ブライダル業界の経営陣は早期引退が望ましい理由

10月15日(月)6時0分 JBpress

逆風が吹くブライダル業界で、ノバレーゼはどのようにして業績を伸ばしているのか?(写真はイメージ)

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 内閣府の調査によれば、日本の婚姻件数は1970〜1974年の100万組超/年をピークに減り続け、2016年には過去最低の約62万組にまで減少。また婚姻率(人口1000人当たりの婚姻件数)も、同時期比で10.0から5.0へと半減している。

 少子化・人口減少による件数減と非婚化が同時に進行している。

 それだけではない。結婚(入籍)はしても、挙式披露宴を行わない「なし婚」率も上昇し続け、厚生労働省の2014年データでは入籍者の約半数が「なし婚」だったことが分かっている。

「人口減少・非婚化・なし婚化」という三重苦の中で、日本のブライダル業界はまさに“弱り目に祟り目”の状態だ。挙式披露宴の単価が漸増傾向にあるのがわずかな慰めだが、長期的頽勢は如何ともなし難い。

 こうした悪条件下で業績を拡大し続けていける企業など果たして存在するのだろうか? そう思っていたら、そんな企業が実在した。ゲストハウスウェディングの大手ノバレーゼ(東京都中央区)である。

 縮小し続ける業界でいかにして業績を伸ばし得るのか、2代目社長・荻野洋基氏(39)にお話を伺った。


ブライダル業界の怪〜女性が続々退職し年輩男性が意思決定

 ノバレーゼは、資本金1億円、従業員数1966人(連結、パート・アルバイト含む)で、平均年齢は32.1歳。国内各地に婚礼施設30、ドレスショップ19、レストラン5(他に海外1)を展開し、売上高は163億5600万円。2018年3月には対前年比1000組増の披露宴受注4000組を突破するなど、業界の躍進企業である。

「業績向上のカギは、女性が働きやすい環境を整えることです」

 荻野氏の答えは極めて明快である。

 最近では様々な業界・企業において、女性社員が出産後、育児休業を経て復帰できるようになってきているが、古い体質の業界・企業では、今なお育休後の復職が難しく結婚・出産を機に退職するケースが多い。

 ブライダル業界はまさにそうした古い体質だと言われている。そのため、本来多くの女性スタッフが勤務しているにもかかわらず、キャリアを重ねて社内で意思決定できる立場まで上がるケースは多くなく、基本的には年輩男性たちの世界となっている。

 経験のある読者もいるだろうが、挙式・披露宴に関するプランニングや手続きは、女性(新婦)のイニシアチブの下、男性(新郎)は後ろからついていくだけ・・・というカップルが多い。つまり、挙式披露宴は、女性(新婦)の夢を紡ぐ場であり新婦が“主役”である。それにもかかわらず、ブライダルサービスを提供する企業で意思決定をしているのは、父親世代かそれに近い世代の男性である。それは顧客にとって最善のことなのだろうか? 顧客ニーズとブライダル企業の提供価値の間に乖離が生じているのではないか? それが業界の苦境の真因なのではないか?

 荻野氏は、そうした問題意識から、全スタッフの約6割を占める女性たちが継続して勤務できる仕組み作りを重視したのである。


女性の「働きやすさ」追求は社員満足につながる

 ノバレーゼでは、「自己申告制度」を導入して個人の斟酌すべき事情を明確化し、「フレックスタイム制度」や「在宅勤務制度」の導入で育休明けの女性たちの時間的制約を克服。また、育児はもとより親の介護などで引越しが難しいケースも考慮し、「勤務地限定社員制度」も導入している。

 こうした制度整備と積極運用を通じて、育休からの復職率は94%に達し、全管理職に占める女性比率も30%に達する。

 女性の働きやすさを追求すると、それは男性の働きやすさにつながる。なぜなら、上記の諸制度は男性にも適用されるからだ。つまりは、「社員満足」の実現である。

「社員満足」の追求と言えば、ノバレーゼでは「有給休暇取得100%」を義務化している。ブライダルなどサービス業は仕事がハードで、とかく有給休暇を取りにくい。特に土日祝祭日の書き入れ時の取得など論外だ。それがブライダル業界における「入社3年以内離職率30%」の理由の1つだという意見もある。

 そこで、ノバレーゼはあえて土日祝祭日を含む取得100%を義務化した。制度だけあっても使いにくい“空気”があっては無意味なので、管理職の意識変革を促進し“休める風土”に変えた。

「各現場において、“どうすれば土日祝祭日に休めるか、残った少ないメンバーでどうすれば現場を回せるか?”を工夫するようになり、結果的に生産性が向上して休めるようになったのです」と荻野氏は言う。

 2018年3月の対前年度比1000組増の披露宴受注4000組突破の背景には、こうした取り組みの数々があったのである。


社長以下幹部層の早期引退を目指す

 女性がキャリアを重ねるのは素晴らしいことだが、では、それが実現できればそれで良いのかと言えば、決してそうではない。

 父親世代かそれに近い男性たちが意思決定をするブライダル企業が問題なのと同様に、男女を問わず親世代に近い年輩者たちが意思決定するブライダル企業もまた問題だと考えられるからだ。顧客ターゲット層から世代的に離れすぎているのは好ましくない。

 ノバレーゼの創業経営者・浅田剛治氏は、結婚式の中心顧客層を考えると、経営者も若い方がよいと考え、一部上場だった同社の株式に関して、自己保有分のみならず親族保有分まで売却し、2016年、47歳で引退。当時36歳だった荻野氏が後継社長に就任した。

 日本の企業経営者の平均年齢が約60歳で、大企業ほど年齢が高くなりがちなことを思えば、異例と言ってよいだろう。ノバレーゼが顧客層との“年齢的距離感”を非常に重視していることがわかる。

 また、同社の組織図を眺めると、社長の下に副社長・専務取締役・常務取締役などの役職は置かず、フラットな構造になっている。

「厳しい経営環境下にあって、現場との距離を縮めてマネジメントスピードを速くする必要があるからです。また、各部門を統括する執行役員には、2〜3年前まで各現場のゼネラルマネージャーだった人々が就いており、自社が提供する価値と顧客ニーズの乖離が起きないようにしています」(荻野氏)

 “年齢的距離感”の短縮と経営判断に要する“時間的距離感”の短縮を同時に志向しているということだ。

 しかし、疑問もある。社長も役員も今はたしかに若いがやがて年輩となる。そうなれば、たちどころに、顧客層との“距離感”は遠いものになってしまうのではないか?

 それに対する荻野氏の答えも明快であった。

「創業者の浅田がそうであったように、私自身も他の役員たちも、しかるべきタイミングで順次、次の世代にバトンタッチしていく必要があると考えています」


人生100年時代、その後の人生は?

 そうは言っても、人生100年時代を迎えた今、その後の人生はどうするのか? それぞれ家族もいるだろうし、子どもたちも進学などでお金のかかる時期と思われるが・・・。

「私の場合は・・・そうですね・・・もちろんまだ決めてはいませんが、自分で何か事業を興すことになるかもしれません」と荻野氏は笑う。

 ノバレーゼでは、それだけの覚悟と力量のある人が役員になっていくということか。「人口減少・非婚化・なし婚化」という三重苦の業界にあって、業績を伸ばし続ける企業には、そういう厳しさがあるということなのかもしれない。

 そこで、後編では、そこまで顧客に寄り添おうとするノバレーゼでは、具体的にどのような顧客価値を創造するのか、そして、その担い手となるスタッフがどのようにスキルを高めているのかを見てみたいと思う。

筆者:嶋田 淑之

JBpress

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