千葉の停電が教える無電柱化の必要性

10月11日(金)6時0分 JBpress

停電に備えろうそくは必需品だが、通信確保のため非常用電源も不可欠になっている

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 9月8日、関東に来襲した台風15号は約93万戸に深刻な停電(と断水)をもたらし、うち3分の2の約64万戸超が千葉県で起きた。しかも、1週間どころか10日過ぎても6万軒近くが停電のままであった。

 半月以上も過ぎた25日、東京電力は「概ね復旧した」と発表したが、「停電が解消した」とされる地区で電気が点かない「隠れ停電」が100戸以上もあった。

 千葉県に長期停電をもたらした大きな要因は電柱(約2000本)の倒壊であった。

 昨年も同様に度重なる台風による送電線網の被災で停電が全国延べ1000万戸超に達したとされ、これは東日本大震災時の900万戸を大きく超える規模であった。

 そこで思い出されるのが架空電線の地中埋設による無電柱化問題である。


無電柱化への動きと状況

 第1次安倍内閣の首班辞任後、安倍晋三氏を代表発起人として、2009年に自公両党の議員117人が「美しい国:電柱の林を並木道に! 議員連盟」を発足させる。

 1995年の阪神・淡路大震災では電柱の倒壊が救助や復旧の妨げになったが、議員連盟の発足時点では名称からも分かるように「景観」に重点があったようだ。

 その後民主党の政権となり、議員連盟の活動は一時停止するが2012年の政権復帰で再開し、小池百合子議員が広報本部長に就く。

 そして2016年12月に念願の「無電柱化の推進に関する法律」が成立。東日本大震災を経験し、景観に「防災」が加わる。

 その半年前に小池氏は東京都知事になり、「見たこともない東京」の実現を知事選の公約に掲げるが、その一つに「都道の電柱ゼロ化」があった。

 知事は学生時代にパリを縦横に走る道路上に電柱がないのを見ている。従って、無電柱の発想は早くからあったようであるが、広報本部長のとき「ネクタイを引っこ抜いた。次は電柱だ」と息巻いたころから政策として動かし始めたのではないだろうか。

 2015年には技術面などで支えてきた松原隆一郎・東京大学大学院総合文化研究科教授と共著で『無電柱革命—街の景観が一新し、安全性が高まる』を上梓し、1年後には都知事の立場で松原教授と対談(『WiLL』2016年10月号)しレビューしている。

 日本には現在3600万本の電柱があり、美しい景観に影響を及ぼしているだけでなく、災害時の救助の妨げになり、今回千葉県で起きたように長期停電の原因にもなっている。

 無電柱化は国と地方自治体、電力会社、そして住民の協力なくしては進まない。電柱が走る区間は240万キロとされ、単純計算では70メートルおきに1本あることになる。

 2017年度までに無電柱化したのは9900キロで1%(正確には0.4%)にも至っていない。

 国交省は20年度までにさらに2400キロの無電柱化に着手する目標を掲げているが、予算問題や地域住民の協力の有無などもあり、遅々として進まない状況にあるようだ。

 日本で最も進んでいる東京都で約5%、東京23区では約8%であり、都道沿いとなれば38%と高いが、市町村道では2%でしかない。

 東京に次いで進んでいるのは兵庫県・岐阜県・大阪府で約3%であり、大阪市が約6%となっている。

 ちなみに海外の主要都市ではロンドン・パリ・香港・シンガポールが100%、台北96%、ニューヨーク88%などとなっているが、考え方や埋設様式などに違いがあり、単純な比較はできない。


電気のない生活

 今日の電柱は木材からコンクリート製に変更されてきた。

 木材電柱は台風や大雨でやられ、関東管内だけでも開戦翌年(1942年)の電柱の倒壊や破損は約700本であったが、敗戦翌年は約3000本となり、翌々年(47年)は約1万本にものぼり、想定電力需要の8割どまりで2割は供給されずじまい、すなわち月に6日以上は停電していた(片山杜秀コラム「夏裘冬扇」、『週刊新潮』2019年10月10日)ことになる。

 その頃、筆者は熊本で小学生になったばかりであったが、一家そろって食事していたり、本を読んでいると、フィラメント付の電球が次第に暗くなり、「停電だ! ロウソク準備!」となったことを思い出すが、さして困ったという記憶はない。

 昨年9月の北海道ブラックアウト(発電所の一斉停電)について道内の友人からは、「3日間の停電で大混乱し、空気・水・電気は何時でもあると思っていたが、大いに反省です。災害は、いつでもどこでもやってくる!」と実感のこもった教訓を聞かされた。

 ブラックアウトは2日後にはほぼ解消したが、その後1週間以上にわたり北電は道民、企業に2割の節電を要請していた。

 一時的に敗戦直後の再現であるが、終戦後の日本と今では電化状況が全く異なり、空気さえもエアコンがなければ冷やせないし、水、電気はいわずもがなである。

 国の中央防災会議の被害想定では「首都が災害に見舞われると、最悪の場合は停電から復旧まで6日間を要する」というが、通信手段も遮断され、ほとんど情報があがってこない状況では計画停電しようにも着手できないかもしれない。

 千葉県では非常用発電機468台が保管されていたが、実際に自治体へ貸し出したのはわずか6台でしかなかった(「産経新聞」10月7日付)。電柱等の倒壊が激しかった山間部などからの情報発信がいかに難しかったかを示している。

 千葉県や北海道(人口約530万人・ピーク時電力需要約420万キロワット)と東京(約1375万人・約5000万キロワット)の電力需要は格段に異なる。

 首都の停電の影響は態様が異なるとはいえ、北海道や千葉の比でないことは確かであろう。


民営化の弊害は?

 戦後10年もすると、「もはや『戦後』ではない」と言われる状況になる。企業などが立ち直ったわけではなく、また、労働力の不足で石炭や薪なども欠乏したが、その代わりをしたのが電熱器の大流行であったという。

 すなわち電気の家庭への普及で、敗戦翌年には日中戦争時の2倍になる。当時の日本の電力会社は準国営の日本発送電の1社に統合されていたが、競争原理が働かず、健全な発展が望めないとして9つの民営電力会社に分割された。

 その後の日本の電力は安定し、停電もほとんど起きない高い信頼性を誇っていたが、ここ数年の大規模災害とともにそうした神話にも陰りが見えてきた。

 そうした矢先の2020年、発送電を分離することになっている。

 これまでは被害が密集した場合、電力各社は発電機車や高所作業車を作業員とともに派遣するなどの広域支援で停電の早期復旧に尽力した。

 しかし、発送電に分離され、一層の競争になれば、広域支援体制が維持できるか否かも問題になる。

 北海道のブラックアウトでは都市中心部は数時間で復旧したが、同じ市内でもはずれでは3日もかかったとされる。

 今次の台風15号による停電戸数は、翌々日に約47万戸と半減したが、その多くは千葉県外の復旧で、千葉県では1週間後に約14万戸、10日後にも約6万戸の停電であり、全域の停電が解消されたはずの2週間超の段階でも、「隠れ停電」が頻発していた。

 末端が見落とされるのは民営化の弊害とは一概に言えない。それでも民営化は基本的には費用対効果を最大限に追求するものであり、場合によっては外資に売り飛ばされる危険性さえあることを忘れてはならない。

 水道施設も老朽化が進んでいる。所有する地方自治体は人口減少もあり経営難に陥っているところが多い。

 そこで、昨年7月には水道事業に民間業者が参入して経営の効率化を図り、問題の打開を図ることができるように水道法が改正された。

 施設の所有権はあくまで自治体にあるので危惧された外資の乗っ取りはないとされるが、過疎地などが疎かにされない仕組みは不可欠であろう。


後藤新平満鉄総裁の英知

 筆者は1999年に旧満州国(現中国北東部)を訪ねた。満鉄(南満州鉄道)が建設した恒久的な建物は、中国共産党が地方本部などに使っていた。

 初代満鉄総裁となった後藤新平は台湾での民政長官としての成功体験をもって満州では五族協和を図り、満鉄沿線の開発を行う。

 大連はロシアの青写真をベースに開発し、三越デパートを幾棟も連ねたような連結館で、暖房完備で屋上庭園をもち「東洋のパリ」とさえ呼ばれた。

 最高時速180キロを誇ったアジア号が走り、牽引した「パシナ号」機関車は瀋陽(旧奉天)に保管されていた。

 そして長春(旧新京、満州国の首都)で見たのが無電柱化であった。日本の技術で無電柱化都市を90年も前に実現していたのだ。

 国策としての満鉄経営であったことは確かであろうが、日本が想像力と先進技術を駆使して超近代都市を実現していたことに驚くばかりであった。

 ユートピアは夢に見る理想郷であろうが、満州では銀座や心斎橋にも勝る黄金郷(エルドラド)が実現し、中国人が毎年100万人流入していたのだった。

 小池知事の「見たこともない東京」は、真夏のオリンピック準備とも重なる。どんなエルドラドを見せてくれるのだろうか。


おわりに:ブラックアウトの蓋然性

 片山氏は「東日本大震災以来、国土強靱化が国策のはずだが、強靱にされているのはオリンピック関係で民間投資の集まる都の新たな高層建築物など、人口も資本集積も過密な場所ばかりで、人の少ない場所は、インフラストラクチャーを含め、なおざりにされている感がある」と言う。

 実際、強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災などに資する国土強靱化基本法(平成25年)も作られた。

 東京にブラックアウトは起きないのか。東日本大震災ではブラックアウトを避けるため、東電は地域ごとに時間帯を設けた計画停電を数日間実施した。

 その教訓が生かされることもなく、昨年は北海道でブラックアウトが生じた。

 専門家は首都圏の電力需要の大部分が東京湾岸の火力発電所でまかなわれているので、震度7の地震で損壊し全滅という最悪シナリオも考えられ、他から融通してもらえたとしても不足し、「一旦はブラックアウトが起こることを完全に否定することはできない」と語っている(「週刊新潮」2018.9.20号)。

 北海道で原発が稼働しておれば、ブラックアウトは避け得たとされる。

 これは大きな教訓であろう。ただし自分の身に降りかからなければ、どこまでも他人事としか受け取らないのが災害対策ではなかろうか。

 正しく「風馬牛(自分と無関係)」である。

 しかし、「○年内」ということは○年先ではなく“今日”や“明日”も含んでいることを忘れてはいけない。

筆者:森 清勇

JBpress

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