想像以上の数だったトヨタの不正車検、根本解決に必要なこと

9月30日(木)10時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 トヨタ自動車は2021年9月29日、「トヨタ・レクサス販売店の総点検結果と今後の取り組みについて」というオンライン記者会見を行った。

 会見に参加して改めて感じたのは、自動車産業界の基本構造である「製販分離」が抱える矛盾だ。


「11社・12店舗」で行われていた不正車検

 会見の冒頭、不正車検が発覚したレクサス高輪店を運営するトヨタモビリティ東京の関島誠一社長は「この度の不正車検では、(本件の対象となった)オーナー、弊社の多くのお客様、そして広く自動車整備業界の皆様にご心配とご迷惑をおかけしたことをお詫びする」と謝意を示した。

 会見には、トヨタ自動車の国内販売事業本部の佐藤康彦本部長も同席した。

 トヨタによると、会見当日に国土交通省 関東運輸局からレクサス高輪および検査員4名に対して処分が通知された。処分の内容は、レクサス高輪については指定自動車整備事業の指定の取り消し、検査員の解任だ。いずれも、9月29日から2年間は再認定は認められない。そのほか、トヨタモビリティ東京の役員および関係者を社内懲罰規定に基づいた処分を行うとした。

 また、レクサス高輪、また愛知トヨタなどレクサスやトヨタ販売店での一連の不正車検問題を受けて、トヨタ自動車の社員約530人が、7月20日から全国4852カ所にある指定・認定工場と車検センターの全拠点を訪問。指定整備に関する法令の順守を主体としたトヨタによる自主的な総点検を行った。

 その結果、関東運輸局の監査で判明したレクサス高輪を含めて「11社・12店舗」において不正車検が行われていたことが判明した。その台数は1345台(そのうち517台はレクサス高輪)にのぼる。トヨタモビリティ東京が運営する販売店としては、レクサス高輪以外に江戸川瑞江店でも5台の不正車検があった。


当たり前のことができていなかった

 総点検によって見えてきた課題は、大きく分けて以下の4点である。

・サービス現場における過大な業務量と、エンジニアの人員不足。
・車検制度への役割認識と遵法意識の不足。
・経営層、管理者と現場作業者の風通しの悪さ。
・指定整備における監査機能の不備。

 こうした内容をみると、なぜトヨタほどの大企業が販売の現場で基本を徹底できなかったのかという疑問を持つ人が少なくないだろう。今回のオンライン会見での質疑応答の中でも、記者やジャーナリストからそうした内容の質問がトヨタ側に向けられた。

 これに対してトヨタは改善策を説明した。具体的には、標準作業の明確化、外国人留学生や技能実習生を含めた多様な人材の登用、現場担当者に対する教育、販売店の代表者や経営陣が現場をまわり現場の困りことをしっかり聞くこと、監査内容の見直しや店舗間でのクロスチェック、そして顧客に対する入庫前の車両状態の確認や荷物降ろしなどを、販売店で実施するという。

 またトヨタ本社側の取り組みとして、車検標準化作業手順書のひな型や作業ツールの配布、教育コンテンツの提供、販売店の販売や整備の担当者をトヨタの生産現場に招き店舗マネジメント研究を行う、といった働き方改革を推進すると説明した。

 だがこうした改善策は至極当たり前のことであり、「なぜ今頃トヨタがそんな初歩的な対応を?」という疑問は拭えない。


売上第一主義で「現場」の把握がおろそかに

 結局、今回明るみに出た車検不正問題は、自動車産業界のエコシステムである「製販分離」が抱える潜在的な課題が露呈したと言えるのではないだろうか。

 製販分離とは文字通り、製造と販売が分離している構造を意味する。

 自動車メーカーの事業は基本的に、新車の企画、研究開発、製造、宣伝などのマーケティング、そして販売店に対する卸売りで構成されている。最終ユーザーへの販売は自動車メーカーの事業とは分離されているのだ。いみじくも、佐藤本部長は会見の中で「我々(トヨタ自動車)は、販売も修理も1台もしたことがない」と表現した。

 国内の販売と修理については、トヨタ本社と資本関係がある唯一の販売会社であるトヨタモビリティ東京や、各地域で地域の資本家が経営する地場企業との販売に関する基本契約に基づき、トヨタの基本的なプログラムに則ったうえで各社独自のスタイルで販売や修理を行うという営業体制を長年にわたり続けてきた。

 実際にはトヨタと販売店経営者の間の“人と人とのつながり”、信頼関係を維持することで販売を支えてきた側面が大きい。これはトヨタに限らず、国内外のほぼ全ての自動車メーカーに共通する業界体質である。

 そうした中で、トヨタ本社は販売店各社を売上げ台数によって表彰する制度を設けるなど売上第一主義が定常化し、結果的に販売と整備の現場の状況をしっかりと把握できない状況になっていた。そんな状況が、今回の不正車検問題によって浮き彫りになったと言えるだろう。


トヨタ車が収集する顧客データ

 会見に参加した筆者は質疑応答の中で佐藤本部長に、トヨタ本社と販売店各社は販売・営業・車検・修理のプロセスをどう作り上げているのか、各種データをどのように共有しているのか、などについて尋ねてみた。

 これに対して佐藤本部長は、「(現状では)販売店の仕事のオペレーションをしやすくするシステムを我々(トヨタ本社)が構築して、販売店が各社の経営のなかで使っている」と回答した。

 データの共有については、「これからの時代は、クルマのデータ、お客様の情報、そして社内の各種データがつながていく。お客様のデータを販売店に信託していただくことで、お客様ライフスタイルとしてのご提案として活用できるような構想を我々がつくっている段階だ」と説明した。

 現在、トヨタの新車にはDCM(データコミュニケーションモジュール)という車載通信機が標準搭載されている。トヨタ本社はDCMを通じて、クルマの状態や走行に関するデータなど顧客データの一部を、販売店を通さずに直接収集して解析するオープンプラットフォーム「モビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)」を構築している。

 トヨタ本社は収集したデータを販売店とどう共有して活用していくのか。販売、車検、修理など販売店側のデータをMSPFにどのように組み込むのか。それともMSPFとは別枠で販売店サービス体制に関するシステムを構築するのか。

 いずれにしても、トヨタにおける製販分離に対する根本的な“カイゼン”を期待したい。

筆者:桃田 健史

JBpress

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