オープンイノベーションは「魔法の杖」ではない

9月27日(木)6時0分 JBpress

 一口に「オープンイノベ—ション」と言っても、その形はさまざまだ。スタートアップと協業する企業は、どのような枠組みや手法を選択すればいいのだろうか。イノベーション研究の第一人者、米倉誠一郎氏が、経営学、経営史の観点からオープンイノベーションの手法の考え方と、実際に進める際の留意点について解説する。(JBpress)


どのような枠組みで進めるか?

 今、なぜオープンイノベーションなのか? 前回(「今、なぜオープンイノベーションの時代なのか」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54118)はその答えとして、外部の知識や経営資源を使ったほうが、より速く、より安く、より効果的に新しいイノベーションを遂行できる社会経済環境が出現したことを説明した。

 不確実性下での技術商品開発を迅速に進めるには、外部の経営資源を利用あるいは協力したオープンイノベーション戦略が強力な手法となる。しかし、どのようなオープンイノベーションのモデルを採用し、企業情報のどれくらいをオープンにするのかという問題が残っている。

 オープンイノベーションの手法として、技術や知財権を市場取引することだけが正解というわけではない。そうした技術を持つ企業と連携することもあり得るし、M&Aを通じて買収合併してしまうこともあり得る。どの選択肢を取るのかは、以下に述べる知識と金銭の流れに依存しているのである。


オープンイノベーションの4つの形

 オープンイノベーションを類型化する、第1の分類方法は知識の流れる方向による分類である。

 知識が社外から社内へ流入するタイプは「インバウンド型オープンイノベーション」と、社内から社外へ流出するタイプは「アウトバウンド型オープンイノベーション」と呼ばれる。

 インバウンド型の例としては、一定額を支払うことによって技術の使用権を得るライセンスインや、使用権自体を購入するケースなどが挙げられ、日本企業はもちろんのこと、世界中の企業が数多く活用してきた。

 アウトバウンド型の例としては、自社が保有している技術を他企業にライセンスアウトしたり、販売したりするケースがあげられる。また、コラボレーションを通して、知識の流入と流出が同時に発生する場合がある。このような状況は「カップルド型オープンイノベーション」と呼ばれている。たとえば、オランダ企業のDSMが開発した基礎特許の使用権を東洋紡が取得し、東洋紡の開発した生産技術を今度はDSMが社内に取り込むというケースなどが見られる。

 もう1つの分類方法は、金銭的取引かどうかである。ライセンスや販売のように技術や知識の移動に伴って金銭が移動する場合と、クラウドソーシングあるいはフリーミアム、オープンソーシングと呼ばれるように、技術や知識の移動に金銭の移動が伴わない場合があるのである。

 以上の4種類の分類方法を整理したものが、下の図である。

 この分類法によると、ライセンスイン、ライセンスアウト、産学連携、共同研究、技術提携など、これまで日本企業にもなじみの深い多くの手法が、オープンイノベーションに含まれることになる。もちろん、インターネット上でのクラウドソーシングやソリューションの公募あるいは公開のイノベーションコンテストなど、近年インターネットの特徴をよりうまく活用して新しいイノベーションを誘発するような手法も数多く生まれてきている。


オープンイノベーションは魔法の杖ではない

 技術や市場の変化が激しい現代にあって、新たな技術や市場ニーズを探索するのに、開放系探索を目指すオープンイノベーションは極めて有効な手段といえる。とくに日本企業では、これまでケイレツを活用した既存の企業間取引や従来型の産学協同などでは、新たな価値を生み出すことが難しくなってきており、オープンイノベーションの有効性は高まっている。

 ここで考慮すべき第1のポイントは、オープンイノベーションの手法は多岐にわたっており、どれか1つの手法あるいは正解があるわけではないことである。

 たとえば、従来から活用されてきたコンソーシアムもオープンイノベーションの1つである。しかし、コンソーシアム型は技術の普及には向いているものの、研究テーマが基礎的な分野であることが多く、必ずしも事業化に向いていない。しかしながら、この点を理由にオープンイノベーションに躊躇しているならば、クラウドソーシングやライセンスインなどの別のタイプのオープンイノベーションを採用すればよいのである。必要ならば次々に切り替えていきながら、最適な手法を探索する懐の広さがオープンイノベーションにはある。

 第2に、達成すべきビジネスモデルの重要性である。経済学の観点からも経営学の観点からいっても、オープンとクローズのバランスが重要である。何でもかんでもオープンにすればいいというわけではない。

 では、どうバランスをとるのか。必要なのは、オープンイノベーションの原点に立ち返ることである。すなわち、オープンイノベーションとは、複雑かつ加速化する技術と市場環境にあって、社内外の知識を結合し収益性の高いビジネスモデルを確立することが本質である。したがって、知識集積のあり方をオープンにするか、クローズドにするかは達成すべき目的の手段にしかすぎない。

 一番重要な指標は、収益力の高いビジネスモデルを構築するために、どのような知識をどこからいかに早く導入できるかである。クローズドなモデルで調達できるのならばそれに越したことはないが、もしできないのならば外部から導入するしかない。そのバランスは、ひとえに構築したいビジネスモデルに依存しているのである。

 オープンイノベーションは魔法の杖ではない。むしろ、明確な目的意識があって初めて有効性を発揮する、新しいイノベーションの仕組みなのである。

筆者:米倉 誠一郎

JBpress

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