鳥貴族の客離れは値上げだけが要因か 均一価格戦略に陰りも

9月29日(土)7時0分 NEWSポストセブン

「焼き鳥戦争」過熱で同じビルに競合店が入居しているケースも

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 主力の焼き鳥メニューだけでなく、つまみもビールもサワーもすべて「280円均一」。まさに“飛ぶ鳥を落とす”勢いで成長してきた「鳥貴族」が、ここにきて足踏みしている。昨年10月に全品一律280円から298円(いずれも税抜き)に値上げしたことで、客数が落ち込んでいるのだ。しかし、1品18円の値上げだけが本当に客離れの要因なのか。フードアナリストの重盛高雄氏が現場レポートする。


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 日本フードサービス協会のデータによると、居酒屋業態における7月の客数は前年比94.3%、客単価は同99.0%となっている。ここ数年、何でもありの「総合居酒屋」が振るわない中で、焼き鳥や魚料理などに特化した「専門居酒屋」が健闘していたため、落ち込みを最小限に食い止めていた。


 ところが、直近の数字を見る限り、専門居酒屋の状況も芳しくない。特に均一価格の焼き鳥居酒屋チェーン「鳥貴族」の落ち込みは顕著だ。


 同社の月次報告によると、値上げの効果か客単価こそ昨年10月よりずっと前年同月比でプラスが続いているが、その反面、既存店の客数減が止まらない状況に陥ってしまった。昨年12月より客数は100%を越せない苦境が続き、直近7月の客数も85.8%という結果に終わった──。


 鳥貴族の誕生は1985年。創業者の大倉忠司社長が大阪(近鉄俊徳道駅前)に1号店を開業。その後、大阪・道頓堀店の人気をきっかけに、2005年に東京進出。店舗数、売り上げともに右肩上がりで伸び、2018年8月現在の店舗数はじつに666店舗(2018年8月現在)、売上高は339億円にまで拡大した。2016年には東証1部上場も果たしている。


 急成長の理由は、なんといっても「280円均一」という料金体系にあったのは言うまでもない。創業当初は150円、250円、350円と3段階の価格設定をしていたが、「店のコンセプトがぼやけてしまう」(大倉社長)と、思い切って全品250円均一に。そして、1989年の消費税導入を機に値上げし、280円均一に落ち着いた。


 看板メニューには、普通の焼き鳥の1.5倍もの大きさがある「貴族焼」や、注文を受けてから一つずつ釜で焼く「とり釜めし」、もちろんアルコール類もビールやハイボール、ワインなど何を飲んでも280円だ。また、おかわり自由の「キャベツ盛」や「北海道産和風ポテトさらだ」などのスピードメニューは、女性客やファミリー客にも定番人気となっている。


 だが、昨年10月、これまで28年続けてきた280円均一の看板を掛け替え、創業以来2度目となる値上げに踏み切った。それが要因で客足が遠のいているとの情報を受け、筆者は週末の店舗に足を運んでみた。1品18円の値上げがそこまで消費者の負担になっているのか、実際に確かめたかったからだ。



 まずは客の入りを確認すべく金曜夜の東京・有楽町店を訪問。サラリーマン客などを中心に満席で、入口の案内ディスプレイには「入店待ち9組」と表示されている。また、近隣の神田店に「空席あり」との表示。そのためか店頭で待っている客は多くない。じつはネット予約の「EPARK」という仕組みを使えば、順番待ちの受付もできる。


 念のため、日曜夕刻にも有楽町店に再度訪問。土日祝日は4時からの営業で、筆者が店に着いた時は5時を過ぎていたが、待つことなく入店できた。そうはいっても5時半を過ぎるころには、満席の状態に。いつの間にか案内ディスプレイの待ち組数は10組を超えていた。驚いたことに、金曜と違って日曜の客のほとんどが若い世代。女性だけのグループも4,5組と多く見られた。店頭で待っていた客も女性2人だった。


 こうして都心部の店舗を訪れてみると、週末の書き入れ時ということもあってか、客の入りや回転率は上々。既存店の来客数が右肩下がりとなっているのは、平日の晩に会社の飲み会などがめっきり減り、地元飲食店での“ちょい飲み”や自宅飲みなどで居酒屋を利用しなくなったサラリーマンが増えたせいもあるだろう。


 では、肝心の値上げの反応はどうか。カウンター席に座っていた女性2人客は初めての来店なのか、山盛りのキャベツやサラダ、焼き鳥数品を前にして驚きの表情。


「キャベツやサラダの量が多すぎるよね。いくら単価が安いからって、これだけでお腹いっぱいになっちゃう。キャベツやサラダ、一品料理は少量でいいから100円にしてほしい!」


 などと感想を口にしていた。おまけに、最後にデザートで注文したアイスも、「一口サイズで安ければいいのにね〜」との声。値上げをしたことよりも、均一価格メニューの損得勘定に熱心な様子だった。



 鳥貴族にとっては、298円という均一価格の中で、いかに“お得感”を出すことができるか──これが商品戦略のすべてだ。もちろん、メニューによって原価比率はまちまちなので、原価の安いものは量を多くするなどして付加価値を出せなければ売れない商品になってしまう。


 ちょうどいま、お得感を前面に打ち出しているのは、通常サイズの倍の量、高さ17cmの巨大ジョッキで提供される「メガハイボール」だ。もちろん価格は298円。10月17日までのキャンペーン商品とはいえ、とにかくお酒をたくさん飲みたい人にとってコスパは最強だろう。


 だが、均一価格の「売り」や値上げ分の付加価値を訴求するだけのこうした戦略は、そろそろ消費者に飽きられ始めているのも事実だろう。


 もともと鳥貴族は従業員の作業効率やコスト削減のためにメニュー数を増やさず、新商品の入れ替えも頻繁に行わない方針を貫いてきた。それは国産の食材を100%使用するなど、品質・サービスに自信を持っているからできることで、専門居酒屋の強みでもあるのは確かだが、顧客にとっては新鮮さが薄れかねない。そのうえ、値上げや増量によってメニューの選択肢を一層狭める悪循環に陥っているようにも見える。


 あの好調な100円均一ショップでさえ、厳しい商品構成の目が求められている。これまでは100円という価格設定の分かりやすさと豊富な品揃えさえしていれば売り上げはついてきたが、いまや価格に敏感な消費者が増えたため、100円とはいえ本当に価値のある商品しか売れなくなっている。その結果、商品の入れ替えや新商品開発のスピードはますます速くなっている。


 もっとも、値ごろ感は二の次で、品質の高い商品が欲しい場合は、100円以上でも賢く買い分ける人は多い。依然、低価格志向は根強いものの、自分へのご褒美消費や贅沢消費という「消費の二極化」が起きているのだ。


 そこで、店側も価格に縛られていては、本当に価値ある商品展開ができない。そのため、最近の100円ショップでは、100円均一にとらわれず、商品によっては200円、300円のラインアップも品揃えに加えている。



 そういう意味では、残念ながら鳥貴族の均一価格は存在価値が薄れている気がする。低価格であり安全安心という価値が、消費者の幅広いニーズと乖離してきたことが客数減少の原因と感じている。そこに人件費や原材料の価格高騰、そして酒税法改正による値上げが拍車をかけている。


 しかも、低価格を追い風として多くの企業が鶏肉をキーワードとして専門居酒屋に参入するなど“焼き鳥戦争”が激しさを増している。例えば、総合居酒屋のワタミは業態転換を図り「三代目鳥メロ」に多くの店舗を改装し、業績回復に大きく役立てた。こうなると、鳥貴族も決して安閑とはしていられないはずだ。


 大倉社長は値上げした理由について、経済誌のインタビューでこう話している。


〈時代に合った「適正価格」にするためです。では、適正価格とは何か。私はステークホルダー(利害関係者)全員が幸福になれる価値のことを、そう呼んでいます。お客様、社員、株主、取引先、地域社会、それと金融機関──。

(中略)

 300円を切る価格というのは面白いもので、30年以上やってきた私の経験上、景気やトレンドに左右されず、普遍的に訴求力のある価格なんですね。居酒屋業界では高いと感じるか、安いと感じるかの分岐点が300円。当時も今もそうです〉(『日経ビジネス』2018年9月10日号より)


 値ごろ感ギリギリの価格まで値上げして経営基盤の安定化を図る鳥貴族。今後、客数減のダメージを取り戻す価値を創出して、再び顧客の支持拡大に繋げることができるか。専門居酒屋の先駆けとして業態をリードしてきた巨大チェーンだけに、今後の展開に注目したい。

NEWSポストセブン

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