人事院総裁・川本裕子氏に聞く、国家公務員「女性活躍」の現在地

2023年10月3日(火)6時0分 JBpress

 民間出身の川本裕子氏が人事院で2人目の女性総裁に就任し、2年がたった。着任後から働き方改革を提言・着手してきたが、そこには霞が関で働く国家公務員の担い手の減少も背景にある。また国家公務員における女性職員の採用比率は令和5年度で38.7%に及び過去最高を記録しているが、管理職の登用については十分に進んでいないという現状もある。人事行政に関する公正の確保や国家公務員の利益の保護を目的に設けられている人事院だが、どのような取り組みがなされているのだろう。女性活躍を支える環境づくりの現状などについて川本氏に話を聞いた。

シリーズ「女性リーダーが描く新時代」ラインアップ
■こんな時代だからこそ躊躇なく、女性登用成功の鍵は「無理やりでもやる」こと
■森トラスト・伊達社長が語る、女性役員比率が高まらない「根本的な理由」
■マネックス松本氏が断言、日本企業に女性リーダーを増やす単純明快な方法とは
■「わきまえない」が最強の武器?SWCC長谷川社長が明かす女性活躍企業のヒミツ
■人事院総裁・川本裕子氏に聞く、国家公務員「女性活躍」の現在地(本稿)
■同志社大・植木学長「女性もアンコンシャス・バイアスから解放されるべき」

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男女役割意識が強い日本社会

——本日は女性活躍をテーマにお話をうかがいますが、川本総裁はご自身のキャリアをどうお考えになってこられましたか。

川本裕子氏(以下敬称略) 男性であろうと女性であろうと実績で評価される企業で働いていた当時は、仕事をする上での男女の差をあまり意識することなく、仕事にまい進してきました。その後、政府の委員会の委員としてお声がけをいただくようになりましたが、どの委員会でも「女性委員」と呼ばれ、そこで改めて私は“女性”の委員なのだと実感しました。

 人事院に来る前は、アカデミアの世界にいましたが、専門分野によっては女性が少なく、ともすれば門戸自体が開かれていないのではないかと感じることもあり、どうすれば女性が活躍できる社会になるのだろうと考えるようになりました。


——女性活躍の必要性をどう感じていらっしゃいますか。

川本 日本社会においては、意思決定メカニズムの中に入っている女性が圧倒的に少ないと感じています。日本国民の半数は女性なので、意思決定メカニズムとしてもその割合に近い状態が健全だと考えます。国民の半分を占める女性の能力が十分に活用されないことは、日本社会全体にとって大きな損失だと思っています。

 非常に高い教育を受けて、知的に優れた人たちが家庭以外のところで価値を発揮する機会が限られてきた時代が長く続きすぎました。現在も本来のあるべき姿からは程遠いです。男性は仕事、女性は家庭という極めて強い男女役割意識の中で女性の働き方が規定されてきたからでしょう。


女性に家庭責任を負わせない。そのためには男性の家事進出を可能に

——国家公務員の現状はいかがですか。

川本 国家公務員の女性比率は、採用段階では4割近いところまできています。しかし振り返ると、総合職試験(かつてのⅠ種試験)の採用者において女性比率が2割を超えたのは2005年で、3割を超えたのは2015年です。女性比率が上昇しているのは最近のことであり、管理職や幹部の状況を見ると女性職員の母数がそもそも少ない状況です。例えば、2022年7月時点での本省係長相当職の女性比率は28.3%、本省の局長などの幹部級になると5.0%です。

——このような現状を改善するためには何が必要でしょう。

川本 まず、長時間労働を前提としない職場環境にしていくことが重要です。ライフスタイルや価値観の変容もあり、女性だけが家庭責任を負う社会ではなく、当然男性も含めて、家事、育児、介護などの事情も踏まえて働くことができる環境を整備していくことです。

 また、適正な人事評価が行われることが必要です。これまで日本の多くの組織では、女性は実績で評価されて、男性は将来性や可能性で評価されるといわれてきました。平等・適正に評価を行い、性別を問わず同じベースで投資することが大事です。


男女共に子育てしやすい環境づくり

——人事院の施策は、国家公務員全体の働き方に影響を与えるものですが、どのような取り組みを行っているのか詳しく教えてください。

川本 まずは長時間労働の是正に向けた取り組みを強力に推進していることです。2022年4月に新たな部署として、勤務時間調査・指導室を設けました。この部署は、各省に直接うかがって職員の超過勤務の時間をきちんと管理しているのか、調査や指導を行っています。

 長時間労働の問題でいえば、よく国会対応業務に関するものが取り上げられています。昨年度、各府省に対して国会対応業務に関するアンケートを実施して、その結果を取りまとめて国会など関係する機関に御説明し、国会対応業務の改善に向けて御理解・御協力をお願いしました。

——柔軟な働き方やワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取組はいかがでしょうか。

川本 柔軟な働き方でいえば、フレックスタイム制の見直しです。必ず勤務しなければいけない時間として「コアタイム」というものがありますが、このコアタイムを短くし、これまでよりも弾力的な働き方が可能となるようにしました。また、フレックスタイム制を活用して、土日に加えてもう1日、平日に仕事をしない日を設定できるよう制度改正するべく方針を打ち出しました。これは、勤務時間の総量は変わらないものの、1日当たりの勤務時間を調整して、調整次第で勤務を割り振らない日をつくることができるというものです。

 男性の育休取得も促進しています。育休制度については、2022年10月からは、子どもが3歳になるまで、原則1回としていた取得の制限を2回にしました。また、生後8週間以内に取得できる育休が1回だったのを2回にしました。1回しか育休が取れないと、どうしても長い期間休まなければいけなくなりますが、2回に分けると比較的フレキシブルに取得しやすくなります。なお、令和3年度の国家公務員の育休取得は、女性がほぼ全員、男性は6割強で、民間と比較すると高い取得率です。

 他にも、継続的な働きを支援する制度を整備しており、例えば、外国で勤務することになった配偶者と生活を共にするために休業できる「配偶者同行休業制度」(2014年から)や、不妊治療のための有給の休暇である「出生サポート休暇」(2022年から)などもあります。

 このような制度を整備しているほか、女性登用拡大のために女性職員を対象にした研修や、管理職の育成など各自のキャリアについて考える研修も充実させています。今の時代、男女問わず職員の成長やキャリア形成の支援は必須ですし、職員個人個人に着目したマネジメントに転換していけるよう各省庁に訴えています。

——ここまで制度が充実しているとは知りませんでした。

川本 これまで人事院の広報が足りなかったところがあり、一般の方が知る機会が少なかったのだと思います。近年は広報にも力を入れ、採用試験の女性の申込者の割合も増えてきています。

 採用試験については様々な改革も進めており、令和6年度から、総合職試験に人文系の試験区分を増やすことにしました。これまで、総合職の試験では、法律や経済といった試験区分があり、これらの区分から各省庁での採用も多い状況でしたが、大学で人文系を学んでいた学生にとっては大学で勉強していない学問分野を勉強して受験しなければならずハードルが高かったのではないかと思っています。こういった人文系の学問を学んだ方にも受験しやすいような試験区分として創設したものですが、人文系で学ぶ学生の中には女性も多いと思いますので、今まで、自分が人文系だから、と試験を避けていた方々からの応募を期待しています。


自分の能力や可能性を信じて、前進してほしい

——リーダーを目指す女性、目指したいけれど迷っている女性にメッセージをお願いします。

川本 「大丈夫」という言葉を伝えたいです。結果がどうであれ、勇気をもって一歩先に出ることが大事だと私は思っています。人生には自分がどんなに努力しても、どうにもできない時もありますが、自分の能力や可能性を信じて、一歩踏み出してほしいです。仕事上のポジションがあがると、見える風景が違ってきます。その違いをぜひ経験してほしいですね。

 多くの女性がリーダーになって活躍できるようになるには、社会全体のメンタリティーが変わる必要があります。

——女性を登用する側に立つ人に向けてもメッセージをお願いします。

川本 男性・女性という性別を意識しすぎず、その人の専門性、能力、可能性などを見てほしいと思います。

 ご自身の経験と今の若い人たちの経験、そして価値観は全く違うものです。自分たちのこれまでの経験を客観的にとらえ、それがすべてではないという認識をもっていただきたいです。そして社会を良いほうに変えるんだという気概をもっていただきたいです。

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筆者:吉川 ゆこ

JBpress

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