手を皿のようにして口に運ぶ「手皿」は絶対NG…知らないと「行儀が悪い」と思われてしまう食事マナー
2024年10月2日(水)17時15分 プレジデント社
※本稿は、千 宗屋『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』(小学館)の一部を再編集したものです。
写真=iStock.com/Mykola Sosiukin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mykola Sosiukin
■子どもは親のマナーを見て育つ
食事の場でのマナーや作法は、学んで身につくというよりも、基本は乳幼児期からの家庭での食卓で覚えるものではないでしょうか。物心つく前から食事を共にしている親や家族の仕草や動作を見て、子どもは疑いなく真似をするもの。
もちろん、外食時や学校での昼食時に、他人の食べ方を見て学ぶことも多いでしょうし、自ら気がついてクセや食べ方を修正してきたという人もいるでしょう。何歳からでもマナーを身につけることはできるので、そうして気がついた美しい食事の姿を、ぜひ次世代へと受け継いでいっていただきたいと思うのです。
食事は、自然に感謝しながらその恩恵をいただくことです。だからこそ、食事の時にはテレビを消し、料理に集中し、会話を楽しみたいものです。
子育て中や幼少期の家族がいる家庭などでは、子どもたちのお手本として恥ずかしくない姿を意識して、共に食卓を囲みたいと思います。
■食べ終わったあとの食器はどうすればいいのか
日本は夏冬の気温変化が大きく、四季それぞれの美しさを楽しめる国です。とりわけ和食は、季節の魅力を食という形に凝縮したもの。旬の味わいや盛りつけ、器の趣向を十分に楽しみたいものです。
器を手に持って食事をするのも和食ならではの特色。重さ軽さや口に当たる感触をも楽しみ、食べ終わったあとでじっくりと鑑賞することも醍醐味のひとつです。紙ナプキンや懐紙などで水気を押さえ、裏返して見てもかまいません。
「目のご馳走」という言葉の通り、目で味わい、舌で味わう。どちらも含めてご馳走をいただくということだと思います。
豪華な蒔絵などのお椀が出てきたら、細工や模様を楽しんでから、ゆっくり蓋を取り、裏返しにして脇に置きます。食べ終えたあとは、蓋をもとどおりに戻します。
飲食店ではなく、個人宅で食事をいただいた場合は、食べ終えたあとに食器を片づけやすいよう、まとめておきたいものです。その時、基本的に食器は重ねません。器どうしが当たって傷つける可能性もあり、器によっては底の土見せから色が入ってしまうこともあるので、丁寧に、を心がけます。
貴重な器を出していただいた場合など、鑑賞する時には高い位置まで持ち上げたりせず、持ち主が安心して見ていられるよう気をつけたいものです。ちなみに茶席では、大事な器を傷つけないよう、指輪や時計などのアクセサリー類はあらかじめはずして鑑賞します。
■マナーのいい人がバッグにしのばせているもの
懐紙はふたつ折りにした小ぶりの和紙のこと。かつての日本人は、いつも懐に懐紙を入れ、メモにしたり、汚れを拭いたり、食事の際の小皿代わりにしたり、菓子の持ち帰りに使ったりと、あらゆる場面で利用してきました。ちょっとした現金を包んで渡したりするのにも役立つなど、現代においてもとても便利なものなので、懐紙をバッグに入れておくのはいかがでしょう。
いざという時にさっと取り出す姿は、気が利いていて周囲の人たちの目に美しく映ることでしょう。
■和食と洋食で違う作法
食事のいただき方に「絶対これ」というものはありませんが、長年培ってきたマナーやルールには、人を不快にさせないための理由があります。食卓をみなで楽しく囲むためのふるまい方を見ていきましょう。
外食先での心得
・香水などの強い匂いは食事の妨げになるので、付けていかない。
・口から料理を迎えにいかず、正しい姿勢を保つ。
・食事中に肘をついたり、髪や肌に触ったりしない。
・できれば中座は避ける。
・料理が出されたら、温かいうちにすぐに食べ始める。
・箸やナイフフォークを人に向けない。
・和食の場合は、皿以外の器は手で持って食べる。
・洋食の場合は、皿を勝手に動かさない
もてなし側の心得
・お客様に盛り付けや器を楽しんでいただくため、正面が見えるように出す。
・酒杯は空いていないか、ご飯が足りているか、さりげなく気配りを。
出典=『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』
出典=『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』
■「お客様は神様」ではない
レストランや料亭の予約の無断キャンセル、大口の宴会予約の当日キャンセルで飲食店が困っているという報道をよく耳にします。食材の仕入れや当日の人員配置など、万端の準備をしている飲食店にとっては死活問題です。
このように、少し考えればわかることを無視し、自分たちの都合だけを押し通してわがままにふるまうことは、厳に慎みたいものです。
また、お店では急に横柄な態度になる人や、自分たちだけで盛り上がり、周囲の迷惑を顧みない騒ぎ方をするグループも見かけることがあります。これらはみな、相手に対する敬意が欠けている行為です。
お店のオーナーや店員、たまたま隣り合わせた客どうし、互いに敬意を持って接する気持ちがあれば、このような恥ずかしい行為はできないはずです。お客様は神様ではありません。常に人としての尊厳を忘れず、自分がされたらいやなことはしないという気持ちでふるまいたいものです。
写真=iStock.com/a-wrangler
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/a-wrangler
■大切なのはマナーを厳守することではない
現代は、孤食という言葉もあるように、他人と一緒に食事をしない人も増えているようです。コロナ禍では、学校でも会社でも人と一緒に食卓を囲む機会が極端に減っていたことも、大きく影響しているのかもしれません。また、あまり親しくない人とも同席する可能性のある会食などは、服装やマナーが厳しそうだと敬遠する若い人も増えているのかもしれません。
ただ、それではもったいないと思うのです。何度も言いますが、大切なのは、マナー通りに食事をすませることや恥をかかずに自分をよく見せることではなく、同席した人たちがみな和気あいあいとおいしく食事ができること。食事の時間は他の時間と比べて濃密で良質なコミュニケーションをはかることができます。
これこそが思いやりのマナーの原則であることを心に留め、会食に招いたほうも招かれたほうも、互いをもてなす気持ちで臨めば、充実した時間が過ごせるものと確信しています。
■料理の取り分けはNGマナー
和洋中と世界の料理が楽しめる日本。各国の料理にはその土地ならではの独特の作法もありますが、共通してNGというマナーもあります。
意外に知られていないのが、大皿に盛りつけた料理を各自の小皿に「取り分ける」という行為。取り分けてくれる人を「気が利く」人だとする風潮すらありますが、テーブルマナーとしてはNGなのです。
もともと料理を取り分けるという行為は、お店の人がやるべきこと。レストランや料亭などでは客どうしでやるべきではないし、求めてもいけません。とはいえ、ごくカジュアルな居酒屋やビアホールなどでは、テーブルの上を片づける意味でもさっさと取り分けたほうがよい場合もあるので、そこは臨機応変に。
数人分をまとめて盛りつけた大皿料理が供された場合、正しいマナーは「取り回し」です。「お先に失礼します」と一声かけてから、自分の小皿に適当な量を取り分け、大皿を次の人に回します。
■手皿は無作法
テレビなどの食事をする場面でよく見かけるのが、手を皿のようにして口に運ぶ光景です。「手皿」と呼ばれて、上品な仕草のように勘違いされているようですが、これはバッドマナーです。
千 宗屋『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』(小学館)
箸やスプーンを持たない手は、食事中は食卓に軽く乗せ、器をあつかう際に添えるなどするのが美しいふるまいです。膝の上に乗せておくのは無作法とされます。
和食では器を手に持って食しますが、左側に置いてある器を右手で取るなど無理無駄のある動きも避けたいものです。
また、日本酒やビールの場合は盃やグラスを手に持って注いでもらいますが、ワインを注いでもらう時には、グラスには手を添えずテーブルの上に置いたまま待ちます。間違えやすいマナーのひとつです。
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千 宗屋(せん・そうおく)
茶人、慶応義塾大学特任教授
千利休に始まる三千家のひとつ、武者小路千家家元後嗣。1975年、京都市生まれ。慶應義塾大学大学院前期博士課程修了。2003年、武者小路千家15代次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名し、同年大徳寺にて得度、「隨縁斎」の斎号を受ける。2008年、文化庁文化交流使として1年間ニューヨークに滞在。2013年、京都府文化賞奨励賞受賞、2014年から京都国際観光大使。2015年、京都市芸術新人賞受賞。今秋、人間関係をよくする日本人のふるまい方を説く書籍『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』(小学館)を上梓。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。一児の父。
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(茶人、慶応義塾大学特任教授 千 宗屋)