オリンパス、新たな不正疑惑で「社内弁護士」の実名爆弾告発

10月23日(火)7時0分 NEWSポストセブン

隠蔽体質は今も変わっていないのか(EPA=時事)

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「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」──マルクスの言葉だが、再び問題が起きたこの企業のことは「喜劇」で済まされない。オリンパスは2011年、損失隠しを明らかにしようとした新社長を解任し大スキャンダルとなったが、現在、新たな不正疑惑について追及する社員の動きを封じようとしている。そして社員は、実名告発に踏み切った。経済ジャーナリストの山口義正氏が、会社としての求心力を失いつつあるオリンパスの内情をレポートする。


 * * *

 7年前のちょうど今頃、損失隠し事件(※注1)に揺れていたオリンパスが現在、弁護士資格を持つ社員に訴えられるという前代未聞の裁判で被告人席に立たされている。


【※注1/オリンパスが損失を会社外に移す「飛ばし」という手法で隠し、長年にわたって巨額の粉飾決算を行なっていた事件。2011年7月、山口氏が月刊『FACTA』で問題を指摘、同記事を見たウッドフォード社長が調査を行なう最中、解任された。その後、社内調査の結果、同社は同年11月に損失隠しの事実を認めた】


 訴えたのは同社法務部勤務の榊原拓紀弁護士。オリンパスの法務問題を処理するために社員として在籍している彼が、自らの雇用主を相手取って訴えを起こしたのは、パワーハラスメントと公益通報者保護法違反が理由だが、その背景には深刻な疑惑と経営問題が横たわっている。


 オリンパスで今何が起きているのか、原告の榊原氏がインタビューに応じた。



「あの損失隠し事件があったにもかかわらず、オリンパスの隠蔽する体質は変わっていません。私は裁判を起こしていますが、このままでは問題が知られることのないまま終わってしまう。そこで、お話しすることに決めました」


 告発のきっかけとなった“騒動”は、昨年の暮れに東京・新宿のオリンパス本社で起きた。高層ビルの15階に怒声が響き渡る。


「メールを停止するんですよ、この人!」


 数百人もの社員が耳をそばだてた。怒声の主は榊原氏で、「この人」とは彼の上司である法務部長のことだ。オリンパスが中国・深センで地元マフィアとつながりを持ち、そのルートを経由して税関関係者に賄賂を贈り、経営上の問題を処理してもらっていた疑いが強まった(※注2)。


【※注2/オリンパスの深セン子会社は2006年、中国当局から実際の在庫と理論上の在庫が大きく食い違うと指摘され、数百億円もの罰金を命じられる可能性が生じた。その問題の処理を現地の経営コンサルタントに依頼し罰金は免れたが、後に中国マフィアである疑いが浮上。支払う報酬の一部が、賄賂として中国当局者に流れた疑惑も指摘された】


 この「深セン疑惑」については、深刻な法的な問題があるとの声が社内から上がり、海外の複数の法律事務所に見解を求めたところ、特に米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)に違反する恐れが濃厚との回答が寄せられた。最悪の場合、数百億円もの罰金の支払いを求められる恐れがある。榊原氏らが強硬に主張したのは、ただ一点。「法律違反のリスクが大きいため、きちんと対処すべし」──。



 オリンパス上層部はこれに慌てたようだ。榊原氏とともに「問題あり」と声を上げた深セン工場などアジア全域の子会社を束ねる地域統括会社の法務責任者であるA氏に対し、昨年11月30日付で異動が告げられたのだ。左遷人事である(今年1月1日付で発令)。


「この異動はパワハラと公益通報者保護法違反ではないか」


 榊原氏はこの時期外れの異動を問題視。異動の撤回を求めるとともに、専門的な見地から深セン疑惑の危うさを説明した通知書を作成し、社外取締役全員に送付した。表題脇に弁護士印が押されたオフィシャルな体裁のものだ。


 そこには〈2度にわたる社内調査が中立・公平性を欠き得る顧問弁護士によって実施されたという問題点を踏まえ、調査は日弁連の「企業不祥事等における第三者委員会ガイドライン」に従った中立・公正な第三者委員会によるべきものと思料致します〉とあった。


 さらに後日、榊原氏はオリンパス幹部とやり取りしたメールを約300人の社員に転送した。社内で何が行なわれているのか、「みんなが見ているんですよ」と強調するためだ。


◆メール停止の警告書


 騒動の顛末については榊原弁護士の言葉を借りよう。


「人事部長から『個室で話をしたい』と言われたのは、12月20日でした。私は個室での話し合いには応じられないことと、異動を命じられたA氏に同席してもらうことを告げると、15階のオープンスペースで法務部長も交えて4人で話し合うことになりました。ここなら他の社員にも話し声が聞こえますから」



 15階には法務部や人事部などが集まっている。人事部長らは榊原氏が社員にまでメールを送りつけていることをとがめ、「営業秘密の漏洩ではないか」と詰め寄った。


「それはおかしいですよね。だって、重要なリスクについて社内で情報を共有しようとしているだけなんですから」と反論する榊原氏に対し、法務部長がメールサーバーへのアクセスを禁じる警告書を突きつけた。


「私は頭に血が上ってしまい、『メールを停止するんですよ』と大声を上げてしまいました。オリンパスのシステムでは、メールサーバーへのアクセスを禁じられれば、出退勤の管理や出張費の精算、全社向けの掲示板の閲覧などもできなくなってしまうのです」


 実際にそれ以来メールは停止され、社員として“市民権”を剥奪されたに等しい。その後、法務部長とは、「会話も交わさない絶縁状態になっており、やりとりの一切が証拠として残るように書面を介するようになりました」(榊原氏)という。


 榊原氏は色白で痩身の30歳だ。理知的な顔立ちだが、笑顔は優しい。しかし年末年始を挟んで、大人しげな容貌からは想像がつかないほど行動を飛躍させた。2018年の年明け早々、オリンパスと法務部長、人事部長を相手取って、パワハラと公益通報者保護法違反で東京地裁に訴えを起こしたのだ。さらに追加でバックオフィス部門の担当役員も訴えている。


 これに対してオリンパスは4月11日、榊原氏に自宅謹慎の懲戒処分を下した。裁判は今も東京地裁で係争中だ。


 この事態に際して、社外取締役・監査役を含むオリンパス経営陣はどう対応したのだろうか。特に社外取締役は企業統治の要であり、その究極的な役割は「いざという時に社長に引導を渡すこと」とされる。通知書を受け取って問題を把握した以上、社外取締役として注意義務が発生する。



 通知書を送付した当時のオリンパスの社外取締役は6人おり、いずれも出身企業では会長や社長などを務めてきた錚々たるメンバーだ。


 そのなかで榊原氏らが「バランス感覚に優れている」として頼りにしたのが、損失隠し事件直後から社外取締役に就いた、伊藤忠商事相談役の藤田純孝氏だった。


「藤田さんには、面会にも応じていただき、最初は熱心に相談に乗ってくれていましたが、いざ深セン問題を報告する取締役会では積極的に発言しようとはしなかった。笹宏行社長は社外取締役に頭が上がらない様子だから期待していたのですが……」


 では、この異常事態をオリンパス社員はどう見ていたのか。


「メールで励ましてくれる人もいれば、たまたま乗り合わせたエレベータの中で『会社が良くなってくれれば……』と声をかけてくれる人もいました。人事部長に掛け合ってくれた人も」


◆「取締役会番外編」の極秘資料


 そうした社員から送られたものなのか、A4用紙4枚の内部資料が筆者のもとに届いた。作成日は昨年12月22日、メール停止通告の2日後だ。


 表題には「取締役会番外編」と記され、「マル秘」の印が押してある。取締役会に番外編があるとはそれだけでも驚きだが、その中身は深センからの電撃的な完全撤退を目論んで作成されたもの。中国人従業員の反発を招かないように、彼らの目をごまかすための「表計画」と、外部には決して明かさずに水面下で遂行する「裏計画」の2種類が進んでいることを取締役会で説明する内容だった。



 深セン問題の舞台そのものを潰してしまおうということか。投資家への情報開示上も問題のある内容だ。榊原氏も「初めて見た」という極秘資料だった。


 オリンパスでは深セン問題に関わる社員に対して、秘密保持の誓約書まで書かせているにもかかわらず、番外編の資料が流出したのだ。オリンパスがすでに会社として求心力を失いつつあることの証左だろう。


 深セン問題はオリンパスが確固とした自信を持って対処した結果なのか、それとも損失隠し事件のときと同じように社員らの人間の弱さに起因する問題なのか。


 オリンパスは榊原氏の告発について、「係属中の訴訟に関することですので、詳細な回答は控えさせていただきます」(広報・IR部)と答えた。榊原氏は言う。


「贈賄疑惑の発端は在庫の問題で、単なるミスが原因だと思います。しかしオリンパスには現実や過ちを受け入れる胆力がなく、嘘に嘘を重ねることになってしまいました。しかも社内の理屈だけで動いてしまうから、みんな嫌気がさして辞めていってしまう」


 榊原氏が生活の安定を棒に振るリスクを負ってまで真相を追及するのはなぜか。



「一般の弁護士をしていた私がオリンパスに入社したのが2016年6月。すぐに会社を辞めてしまえば『あの人は腰掛け的で落ち着かない人なんだ』と思われてしまう。それなら深センの問題は最後までやり抜こうと。それに、声を上げたくても上げられない人が社内にはいる。その人たちの分もという思いはあります」


 人が理性では抑えきれない激しい情念を燃やすのは、その眼前に世の不条理が立ちふさがったときだろう。榊原氏の情念は組織の論理を打ち破ることができるだろうか。


※週刊ポスト2018年11月2日号

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