親方あって力士なしの角界 一門強化でも組織改革は程遠い

10月7日(日)7時0分 NEWSポストセブン

力士ファーストどころか力士不在の相撲界

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 マスコミを賑わせた元貴乃花親方の退職・引退劇。ここへきて新たに、貴ノ岩関が元横綱日馬富士関に対して高額の慰謝料を求めて提訴するなど、混乱は当分収まりそうにない。果たして日本相撲協会のガバナンス(組織統治)はまともに機能するのか──。組織論を専攻する同志社大学政策学部教授の太田肇氏が角界の問題点をあぶり出す。


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 元貴乃花親方をめぐる一連の退職騒動、そして昨年10月に起きた力士同士の暴行事件が尾を引き、貴ノ岩が日馬富士を訴えるという異例の事態に発展している現状を見る限り、日本相撲協会の「ガバナンス不在」が改めて浮き彫りになっている。


 協会としては元貴乃花親方の退職の一因になったとされる「一門」の所属義務を強化することで改革を行ったつもりかもしれないが、納得がいかないという人も多いだろう。


 もともと角界の一門制度とは、複数の部屋からなる一種の派閥であり、明治時代以前から存在したといわれる。各部屋にとって一門に所属するのはこれまで任意だったが、改革によって所属が義務づけられるようになった。


 一門強化の表向きの趣旨は、昨年、元横綱日馬富士の暴行事件をめぐって指摘された協会の「ガバナンス欠如」という批判に応えることだった。今回の改革によって、これまでは派閥に過ぎなかった一門は、協会トップと部屋の中間に位置する中間組織として位置づけられたわけであり、相撲協会も形式的には企業や役所のような階層型の組織になる。


 しかし、企業や役所の部・課は営業部、企画部、人事課、広報課というように役割ごとに設けられるが、一門に属するのは同列の各部屋であり、それぞれの一門が役割を分担するようにはなっていない。つまり一門の役割を強化する必要性がはっきりしないのである。


◆「力士ファースト」どころか力士不在の改革


 そもそも相撲協会のガバナンス欠如が指摘されるようになったきっかけは、力士に対する暴行事件である。一連の騒動で元貴乃花親方がこだわってきたのも暴力を容認したり隠ぺいしたりする協会の体質改善であり、弟子が安心して相撲に打ち込める環境を確保することがねらいだったはずだ。貴乃花親方が相撲協会に対する告発を取り下げたのも、委員から平の年寄へ降格されたのも自分の弟子による暴行が理由である。


 こうした背景を踏まえて組織を改革するなら、力士の安全や人権、そして相撲に専念できる環境づくりを第一に考えて行われなければならない。ところが一門の役割強化という組織の改革は、部屋や親方ばかりに焦点が当てられており、肝心な力士の存在が見えない。「親方あって力士なし」の印象を受ける。


 注意しておくべきなのは、部屋や親方の権利と力士の権利とは必ずしも一致しないということだ。一致しないばかりか、しばしば対立するといってよい。それはアメフト、レスリング、ボクシングなどスポーツ界で続発する暴力やパワハラをみればよくわかるだろう。指導者のワンマンや独善がそれを招いたことは疑いがない。


 だからこそアマチュア・スポーツ界では「アスリート・ファースト」の標語のもとに、指導者の暴走を防ぐ改革に乗り出しているのだ。それに対し大相撲の世界では、「力士ファースト」どころか力士抜きに改革が進められているのが現状である。


 改革によって一門の役割や存在感が大きくなれば、それだけ各部屋の姿は後景に退き、部屋で何が行われているかはかえって見えにくくなる。力士と協会執行部との距離も遠くなる。


 会社でいうなら、平社員にとって社長や役員がますます遠い存在になるようなものだ。企業では内部の風通しをよくするため組織のフラット化、スリム化が進められようとしているが、協会の組織改革はそれにも逆行しているかに見える。しかも、各部屋はすでに存在する一門のどこかへ自分から入れというのでは、ガバナンス強化に名を借りた「貴乃花外し」ではないかと批判されてもやむをえないだろう。



◆閉鎖的な部屋制度にメスを


 いうまでもなくガバナンスの強化は必要だし、そのためには組織を改革しなければならない。問題はその中身である。では、今回浮き彫りになった相撲協会の体質を変えるために、どのような改革が行われるべきなのか。


 改革策を講じる前提として、これまで明るみに出た暴力や不祥事の多くが「部屋」という密室の中で行われたか、あるいは密室での力関係と深く関わっていることを理解しておく必要がある。その点では問題になったアマチュア・スポーツの世界と同じ前提に立っているといえる。


 したがって、何らかの形で部屋という制度にメスを入れなければならない。その一つが閉鎖的な制度の改革であり、右も左もわからない少年がいったん部屋に入ったら、たとえどんな事情があっても原則として他の部屋に移れない現状の見直しである。以前にもこのサイトで提案したように、若手力士を対象にプロ野球のようなFA制度を取り入れてはどうだろうか。


 なお、今回の貴乃花部屋消滅に際しては、所属力士が千賀ノ浦部屋へ移籍したが、貴乃花親方を慕って入門した力士を親方主導で他の部屋に移すのはいかがなものか。師弟関係を大切にしなければならないというなら、入門するときと同じように受け入れを希望する部屋と本人の希望を聞いてマッチングさせるような方法をとってもよかったのではないか。


 また密室の中で暴力や人権侵害が発生するのを防ぐためには、内部告発制度を設けるべきかもしれない。FA制度にしても内部告発制度にしても、実際にどれだけ利用されるかどうかは別にして、制度があるだけで一定の抑止力にはなるはずだ。さらに、部屋の権限と責任を明確にし、部屋の運営を透明化することも必要である。



◆避けられない人権侵害への対策


 もう一つの課題は、差別問題への対策である。モンゴル出身力士など外国人力士が増えているが、差別防止の対策は必ずしも万全とはいえない。本場所の館内にはあからさまな人種差別のヤジが放たれるし、大相撲中継をするNHKのアナウンサーや解説者さえ平気で「ぜひ日本人の横綱を」などと口にする。


 サッカーなどではサポーターやファンの差別的行為に厳しく対処する姿勢をとっているが、それと比べていくら国技とはいえあまりに鈍感すぎるように思える。大相撲界が差別を野放しにしているとレッテルを貼られたり、大きな国際問題に発展したりする前に対策の手を打っておくべきだろう。


◆親方を民主的統制のもとに置く体制づくりを


 そして、特定の親方の言動によって協会が機能不全に近い状態に陥るのを防ぐためには、部屋や親方を民主的統制下に置くことが必要である。けれども、それを「一門」という派閥をもとにした集団に委ねるのは無理がある。したがって外部の専門家を加えた組織を設置するべきだろう。


 このような改革を進めようとすると、当然ながら親方衆からの反発も予想される。しかし相撲協会が公益財団法人の認定を受けた以上、神事や伝統という名のもとに不透明な組織運営や理不尽な人権侵害が温存されることがあってはならない。大相撲界にとって最大のスターだった貴乃花が最後に突きつけた批判を、抜本的な組織改革へのきっかけとして活かしてほしい。

NEWSポストセブン

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