れるかの予測を立てます。それに沿ってベシャメルソースとミートソースとご飯をどれぐらい用意しておくのかを決めるのです。


11時の開店と同時に、お客様が次々と訪れます。キッチン担当は、食材をオーブンに入れたり、パスタをゆでたり、料理をつくる合間にお皿を洗ったり、クルクルと動き回ります。ホール担当はお客様を案内したり、料理を運んだり。忙しい時間帯はともかく、普段は4人で十分対応できました。



■合理的な業務設計をアップデートし続ける


そのムダのない仕組みに、僕はホレボレとしました。




村山太一『なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか? 偏差値37のバカが見つけた必勝法』(飛鳥新社)

星付きレストランは、僕の肌感覚だと2席あたりスタッフ1人程度が必要になります。僕の経営するレストランは24席あったので、12人スタッフを雇っていましたし、そういうもんだと思っていました。


サイゼリヤでバイトを始めたころは9人。それでも足りなくて、「もっと雇わなければ」と考えていたぐらいです。


サイゼリヤのすごいところは、一皿あたり0.1円単位でコスト削減や品質改善の努力を怠らないところです。10秒かかっていた作業を1秒減らすために、細部にわたって合理的に最短で働ける設計が至るところでしてある。そしてそれが常にアップデートされている。


例えば、レストランは通常キッチンは総店舗面積の3分の1がセオリーですが、サイゼリヤは5分の1です。それでも営業がちゃんとできるように、キッチンでの作業内容が設計されています。


人の動線も、仕入れ業者が入る場所とスタッフが動く場所が完全に分かれていて、それぞれに最適に設計されています。だから、忙しいキッチンに「まいど〜」と仕入れ業者が入ってきて、「ジャマジャマ!」となることもない。


■効率化専門部署があるサイゼリヤ


これは単にスペース効率が良いというだけではありません。動きが決まってるから、ミスや忘れることがないんです。


ちなみに本部にはエンジニアリング部と呼ばれる部署があって、スタッフの動きを徹底的に分析し、専用の機材をつくるなどして業務そのものを変えて効率化を進めています。サイゼリヤには、生産性を上げるためだけの部署が存在するのです。


他にも、細かいところでいろいろなルールがあります。時速5km以下では歩いてはいけないし、お皿やグラスを下げるときに何をどっちの手で持つか、下げたお皿を洗い場に置く場所と順番も全て決まってます。


そうやって小さなカイゼンを何百回も何千回も重ねるのがサイゼリヤ流です。



■サイゼリヤをヒントにレストランを改革


この時、僕は「うちのレストランも少人数で店を回していけるのでは?」と思い至りました。それから、大改革が始まります。


バイトで体験したことは、店のスタッフにすぐに「サイゼリヤではこんなことをやってるんだよ。すごくね?」と話しました。それから、うちのレストランでもできるかどうかを検討。1日に1個ずつでも改善しようと、どんどん取り入れていきました。


2つの方向性がありました。1つ目は、レストランの内装や間取りに合わせて新しい設備を導入すること。すでに紹介したグリストラップの清掃や、洗浄ラックに合わせたオリジナルのお皿の開発などです。


そして2つ目は、作業効率の改善をスタッフ一人一人に考えてもらうこと。僕一人でやるには限界がありますし、そんなのチームじゃありません。


例えば、2往復する必要があった作業を1往復でできるようにしました。あとは、モノの置き場所を見直すことで、手を伸ばさなくても目の前で作業が完結するように工夫をしました。


サイゼリヤに素晴らしいお手本を与えてもらったことによって、その考え方を取り入れつつ、同じ方向を目指していったんです。


■3時間かかっていた洗い物が20分に


サイゼリヤでバイトを始める直前、若い子が辞めました。彼には朝から晩までずっと洗い物をしてもらっていたので、専任でやる人のいなくなった皿洗い作業を、これを機に徹底的に見直すことにしました。


まずやったのは、営業中も手が空いた人がこまめに洗っていく方法です。でも、それはフロアにいるお客様へ目が行き届かなくなるという不都合が生じました。


次に、営業中は洗い物は全部ほっといて料理とサービスに専念し、最後にまとめてやるようにしました。効率は上がったけど、結局たまった洗い物には時間がかかって、深夜まで店に残らなくてはいけない状態が続きました。


そこで、ワイングラスを置くためのラックを買い足しました。多い日は1日で200個のワイングラスを洗っているんですが、その全てを置けるよう、ラックを9個買い足して全部で12個にしました。


さらに、ワイングラス30脚を純水で一度に洗える洗浄機も購入しました。純水で洗うと、グラスに水あかがつかないんです。


洗ったグラスは全てラックに置き、自然乾燥させたものがそのまま使えるようになりました。拭いて棚にしまう手間が省けて、劇的に効率が上がったんです。


また、それまではワイングラスを裏方に置いていましたが、それだとホールスタッフは注文を受けてからグラスを取りに行って戻るという動作が必要になります。そこで、客席にもグラスラックを設置したら、労働歩数が減って、その分時間が生まれました。


終業後に3時間かかっていた洗い物は現在20分まで減りました。ラックは1つ6000円。9つで5万4000円ですが、人件費を考えたら数日でペイすることになります。


こうした工夫を、あらゆる業務で積み重ねていきました。



■業務改善で生まれた時間でほかのサービス


あとは、やらなくていいことをやめました。


毎日、テーブルクロスはアイロンがけしていたのですが、シワのばしスプレーと手袋で済ませるようにしました。おしぼりも袋から取り出してきれいに折っていたのですが、それもやめました(これは不衛生でもありました)。重たくて高そうなフランス製のお盆を、軽い木のお盆に変更したら、料理を出すのがだいぶ楽になりました。


短縮して生まれた時間で、ほかのサービスをする。そうやって、同じ作業をするにしても、効率のいい方法を考えると、劇的に作業時間は減っていきました。


こういう改善の積み重ねが、生産性を高めていくんだと実感しました。これはレストランだけではなく、あらゆる業種に応用できるんじゃないでしょうか。


優れた仕組みを持つ企業でバイトすれば、本業の改善ポイントがどんどん浮かんでくるはずです。バイトするだけで、生産性向上のタネは間違いなく見つかります。


■ヒントになった「人時生産性」という概念


改善、改善、改善、とトヨタのカイゼンのように店を改善することに取りつかれた僕は、ある時、重大なことに気づきました。


「うちの店の席数じゃ、利益は頭打ちじゃね?」と。


その考えに至ったのは「人時生産性」について考えたからです。人時生産性とは、1日に生じた店舗の粗利益を、その日に働いていた従業員全員の総労働時間で割った数値です。それによって、従業員1人が1時間あたりどれぐらいの粗利益を上げられたのかがわかります。


式で表すと次のようになります。


人時生産性=お店が1日で生み出す粗利益÷その日に働いた従業員の総労働時間

高価格帯レストランでは、だいたいお店が25席、スタッフが10人というのが一般的です。顧客単価が2万円で1日1回転、原価率が35%。超長時間労働が常態化しているので、1日16時間働いているとすると、人時生産性は2031円になります。


飲食業界では2000〜3000円くらいが平均的だと言われています。サイゼリヤはなんと倍以上の6000円を達成している店舗もあるそうです(『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』正垣泰彦著 日経ビジネス人文庫)。



■サイゼリヤ、客単価720円の「すごい生産性」


この人時生産性は、そのまま給料に反映されると思って間違いありません。これは定食屋だろうと同じです。だから飲食業界は仕事がハードなのに時給が安くなるんですね。


飲食業の給料はおおむね次のように決定されます。月の売上が約1200万円としたら、人件費として20%をスタッフに分配します。都心は家賃が高く、食材費も高級店は高くなります。


そのため、生活できるくらいの給料をもらえるのが、料理長、店長、副料理長、副店長、ソムリエ、サブソムリエの6人くらいまで。ほかのスタッフはもう目もあてられない給料で働いてるのが現実です。


僕が日本で修業していたとき、月給5万円、時給32円。そしてそこから包丁を買わされました(笑)。ちなみに、サイゼリヤは一番下っ端の僕で時給は1100円です。料亭や高価格帯レストランも今はここまでひどくはありませんが、労働基準法の範囲内であっても末端の子の給料は相当安いです。


これはオーナーが悪いとかそういう話ではありません。「構造」の話です。


話を戻すと、客単価720円のサイゼリヤに2万円の僕のレストランが全然及ばないんです。これは大問題です。作業の見直しや店のレイアウトを変えるぐらいでは、2800円の人時生産性の差は埋まりません。


■24席をこなすことにムリがあるんじゃないか


そもそも、うちのキッチンの狭さで24席をこなすことにムリがあるんじゃないかと、そのとき気づきました。一番生産性が上がるのはどれぐらいなのかを割り出すと、16〜18席がベストだとわかりました。


席数を減らしたら、その分売上は落ちると普通なら考えます。だから、できるだけ多くの席を設けて、それに合わせてスタッフも増やすほうがいい。それが普通のレストランの考え方でしょう。



■売上を減らしたら、生産性が上がった


でも、現に24席で10人以上のスタッフで回していても対応しきれずに、料理を出すのが遅れたりしてお客様を待たせてしまうこともありました。さらにスタッフを増やしたところで、キッチンがパンクするだけです。お客様の満足度を上げるためにも、席数を減らして、それ以上の売上を求めないことにしました。


アメリカの経営学者のマイケル・ポーターは「戦略の本質は、何をやらないかを選択することだ」と語っています。その通りで、すべきことばかりに集中するんじゃなく、しないことをまず考えないと、生産性は上がりません。


席数を減らすとスタッフの労働環境が劇的に改善し、サービスの質もよくなって、お客様の満足度も上がってきたと感じています。


■スタッフの給料が1.5倍に


さらに店の改革を始めてから、スタッフは海外に修業に行ったり、他の店に移るために辞めていきました。今までは辞めたスタッフの分を穴埋めするために、すぐに募集をかけていましたが、試しに人を増やさずに店を回してみたのです。


3年前に9名いたスタッフは今、4名になっています。ぐんとコミニケーションも取りやすくなり、店はくるくるとよく回っています。


それに、スタッフは4名でも、就業時間は8時〜24時半から10時半〜22時に改善。星付きレストランは、朝早くに出勤して終電までという勤務もざらですが、だいぶ普通のビジネスマンレベルにまで近づけることができました。


にもかかわらず利益は過去最高を更新し、2019年の人時生産性は2018年比約3.7倍になりました。それに合わせて、スタッフの給料も1.5倍に上げました。一人一人が正しく努力すれば、自分たちの給料を上げられるんだということを証明できたと思います。



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村山 太一(むらやま・たいち)

「レストラン ラッセ」オーナーシェフ

イタリアの三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」で修行を積み、東京都目黒区に「レストラン・ラッセ」をオープン、9年連続で一ツ星を獲得。しかしレストラン経営に限界を感じ、2017年よりサイゼリヤ五反田西口店にてアルバイトを開始。その様子を伝えるnote『目黒の星付きイタリアンのオーナーシェフは、サイゼリヤでバイトしながら2億年先の地球を思う。』が26万PVを記録し話題になる。

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(「レストラン ラッセ」オーナーシェフ 村山 太一)

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