親資産が命綱「38歳ひきこもり」の"終活"

9月17日(日)11時15分 プレジデント社

写真はイメージです

写真を拡大

大学卒業後、営業職としてバリバリ働いていた長男は30歳目前にひきこもりに。その生活もすでに8年。60代の両親は「自分たちが死んだ後も、息子が生活保護の世話にならずに済むように」と考えているが、試算すると約2700万円の預貯金は存命中に底をついてしまうことがわかった。家計再生のためには、息子への“愛情予算”を削る必要がある。両親が選んだ結論とは——。

■父68歳年金受給 母63歳自営業 長男38歳ひきこもり


関西近郊在住の60代のご夫婦から相談依頼がありました。相談が入ると、事前準備シートをお渡しし、面談日までに、生活費や収入、資産などを洗い出し、書き込んでいただくようお願いします。少々、面倒な作業かもしれませんが、お金のことを考える第一歩として、家計の現状をご自身で把握していただくために大切な工程と考えます。ご夫婦は、しっかり書き込まれたシートを机に並べて、不安げな面持ちで座っておられました。



写真はイメージです

「ひきこもりの長男(38歳)が、親亡きあとも生活保護に頼らず、長女(33歳)に経済的負担をかけることなく生きていくために、なんとか最低限のお金を残してやりたい。いくら残しておけばいいのか教えてほしい」


家計管理を担う、もの静かな父親がそう切り出しました。


「私が年金生活に入り、貯蓄の取り崩しが始まりました。生活費の不足分に加え、自宅のリフォーム代や車の買い替えなど、近い将来、まとまったお金が出ていくことが予想されます。今後の支出をざっくり計算してみたところ、子供にお金を残すどころか、両親が生きている間に貯蓄が底をつきてしまいそうで、不安になりました」


▼「長男が働けなくても、生きていけるだけの財産を残したい」

ひきこもりの長男は、大学を卒業して就職し、営業職に就いたそうです。やりがいをもってイキイキと働き社内で大活躍していたのですが、30歳を目前に、責任ある仕事を任されるようになったころから、急に会社を休みがちに。部屋にひきこもるようになり、結局、退職せざるを得なくなったとのことです。なぜ、会社を休みがちになったのか。その理由は、今でも、不明なままだそうです。働きたいという思いや焦りは感じるそうですが、なかなか動けない。本人ももどかしさを抱えているだろうとのことでした。


もうすぐ、長男も40歳。もし、この先、長男が働けなくても、生きていけるだけの財産を残してやりたいという切実なご両親の思いが伝わってきました。



■死ぬまでの生活費は「預貯金2700万」で足りるのか?


<家族構成>

父親:68歳 年金受給者

母親:63歳 自営業

長男 38歳 無職

長女 33歳 会社員一人暮らし


<資産状況>

預貯金2700万円

  父親:預貯金 2200万円

     不動産(1) 持ち家

     不動産(2) 両親が住んでいた田舎の空き家あり

  母親:預貯金400万円

  長男:預貯金100万円


<手取り収入>

父親:220万円 (年金のみ) ※70歳〜 185万円 

母親:150万円 (就労+年金)※70歳まで働く予定(自営業)

                 65歳〜 95万円 (年金)


<今後の収入の推移>



▼2000万円残せば、長男はひとりで生きていける

ひとりで生きていくために必要なお金は、住居費や本人の生活力、お金に対する考え方や使い方によって人それぞれ異なります。



写真はイメージです

聞けば、長男は、両親への遠慮もあり、お金にはシビアなのだそうです。日々、部屋でインターネットをしていることが多く、たまにコンビニや本屋に出かける程度で、かつて働いていた時に貯めていたお金でやりくりしており、ほとんど小遣いは使っていない様子。食事は母親が準備したものを食べており、自炊の経験はないとのことです。


住居は、住み替えても大きな売却益が期待できるわけでもなさそうなので、とりあえず、自宅にこのまま住み続けるものとします。これらの情報より、倹約な生活を送っている高齢単身世帯の家計を参考に必要な生活費を計算すると、月額10万円程度あれば、最低限の生活は送ることはできそうだということがわかりました。




■親の資産2700万は親の代で0円になることが判明


公的年金の受取見込み額については、今後、国民年金保険料の未納がないものとして、ねんきん定期便より試算すると、65歳から年額約90万円となります。ただし、マネープランを立てる際は、支出は多めに、収入は少なめに見積もっておくほうが安心です。


将来、現行の給付水準より2割カットされる可能性があることと、「公的年金は65歳から受け取れないのではないか?」という両親の不安も勘案し、年額70万円で70歳から受け取るという前提で試算することにしました。


母親が85歳になる22年後に、60歳になる長男がひとり暮らしを始めるものと仮定し、60歳から85歳までの25年間で必要資金を計算します。


<年金がもらえるまでの60歳〜70歳までの10年間>

年間生活費 120万円 × 10年 = 1200万円


<公的年金がもらえる70歳〜85歳までの15年間>

(年間生活費 120万円 — 公的年金 70万円)× 15年 = 750万円


上記の計算式より、長男が60歳〜85歳の25年間のひとり暮らしで費やすのは1950万円。生活費の目標額は約2000万円となり、現在の貯蓄(2700万円)を親がそのまま長男に残せれば何の問題もないのですが、話はそう簡単でありません。今の生活を続けていると、子供に財産を残すどころか、親が存命のうちに貯蓄が底をつきる可能性もあることがわかったのです。


▼家計赤字の要因は「親心」にあった!

現在(家族3人)の家計支出を確認してみたところ、年間405万円(月平均33万7500円)が生活費として出て行っており、年間370万円の父母の収入(年金や母親の自営業所得)をオーバーしていました。母親が働くのはあと7年で、その後の母親の収入は年金95万円のみになります。父親が平均寿命で他界すると家族2人となり生活費は若干減りますが、ざっくり計算しても生活費だけで長男がひとり暮らしを始める前の段階で1800万円が貯蓄から取り崩されることになります。


さらに、自宅(一戸建て)の修繕費に400万円、車の買い替え代に150万円、両親の死亡整理費用として200万円などを計上すると、父親の計算通り、親の代でほぼ貯蓄を使い切りそうです。となると、愛する長男がひとり暮らしを続けることはできなくなります。



■親亡き後の生活を想定し「手抜き」「手放し」をする


そこで家計簿を拝見し、費目ごとに確認していくなかで、改善点が見えてきました。私が特に注目したのが次の3つです。


(1)食費


一般的に、大人1人の食費の目安は月1.5万円〜2万円程度ですが、3人で9万円とかなり高めです。3人とも大食漢というわけでもなく、お酒も飲まない。食事を担当している母親から話を聞くと、食費が高い理由が見えてきました。


母親は、長男の健康維持のために3食の食事とおやつを手作りで準備するために、1日中、家を空けることはないそうです。確かに、栄養バランスのとれた食事をすることは大切ですが、親亡き後との生活落差が大きくなるほど、長男もつらくなるのではないでしょうか。


目指すのは月2万円のカットです。これからは、ひとり暮らしを想定した予行演習と思い、手作りのおやつは徐々に回数を減らしていく、食事はたまにはレトルト食品で済ましたり、1日家を空けて、冷蔵庫にある残り物を食べてもらったりするなど、長男のために「手抜き」を心掛けてもらうよう提案しました。


(2)ペット代



写真はイメージです

ペット関連費が毎月7000円計上されていました。ペットは家族同然。必要な支出の位置付けですが、ここにも問題点が見えてきました。今年、長男がかわいがっていた愛犬が寿命で亡くなり、うら寂しいだろうと思った両親が、知り合いから子犬を譲り受けたそうです。しかし、長男からは意外な反応が……。「なぜ、また飼うのか?」と言われたそうです。おそらく、もう二度と悲しい思いをしたくないというという気持ちと、小型犬の寿命は15年程度、長生きすれば20年と生きるかもしれません。そう思うと、両親が面倒を見られなくなったらどうするのか? という不安がよぎったのではないでしょうか。


親亡き後、残されて困るものは「手放す」ことも大切です。母親は言いました。


「親が良かれと思ってやっていることが、結果として子供にとってはありがた迷惑となっている場合もあるのですね。われわれの優先順位は、長男に必要なお金を残してやることです。長男にとっても、愛犬にとっても、そして家計にとっても、最善となるのであれば、譲渡先を探してみることにします」


▼貯蓄の取り崩しは1800万から1000万に圧縮できる

(3)自動車関連費


車は、両親はほとんど乗らず、長男が、たまにコンビニや本屋に行くのに使う程度とのこと。今の利用状況だと、買い替える必要性は低いと思われます。車も維持・管理が必要となるため、親亡き後、残されて困るものの1つです。車の買い替え時期を「手放す」タイミングとして、自転車に乗り換えることを提案しました。これにより、年間の維持費20万円と、乗り換えにかかる費用が不要となります。


(1)〜(3)以外にも、保険の見直しや他の改善をはかることにより、年間生活費は340万円に抑えることができ、車の買い替え代も不要となります。また、あと7年間は貯蓄を増やせることになり、親の代での貯蓄の取り崩しは、当初の試算1800万円から1000万円程度に圧縮することができます。


ただし、それでも、長男のために2000万円を残すためには、あと300万円足りません(預貯金2700万−1000万=1700万)。どうすれば捻出できるのか……そこで、お持ちの空き家についてお話を聞いてみました。



■長男のため残り300万円をどう捻出するか?


空き家は、父親の両親が住んでいた四国にある実家で、名義は父親に変更済み。築年数も古く住めるような状態ではなくなっており、長らく放置されている状況です。人口減が進んでいる地域ではあるものの、駅に近く立地は良いそうで、近隣の空物件は買い手がついているとのこと。



写真はイメージです

固定資産税評価額より、空き家は1000万円程度の資産価値があります。建物の解体費用や税金、諸費用などを差し引いても、600万円程度は手元に残りそうです。この資金があれば、希望のライフプランを何とか達成でき、長女にも少しは財産を残せるかもしれません。


今後は、さらに価値が下落する可能性があり、売れない空き家は負の遺産となってしまいます。「空き家については、気がかりではありました。このまま放置しておいてもよいことがないので、早急に、売却に向けて地元の不動産屋さんに相談します」(父親)。


今回の提案が絵に描いた餅にならず、実行に移していけるか。また長女への相続の問題(親の預貯金のほとんどが事実上、ひきこもりの長男が受け取る形になってしまう)など、まだ課題はあります。それでも、「とにかく、長男に残すべきお金の金額と、今、なにをすべきかが分かり、少し不安が解消されました」と、両親ともにほっとされたご様子で帰られました。


▼「手抜き」「手放し」が子供のためになる

このご家庭に限らず、子を思うゆえに生活費が膨らみがちなケースが見受けられます。一緒に生活していると、ついつい手をかけてしまう親心も理解できます。


しかし、本当に子供のことを思うなら、スムーズに、ひとり暮らしの生活になじめるように、極力、親亡き後との生活落差をなくしてあげる、つまり、「手抜き」することも愛情だと考えられます。


また、「与える」だけではなく、親亡き後に残すと維持・管理に困るものは、早めに「手放す」ことも大切です。「手抜き」と「手放し」が、結果的に子供の負担と親の負担、さらには、経済的な負担を軽減することにつながります。


ただし、突然、実行に移すと子供も動揺します。なぜ、家計改善に取り組むのか、目的と目標をしっかり子供に伝え、お互いに納得し、協力し合える形で実行に移していただくことが大切です。


(「FPオフィス ライフ・カラーズ」代表 薮内 美樹)

プレジデント社

この記事が気に入ったらいいね!しよう

このトピックスにコメントする

ひきこもりをもっと詳しく

BIGLOBE
トップへ