中国との島嶼攻防戦を視野に入れ始めた米軍

10月25日(木)6時12分 JBpress

水陸両用装甲車「AAV-7」(出所:米海軍)

写真を拡大

 トランプ政権は、いわゆる中間選挙が近づいたこともあり、対中強硬姿勢を経済分野だけでなく軍事分野でもますます強めている。

 基本的な戦略レベルでは、すでに昨年(2017年)12月にホワイトハウスが公表した「国家安全保障戦略」ならびに本年1月にペンタゴンが公表した「国防戦略概要」で中国に対する強硬姿勢が明示されている。

 すなわち、アメリカの国防基本方針は「世界的なテロリズムとの戦いに勝利する」から、「軍事大国すなわち中国とロシアとの軍事的対決に勝利する」へと変針した。とりわけ当面の主たる仮想敵は、南シナ海や東シナ海で周辺諸国を軍事的に威圧しながら海洋覇権を確保しつつある中国である。

 トランプ政権がロシアとの中距離核全廃条約(INF)から離脱する意向を表明した動きも、そのタイミングから判断すると、ロシアよりもむしろ中国に対抗する米軍戦力を考慮しての動きと考えたほうが自然である。


局地的軍事衝突が前提となる大国間角逐戦争

 中国との軍事的衝突を視野に入れた「大国間角逐」に打ち勝つための準備を固めるといっても、核兵器使用の有無を問わず「第3次世界大戦」に発展するような全面的戦争への突入は何としてでも避けることは確実である。このような大前提が、米国にも中国にも共通していることには疑いの余地はない。

 というよりは、むしろ中国のほうがアメリカよりも戦略核の使用や全面戦争への発展を忌み嫌う姿勢が強固であると考えるべきであろう。なぜならば、中国共産党の軍隊であるとはいえ中国人民解放軍の基本的戦略の根底には孫子兵法の伝統が横たわっており、「アメリカのように、敵を威圧するために構築し保持すべき軍事力を剥き出しで行使するのは大馬鹿者の行い」という考えが徹底しているからである。

 いずれにせよ、核戦争や第3次世界大戦のような全面戦争を避けたうえでの中国との軍事的衝突ということになれば、局地的軍事衝突ということになる。

 たとえば小規模なものでは南沙諸島や尖閣諸島などの無人島嶼環礁の争奪戦、より規模が拡大して南沙諸島に中国が築いている人工島のような軍事拠点の攻防戦、さらに規模が拡大すると宮古島や石垣島のような有人島への侵攻戦、そして最大規模で台湾攻防戦といった局地限定戦争の可能性が考えられる(もちろんそれらの軍事衝突の発生確率は極めて低く、「否定され得ない」といった表現のほうが妥当かもしれない)。


「太平洋戦争」とは似て非なる中国との島嶼攻防戦

 要するに、中国との間で予想されうる軍事衝突は、規模の大小はあるものの島嶼攻防戦になることが確実である。

 島嶼環礁を巡っての軍事衝突という点で想起されるのは、米国が呼ぶところの「太平洋戦争」である。日本と米国は太平洋の島嶼環礁を巡り死闘を繰り広げ、沖縄攻防戦で日米島嶼攻防戦は幕を閉じた(実際に海兵隊や海軍関係者たちの中には、日本との島嶼攻防戦を“再吟味”して、来たるべき中国との島嶼攻防戦に役立つかもしれない何らかの教訓を再確認する動きも見られる)。

 しかしながら似通っているのは、戦域が島嶼環礁とその周辺海域ならびに空域となるであろうという点だけである。1940年代と違って高度情報化時代の現在は、サイバー戦、宇宙戦など1940年代には思いもよらなかった概念も登場している。さらに、軍艦や軍用機などの伝統的な兵器も各種センサー類(レーダーやソナー)や高性能ミサイルなどの登場により著しく進化し、海戦や空戦そのものの概念自体が大きく変貌してしまった。

 中国との局地戦を現実的に想定して準備を整えなければならなくなった米軍は、海洋戦力への予算投入を優先的に強化しているものの、“第2次世界大戦期スタイル”の空母決戦や艦隊決戦などは再現されないとも考えている。そのため、F-35やB-21などの新鋭軍用機、各種ミサイル類、それに高度情報システムと高性能センサー類を装備した新鋭戦闘艦への軍事費投入は惜しまないが、もはや現実には起こりえない戦闘形態に必要な装備や部隊に関する投資は差し控え始めた。


時代遅れと判断された「上陸作戦」

 その典型例が、アメリカ海兵隊司令部によるAAV-7水陸両用装甲車の延命改修作業のキャンセルという苦渋の決断である。

 本コラム(2018年9月20日「米国が国防費を対中戦にシフト、海洋戦力強化へ」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54150)で触れたように、2019会計年度の国防歳出法では、中国との大国間角逐に打ち勝つために軍事費全般の増額が決定されたが、海兵隊の予算は抑制されてしまった。そのため海兵隊は、予想されうる中国との島嶼を巡る攻防戦にはさして必要としない予算を削減し、F-35B戦闘攻撃機をはじめとする航空戦力のために十分な予算を確保しておく必要が生じた。その結果、海兵隊自身が犠牲としたのがAAV-7延命改修プログラムだった。

 現在、陸上自衛隊水陸機動団が調達中のAAV-7水陸両用装甲車は、およそ半世紀前の設計である(さらに、基本的なコンセプトは、第1次世界大戦後に日本との大平洋における島嶼攻防戦を予想した海兵隊の天才的戦略家であったエリス中佐が策定した対日作戦計画を土台にして海兵隊が1930年代に策定した上陸作戦ドクトリンにある。つまり、80年近く前のアイデアに基づいている車両といえる代物なのである)。

 海兵隊自身は、すでに25年ほど前から新型車両の開発に着手していた。しかし、ようやく誕生した新型車両(EFV)はあまりにも高額になってしまった上に、車両自体にも問題点も山積していたため、開発は中止に追い込まれた。そのため、海兵隊はおよそ1300両保有するAAV-7のうち、とりあえずは400両程度に様々な改造を施して、これから15年程度は使い続ける決断を下した。これがAAV-7延命改修プログラムである。

 ところが、すでにアメリカの装甲車両メーカーによって改造作業が開始されている延命改修に、海兵隊自身がキャンセルの注文を発するという異常事態が生じてしまった(そのため、このメーカーでは多数の失業者が生じている)。これは、予想されうる中国との島嶼を巡る攻防戦には、もはやエリス中佐が打ち出して以来80年近くにわたって海兵隊の基本的ドクトリンの1つとされてきた上陸作戦は「さして役には立たないであろう」と海兵隊司令部自身が判断している何よりもの証拠である。それゆえに、AAV-7の防御力増強や機動性強化をはじめとする改修作業を中止してしまったのである。


日本も現実を直視せよ

 中国との「大国間角逐」に打ち勝つ決意を固めた米軍は、予想されうる南シナ海や東シナ海での島嶼攻防戦に打ち勝つための具体的調整を開始した。そして、もはや空母決戦や艦隊決戦、上陸作戦といった“第2次世界大戦スタイル”の戦闘は現代島嶼攻防戦では再現しないことを大前提にしている。現在の情報システム環境や兵器システムのレベルから考察すると、このような前提は至当な判断と言えよう。

 ただでさえ国防予算規模が微少にすぎる日本としては、海兵隊の苦渋の決断のように、少しでも無駄な装備調達を控え、必要性の低い組織を少数精鋭化するなどの、我が身を切る英断を実施する勇気を持たねばならない。

筆者:北村 淳

JBpress

「中国」をもっと詳しく

「中国」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ