AI時代にこそ「ビジョン」が必要な理由|出井伸之

10月13日(金)15時0分 Forbes JAPAN

人生は岐路の連続。最良の選択でチャンスを呼び込むためには、自身と深く対話し、自分の中にある幸せの価値観を知ることが重要である。この連載は、岐路に立つ人々に出井伸之が送る人生のナビゲーション。アルファベット順にキーワードを掲げ、出井流のHow toを伝授する。

今回は、F=Future(未来)について(以下、出井伸之氏談)。

「空にある月は何故落ちてこないのか」木から落ちるりんごを見てニュートンは考えた。

ここから彼は、地球が物体を引きつけているだけではなく、質量を持つ全ての物体同士がそれぞれ相互に引き合うことで、宇宙全体がバランスを保っていることを発見。これをきっかけに、力学と天文学を一つの体系にまとめあげ、著作「プリンキピア」を公表した。

これは1687年の「ニュートン力学」誕生の瞬間であり、これまで築き上げられた力学、物理学、天文学の世界が全部まとめて変革された、自然科学史の大事件であった。ここが古典物理の出発点となり、産業革命を経て人間社会のシステムが一変した。

このように大変化の出発点となるニュートン的発想が、現代にも求められているように感じる。近い将来、AIが人類の知能を超える優れたレベルに進化し、我々人の能力では制御できなくなる時点「シンギュラリティ」が、人間社会のターニングポイントになるだろう。最近、こういった議論が非常に盛んに行われている。

進化する科学と人がつくる世界

シンギュラリティが起きた後の世界はどうなるのか。人間とサイエンスはうまく共存するという楽観論と、進化により人間の役割がAIに取って代わられるという悲観論が飛び交っている。

しかし、これまでの人類の歴史において、思考の選択や直面する環境が一つの極論に向かって突き進むようなことは、長い時間軸で見たときにほぼ存在していない。複数の極論の間を揺れ動いた末に、その中の最も現実的な中間点に最終的に落ち着くことがほとんどだ。極端な楽観論でも、極端な悲観論でもない、リアリズムの先にある「第三の道」に進むことが、これまで繰り返されてきた現実なのである。

前回の「E、Emotion」でも書いたが、人間の感情や自己保存能力はAIと相反するものだと思うが、人間と科学は、双方バランスのとれた社会システムを構築していかなくてはならない。シンギュラリティを迎えたときの基本的な考え方を、事前に熟考して準備する必要がある。

科学技術と調和したまちづくり、サイエンスと企業や社会の関係、資本主義、倫理観など、考えることは山ほどあるが、このシンギュラリティの存在を前提にもっとより深い議論をしていくべきだろう。のんびりと先送りをしているほど時間はないかもしれない。

新しい価値を持つ社会システム

マクロ的にみると、19世紀に起きた産業革命は西洋文明を急激に発展させた。これにより、その変化から目をそらし、内向きに陥った中国とオスマントルコという2つの巨大国家に代わり、イギリスを中心としたヨーロッパが世界経済の覇権を握ることになった。

その100年以上あと、第二次世界大戦後に、日本はコンシューマー商品を中心とした規格大量生産に注力することで急成長し、「Japan as No.1」と呼ばれるなど、一時は世界経済の中心に据えられた。しかしその時代は長く続かず、1990年代にインターネットが登場するとまた世界は一変し、世界経済の覇権は、アメリカが握ることになった。

歴史を振り返ると、国家は繁栄と衰退を繰り返してきた。繁栄した国家は、自国ファーストを指向したときにその衰退がはじまる。。『「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために』(ビル・エモット著)にあるように、いま西洋は、繁栄の終わりのスタート地点にいる。社会システムそのものが、次の段階に移行をしている。これまで、GDPや経済成長率、経常収支は経済の指標とされてきたが、国の繁盛を表す尺度そのものが変わってしまうかもしれない。今までの社会構造や産業で繁栄してきた国家はどのようになっていくだろう。

より複雑に変化していく未来

いま私たちは、これからの社会システムを真剣に考え、そのシステムの中での新しい価値を探し、創造していく必要に直面している。人類が近い将来人間の能力を超えるテクノロジーと共生していくことを前提にした、新たな社会の構造をイメージし、その準備をする局面だ。

未来とは誰にもわからない未知の世界である。あらゆる不確定な要素が複雑に絡み合い、ほんの少し先でさえ明確な姿は誰にも分からない。科学の進歩だけでなく、地球の気候変動や国連のサミットで採択されたSDGsの国際目標なども変化の元になっていく。これらのことは、また別の機会に。

だからこそ、私たち自身でビジョンを描き、自ら未来を創りだしていかないといけない。これからを生きる子どもたちのためにも。だからこそ未来にはワクワクするし、私たちが創ったそんなFutureをこの目で見てみたいと思う。

Forbes JAPAN

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