精神科医「ダメ人間には見えない伊勢谷友介さんがバカなことをした根本原因」

9月15日(火)11時15分 プレジデント社

俳優・伊勢谷友介が2016年7月27日、東京・銀座の歌舞伎座で行われた映画『ジャングル・ブック』のジャパンプレミアに出席。(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

写真を拡大

9月8日、俳優の伊勢谷友介氏(44)が大麻取締法違反の疑いで逮捕された。精神科医の和田秀樹氏は「意識の高い知性派俳優の代表格とも言える人だった。そんな俳優がなぜこんなバカなことをしたのか。それが依存症の怖さだ」という——。

■伊勢谷容疑者が警察にマークされていたのにやめられなかった理由


俳優の伊勢谷友介氏が大麻取締法違反で逮捕された。


私自身、医師の傍ら、映画監督もやっているので感じることだが、伊勢谷氏は演技の質が高く、知的で使いたい役者の一人であった。現に多くの出演作を誇り、今後、数本の映画が公開待ちだという。


東京芸術大学に現役合格し、自らも映画監督も務め、その作品が海外で賞を受けたり、東日本大震災の被災地などへの支援活動を続けたりと、意識の高い知性派俳優の代表格とも言える人だった。


この賢い俳優がなぜ「バカ」なことをしたのかを考えてみたい。ここからは、マスコミ報道が正しかったらという前提での話だということをお断りしておきたい。


■自然治癒が難しい進行性の心の病気の可能性がある


彼はだいぶ前から警察からマークされ、満を持しての逮捕だったようだ。ひょっとすると本人も逮捕される危険性をうすうす感じていたかもしれない。つまり、逮捕のリスクがあったにもかかわらず、大麻をやめられなかったということになる。



俳優・伊勢谷友介が2016年7月27日、東京・銀座の歌舞伎座で行われた映画『ジャングル・ブック』のジャパンプレミアに出席。(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

精神医学の世界では、ある薬物や行為をやめたいと思いながら、あるいはそれが社会的生命に影響を及ぼすことがわかっていてもやめられないとしたら、依存症の診断を受けることになる。伊勢谷氏も依存症である可能性がある。


この依存症の怖さについては、本連載でも以前、問題にした(※)。一般的に、依存症は進行性で自然治癒しづらく、人としての「意志」が壊される恐ろしい病気だということを書いた。


※「丸山議員は自然治癒しない進行性の病気だ


たとえば、アルコール依存、ギャンブル依存、そして伊勢谷氏のような違法薬物(覚せい剤、麻薬、合成麻薬など)依存の場合、いったん、断酒したり、ギャンブルをやめたり、あるいは覚せい剤は二度とやらないと宣言して、しばらくそれを断ってきた人が、またそれに手を出した場合、「意志が弱い」ダメ人間のように言われることが多い。


ところが、違法薬物などによって脳の“ソフト”が書き換えられたり、報酬系と呼ばれる脳の仕組みに病変が起こったり神経伝達物質の分泌に異常が起こったりするために、自分の意志の力ではやめることができない。それが依存症なのだ。


このソフトを書き直すなど、なんらかの治療が必要となる。治療を受けても治らないこともあるやっかいな病気だが、受けなければほとんど治らないからやはり治療が必要だ。



■薬物依存の人は平気で嘘をつく、身の破滅を知りつつやめられない


お酒や違法薬物の依存症のやっかいなところは、耐性ができて「満足」するための量が以前よりどんどん増えていくこと。ギャンブルやゲームの依存でもやはり「もっともっと」とそれ以上のものを求めてしまう。進行性の側面があるのだ。


さらに、依存症の専門家の一致した見解として、依存症に陥ると、まじめだった人が平気でうそをつくという症状が出る。


いったんやめたといって、再びアルコールやギャンブル、違法薬物に手を出した場合でも、顔が真っ赤になっているのに「(酒を)飲んでいない」などと平気でうそをつく。ギャンブルや違法薬物は比較的金がかかるものなので、なおさらその金を得るために嘘をつくことに抵抗がなくなる。


芸能人の場合、違法薬物をやっているのが見つかったら、身の破滅になることは前例からわかっているだろう。しかも、何らかの形で捜査機関からマークされているのに気づいているケースもある。それにもかかわらず手を出してしまうのには、この依存症のメカニズムがからんでいると私は考えている。


■過去10年の違法薬物の有名人逮捕者の共通点


この10年を振り返ると、実に多くの大物芸能人が違法薬物で逮捕された。




俳優・伊勢谷友介が2016年7月27日、東京・銀座の歌舞伎座で行われた映画『ジャングル・ブック』のジャパンプレミアに出席。(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

2009年には元俳優・歌手の押尾学氏が麻薬取締法違反で、また俳優の酒井法子氏が覚せい剤取締法違反で相次いで逮捕された。


2014年には多くのヒット曲を生み出したCHAGE and ASKAでボーカルなどを務めていたASKA氏が覚せい剤取締法違反・麻薬取締法違反で逮捕され、2016年にはプロ野球の西武や巨人で活躍した清原和博氏が覚せい剤取締法違反で、2019年にはミュージシャン・俳優のピエール瀧氏と、俳優の沢尻エリカ氏が麻薬取締法で、そして今年は、ミュージシャンの槙原敬之氏が2度目の覚せい剤取締法違反で逮捕されている。


この中で唯一、逮捕後に少しずつ完全復活に近づいていた槙原敬之が2度目の逮捕をされるのは皮肉なことだ。やはり薬物事犯で逮捕されてしまうと、それだけイメージダウンが激しいということだろう。酒井法子氏のように高い知名度だった人でも10年以上たった今でも、完全復帰にはいたっていない状況だ。



■「ダメ。ゼッタイ。」と知りつつ、手を出す人の2つのパターン


それにしても、「ダメ。ゼッタイ。」と知っているのに、どうして薬物に手を出してしまうのだろう。私の見るところ、2つのパターンが存在すると考えている。


ひとつ目は、ストレスやプレッシャーのため、つい違法薬物に手を染めてしまうというパターンだ。ミュージシャンがレベルの高い音楽を作り続ける、俳優がすばらしい演技を続ける。これには相当な負荷やプレッシャーがかかることに違いない。薬物依存というと、自堕落な人が陥りやすいように思われるが、実際にはかなりの比率で、まじめな完全主義者が陥るものだ。


完璧・完全でない自分を許せない。すると結果的に自分で自分を強く責めることになり、その苦しさに耐えられず、お酒や違法薬物に頼って、つかの間の現実逃避をする人が出てくる。


ASKA氏の娘さんと私の娘が小学校で同級生だった関係でその人となりが漏れ伝わってきた。それによれば、彼は礼儀正しく、腰も低い、というもので、とても覚せい剤に手を出すように思えない人だった。だが精神科医の立場からいうと、こういう人のほうがかえって危ないということだ。


■「海外では合法の国もある。だから悪いものではない」


もうひとつは、ミュージシャンや芸術家というのは、アウトローなものだという考えから、違法なことに憧れ、手を染めてしまうというパターンだ。いかにも幼稚な発想と言わざるをえないが、ちょいワル志向のような形で違法薬物に手を染める人がいる。とくに大麻の場合は、「海外では合法の国もある。だから悪いものではない、国のほうがおかしい」と言い放つ人さえいる。



俳優・伊勢谷友介が2016年7月27日、東京・銀座の歌舞伎座で行われた映画『ジャングル・ブック』のジャパンプレミアに出席。(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

「球界の番長」と言われた清原氏はその風貌からも、このワル願望が潜在的に強いように見えるが、今年、執行猶予期間が明けて出した手記『薬物依存症』(文藝春秋)では、「野球一筋だった自分が引退によって味わった空虚感から手を出した」などと書いている。そうした元スター選手ならではの心の闇も薬物転落のきっかけとなるのだろう。


今回の伊勢谷氏も、このようなアウトロー志向のワル願望があったのかもしれない。実際のところはわからないが、違法薬物の問題は、プレッシャーからの逃避であるにせよ、ちょいワルのつもりで軽い気持ちで手を出したにせよ、かなりの確率で依存症に陥ってしまうことだ。


いったん依存症状態になってしまうと、それをやっていない時の不快感は、一般の想像をはるかに超えたものになる。そして、自分が捜査機関にマークされていることに気づき、やめようと思っても、やめられない。最終的には逮捕という形になってしまうのだ。



■酒、パチンコ、スマホ……日本は依存症を放置する国である


依存症はこのように怖い病気なのだが、その認識が日本では低い。


覚せい剤の再犯者に対しても、飲酒運転をやめない(自動車を運転するときでもアルコールがやめられない)人に対しても、ワイドショー番組のコメンテーターは「意志が弱く、人間として欠陥がある」といった発言をすることが多いが、依存症というのは前述のように「意志が壊される」病気で、治療をしない限り、その機能は回復しない。


依存症の認識が低いことの弊害は2つある。


ひとつは、依存性の高いものへのハードルが低いことだ。違法薬物はともかく、アルコール、スマホ、ギャンブルに関して依存症への警戒なしに、ほとんど野放し状態にされている。依存症になるのは意志の弱い人間で、なるほうが悪いから、原因となるものは規制しなくていいと言わんばかりだ。


WHO(世界保健機関)は「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」を2010年の5月に承認しており、加盟各国に酒の24時間販売や飲酒シーンを含むCMの自粛などを求めている。しかし現時点では、日本はこの求めをほとんど無視している。


パチンコのように、どの街にもあり、気軽にギャンブルできる国は、日本くらいしかない。スマホにいたっては、中学生に学校に持っていかせるのを容認するくらい、依存症のリスクが省みられていない。


昔の為政者は依存症に危機感を持っていた。


違法薬物にしても、賭博にしても、売る側・開く側を取り締まるだけでなく、使用者・利用者も罪にした。手を出すハードルを上げるためだ。この危険性の認識がなくなったのは本当に恐ろしいことだ。


依存症の認識が低いことのもうひとつの弊害は、依存症が病気でなく、本人の意思が弱いのが対処できる問題と見られているため治療施設が非常に少ないことだ。よって、いったん依存症に陥ると回復がとても難しくなる。違法薬物の再犯が多いのはこうした背景もあるだろう。


このような国だから、君子危うきに近寄らずで、絶対に手を出さないということが最大の自衛になると知っておいて損はない。



----------

和田 秀樹(わだ・ひでき)

国際医療福祉大学大学院教授

アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

----------




(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

プレジデント社

「伊勢」をもっと詳しく

「伊勢」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ