このままマラソンを「札幌開催」としていいのか

10月29日(火)19時15分 プレジデント社

小池百合子東京都知事(左)と、2020年夏季オリンピック・パラリンピックIOC調整委員会委員長のジョン・コーツ氏。都知事は、猛暑対策として、マラソンと競歩の開催地を札幌に移す案について、「青天の霹靂だ」と表現した(2019年10月25日、東京都) - 写真=AFP/時事通信フォト

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■都知事にすら知らされなかった「札幌開催」


10月16日、国際オリンピック委員会(以下IOC)のトーマス・バッハ会長により「東京五輪のマラソン・競歩の開催地を札幌に変更した」との発表がなされた。私はもちろん、ホストシティ東京のトップである小池百合子都知事にすら何も知らされていなかった。青天の霹靂(へきれき)とはまさにこのことだ。



写真=AFP/時事通信フォト
小池百合子東京都知事(左)と、2020年夏季オリンピック・パラリンピックIOC調整委員会委員長のジョン・コーツ氏。都知事は、猛暑対策として、マラソンと競歩の開催地を札幌に移す案について、「青天の霹靂だ」と表現した(2019年10月25日、東京都) - 写真=AFP/時事通信フォト

これまで東京都は、膨大な時間とお金をかけて大会準備を進めてきた。今さらひっくり返して間に合うのか。費用負担は? その財源は? 選手の移動や宿泊は? 交通規制や警備は? ボランティアは? すでに販売したチケットの扱いは?


挙げればキリがないが、普通であればこれら課題をIOCが整理し、それを踏まえて都との協議があり、調整委員会やそれに準ずる会議体などにおける議論を経て、初めて発表するのが筋だ。今回はこのあたりのプロセスが全部すっ飛ばされてしまった。


このあたりの調整に関して一義的な責任を負うのが東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下組織委)。しかし森喜朗会長は「IOCが提案したものをダメと言えますか」とコメント。札幌への変更は決定事項かのように報じられた。



■「東京」以外の人間は1週間前に知っていた?


組織委の武藤敏郎事務総長から都に連絡があり、小池知事が初めて知ることとなったのがIOC発表の前日、10月15日。IOC調整委員会のジョン・コーツ委員長からの催促がきっかけだった。催促の内容は「札幌で調整しろ」とのこと。ではこの要求はいつからされていたのだろうか。


組織委は10月8日に、10日から解禁のはずだった五輪チケットの2次抽選販売を無期限延期にしている。理由は明かされないままだが、この頃すでにIOCから話は入っていたと思われる。実際、森会長は10月9日に安倍晋三首相と、10日には橋本聖子五輪相、そして札幌市の秋元克広市長と会っている。ここで札幌案の話がされていたと見るのが妥当ではないか。


しかしなぜか小池知事には何も伝えられないまま、なぜか一週間もの間に何の手も打たれないまま「10月16日」を迎えたのである。


■“小池知事抜き”で事が進んだ理由


小池知事だけが外されたまま、事が進められてしまった理由。その一端は2016年の前回都知事選で小池知事が初当選して以降、対抗馬を擁立して敗れ「野党」になった自民党が激しく敵対する、東京都ならではの政治背景にある。


一部報道では、都議会自民党の何名かはIOCの札幌変更案について事前に知っていたとされている。さらにさかのぼって9月22日、札幌ドームで行われたラグビーの試合を、森会長とその都議らが観戦していたことも確認されている。


今のところ真相は闇の中だが、IOCが突き付けてきている札幌案は、東京都にとっては不利益でしかない。都民の代表として都民益を追求すべき立場にある自民都議の一部がそれを知っていて放置したとすれば、それこそ大変なことだ。


いずれにせよ、小池知事だけが知らされていなかったことは決して偶然ではない。何らかの政治的意図があったことは明らかだ。言うまでもなく、オリンピック・パラリンピックは平和の祭典。政治的利用はタブーであることが五輪憲章に明記されている。しかし不幸にもその政治と政局に、マラソン・競歩は巻き込まれてしまったのだ。


■札幌開催の場合、追加経費は試算で340億円


ピンチに陥ったかのように見えた小池知事。政治的に不利な状況でこそ、世論を味方につけなければならない。東京都の主張を繰り広げるにあたっては、科学的データや専門家の知見といった裏付けはもちろんのこと、都民国民の共感が必要十分条件であり、そのための世論喚起が必須だ。


10月25日の朝を皮切りに、小池知事は次々と各種メディアで東京都の主張を訴えた。この日の午後にはコーツ委員長との会談があり、あらためて「札幌案」を突き付けられるも、攻勢を緩めることなく東京開催を訴え続けた。



都民ファーストの会東京都議団としても検証プロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、札幌案でかかる追加経費について340億円という独自の試算を打ち出した。それまで沈黙を余儀なくされていた選手や競技関係者の声も伺い、IOCが主張する「アスリートファースト」との乖離(かいり)も指摘した。


さらに、沿道自治体(千代田区、港区、新宿区、中央区、台東区、渋谷区)選出の都議も出席し、路面温度を緩和する遮熱性舗装などハード面の準備についてはもちろん、街並みを生中継で世界へ発信する機会が失われてしまうことによる観光産業への打撃といった、ソフト面の損失も明らかにした。


小池知事が攻勢に転じたのと同じく25日の朝、急きょ都議団も記者会見を設定したが、きちんと取材し報じてくれた都庁記者クラブの各社には心から感謝したい。


なお、毎日新聞が26日〜27日にかけ行った全国世論調査によると、東京五輪の猛暑対策としてIOCが示したマラソンと競歩の会場を札幌市に移す案について、「支持する」は35%にとどまっている。「支持しない」は47%と半数近く、無回答も18%あった。五輪で人気の高いマラソンが東京で行われないことに、国民からは一定の不満が出ている。


■もはや足の引っ張り合いをしている場合ではない


都民世論は思った以上の盛り上がりを見せており、高い関心と期待を集めているというのが率直な感想だ。しかし当然、それだけで結果がついてくるわけではない。


まずは30日に都内で開かれる調整委員会に向けて、IOCや組織委への働きかけを行っていく必要がある。意見書の決議や共同談話はじめ、オフィシャルもアンオフィシャルも含めて方法はいろいろあるが、共通することは「オール東京」で臨まなければならないということだ。もはや足の引っ張り合いをしている場合ではない。


昨年、地方自治体との偏在是正の名の下に都の税金が1兆円近く奪われてしまった税制改正論議の際にも、都民ファーストの会は「オール東京」を呼びかけた。小池知事には小池知事の、都議会各会派にもそれぞれのやり方があり、パイプがあった。それらをフル活用し一丸となれば、大きな力を発揮できたはずだ。


しかし当時、都議会自民党は知事の責任追及や他会派の批判、自らの手柄のアピールに終始。足並みはそろわなかった。今回も似たような構図があるが、同じ轍(てつ)を踏んではならない。


それぞれがそれぞれの立場で、できることは全てやる。東京大会の成功、ひいては都民のために「オール東京」で臨む。綺麗事(きれいごと)ではなく、これが問題解決への最善策であり、都議会に求められる態度ではないだろうか。



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尾島 紘平(おじま・こうへい)

都民ファーストの会・東京都議会議員

早稲田大学政治経済学部卒業。衆議院議員小池百合子(現東京都知事)秘書。2015年練馬区議会議員。2017年東京都議会議員(練馬区)。「新しい」「正しい」「わかりやすい」をキャッチフレーズに、都政改革に取り組んでいる。

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(都民ファーストの会・東京都議会議員 尾島 紘平)

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