進む規制緩和と法整備 ビジネスジェットは日本の空を変えるのか?

10月9日(火)0時54分 Forbes JAPAN

日本での販売を2019年に目指し、「HondaJet」の新型「HondaJet Elite」のデモフライトが7月に2日間行われた。本誌編集長がその乗り心地を確かめに、富士山静岡空港へ向かった。

編集長を乗せたタクシーが、正午すぎに空港の駐機場西側にあるビジネスジェット専用ターミナルに到着した。このターミナルは2014年、ビジネスジェット利用者、関係者のためだけに建てられたものだ。

受付を済ませ、一人がけのソファが広々と配置されたラウンジを通り抜けるとその先はすぐに滑走路だ。定期便ターミナルのように、混雑した荷物検査を通ることもなく、ラウンジと滑走路が一本線でつながっているのである。

編集長はホンダエアクラフトカンパニー藤野道格社長と機体へと乗り込んだ。その日は朝から雨が降り続いていたが、一瞬の晴れ間に、HondaJet Eliteが滑走路から飛んだ。

安定飛行に入る前に、藤野社長が「乗り心地はどうですか」と編集長に聞いた。「こんなに揺れずにビジネスジェットで離陸したのは初めて。しかも静か。内装も美しい。全員が足を伸ばすことのできる機内の設計も画期的ですね」
 
編集長が嬉しそうに答えた。高度が安定してシートベルトサインが消えると、機内をぐるりと見回し、今度は乗客スペースの後方にトイレがあることに気付いた編集長がこう言った。
 
「足元まで隠れるドアのあるビジネスジェットには初めて乗りました。中も明るいし、ここに乗客をもう一人増やせるくらいに広い。特に女性は喜ぶでしょう」
 
平均飛行時間が6時間以内のビジネスジェットのトイレは、乗客の気分が悪くなった時に備えた緊急用のもの。照明は暗く、ドアではなくカーテンで仕切るモデルがほとんどだ。

エンジンを搭載する位置によっては、機体の前方にトイレを設計することもあるという。機体の前方にあれば、悪臭が後方にいる乗客のいるスペースにまで流れることもある。

他社がスピードや飛行距離、燃費の良さなど数字で一目にわかるハード面の開発に一番注力する一方、ホンダエアクラフトカンパニーは乗る人の気持ちや感性に訴えかけることを最優先に考えてビジネスジェットを作ったという。今度は編集長から質問が飛び出した。
 
「通常、飛行機は3万フィートくらいの高さを飛んでいますよね。HondaJetEliteは約4万フィートまで上昇すると聞いたのですが、それはなぜですか?」
 
藤野社長が「よくご存知ですね」と言いながら、こう答えた。「それは乗る方が感じる騒音を軽減させるためでもあります。大型旅客機が上昇することができるのはせいぜい3万フィートまで。そこにはまだ気流の流れなどから発生する、音があります。HondaJet Eliteが到達できる空には、小声で会話ができるくらい静かな世界が広がるんです」


HondaJet Elite

また、大型旅客機が飛ぶことのできない空の高さでは交通渋滞が発生しない。空が混雑していると、事故を防ぐために飛行機がそれぞれ離陸時間の調整をするため、フライトが遅延する。多忙なビジネスマンも、大型旅客機では遅延の可能性から逃れることはできない。大切な時間が無駄にされる心配がないのも、HondaJet Eliteで空を旅する際の利点だ。

とことん乗る人の気持ちにこだわる作りに、編集長があることを思い出した。「本田宗一郎の言葉に、僕の好きな『3つの喜び』があります。HONDAに根付く企業理念としての哲学を感じます」

「3つの喜び」とは本田宗一郎が社内報で「我が社の基本理念」として掲げた「買う喜び、売る喜び、創る喜び」のこと。中でも最も重要なのが、「買う喜び」だという。
 
「製品の価値を最もよく知り、最後の審判を与えるものはメーカーでもなければディーラーでもない。日常、製品を使用する購入者その人である。『ああ、この品を買ってよかった』という喜びこそ、製品の価値の上に置かれた栄冠である」と宣言した。
 
本田の哲学が、死後27年を経た今、意外なところで浸透している。ここ1〜2年で他のビジネスジェット製造企業がHondaJetの乗り心地やデザインを見本に、改良を始めたという。業界をリードする格好になり、2017年の小型機部門では、HondaJet の販売数は43機とセスナの主力機「サイテーションM2」を抜いて初めて世界首位となった。
 
しかし、日本ではまだビジネスジェットは「富裕層向けのモビリティ」というイメージが強い。ビジネスジェット全体としては、アメリカでは2万機が民間機として活用されているが、国内においては30機と市場規模は比較にならないくらいに小さい。しかし、この数字が表すのはオーナー1人につき一台の専用ジェットを所有しているということではない。

アメリカでは、ジェット機を共同所有することも一般的だ。ここに藤野社長がターゲットを資産20〜30億円の富裕層に限定しない理由がある。

「国内を頻繁に移動する役員クラスの方々が共同で所有するという需要があります。例えば北海道は、ビジネスクラスのあるジェット機が離発着する空港は札幌空港に限られている。そこにビジネスジェットのシェア機という選択肢が増えたら喜ぶエグゼクティブは必ずいます」
 
北海道に限らず、現在、国内には84ものHondaJetが離発着できる飛行場がある。それらの飛行場が今後大いに活用されるチャンスこそ、2020年のオリンピック、パラリンピックだ。今後のビジネスジェットの活用を狙い、国土交通省は2014年から羽田空港や成田空港を中心に、徐々に規制緩和を進めている。

羽田空港では、大型ビジネスジェットが駐機できるスポットが3スポットから9スポットへと増設された。また、これまで1日に8回と限られていた発着回数も16回までと制限を緩和した。2016年、関西空港には専用レーンが、中部国際空港には専用ターミナルが設置されるなど、ビジネスジェットが活用される環境は整い始めている。最後に編集長が、こんなことを聞いた。

「藤野社長は、初めてHondaJetが空を飛んだとき、ものすごく感激されたのではないでしょうか」それに対し、藤野社長は「そうでもないですよ」と即答。
 
初めてのフライトが成功した時、それはあくまで実験飛行であり、実用化の予定はなく、将来的にお客さんに乗ってもらえることは約束されていなかったという。だから、そこに喜びはなかった。

「それがいま、HondaJetはお客さんを乗せて世界の空を飛んでいます。開発から30年かかりましたが、国内での販売も目前に控えている今の方が嬉しいです」
 
富士山静岡空港を後にするとき、編集長はこう言うのだった。

「久しぶりに応援したくなる日本のものづくり企業に出会えた。産業の底上げを期待できるビジネスが動き始めたね」

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