テスラ3の実力は本物か 東京─長崎往復で分かったメリデメ

9月22日(火)7時5分 NEWSポストセブン

テスラ「モデル3」ロングレンジAWD

写真を拡大

 7月1日、株の時価総額が2105億ドル(22兆1000億円/1ドル=105円換算)となり、トヨタ自動車を超えて自動車業界世界首位に躍り出たアメリカのEV(電気自動車)ベンチャー、テスラモーターズ。日本市場ではまだマイナーな存在だが、果たしてその実力は本物なのか──。それを確かめるべく自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が、「テスラ3」に試乗して“東京─長崎間、総走行距離2876km”の超ロングドライブを敢行した。


 * * *

 テスラフィーバーは9月になっても止まらず、株価は7月の2倍以上に跳ね上がった。期待されていたアメリカの株価指数S&P500の構成銘柄入りに漏れたことで一時、機関投資家の投げ売りに起因するものとみられる暴落があったものの、その後再び株価は上昇に転じ、現在では時価総額30兆円台後半を推移している。1株当たりの株価は前年に比べ軽く10倍以上だ。


 何がそんなにテスラ株を持ち上げているのか、真相は不明だ。テスラの2019年の年間生産台数は36万台。これはトヨタの20分の1以下、ホンダや日産10分の1以下という水準だ。収益性はようやく4四半期(12か月)連続で黒字を計上することができたばかりで、いわばよちよち歩きの状態である。売り上げも利益率もモンスター級の巨大企業群、GAFAMとはまるで状況が異なる。


 だが、株価は高い。もっぱらS&P500入りでの一段高を当て込んだ機関投資家の買い集めという説は株価の再反転で違うことが証明された。といって、熱狂的なイーロン・マスク(テスラCEO)支持者たちによる買いだけでこんなに株価が上がるものではない。


 株価は将来指標とも人気投票とも言われるが、果たしてテスラにそんな成長の見込みがあるのか。とりあえず商品を使ってみなければ話が始まらない。ということで、同社の主力EV「モデル3」で遠乗りをしてみることにした。


将来性を予感させる”偉大な青二才”


 モデル3は2017年にアメリカで、2019年に日本でデリバリーが開始されたミッドサイズセダン。全長4.69m×全幅1.85mと、テスラのラインナップの中では目下、最もコンパクト。トヨタのミッドサイズセダン「カムリ」と比較すると幅はほぼ同じ、長さは20cmほど短いというディメンジョンで、日本の道路への適合性が比較的高いモデルと言える。


 日本でのグレード展開は上から「パフォーマンス」「ロングレンジAWD」「スタンダードプラス」の3種類で、今回乗ったのは中間グレードのロングレンジAWDで価格は660万円。総容量75kWhのバッテリーを積むタイプで、100%充電時の航続距離は560km。ドライブルートは東京〜九州の周遊で、日本本土最西端、長崎の神崎鼻を目指して走ってみた。


 さて、モデル3での長駆を終えての全体的なインプレッションだが、未成熟な部分が随所にみられるものの、大いなる将来性を予感させる“偉大な青二才”というもの。それがいかにもアメリカ西海岸企業らしいクールな雰囲気に仕立てられているというイメージだった。


 最も強烈な印象を残したのは意外なことに、ワインディングロードでのハンドリングを含めたドライビングプレジャーの高さというアナログ部分だ。筆者は過去、大小さまざまなモデルでロングドライブを行っているが、エンジン車、EV、FCEV(燃料電池車)といったパワートレインの区別を取り去って考えても、これほどまでにクルマを走らせることが楽しく、エキサイティングに感じられるモデルは滅多にあるものではない。


 それと並んで感心させられたのが、省エネルギー性が生む航続性能の高さと急速充電の受け入れの良さだ。ドライブ中はお試しということで広島で一度、余計に充電したが、基本的には東京からテスラスーパーチャージャーのある福岡・博多郊外まで愛知県の名古屋、岡山県の倉敷と、2度充電するだけで届いてしまう。もちろんその間は4、50分の足止めを食うが、ロングドライブにおいてはその程度のストップは誤差の範囲に感じられた。


 そのドライブを支える操作系、およびエンターテインメントシステムは、デジタルネイティブ世代の若者をはじめITに慣れた人が喜びそうな仕立てだった。


 速度や航続距離残などの車両情報、カーナビ画面、エアコン、オーディオ情報その他もろもろが、すべてセンタークラスタ上方の15.1インチディスプレイに動的に表示される。昨年初めてモデル3の左ハンドル車に短時間乗った時は、スイッチがこれだけ少ないとかえって不便なのではないかと思ったりしたが、ロングドライブ中にクルマのことがだんだん分かってくると、スマートフォンの「OK Google」よろしく、ボイスコマンドでほとんどのことがやれてしまうことが分かってきた。


 そしてパワフルな標準装備のオーディオ。テスラは設計協力メーカーのブランドを極力明らかにしない傾向があり、これもJBLなのかKRELLなのか、はたまたFOSTEXなのか定かではないが、とにかくクリアで音割れのない素晴らしいサウンドだった。システム出力は体感的には1000Wはあるだろうなという感じである。


 Bluetooth接続されたオーディオ端末で自分の好きな曲をかけることもできるが、モデル3のエンターテインメントシステムには多数のインターネットラジオ局がプリセットされており、Smooth Jazzやローカル放送局などのチャネルを楽しんでいるうちに旅程を終えた感じで、持ち込み端末は結局使わなかった。


充電不安も吹き飛ぶ驚愕の航続距離とクルーズ感


 さて、ドライブの様子をもう少し細かくレポートしてみよう。東京・青山で試乗車を借りた後、しばらく所用のため都内を走った後、まずは玉川のCHAdeMO急速充電器で充電率を90%とし、第1の目的地点である名古屋・名城公園のテスラチャージャーに向かった。


 沼津までは箱根新道など一般道を通ったが、その箱根新道でさっそく驚きを覚えたのが、前述のハンドリングの良さだった。


 中腹には180度ターンのようなコーナリングが連続するところがあるが、パワーオフでブレーキをかけながら進入し、コーナーを5分の1ほど回ったところでアクセルペダルを踏んでやると、前外側のサスペンションが沈み込んでしっかり踏ん張りを出しながら、内側のリフトアップはごく小さく安定した姿勢で綺麗な放物線を描くようにコーナーを抜ける。一見何の変哲もないセダンでありながら、いっぱしのハイパフォーマンスカーのような動きなのだ。


 テスラが本格的な量産車「モデルS」を世に送り出したのは2012年のこと。それからたった8年だが、もうこんな味を作り出していることに驚愕を覚えずにはいられなかった。


 沼津からは新東名を走行。途中、制限速度120km/h区間のある高速路線で、そこを終始優速な流れに乗って走った。GPS計測によれば、メーター読み120km/h時のスピードは118km/hと、かなり精度が高い。これは日本ブランドを含むアメリカモデルに共通する特徴だ。


 その120km/h区間だが、クルーズ感は気持ち良いの一言だった。新東名は2012年開通という新線で路面状況はおおむね良好だが、トラックの通行量が多いために早くも路面のうねりがやや大きい箇所が増えつつある。そんなところでもモデル3はぐらついたり進路を乱されたりすることなく、悠然とクルーズした。


 この傾向は路面の荒れた他の高速道路でも基本的に変わりはなかった。ただし、荒れた区間での滑走感は昨年乗った左ハンドルモデルより若干落ちる。左ハンドルのタイヤがコンチネンタル「ProContact RX」であったのに対し、右ハンドルはハンコック「VENTUS S1 EVO3」。このタイヤはグリップやコーナリング時のねじれフィールは非常に優秀だった半面、タイヤ側壁のしなやかさではコンチネンタルに劣る感があった。と言っても基本的には快適で、忌避するほどのものでもなかった。


 大容量バッテリーと高速走行でも予想より良好な電力消費率の合わせ技で、370km走行後、名古屋城付近ある名城公園の充電スポットに電池残量15%、残り航続80km弱と、十分に余裕を持って滑り込めた。


 日本のCHAdeMO急速充電器を大幅に上回る出力を持つテスラの急速充電器、テスラチャージャーは同社の売りのひとつ。接続後、どのくらいのペースで充電されるか観察してみたところ、おおむね最初の10分で130km、20分で240km、30分で320km、40分で370km、50分で400km…というところだった。


 航続距離残400km台後半で出発した後、大阪、神戸などのスポットを飛ばして岡山の倉敷に残り100km強で到着。そこまでの走行距離は395.5km。「届くね〜!!」というのが実感で、この時点で充電についての懸念はほとんど吹き飛んでいた。


 倉敷、そしてフルスピードのスーパーチャージャーより若干スピードが遅い広島と短時間充電を行いながら、現時点では日本で最も西にある博多郊外のスーパーチャージャーに到着した。


 そこから長崎の日本最西端、神崎鼻までは140kmほど。途中で充電残量が心もとなくなった時にはCHAdeMO急速充電器を使うこともでき、旅程の後半で複数の充電器を実際に試してみたところちゃんと使うことができたが、基本的には速いテスラチャージャーで充電しておき、途中はノー充電で走るのが快適だ。周遊の可能性も考え、念のため航続をプラス292kmの429kmまで回復させて出発した。それでも30分はかからないくらいである。


従来の評価項目が意味をなさない「楽しさ」


 神崎鼻へは佐賀市回りの長崎自動車道ルートとハイクオリティな海産物で知られる糸島、陶磁器の産地伊万里回りの西九州自動車道ルートがあり、往路は西九州自動車道から。糸島に限らず、このあたりに点在する道の駅では極上の海産物が山のように売られ、食堂ではそれらを利用した魅力的なメニューが豊富に取り揃えられているのだが、コロナ禍の影響でどこも営業が縮小されており、それらを賞味する機会は得られなかった。


 しかし、美味しいモノにはありつけなくとも景色は最高だ。西に走るにつれ、民家は少なくなっていく。半島というものはその果てに行くにつれて急速に最果て感が増していくのが常だが、空気感は場所によっていろいろ。筆者の出身地鹿児島の本土最南端、大隅半島の佐多岬に向かうのともまた一味違う感傷的な西の空気が漂っていた。


 地図から受けるイメージより険しい内陸のワインディングロードを抜け、西海に面した神崎鼻へ出る。ちょうど西日のかかる時間帯だった。東京からの走行距離は1300km以上。そこまで充電時間のストレスや航続残の心配なしに、しかもドライブの楽しさをめいっぱい享受しながらたどり着くことができた。


 テスラ車の楽しさは速い、静か、乗り心地が良いといった従来の評価項目をあまり意味のないものにするような性質のものだった。もちろん個別性能も優れているのだが、効率、ドライブフィール、マルチメディア、操作感などが混然一体となった新しさが源泉となったもので、実際にドライブしてみると既存のクルマとはかなり異なる商品であることが実感できる。


 アメリカではプレミアムミッドサイズカテゴリーでBMW「3/4シリーズ」やメルセデスベンツ「Cクラス」を蹴散らして圧倒的なマーケットリーダーとなり、また欧州でも販売台数を大きく伸ばすなど破竹の勢いを見せているが、それもまたむべなるかなという印象だった。


いかにもシリコンバレー的な「煮詰め不足」も


 さて、ここでモデル3のマイナス面についても触れておきたい。それはクルマの動的質感の高さや660万円のクルマの中では他の追随をまったく許さない加速性能(合法環境における0-100km/h加速の実測値4.2秒)といった車体、パワートレインではなく、市販車としての煮詰めの甘さが時折顔を出すことだった。


 最も気になったのはクルーズコントロールの性能の低さ。道路のうねりが少し深めなところを通過するときや大型車を追い抜く時など、障害物があると誤認するのか、わりと頻繁に結構強めの自動ブレーキがかかる。


 テスラといえばセミ自動運転「オートパイロット」がよく話題にのぼるが、日本の公道ではハンズオフ(手放し)の認可は受けていない。が、仮に認可を受けていたとしても、現状のレベルだとちょっと使う気にはならないかなというのが率直な印象だった。


 ヘッドランプのハイ/ロー自動切換えの判断がまずいのもマイナスポイント。とくに先行車両の認識率が低く、ちょっとテールランプの照度が低いとかなり接近するまでハイビーム照射することになる。


 カメラを通じたデータをビッグデータとして収集し、その国の道路に合わせて作動の適性化が図られている最中で、随時オンラインアップデートが図られるとのことだが、普通の自動車メーカーは実験段階でこれよりきっちり仕上げているのだから、言い訳としてはちょっと苦しい。


 もう一点、これは停車中だったので大きな問題にはならなかったのだが、突然エアコンのブロワが最強になり、次の瞬間メーターなどが表示されるディスプレイが再起動するということがあった。再起動の時間は長くはなく、また走行に影響するものではなさそうだったが、自動車メーカーである以上、そういうバグフィックスは徹底的に行うべきだ。


 これら、いかにもシリコンバレー的なバグや煮詰め不足があったがゆえに、インプレッションの冒頭であえて“青二才”と表現したのであるが、テスラとしてもそんなバグで評判を落としたくはないだろう。そのあたりのノウハウ蓄積や作り込みの徹底化は鋭意進めていくに違いない。


 仮にそういう未熟さが解消し、またバッテリーや充電器、送電網などの技術革新によってEVであるがゆえのネガが克服されていった暁には、過去の成功体験がいつのまにか足かせになってクルマ作りやクルマのビジネスについて新発想を生み出せなくなっているレガシーメーカーは、果たしてテスラのような新興メーカーに対して優位性を保てるのか。よほど頭を切り替えない限り難しいのではないかと思った。


身の丈に合わない株価に込められた「期待」


 今、自動車業界では“保有から使用へ”がキーワードとなり、パーソナルモビリティから公共交通機関へとスキームチェンジを図るかのような提案が相次いでいる。ビジョンとして示される未来カーを見ても「こんなものに乗せられて何が嬉しいのか」と思うようなもののオンパレードだ。


 クルマ作りを通じてテスラが訴えかけているのはそれとは真逆。オーナー、あるいは使用者がいつ、どこへでも自分の意思で出かけられるという移動の自由が最も大事で、気候変動が深刻化する時代においてそれをどうしたらサスティナブルなものにできるかを考え、その回答がEVという思考のプロセスを踏んでいる。モデル3がこれほどまでに解放感、自在感にあふれた自我を感じさせるクルマになったのは、そのスピリットが一本通っているからであろう。


 現状、テスラの事業規模に対してまったく身の丈に合っていない株価。あえて理由があるとすれば、どんどん個人の自由が狭められないこの世相にあって、イーロン・マスク氏がその解決策を提示し続けてくれるのではないかという期待感かもしれないなどと、総走行距離2876kmのテスラ旅を振り返りながら、とりとめもなく思った次第だった。

NEWSポストセブン

「テスラ」をもっと詳しく

「テスラ」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ