中国にまたしてもやられた日本政府

9月19日(水)6時12分 JBpress

(2007年海上保安レポート)

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中国東部の沖合で黒煙を上げて炎上するタンカー「サンチ」。中国交通運輸省提供(2018年1月14日公開)。(c)AFP/Transport Ministry of China 〔AFPBB News〕


油ガス田共同開発合意を無視する中国

 新聞報道によると、防衛省は、2018年6月下旬に中国が東シナ海の日中間中間線付近の中国側海域の油ガス田に新たな移動式掘削施設を確認した模様だ。

 この新たな掘削施設は、これまでの施設より深い場所で掘削できるタイプで、既に海底に固定されているという。

 日本政府は、6月29日、一方的な開発に向けた行為はきわめて遺憾であると抗議した。ちなみに中国は、これまで中間線付近のガス田で16基の海上施設を設置し、そのうちの12基が活動中である。

 かつて日中両国は、中間線付近のガス田の開発をめぐる対立を緩和するため、2008年に中間線をまたぐ海域に共同開発区域を設置し、4つのガス田のうちの1か所を共同開発することに合意した。

 しかし、2010年9月に尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁巡視船に衝突した事件が発生し、時の民主党政府が対中弱腰政策をとったことから、これに味を占めた中国政府は、この合意の具体化に向けた交渉を無視している。

 日本政府は、今年の4月に行われた日中高級事務レベル海洋会議でこの2008年合意の順守を求めたが、歯牙にもかけられなかったのである。

 日本政府は、従来、日中間の排他的経済水域と大陸棚の境界は、尖閣諸島と中国大陸沿岸との中間線であると主張してきた。

 これに対して中国は、中国の大陸棚の外縁は東方へ中間線を越えた沖縄トラフであり、中国のEEZの外縁は、大陸棚の外縁と同じであると主張してきた。

 これに懸念を抱いた日本政府は、尖閣諸島周辺海域と日中間の中間線付近における中国船の動向に注意を喚起してきたのであった。

東シナ海における資源開発


巧妙にサラミスライス戦術を駆使する中国

 中国の国家目標は海洋強国の建設であり、国家を挙げてこの目標を推進しており、サラミスライス戦術を駆使し、国家目標の実現を目指していることはつとに知られている。

 中国は、1969年にアジア極東経済委員会(ECAFE)の下部機関が尖閣諸島周辺海域の地下に石油埋蔵の可能性があると発表するや否や、突如、尖閣諸島の領有権を主張してきた。

 それ以降、中国は、尖閣諸島とその周辺海域の資源を虎視眈々と狙ってきた。

 中国は、国際法上の領有根拠がないことなど頓着せず、2010年には尖閣諸島を武力行使しても確保する核心的利益と位置づけている。

 この背景には、尖閣諸島の魚釣島におけるヘリポート建設中止事件があった。

 旧・沖縄開発庁が1978年4月に尖閣諸島利用開発可能性を調査し、ヘリポート調査活動がほぼ終了した頃、日本政府は突如中止を指示した。

 中国政府がヘリポートの建設に不快感を示したことから、日本政府が対中関係に配慮した結果であったと言われている。

 中国は、歴史的にも国際法上も尖閣諸島が日本の領土であることを知っていながら、尖閣諸島の領有権問題を政治的に利用して、日本のヘリポート建設活動を中止に追い込むという果実を得た。サラミスライ戦術が奏功した典型であった。

 日本政府は、2012年9月11日に尖閣諸島のうち3島(魚釣島・北小島・南小島)の民有地を国有地にした際、その目的を公表しなかった。

 社会主義国が新たに領域を獲得した場合を国有化と表現していることに無知なマスメディアは、これを「尖閣諸島の国有化」と安易に報道した。

 尖閣諸島の所有権を、民間人から国に移しただけであるが、中国は、これを「日本が中国の領域を奪取した」と逆用して、同月14日以降、中国公船が荒天の日を除きほぼ毎日接続水域に入域するようになった。サラミスライス戦術の実践である。

尖閣諸島周辺海域における中国公船等の動向と我が国の対処(2018年8月31日現在)


サンチ号炎上沈没事件がもつ重要な意味合い

 今年の1月6日に、中国の上海沖合300キロの東シナ海でパナマ籍タンカー・サンチ(SANCHI)号(8万5000トン)が香港籍のバラ積み船CFクリスタル(CRYSTAL)号(4万トン)に衝突された。

 クリスタル号がサンチ号に衝突した場所は、日中中間線の西方の中国側であったが、その後、サンチ号は、日中中間線近くで中国が開発を進めている油ガス田の近くを炎上したまま漂流し、14日に中間線東方の日本側の海底に沈没した。

 サンチ号は、現在もコンデンセート(natural-gas condensate)や燃料油を垂れ流しているという。

 換言すると、サンチ号は炎上しながら漂流し、1月14日に奄美大島西方315キロで日本が大陸棚を主張している海底に沈没したのであった。

炎上漂流中のサンチ号の消火活動

 海上保安庁によると、この海難事故に際し中国、韓国、日本が捜索救助活動にあたった。1月15日には現場海域に浮流油が確認され、それ以降、浮遊油の調査、行方不明乗組員の捜索救助および油防除作業を開始した。

 サンチ号は、乗員32人(イラン人乗組員30人とバングラディッシュ人乗組員2人)であったが、中国側の発表によると1人は翌日、2人は6日後に遺体で収容され、残りの乗務員は救助できず、現在もタンカーと共に海底にある。

 他方、クリスタル号の乗組員21人は、周辺漁船により無事に救助されている。

 海上保安庁の推計によると、サンチ号の積荷のコンデンセートは約11.1万トンあり、これらは軽質油で揮発性が高いため、すでに揮発している可能性があるが、魚の体内に取り込まれた可能性は否定できない。

 タンカーの残燃料油は、A重油が約120トン、C重油が約2000トンで、これらは海洋に流出し奄美大島や九州の沿岸に漂着している。

衝突事故発生位置と沈没したと思われる位置

 サンチ号海難事故について、国際メディアは、海洋環境の汚染、海洋生態系の保全などの視点から大きく報道した。

 海難事故の一方の当事者の中国も、当然ながら、海難事故直後から自国の対処活動を積極的に報道している。

 中国は、1月19日に総合記者会見を行い、イラン、バングラディッシュ、国際海事機関(IMO)などと積極的に協力することや捜索救助活動の状況を公表し、国際法条約に基づいてサンチ号をサルベージすること、および油濁防止の対応などについての事後処理を行うことを表明した。

 さらに25日には、中国、イラン、パナマ、香港特別行政区と合同事故調査のための協定に合意し、IMOなどの関連協定に従って合同調査を行っていくことを矢継ぎ早に明らかにした。

 中国は、かねて尖閣諸島の領有権のみならず、沖縄トラフまでが自国の大陸棚であると主張していることもあり、サンチ号の沈没場所が中国の大陸棚であることから、人道上の問題であるとともに海洋環境上の問題であるサルベージを積極的に行うことを口実に、沈没場所が中国の大陸棚であることを国際的にアピールしていると思われる。

 中国は、5月17日から燃料抜取り作業を開始しているが、日本の了解を得たかについては不明である。

 北朝鮮のものと思われる不審船が、奄美大島西方の日中中間線の中国側で沈没した際、日本は、中国側に協力金を支払ったうえでサルベージを行ったことはつとに知られている。

 日本が、大陸棚上に沈没したサンチ号の外国企業によるサルベージにクレームをつけたこと、あるいは共同サルベージを提案したことは寡聞にして報道されていない。

 中国は、サラミ戦術を推進し、国際的な認知を確保するにあたって、サンチ号事件を有効に活用したのであった。


日本の縦割り行政では中国の海洋侵出を止められない

 沿岸国は、自国のEEZと大陸棚資源について主権的権利を行使でき、これらの行動について排他的管轄権を行使できる。

 日本は、かねて日中間の大陸棚の境界を中間線であると主張しているのでサンチ号の沈没場所は、日本の大陸棚上の問題でもある。

 しかしながら、日本がサンチ号の海難事故を報道したのは、第10管区海上保安本部と地方紙が主体であり、政府が官邸の危機管理センターに情報連絡室を設置したのは、ようやく2月2日のことであった。

 サンチ号炎上沈没事件は、人命救助(海上保安庁)、海洋環境(環境省)、海運・海上交通(運輸省)、漁業資源(農林水産省)、EEZ・大陸棚の境界画定(外務省)など様々な問題と担当官庁が密接に結びついている。

 また東シナ海の沈没現場は、日中韓の間の海洋境界が複雑に錯綜しており、事故の対処にあたっての外交的配慮は、これを無視することはできない。

 しかし海難事故、漁業問題、環境問題、海運問題、外交問題は、それぞれを管轄する行政機関が主導することになっているため、これらの行政機関に跨る問題について、国として一体的な対処が迅速にできなかった。

 サンチ号事件における日本政府の対応は、事件発生当初から対応に消極的であり、事故の経過に関する発信は透明性に欠け限定的であった。

 この原因は、縦割り行政の弊害以外の何者でもなく、各行政機関も専ら海上保安庁の対応に任せてきた印象を受ける。サンチ号事件などの海洋問題は、主権や国益が直接絡む多くの問題を含んでいることに留意しなければならない。

 日中間で大陸棚の範囲や境界を争っているのであれば、日本は積極的にサンチ号事件に対する関心を表明し、同号のサルベージを積極的に推進し、沈没場所が日本の大陸棚であることを国際的にアピールするべきであろう。

 しかし日本は、絶好の機会を生かすことができなかった。

 中国が日本の了解を得ずしてサルベージを行ったのであれば、そして日本が何も抗議していなければ、国際社会は、沈没場所が中国の大陸棚であると認識することになるのではないか。

 今後、日本が中間線以東の大陸棚を自国の大陸棚であるといくら主張しても、サンチ号事件に対する日本の消極的な対応と中国の積極的な対処活動の印象から、国際社会が中国に軍配を上げる可能性は否めない。

 日本は、これまで、尖閣諸島の領有権とそれに伴う日中中間線以東の周辺海域のEEZおよび大陸棚を自国のものと主張しているので、このことを諸外国に発信し賛同の輪を広げるためには、一つひとつの行動が常に外交の一貫性に沿ったものでなければならないのである。

筆者:高井 晉

JBpress

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