F1完全撤退までカウントダウン、ホンダは有終の美を飾れるか

10月26日(火)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 2021年10月21日、ホンダは「ホンダF1 2021シーズンクライマックス取材会」をオンラインで実施した。

 F1は昨シーズンから新型コロナウイルス感染症の影響で開催スケジュールの大幅な変更を余儀なくされ、今シーズンも鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)の「Honda 日本グランプリレース」は中止となった。

 ホンダは、今シーズンを最後に本田技研工業(本社)と本田技術研究所(研究所)が直接、研究開発や広報活動に関与する、いわゆる“ワークス”としてのF1事業から完全撤退することを明らかにしている。

 来シーズンは、現在F1エンジン供給しているレッドブル・レーシングがホンダF1パワーユニットを使いF1参戦を続ける。ホンダはパワーユニットのメンテナンス等を行うサプライヤーとなり、F1事業の規模は大きく縮小することになる。

 ホンダにとって、今はシーズンのクライマックスであると同時に、1960年代から何度かの休止期間を経て継続してきたF1活動全体のクライマックスであると言えるだろう。

 取材会では、いつもの通りHRD Sakuraセンター長 兼 F1プロジェクトLPL(ラージプロジェクト・リーダー)の浅木泰昭氏が対応した。HRD Sakuraは2015年に栃木県さくら市に設立された、ホンダの四輪モータースポーツの技術開発を行う研究所である。

 浅木氏は1981年に本田技術研究所に入社。その翌年にホンダでいうF1第2期のエンジン開発部門に配属され、当時のトップチームだったウィリアムズ・ホンダのナイジェル・マンセル選手やケケ・ロズベルグ選手をエンジニアとして支えた。その後は「レジェンド」「オデッセイ」、北米向けV型6気筒エンジン等の量産車開発を経て、2008年には軽自動車「N-BOX」の開発責任者に就任。2018年に現職に就き、再びF1の場に戻った。

 浅木氏はホンダにおいてF1とN-BOXという“両極端の分野”を成功に導いた男としてホンダのホームページ、オウンドメディアなどに登場する。自動車メディアに取り上げられることも多く、F1ファンの間ではお馴染みの人物だ。


再び「走る実験室」になれるはずだった

 F1は、量産車など様々な領域において活躍できる人材を育成する重要な場である──。これが浅木氏の持論である。

 ホンダ創業者である本田宗一郎氏には、レース参戦はホンダにとって「走る実験室」であり、また「走る広告塔」であり、さらに「人を育てる場」であるという理念があった。

 レースの中でも、四輪車についてはF1参戦を重要視してきた。世界最高峰の四輪レースであり、またエンジン開発が事業の中核であるホンダにとっては“究極のエンジン開発の場”となるからだ。

 1960年代のF1参戦では、当時まだ二輪車から四輪車へ参入して間もなかったホンダにとって、本田宗一郎氏が提唱した3つの理念が確かに通用した。だが、80年代、90年代、2000年代と時代が進むと、F1の規定はレースに特化し過ぎてしまい、結果的にF1から量産車に還元できる技術領域はどんどん狭まり、「走る実験室」という意味合いが薄れていった。

 現在のF1規定では電動化が義務化されているが、ここでも量産車への直接的な技術の還元は「難しい」(浅木氏)という。

 F1マシンの電動化には、MGU(モータージェネレーターユニット)と呼ばれる2つの装置を使う。

 1つは「MGU-K」だ。「K」は運動エネルギー(Kinetic)を意味する。MGU-Kはエンジンのクランクシャフトに対する力のアシストと、ブレーキング時に発生する運動エネルギーの電気エネルギーへの変換を行う。量産車でいえばハイブリッド車に近い考え方だ。

 もう1つは「MGU-H」。「H」は熱エネルギー(Heat)を意味する。エンジンの排気ガスの熱エネルギーを電気エネルギーに変換する仕組みである。ターボチャージャー(過給器)と連結してエンジン出力を増大させる「e-ブースト」を行う。

 浅木氏によると、MGU-KとMGU-Hは、F1規定が変更されていく中で量産車向けの技術と乖離してしまったという。例えば、F1マシンのターボチャージャーでは量産車向けのターボチャージャー設計の考え方が通用せず、ホンダ社内のジェット機関連技術を応用したという。そして、エンジンの基本である気筒(シリンダー)についても、浅木氏は「F1はあまりにも特殊な形態となってしまい、量産車へ還元することは難しい」との見解を示す。

 一方、ホンダがエクソンモービルと共同開発したF1向けの燃料は、いわゆるe-フューエル(再エネ由来の水素を用いた合成燃料)という考え方に近く、カーボンニュートラルの観点から量産車への技術の還元が可能だと指摘する。

 また、F1用に特化して開発したリチウムイオン2次電池についても、先にホンダが公表したeVTOL(電動式垂直離着陸機)の開発に「有効利用できる分野になるはずだった・・・」とも言う。


有終の美を飾れるか

 年間「4桁億円」とも噂されている巨額のF1投資に対し、ホンダ(本社と研究所)内から費用対効果を疑問視する声があがっていたのは確かだ。

 一方でF1は、ホンダという企業のアイデンティティであり、ホンダ関係者の多くにとっての心の拠り所であったことも事実だろう。

 いみじくもホンダは、「2050年カーボンニュートラル」を目指すために、研究開発のリソースを電動化や航空・宇宙など新たな成長分野に振り向ける大規模な軌道修正を決めたのと同じ頃に、F1からの完全撤退を決めたわけだが、実はそのF1は、次世代のホンダを担う技術の「走る実験室」へと復活しつつあったという皮肉な巡り合わせになってしまった。

 本稿執筆時点では、2021F1シーズンは全22戦のうち第16戦トルコグランプリまでが終了しており、残り6戦はアメリカ、メキシコ、カタール、サンパウロ、サウジアラビア、アブダビとなる。現在、ドライバーズポイントでレッドブル・レーシング・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手がトップを走っている。そしてホンダはコンストラクター(エンジン製造者)ランキングでは、トップのメルセデス・ベンツを射程距離にとらえている。

 ホンダがF1での有終の美を飾り、カーボンニュートラル時代へ旅立つことを期待したい。

筆者:桃田 健史

JBpress

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