そして野球を見るのは「野球好き」だけになった…プロ野球の観客動員がコロナ前に戻らない根本原因

2022年9月27日(火)17時15分 プレジデント社

空席が目立つプロ野球・巨人-中日戦の観客席=2022年8月24日、東京ドーム - 写真=時事通信フォト

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プロ野球の観客動員数がコロナ前の8割程度にとどまっている。スポーツライターの広尾晃さんは「テレビ中継はなくなったが、各球団が地元ファンの掘り起こしを続けた結果、観客動員はコロナ前まで増え続けていた。だが、その戦略も限界に達しつつある。ファンの動員を増やすのではなく、ファンそのものを増やす必要がある」という——。
写真=時事通信フォト
空席が目立つプロ野球・巨人-中日戦の観客席=2022年8月24日、東京ドーム - 写真=時事通信フォト

■フル動員が解禁になったのに、満席にならない


今春のオープン戦、筆者の隣の席にお客が座って、ぎょっとした。過去2年間、感染症対策でNPB球団はチケットを1〜2席おきにしか販売しなかった。だが、今季から観客のフル動員が解禁になった。


ゆったりした観戦スタイルに慣れていただけに、久々の文字通り「肩身の狭い」試合観戦に驚いたのだ。そして「あの喧騒が戻ってくるのだ」と思ったのだが……。


シーズンは終盤を迎えているが、喧騒はなかなか戻ってこない。今季も50試合近く見ているが、満員御礼の試合は1〜2試合あった程度か。あとは感染症対策をしていた昨年までとさして変わらぬ「ゆったり観戦」になっているのだ。


NPB史上最多の観客動員を記録した2019年と今年の球団別の平均動員数を比較してみよう。(2022年は9月23日時点)


セ・リーグ 3万4655人→2万8179人(81.3%)
ヤクルト 2万7543人→2万2224人(80.7%)
阪神 4万2935人→3万6283人(84.5%)
巨人 4万2643人→3万2199人(75.5%)
広島 3万1319人→2万7796人(88.8%)
中日 3万1741人→2万5178人(79.3%)
DeNA 3万1716人→2万4568人(77.5%)


パ・リーグ 2万7203人→2万0636人(75.9%)
オリックス 2万4423人→1万9726人(80.8%)
ロッテ 2万3463人→2万0562人(87.6%)
楽天 2万5659人→1万8699人(72.9%)
ソフトバンク 3万6891人→3万0928人(83.8%)
日本ハム 2万7368人→1万7295人(63.2%)
西武 2万5299人→1万6429人(64.9%)


NPB 3万0929人→2万4417人(78.9%)


9月に入ってお客は入り始めているが、2019年と比較すると8割弱しか入っていない。2019年は史上最多の2653万人余りを動員したが、今季は2095万人程度にとどまりそうだ。


無観客試合もあった2020年は482万人、入場制限をした2021年は784万人だったから2.5倍増ではあるが、2019年の数字には程遠い。「V字回復した」とはいえないだろう。


落ち込みはセ・リーグよりパ・リーグのほうが激しい。日本ハムは63.2%だがこれは交流戦前まで観客動員数を2万人に制限していたことも一因だ。また西武も64.9%と動員に苦しんでいる。


■声出し応援ができないことだけが理由なのか


これは「まだコロナ禍からの回復途上だから」で片付けていいのだろうか。


ある球団の営業担当は「応援できないのが痛い。声を出すのもジェット風船もダメだから、それが目的だったファンが来ない。叩いて音を出すグッズなども売っているが反応は鈍い」と語った。


そういう部分もあるだろう。しかし、筆者は長い目でみれば、この落ち込みがプロ野球人気の再度の低迷につながる恐れもあると見ている。


■テレビにとって最重要コンテンツだった巨人戦


筆者が子供のころ、夜7時ともなればNHK、民放のどこかの局で「プロ野球中継」をやっていた。ほとんどが巨人戦だった。父親はビールの栓を抜いてどっかとテレビの前に座り、子供も隣に座る。昭和の一般的な家庭で見られた光景だ。


写真=iStock.com/show999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

巨人戦の視聴率は1960年代から80年代まで20%をキープしていた。常に安定して数字がとれたからテレビ局は巨額の放映権料を球団に支払った。


巨人戦があるセ・リーグ球団は放映権料だけで採算がとれていた。対照的に1970年の観客動員はセが654万人パは304万人、合わせても1000万人に届かない。当時のプロ野球ファンは「テレビで見る」のが基本的な観戦スタイルだった。


21世紀に入って巨人戦の視聴率が目に見えて下がり始め2001年には15.1%となる。2004年に日本テレビは全試合の地上波全国ネットを停止、2006年には10%を割り込み、2022年には3%台となっている。


視聴率1%が何人に相当するのかには議論があるが、20%以上の高視聴率を誇っている時代には一晩で2000万〜3000万人が視聴していたと考えられる。しかし現在は300万人程度まで落ち込んでいる。BS、CSでの放送はあるにしても、テレビ局にとって重要なコンテンツではなくなっている。


■テレビ→球場で野球を見る時代に


それに代わって2004年の「球界再編」を契機として、NPB球団は新たなマーケティング戦略を展開し始めた。


福岡を本拠とするソフトバンクが野球場を「野球を熱心に見るお客だけでなく、グルメを楽しみたい人、騒ぎたい人、遊びたい子供」などが半日楽しく過ごすことができる施設=ボールパークにするという考え方を打ちだした。


派手な応援スタイル、さまざまなアトラクション、球場グルメ、多彩なグッズなどで魅力を高め、多くのお客を集めるようになった。宮城県を本拠とした新球団楽天、北海道に移転した日本ハムなども地元のファンを掘り起こした。パ球団から始まったこの流れは、セにも波及した。


2005年にはセの観客動員は1167万人、パは825万人、計1992万人だったが、2019年にはセ1487万人、パ1167万人、計2653万人と33%も増加した。


特にパ・リーグは41%増。テレビの視聴者数が激減しても、実動員がそれを大きく上回った。プロ野球は新たなビジネスモデルを確立したのだ。


これによってプロ野球人気は息を吹き返したのだが、そろそろこのビジネスモデルが曲がり角に差し掛かったタイミングでコロナ禍に見舞われたのではないか。


■地域重視のマーケティングに陰り


今のプロ野球のマーケティングは「ローカルでのヘビーユーザー」中心だ。


特にファンクラブ会員を中心とした「年に何回も球場に足を運ぶ」地元のリピーターを顧客にしている。会員のスマホには「あなたが観戦した試合の勝敗は何勝何敗です」「何日の試合にあなたが好きな○○選手が出場します」など、細かな情報が入る。


2019年の2653万人余りのお客はこうしたリピーター戦略によるものであり、実数は900万人程度ではないかといわれている。


これがプロ野球ファンの母数だとすれば、テレビ観戦全盛期の半分以下になる。テレビの視聴率が3%なのも当然だ。


筆者は2021年末に西武とDeNAの営業責任者に取材している。両球団はコロナの期間中に本拠地球場の大改装を竣工(しゅんこう)させた。どちらの責任者も「新球場が満員のお客で埋まるのをこれまで見たことがなかった。今年はぜひ見たい」と口をそろえた。


しかし定員3万1552人の西武のベルーナドームで、3万人以上入った試合は、まだ一度もない。DeNAの横浜スタジアムの定員は約4000席増えて3万4046人となったが、ほぼ満員の3万2000人を超えたのは6試合だけだ。


■もはやプロ野球は全国民共通の娯楽ではない


さらに深刻なことは、今のプロ野球ファンが12球団の本拠地周辺の大都市圏に集中していること。NPBでは地方球場でも公式戦を行っているが、近年、観客動員が激減している。


2010年には地方球場で公式戦を43試合行い71万9733人の観客を集めた。1試合当たり16738人。2万人以上を動員した試合も12試合あった。しかし2022年には22試合28万2787人1試合当たり1万2854人。


2万人以上の試合は皆無。阪神、広島、中日、オリックス、ロッテは地方球場で主催試合をしていない(中日は豊橋での1試合が雨天中止)。


中でも関係者に衝撃を与えたのは、沖縄県那覇市で行われた巨人-DeNA戦が8992人、9260人と2試合とも1万人に届かなかったこと。3万人収容の沖縄セルラースタジアム那覇は巨人の春季キャンプ地でもある。平日とはいえこの数字はショッキングだった。


地方での公式戦は、大相撲の巡業と同様、地方の新聞社や放送局、一般企業などがプロモーターとなって、球団から試合を「買い取る」形が一般的だ。


NPB球団にして見れば利益が確保できるから「手堅いビジネス」だったのだが、観客が入らないため赤字になることが多くなって、プロモーターの成り手がなくなっているのだ。


昭和の昔、プロ野球の二軍は、地方球場を巡業して1万人以上の観客を集め収益を上げていたが、それもはるかな昔話になった。


プロ野球は「ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)」といわれたが、いつの間にか12球団本拠地だけの「ローカルパスタイム」になりつつあるのだ。


■野球離れの構造


12球団のヘビーユーザーを中心にした濃厚なマーケティングは効率的でレスポンスも良かったが、そろそろ「マーケティング疲れ」に近い状況になりつつあった。


その矢先の「コロナ禍」で、ファンは「球場に行く」というルーティンから遠ざかった。感染症対策で「思い切り応援できない」ことも、マイナス要因となった。


そして地方での「プロ野球離れ」も加速した。さらにいえば野球ファンの高齢化も進んだ。コロナ禍が契機となって「野球離れ」が加速する可能性はかなり高いのではないか。


■より地域密着にこだわるべき


福岡ソフトバンクホークス取締役として、「球界再編」後のプロ野球の新たなマーケティング戦略を主導し、今年9月に『サクッとわかるビジネス教養 野球の経済学』(新星出版社)を上梓した桜美林大学の小林至教授はNPBの現況をこのように見ている。


「日本のプロ野球って“お祭り”なんですね。毎日来るような人は別にして、年に何回か来る人はみんなで一緒に同じ振り付けの踊りを踊って応援歌を歌い、風船を飛ばして発散していた。それができないから、行っても面白くない、という方は多いでしょう。そうこうしているうちに別のエンタメを見つけてしまった方もいるかもしれません。


また地方での試合興行が減少したのは、主たるプロモーターだった地域のテレビ局の体力が低下していることも大きいと思います。スポンサーを含む取引先にチケットを買ってもらうのも難しくなった。


NPBは球界再編後に“地域の娯楽”としてよみがえりました。私がいたソフトバンクがそうですし、日本ハムや楽天もそうです。DXも大事ですが、プロ野球興行の大黒柱はコロナ後もやっぱり来場客であり、地域密着なのです」


■球団数を増やすことを考える時が来ている


今、NPB球団に求められるのは、古井戸をさらに掘り下げることではなく、あらたな「水脈」を探すことだ。地方から撤退するのではなく、全国でプロ野球振興の手を打つべきだ。そのために地域保護権(フランチャイズ)の緩和も考えるべきだ。


さらにいえばエクスパンション(球団拡張)も考えるときだ。MLBは、半世紀以上ア・ナ16球団でやってきたが、1961年から数次にわたりエキスパンションを実施。今では両リーグ30球団になり、2000万人台だった観客動員は半世紀で7000万人超にまで拡大した。


この間、アメリカンフットボール(NFL)、バスケット(NBA)、アイスホッケー(NHL)の人気が高まり、MLBは「オールドボールゲーム(古い球技)」となった。エキスパンションがなければマイナースポーツに転落した可能性もあった。


NPBは、小規模ながら地方で野球興行を行っている独立リーグ30球団との連携を強化すべきではないか。


NPB球団のプロパー社員から「親会社から来た幹部は、自分の退職金や本社に帰る期日ばかり気にして、何一つ変えようとしない」という愚痴を聞いたことがある。


守勢に入ったビジネスが発展することはあり得ない。プロ野球の栄華には陰りが見えるのだ。まだ企業としての体力が残っているうちに「ナショナルパスタイム」としての輝きを取り戻すために、打つべき手を次々と打っていくべきだろう。


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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。
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(スポーツライター 広尾 晃)

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