北朝鮮「SLBM」の脅威、日本に必要な対抗策とは?

10月10日(木)6時0分 JBpress

航空自衛隊のパトリオット(PAC3)(2017年8月29日撮影、写真:ロイター/アフロ)

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(北村 淳:軍事社会学者)

 2019年10月2日、北朝鮮が潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の試射に成功した。北朝鮮当局が「北極星3号」と称するこのSLBMは、元山からおよそ17キロメートル離れた沖合の海中から発射され、高度910キロメートルに達し、水平距離で450キロメートル離れた日本の排他的経済水域内の日本海上に着弾した。


SLBM技術を手にした北朝鮮

 今回の試射のデータを分析したアメリカの北朝鮮軍事専門シンクタンクなどによると、北極星3号は、通常の攻撃射角で打ち出された場合には最高射程距離1900〜2000キロメートルを飛翔するものとみなされている。

 北朝鮮当局が公表した写真によると、今回のテストでは、北極星3号は水中から発射されたものの、潜水艦からではなく、船に曳航された艀(はしけ)に設置された水中発射管から打ち出された模様である。

 北朝鮮に限らず、SLBM開発最終段階においていきなり潜水艦から発射することはあり得ない。万が一にも発射に失敗した場合、潜水艦将兵だけでなく潜水艦そのものを失いかねないからである。したがって、北朝鮮が艀に装着した水中発射管から試射を実施したことは通常の手順と考えるべきである。

 いずれにしても、今回の試射成功によって、北朝鮮が最大射程距離2000キロメートル程度のSLBM技術を手にしたことが確実になった。

 すなわち、北朝鮮は以前より配備している日本全域を射程圏に収める地上発射型弾道ミサイルに加えて、やはり日本全土を射程圏に収める潜水艦発射型弾道ミサイルを近い将来に配備することになるのだ。


SLBM潜水艦戦隊は未完成

 ただし、SLBMそのものがほぼ完成に近づいているとは言っても、そのSLBMの発射プラットフォームとなる潜水艦がいまだに建造中と考えられている。この潜水艦は新浦級潜水艦と呼ばれており、すでに1隻は建造されており、SLBM発射に向けての最終調整に入っていると言われている。

 しかし、弾道ミサイルを発射する潜水艦が1隻では、実際に作戦を実施することは不可能である。少なくとも3隻以上の新浦級潜水艦が誕生しなければ、北朝鮮によるSLBM戦力が実戦配備されたとみなすことはできない。

 米海軍情報筋などによると、北朝鮮は新浦級潜水艦を6隻建造している可能性がある。北朝鮮が今回試射に成功したSLBMを新浦級潜水艦から発射するのに成功し、その新浦級潜水艦が3〜6隻誕生した場合、北朝鮮はいよいよ日本全土を攻撃可能な地上発射型弾道ミサイルと潜水艦発射型弾道ミサイルを手にすることになるのだ。

 北朝鮮が保持している弾道ミサイルに関連する技術力には、かねてより侮れないものがあった。ただし、潜水艦建造技術の現状に関しては、それほど高いものではないと考えられている。したがって、SLBM発射用の新浦級潜水艦が複数隻就役するまでには、数年間の時間が必要であると考えて差し支えないであろう。


自衛隊のミサイル防衛システムの限界

 その数年間は、日本にとっては極めて貴重な“猶予期間”と考えなければならない。なぜならば、北朝鮮が新浦級潜水艦戦隊を手にしたならば、日本国防当局は日本海での対潜水艦厳戒態勢を常時保持しなければならなくなるからだ。

 これまでは、ウラジオストックを本拠地にしているロシア太平洋艦隊だけが、日本海に常駐する軍事的脅威であった。ただし、ロシア太平洋艦隊に所属する主要な戦闘用軍艦(ミサイル巡洋艦ヴァリャークを旗艦として、通常動力潜水艦4隻、駆逐艦8隻、コルベット17隻など)は、対艦攻撃力と防空能力は比較的強力であるものの、対地攻撃力は付与されていない。そのため日本としては、日本海からのロシア軍艦による対日攻撃を気にする必要はなかった。

 日本国防当局は、対地攻撃力を有する中国海軍艦艇(駆逐艦と潜水艦の一部)が日本海に進入した場合に、それらの艦艇を追尾・監視すれば良かったのだ(日本は領海法によって「特定海域」という名の下に対馬海峡、津軽海峡、宗谷海峡を実質的に国際海峡として公海化してしまっている。そのため、いかなる国の軍艦といえども、それらの海峡を通航して日本海に自由に出入りできる状態である)。

 ところが北朝鮮が、SLBMを搭載した新浦級潜水艦数隻を日本海に送り出すと、海上自衛隊は多くの戦力を日本海に投入しなければならなくなる。なぜならば、海上自衛隊は北朝鮮潜水艦をできるだけ北朝鮮沿岸に近い海域で発見し、追尾を開始しなければならないからである。

 新浦級潜水艦が北朝鮮沿岸海域からSLBMを発射した場合、もし海自側が新浦級潜水艦を監視していて発射の瞬間を探知できたならば、海自のイージスBMD駆逐艦や陸自のイージス・アショア、それに場合によっては空自のPAC-3などを総動員して、北朝鮮弾道ミサイルを撃破できる可能性が生ずる(もちろん、それらの弾道ミサイル防衛システムが警戒態勢を固めている必要があるのだが)。

 しかしながら、新浦級潜水艦が海自の警戒網に捕捉されずに日本海を日本列島よりに接近してSLBMを発射した場合には、自衛隊の各種弾道ミサイル防衛システムが効力を発揮するチャンスを期待することはできない

 したがって日本国防当局は、監視衛星や潜水艦や各種対潜哨戒航空機、それに人的情報網などを総動員して新浦級潜水艦の動向を常に把握し、出動した新浦級潜水艦には海自潜水艦をピッタリと貼り付けるような態勢を確立しなければならない。


日本独自の海軍力強化が必要

 このような警戒監視態勢の構築と維持には、同盟国アメリカの関与は期待できない。

 なぜならば、たとえ北朝鮮が北極星3号と新浦級潜水艦を完成させてSLBM潜水艦戦隊の運用を開始したとしても、即座にアメリカの脅威となるわけではないからだ。

 北朝鮮の潜水艦が対馬海峡や津軽海峡、それに南西諸島島嶼線などを突破して太平洋に進出し、ハワイまで2000キロメートル、あるいは米西海岸まで2000キロメートルの海域からSLBMを発射する能力を身につけ、アメリカに対する相互確証破壊能力を手にするには極めて長い年月を要する。その時期が近づくまで、アメリカが動くことはない。

 したがって日本は、北朝鮮が北極星3号を搭載した新浦級潜水艦戦隊を手にするまでの間に、潜水艦戦力ならびに対潜戦力を中心として海上自衛隊戦力をできる限り増強しなければ、中国軍事力に対してだけではなく北朝鮮軍事力に対しても“手も足も出ない”状況に陥ってしまうであろう。

筆者:北村 淳

JBpress

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