なぜ女性部下の産後ケアを"上司"がするか

10月13日(金)9時15分 プレジデント社

育休を取得する女性が増えています。企業側も「復職の準備」には力を入れつつありますが、産後6カ月以内の「産後ケア」は手薄なのが現状です。しかし、有能な女性社員を引き留めるためには、上司などの関係者が積極的に「産後ケア」へかかわることが有効です。日本総研の小島明子氏が解説します——。


■なぜ、企業は女性の産後ケアをしなければならないのか


「女性が働きやすい社会」の確立は日本経済において最優先事項です。


厚生労働省の「2016年度雇用均等基本調査」によれば、2016年度に育児休業(以下、育休)を取得した女性の割合は81.8%でした。取得率が年々高くなっていることは歓迎すべきことですが、幼い子供を持つ女性の働き方を考えたとき、問題がなくなったわけではありません。


育休からの復帰前後の女性は、仕事と家事・育児の両立に対する不安などさまざまな悩みを抱えていることが多いのです。



最近では、大企業を中心に、育休を取得した女性にできるだけ早く職場に復帰して活躍してもらうために、早期復帰祝い金の導入やベビーシッター費用の給付などの取り組みを行う例も出てきています。


ある企業では、子供が1年6カ月に達する日までに職場復帰した従業員には、早期復帰祝い金として、50万円を支給する制度を設けています。


ただし、産休前や産後のリハビリ期間(2〜6カ月)に女性社員に支援を行っている企業はまだ少数です。そのような取り組みをきちんと行うことは、女性の継続就業への意識が向上するなど、企業にとっても意義があるはずです。


本稿では、企業に対して、女性の復職支援プログラムなどを提供している「特定非営利活動法人マドレボニータ」事務局次長の太田智子さんに協力をいただき、育休取得中の女性社員に対する産後ケアの必要性について考えたいと思います。


▼なぜ、企業は女性の産後ケアをしなければならないのか

太田さんは、産後には女性に3つの危機が訪れることを指摘します。


「産後は、女性の誰もが体と心に大きなダメージを負うにもかかわらず、十分なケアがされる機会がありません。『子育てが楽しめない』『パートナーとのすれ違い』『社会復帰へ意欲がわかない』といった気持ちを抱える女性が多く、その状態が悪化すると、(1)産後うつ、(2)乳児虐待、(3)産後のカップル不和、という3つの危機が訪れるリスクがあるのです」


マドレボニータが2016年に実施をした調査では、産後2週間から1年程度までの間に、女性は次のような危機的な状況だったと回答しています。


「産後うつの一歩手前だったと思う」(47%)

「診断は受けていないが産後うつだったと思う」(30%)



■なぜ女性は産後、夫の愛情を感じにくくなるのか?


さらに同年に行った別の調査では、「自分の子供に虐待をしてしまうことがあったか」という問いに対して、「していないが、してしまいそうになる不安を覚えることがあった」という回答が約半数であることも明らかになっています。


また、ベネッセ次世代育成研究所の「第1回 妊娠出産子育て基本調査・フォローアップ調査(妊娠期〜2歳児期)」によれば、「夫(妻)への愛情を実感する」という回答結果を経年で比べると、夫婦ともに子供が大きくなるに従って愛情を実感する率が下がっています。



夫については、妻の妊娠期は74.3%が妻に愛情を実感していますが、子供の0歳児期には63.9%まで落ちているのです。一方、妻については、妊娠期は夫と同じ74.3%が夫に愛情を実感していますが、0歳児期には45.5%にまで落ちています。産後、夫に対する評価はガタ落ちなのです。


ポイントは、夫が家事・育児などに対して協力不足だと、妻の夫に対する愛情は低下するということです。


妊娠期も子供が0歳期の時も変わらずに「夫を愛している」と実感している妻は、「愛情が下がった」という妻よりも、「夫が家族と一緒に過ごすように努力をしてくれている」「夫が妻の家事や育児・仕事をねぎらってくれる」と感じていました。


▼半数の企業が復職支援の取り組みをしていない

前述のとおり、産後の女性の多くが心と体にダメージを抱えています。さらに、育休期間中の女性は、うまく職場復帰できるかどうかという不安もあり、その精神的負担はさらに重いものだと考えられます。


育休をする女性が増えるなか、企業としても従業員の育休支援の一環として、産後ケアのあり方を改めて考える時期に来ているのではないでしょうか。


育休を取得する女性に対して、企業はどのような支援をしているのでしょうか。


三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「仕事と家庭の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(2015年度、厚生労働省委託事業)によれば、産休制度や育休制度を利用している女性に対して、「今後の職務や働き方などに関する面談を実施」する企業は46.1%ある一方、「特に行っていない」とする企業も41.8%に達しました。


産後の女性は精神的に不安定になりがちです。それにもかかわらず、多くの企業が大事な戦力である女性社員に「対策なし」の状態なのです。育休を取得した女性に対する企業の支援が手薄であり、そもそも「産後ケア」という取り組みまでには至っていません。



■女性社員の産後ケア 企業の支援は明らかに手薄


太田さんもこう語ります。


「明らかなのは、産休前や産後リハビリ期間(2〜6カ月)は、産後の知識の獲得と準備、産後の心身のリハビリや復職への土台づくりが必要なのですが、その支援が手薄だということです」


太田さんによれば、産後7カ月くらいの「復職準備期」から「復職後」については、多くの支援があります。たとえば育休社員交流会や復職前面談、復職後セミナー、ベビーシッター補助などです。しかし、その手前の期間は、企業からのフォローが足りない状態です。


今後、復職支援の一環として、「産後ケア」に取り組む企業の増加が望まれます。


▼産後ケアがより良い復職に必要な力をもたらす

産後の心身のダメージにより、職場復帰する気力を奪われてしまう女性がいます。そうした状況を真剣にとらえ、企業が従業員の産後ケアに取り組むには、どうすればよいのでしょうか。


マドレボニータは企業向けに復職支援プログラムを提供しています。プログラムには2本の柱があります。


1つ目の柱は「産む前から」のプログラム。産後の体調はどうなるのか、また、よりよい復職に向け産前から育休中にどのような過ごし方をすればいいのかなどについて、講座やワークショップを提供しています。


産前の講座は、当事者である女性だけではなく、パートナーが出産する男性、管理職も参加できるようになっており、必要な準備・ケアの知識などを学べます。プログラムを受講し、6週間育休を取得した男性は「産後の経験はそのすべてが仕事に活きると思っています」と振り返っているそうです。


2つ目の柱は「育休中」のプログラムです。マドレボニータが全国約60カ所で開催している「産後ケア教室(全4回)」に参加し、バランスボールエクササイズやコミュニケーションワークによる心身のリハビリを経て、復職に向けての土台をつくります。



参加の時期は産後2〜6カ月を推奨しており、これは多くの社員にとって育休の前半期にあたります。受講者は次のように語っています。


「ママ友作りの難しさを感じていましたが、講座に参加をしたことで、いつでも気軽に相談できる仲間ができました(女性/産婦)」

「自分の仕事に誇りを持ち、頑張っているワーキングマザーと知り合えたことで、今の会社で働き続けることに前向きになれました(女性/産婦)」



■「復職に向けて前向きな気持ちをもつようになった」


ほかにも受講者からは「復職に向けて前向きな気持ちをもつようになった」「育休中に復職後の自分の価値を高めることをしようという気持ちになった」「家事や育児を一人で抱え込まずに必要に応じて人に委ねられるようになった」といった声が寄せられているそうです。


太田さんは産後ケアの重要性について、「復職後の関係をよくすることにもなる」といいます。


「企業側が、産休前から産後ケアを含む復職支援を行うことによって、育休を取得する女性は、復職に向けたマインドセットと家庭内での家事分担などの整備を進められます。産休前に、直属の上司がセミナーなどに一緒に参加をすることができれば、産後の大変さを自然と想像することができるようになり、復職後も良い関係を築くことができます」


夫だけでなく、男性上司も、部下の女性の出産にコミットしていくことが今後必要になってくるでしょう。むしろ産後ケアに夫や上司を含む関係者がかかわることで、より良い復職につながり、その結果、企業と女性の双方にとってメリットが生まれます。


育休を取得する女性が増えています。企業の上層部や管理職は、育休から復職した女性の活躍を促すため、これからは支援や育成のあり方を積極的に考えていく必要があるはずです。



(日本総合研究所 創発戦略センター ESGアナリスト 小島 明子)

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