このままでは深刻な「EV貿易戦争」が勃発する…「激安の中華製品」を海外にバラマキ続ける習近平主席の大暴走

2024年10月28日(月)9時15分 プレジデント社

中国の習近平共産党総書記・国家主席・中央軍事委主席は2024年9月23日午前、北京の人民大会堂で月探査プロジェクト嫦娥6号ミッションの研究・テスト参加者代表と会見し、重要演説を行った。 - 写真=中国通信/時事通信フォト

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■タイミングが後手後手になっている


10月18日、中国国家統計局は7〜9月期の国内総生産(GDP)など主要な経済統計を発表した。GDPの数字を見ると、今年の中国政府の目標である5%の達成は難しくなりつつある。


写真=中国通信/時事通信フォト
中国の習近平共産党総書記・国家主席・中央軍事委主席は2024年9月23日午前、北京の人民大会堂で月探査プロジェクト嫦娥6号ミッションの研究・テスト参加者代表と会見し、重要演説を行った。 - 写真=中国通信/時事通信フォト

中国の景気減速の要因はいくつもある。まず重要なのは不動産市況の悪化に歯止めがかからないことだ。依然として、新築住宅価格は下落傾向だ。住宅価格の下落を食い止めるため中国政府は対策を打っているのだが、なかなか期待されたほどの効果が表れてこない。今のところ、政策対応は対処療法的なものにとどまり、しかもタイミングが後手後手になっている。


不動産市況の悪化と景気後退懸念の顕在化で、家計部門の節約志向は一段と鮮明化している。短期的に個人消費が盛り上がることは期待しにくい。それに加えて、これまで景気の下支え役を果たしてきた輸出も、ここへきて伸び率の鈍化傾向が出ている。その背景には、日米欧と中国の貿易摩擦が鮮明化していることもある。


こうした状況は短期間に大きく変化することは考えにくい。当面、中国経済の本格的な回復は望めないだろう。むしろ、景気対策のタイミングが遅れたり、政策の規模や政策の方針を間違えたりすると、中国経済の後退が深刻化することも懸念される。


■個人消費の落ち込みが深刻


7〜9月期、中国の実質GDPは前年比で4.6%増だった。2024年1〜3月期の成長率は同5.30%、4〜6月期は同4.70%だった。前年比でみると、明らかに中国の景気は減速している。7〜9月期、日米欧など主要先進国と同じように前期比年率でみた成長率は3.6%だ。2015年からコロナ禍が発生する以前まで、中国経済は前期比で年6%台後半の成長率を維持した。経済成長率の低下は鮮明といえる。


主な需要項目別にみると、まず、個人消費に勢いがない。1〜9月期の社会消費品小売総額(小売売上高)は前年同期比で3.3%増だった。1〜6月期の同3.7%を下回った。モノとサービスに分けてみると、9月財の売上高は前年同月比3.3%、飲食は同3.1%増だった。


■マンションの値下げ競争も激化している


ネットショップなどの売り上げは伸びたものの、百貨店やブランドショップの売り上げは減少した。消費者は価格下落や景況感の悪化などを予想し、価格帯の高いモノ・サービスへの支出を抑えているようだ。9月中国の消費者物価指数は前年同月比で0.4%のプラスだったが、川下分野でのデフレ圧力はかなり強いことが窺われる。


個人消費の弱さの要因の一つは、不動産市況の悪化とみられる。9月の新築住宅価格は70都市の単純平均で前年比0.7%下落した。前年同月比では5.8%下落、8月の5.3%を上回った。1〜9月期の不動産投資は前年同期比10.1%減少、不動産販売(床面積ベース)は17.1%減、新規着工(床面積ベース)は22.2%減だった。不動産市況改善の兆しはまだ見えない。


中国の家計部門の貯蓄に占める不動産投資の割合が多岐であることを考えると、不動産市況の悪化の影響は小さくはないはずだ。2023年頃から、一部地方政府は、それまで大きな価格下落を抑えていた住宅価格のコントロールを緩めた。それに伴い、価格を大幅に下げてでも売却したいという業者は増えた。需要よりも供給が多い中、値下げ競争は激化した。


■「不動産成長」の夢はついえた


また、一部のマンション購入者は、先々の値下がりを予想して、買い控え姿勢を強めた。コストをかけて営業するより、販売を停止し経営体力の喪失を食い止めようとする不動産業者もあると報じられている。


過去のピーク時点で中国の不動産関連の需要は、GDPの29%近くを占めたとの推計もある。不動産の価格は上昇し続けるという強い期待(高い成長の夢)は雲散霧消し、設備投資、生産活動も停滞気味だ。


1〜9月期、企業の設備投資などを示す固定資産投資は前年同期比3.4%増加したが、民間の投資は0.2%減だった。マンションなど不動産不況の深刻化で、セメントなど基礎資材の生産も減少した。人口減少もあり、個人商品などの内需は縮小傾向にある。


■内需の弱さを補ってきた輸出もピンチ


一方、過剰生産問題が国際的な問題になっている、EVなど“新エネルギー車”の生産は年初来で33.8%増加した。9月まで4カ月続けて中国の新車販売台数は、前年同月実績を下回ったものの、EVなどの販売は増えた。政府はBYDなどの生産に支援を行っているという。7月に積み増した購入補助金も支えに、EVやプラグインハイブリッド(PHEV)の販売は増えた。


強力な価格競争力を背景に、中国からロシア、アジアや南米などの新興国向けのEVなどの輸出も増加した。7〜9月の輸出(ドル建て)は前年同期から6.0%増加した。


これまで中国は、経済環境の悪化に応じて小出しに対策を打ちつつ、輸出で国内需要の弱さを補ってきた。問題は、景気を下支えしてきた輸出にも息切れ感が出始めたことだ。その兆候が表れつつある。


9月の輸出は前年同月比で2.4%増にとどまった。5月から8月まで輸出は8%前後の伸びを示した。EV関連分野での米欧との貿易摩擦に加え、新興国向けの輸出にも先行き不安な材料が出始めた。


写真=iStock.com/Fahroni
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Fahroni

■債権処理を速やかに進めるべきだが…


EV、汎用型の半導体、車載用バッテリー、太陽光パネル、医療機器などの戦略分野で、中国は過剰生産能力を膨らませている。国内で主要企業を支援し、それらの企業の国際市場での競争力を高める。それによって、主要先進国や新興国の競合企業に打ち勝とうとしているとして、米国、欧州委員会、ブラジルなどの新興国も明確な懸念を表明し始めた。今後、国内需要の弱さを輸出で補うことの難しさは高まるだろう。


不動産、地方政府の債務状態の悪化、家計と民間企業のデフレマインドなどを見ると、中国政府は経済全体の需要注入と債務処理を速やかに進めるべきだ。一部では、10兆元(200兆円)、あるいはそれ以上の財政出動が必要との指摘もある。


しかし、今のところ、中国政府は具体的な対策の明確な方針を示していない。これまでの対策を拡充すれば、いずれ景気は上向くとみているのかもしれない。10月17日、倪虹(げいこう)住宅都市農村建設相は、いわゆるホワイトリスト政策(地方政府が優良な住宅開発案件を選定し、銀行に融資をつけさせる制度)の拡大を表明した。


■EVをめぐる貿易戦争勃発のリスクも


供給が過剰な中で融資を増やしても、結果的に不良債権の予備軍は増えるだろう。この問題は、不動産だけでなく、鉄鋼、EVなど中国産業界全体に当てはまる。中国経済の専門家の中には、「景気減速・後退リスクの食い止めに必要な政策立案が停滞した」との指摘もある。


2020年、中国政府は2035年にGDPを2倍にする目標を掲げた。実現に必要な平均成長率は年4.8%程度である。7〜9月期のGDP成長率をはじめデータを見る限り、経済の成長率は低下傾向だ。中国が長期の成長目標を実現する難易度は上昇している。


当面、中国の内需は停滞気味に推移し、深刻な景気後退のリスクは上昇すると懸念される。一方、政府は安価な製品の輸出増加を狙うかもしれない。EVなどの分野で新興国を巻き込んだ貿易戦争が勃発し、米欧がドルやユーロに対して人民元が安すぎると批判を強める展開もありうる。


そうなると、中国の政策運営の安定性は低下し、個人消費、設備投資、海外からの直接投資や有価証券投資の減少懸念は高まるとみられる。中国政府が追加の金融緩和、財政政策を打ったとしても、政策運営の大元の発想を修正しないと景気の自律的・持続的な回復は容易ではないだろう。それは世界経済全体にとっても重要なマイナスだ。


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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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