6時間睡眠を続けた人の脳は「ワインを2~3杯飲んだ状態」と同じ…「昼休みも仕事する人は危険」といえる理由
2024年9月20日(金)10時15分 プレジデント社
※本稿は、佐藤恵美『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/Midnight Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Midnight Studio
■燃え尽きる前に自分をケアしよう
職場で人をフォローするような面倒見のいい人は、たとえ休む必要があると気づいても、「やるべきことが終わらないと休めない」などと考えて、なかなか自分のために時間を使うことができません。
ただ、人間のエネルギーは無尽蔵ではありません。「まだいける」「まだ大丈夫」と思っているうちに、「もう一歩も動けない状態」になるのです。
これは決して比喩的な意味ではなく、うつ状態になると、ある朝、突然起きられなくなります。まさに「もう一歩も動けない状態」です。
うつ状態は、「もうがんばらないで」という体からのメッセージだといえます。体が強制的にストップをかけなければならなくなる前に、自分で自分をケアすることが、とても大切です。
■セルフケアのファーストステップは「睡眠」
まずは、なんといっても必要なのが睡眠です。
睡眠は、脳と体を休ませるために、最も重要な営みです。特に、心のエネルギーを司る脳の休息が充分でないと、どんなにがんばろうとしてもうまくいきません。
ある研究では、6時間以下の睡眠を続けると、昼間の認知能力が著しく低下することが指摘されています。この研究をわかりやすく解釈すると、5〜6時間しか睡眠をとれていない状況が1〜2週間続くと、日中にまるでワインを2〜3杯飲んだのと同じくらいの思考力しか保てないということです。
つまり、睡眠不足で仕事をするのは、かなり酔っぱらった状態で仕事をしているのと同じなのです。
そんな状態では、当然、頭はうまくまわらず、物事を冷静に考えられません。イライラ、モヤモヤ、不安、落ちこみなどが大きくなり、あなたの本来の能力や魅力をまったく発揮できないし、大失態にもつながります。
人のフォローをする場面でも、相手の状態をきちんと把握して、自分の感情をコントロールしながら対応することが難しくなります。
もし職場でフォローしている相手にイライラすることが増えたり、きつい言い方をしたりといった感情が乱れる場面に少しでも心あたりがあるとしたら、まず自分に問いかけてみてください。
「最近、眠れているかな?」
NOという人は、なによりもまず睡眠をとることを最優先事項としてください。これなしには、なにもはじまりません。
■1日だけ寝溜めしても睡眠負債は解消しない
ちなみに、「眠れている」とは次のような状態です。
・睡眠時間をきちんと確保できている
・寝つきがいい
・夜中に何度も目が覚めることがない
・起きる予定の時間より早く目が覚めてしまうことがない
・朝スッキリと起きられて、疲れがとれたと感じられる
どれくらいの睡眠時間がいいのかは個人差があるので一概にはいえませんが、多くの人には7〜9時間の睡眠が適正といわれています。
6時間を切るような睡眠時間しか確保できない場合は、「睡眠負債」となる危険があります。日々の睡眠不足が借金のように積み重なり、心身に悪影響をおよぼすおそれのある状態です。
あきらかに睡眠時間の確保ができていない場合は、今の仕事や家庭生活でかなり無理をしているということです。
予定を入れない計画休をとるなどして、リフレッシュしたり、睡眠時間を確保したりといった「とりあえず」の方法もありますが、基本的に1日だけ適正な睡眠時間を確保しても、睡眠負債にはあまり効果がありません。
■昼休み15分の昼寝は疲労回復に効果大
ですので、普段どうしても適正な睡眠時間を確保するのが難しい場合は、ぜひ「パワーナップ」と呼ばれる「昼寝」をおすすめします。
写真=iStock.com/Paul Bradbury
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Paul Bradbury
昼寝を意味する英語の「nap」と「power up」をかけあわせた造語で、まさにエネルギーをチャージしてパワーアップする昼寝という意味です。
昼休みに15〜30分程度の短い時間で効率よく脳を休めることができると、心身の疲労回復に大いに役立ちます。
昼寝といっても、短時間なので熟睡するわけではなく、目を閉じてイスにもたれかかったり、デスクに伏せたりして、脳を休めるだけで効果があります。
そのときに、「アイマスクをする」「イヤホンをして外の音を遮断する」「枕やブランケットを使ってリラックスする」など、できるだけ脳への刺激を少なくすると、より効果的です。ぜひ、お気に入りの睡眠グッズを職場に用意してみてください。
ただし、午後3時以降に昼寝をはじめると夜間の睡眠のさまたげになる場合があるので、夕方にかからないよう気をつけてください。
■目を閉じるだけでも効果アリ
また、会社によっては、業務に集中するスペースとして、電話ボックスのようなソロブースが設置されていることがあります。そこで寝るのは難しいですが、目を閉じて自分の息の出入りに意識を向けるだけでも効果があります。
昼休み中も仕事をしたり、スマホを見たりという人も多いと思いますが、脳が疲れたまま仕事を続けるよりも、一度手をとめて少し休憩をとったほうが、確実に効率が上がります。これを「休憩効果」といいます。昼休みを使って、うまく自分の脳を休ませてください。
平日なかなか睡眠時間がとれないので、休日は遅くまで寝ているという人もいるかもしれません。
寝だめのつもりでも、体内リズムが狂ってしまうので、かえってだるさや頭痛などが出てしまい、体の調子が崩れるきっかけになることがあります。
休日は遅くまで寝るのではなく、いつもの時間に起きて、脳に負担をかけない過ごし方でエネルギーをためることをおすすめします。
■「なにもしない時間」で人は回復する
脳に負担をかけない過ごし方というのは、思いきって「なにもしない時間」を半日〜1日つくるといったことです。
布団の横に食べ物や飲み物を用意して、トイレのとき以外は動かないくらいのつもりでOK。子どものころ、熱を出して1日中寝ていたときのイメージです。それくらい、葛藤せずに休むことを優先しましょう。
「あれも、これもやらなきゃいけないのに……」という葛藤があると、脳が休まりません。徹底的に「なにもしない」と決めこむことが大切です。
「なにもできない」のではなく、あえて「なにもしない」時間です。「Do nothingの時間」と私は呼んでいます。
そこまで疲れていない場合は、散歩をしたり、カフェに出かけたり、本を読んだりしてもいいでしょう。
佐藤恵美『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)
ただし、1日中スマホで動画を見る、しかも倍速で見つづけるような過ごし方は避けてください。脳を極度に疲れさせることになってしまいます。
とはいえ、なにもせずにぼーっとする、というのは、いざやってみるとなかなか難しいものです。
ぼーっとしてなにもしないつもりでも、脳の働きはとめられないので、ついつい考えごとをしてしまいます。
仕事のことや腹の立つことを思い出してあれこれ考えてしまう、いわゆる「ぐるぐる思考」におちいってしまう人は、お気に入りの音楽にあわせて歌うなどして、別のことに意識を向けるようにしてみてください。
----------
佐藤 恵美(さとう・えみ)
メンタルサポート&コンサル沖縄代表、精神保健福祉士、公認心理師、キャリアコンサルタント、臨床発達心理士
20年間で1 万人以上の相談実績がある、労働者メンタルヘルスの専門家。北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学修了。医科学修士。日本産業精神保健学会理事。埼玉県内の精神科単科病院医療相談室、東京都内の医療法人社団弘冨会神田東クリニック副院長、同法人MPS センター副センター長を経て、2020年に「メンタルサポート&コンサル沖縄」を設立。現在、沖縄在住。県内外の企業や官公庁に対して、さまざまなメンタルヘルスサービスを提供し、年間500人以上にカウンセリングを行なっている。著書に『もし部下が発達障害だったら』『「判断するのが怖い」あなたへ』(以上、ディスカヴァー携書)などがある。
----------
(メンタルサポート&コンサル沖縄代表、精神保健福祉士、公認心理師、キャリアコンサルタント、臨床発達心理士 佐藤 恵美)