建築中タワマンで売買契約停止も KYB問題の後始末どうなる

10月28日(日)7時0分 NEWSポストセブン

免震データ改ざん問題で頭を下げるKYB専務(右/写真=時事)

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 油圧機器メーカーのKYBが、国の認定などに適合しない免震装置を出荷していた問題は、今後もさまざまな建物に“激震”を与えそうだ。データ改ざんの疑いがあるのは、公表された官公庁舎や東京スカイツリー、五輪施設といった大型施設のみならず、高層マンションなど一般の住居にも多数及んでいるとみられるからだ。その影響はどこまで広がるのか──。住宅ジャーナリストの榊淳司氏がレポートする。


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 KYBという会社による免震・制振ダンパーのデータ改ざんが大きな問題になっているが、国土交通省はいつもの通り“火消し”に回っている。


 国交省のホームページでは「震度6強から7程度の地震に対して倒壊するおそれはないとの見解が第三者機関から得られている」という表現も見られる。「だからみなさん、パニックにならないでね」という意図がいかにも透けて見える。これは過去の東洋ゴムや六会コンクリートの事件の時と同じスタンス。建築業界で消費者を巻き込む不都合な事件が起きた時における国交省のお決まりの対応だ。


 免震構造に使用されている制振ダンパーというのはそもそも建物を支える役目ではなく、免震装置である積層ゴムによって軽減された揺れを終息させるための役割を担う。したがって2015年の3月に発覚した東洋ゴムによる免震ゴムの性能データ偽装事件と比べれば、さほど深刻ではない。国交省の言うように「倒壊するおそれはない」という見解も、あながち先走っているとは言えない。


 しかし、本来得られるべき国土交通大臣認定の基準値を満たしていないのも事実だ。そこから深刻な問題が生じる。KYBは、数値を改ざんして出荷したすべての製品を交換すると表明している。それは当然だろう。



 幸いにして、免震構造の建物に設置された制振ダンパーの取り換え工事は容易だ。高層マンションの低層階に設置されている数値改ざんの制振ダンパーを取り外し、基準性能を満たした製品と取り換えればいい。


 ただ制振構造の建物にはめこまれた制振ダンパーは、壁に埋め込まれている。こちらの取り換え工事はやや厄介らしい。何といっても壁の一部を取り外さねばならない。ただ、それも基準を満たした製品が出来上がり、工事の段取りが整えばさほどの困難ではなさそうだ。


 ここでの問題は「時間」だ。KYBの製造能力からすると改ざんされたすべての制振ダンパーの代替品を生産するには2年の年月を要するという。その2年というのも見通しに過ぎない。建物用の制振ダンパーは、大量生産できるものではない。


 また、取り換え工事は病院や学校、役所など公共性が高く、不特定多数の人間が出入りする建物が優先されるはずだ。民間企業が分譲した既存マンションの優先順位が高いとは思えない。


 もし、その間に震度6や7の大きな地震が起こって何らかの被害が出た場合、誰がどう責任をとるのだろう。マンションの場合、管理組合に対して法的な責任を負うのは売り主企業である。KYBではない。


 ただし、これは瑕疵に当たるため築10年以上を経た物件については、売り主の責任が免除される。国交省によれば改ざんした製品が出荷されていたのは平成12年からとなっている。築10年超で17年未満のタワーマンションについて、売り主も法的にその責任を問われない。取り換えを拒否できる立場にある。そのように行動する売り主が現れるかどうかは分からないが……。



 さらに深刻化しそうなのは、現在建築中のマンションだ。KYBの製品を使用する免震や制振構造のマンションは、ほとんどが超高層タイプ、いわゆるタワーマンションだ。特に免震構造の場合は建物の下層階に制振ダンパーが使用されているので、この先1年以内に竣工する予定のタワーマンションについては、ほとんどがその部分の工事を終えている。


 前述したように、取り換える工事は難しくない。だが、基準性能を満たした製品の生産が追い付くのだろうか。あるいは、現在稼働中の病院や学校で取り換えるべき制振ダンパーの生産より優先されるのだろうか。普通に考えれば、建築中タワーマンション用の代替品生産が優先されるとは考えにくい。その場合、建物の竣工予定は遅れるだろう。当然、購入契約者への引き渡しも延期される。


 私が聞いた限りにおいて、契約者に対して引き渡しの延期を示唆し始めているデベロッパーもあるという。販売活動は続けるものの、売買契約は停止している物件も出てきたらしい。


 タワーマンションの契約者たちは、すでに新生活に向けて様々な準備をしている。保育園の申し込みや小中学校の入学や転入手続き。職場の変更に合わせて購入を決めた人もいる。あるいは、今住んでいる住戸の賃貸契約解除を通知している人もいるだろう。


 仮にKYBの製品を使用して建設中のマンションの多くが引き渡し延期に追い込まれた場合、その影響を受けるのは数千家族に及ぶことも考えられる。そういう事態になった時に、売り主企業はどのように責任を取るのだろうか。


 東洋ゴムの免震装置偽装事件の時には、マンション業界に大きな混乱はなかった。もちろん、いつものように国土交通省は火消しに回り、それがある程度奏功したかに見えた。しかし、今回はもう少し事件の影響が拡大しそうな気配もある。注意が必要だ。

NEWSポストセブン

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