闇バイト強盗はこうして襲う家を選ぶ…「無料で屋根の点検します」と言う業者を絶対家に入れてはいけないワケ

2024年10月29日(火)16時15分 プレジデント社

強盗傷害事件が起きた千葉県白井市の住宅=2024年10月16日 - 写真提供=共同通信社

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首都圏で強盗事件が相次いでいる。どうすれば被害に遭わずに済むのか。龍谷大学矯正・保護総合センター嘱託研究員の廣末登さんは「犯人たちは意外な手口であなたの家の資産情報を探っている。うかつに他人にその情報を知らせないことが大事だ」という——。(第1回)
写真提供=共同通信社
強盗傷害事件が起きた千葉県白井市の住宅=2024年10月16日 - 写真提供=共同通信社

■強盗犯たちがターゲットを選ぶ3つの方法


関東で相次ぐ強盗事件。2カ月あまりの短期間に、犯行は14件、逮捕者は少年を含む30人以上にのぼる。


今回の事件では、2023年の首都圏を中心に全国各地で発生した広域連続強盗事件、通称「ルフィ事件」同様、殺人に至ったケースもある。多くの事件で、住民を粘着テープで緊縛したり、連れ去ったりと、凶悪な犯行が目に付く。


強盗を起こす犯人たちは、手当たり次第に民家に押し入っている訳ではない。当然、「金目のものがある」家を物色して強盗に入る。ターゲットの選定に際して、犯行側にはおおきく3つの調査方法がある。


それは、①闇名簿に基づくもの、②犯行前の調査に基づくもの、そして、③ターゲットを知る人物からの密告である。


特殊詐欺や強盗をする上で、重要な役割を果たすのが闇名簿だ。この名簿はさまざまな種類があり、その価値によってランク付けされているという。


過去複数回にわたり、筆者は闇名簿などの流通に詳しい元暴力団や半グレに取材している。その一部をご紹介しよう。


※筆者註 取材対象者の特性上、複数人から得た情報を「取材先」が語っているように構成している。何卒ご容赦いただきたい。


■1件あたり1万円で取引


——いつから名簿をやり取りするようになったのか。


【取材先】名簿がカネになるようになったのは、特殊詐欺が始まってからじゃないですか。昔は、名簿なんか捨てていました。パソコンの中の名簿なんか普通に放置されていました。


しかし、これがカネになる現在ですと、わざわざ名簿を盗みに入る者も出てきた。名簿は、貴金属や現金と違って、セキュリティーの甘いところに保管していますから、盗みやすい。さらに、盗まれても、被害者は(個人情報取り扱いの杜撰さを)お客に責められるから、被害届を出さないんじゃないですか。


(ルフィ事件)のターゲットは、名簿からチョイスしたと思います。ただ、現時点では、この名簿の質はわからないし、入手先も分からない。


——名簿はいくらなのか。


【取材先】闇名簿はピンキリで、サラピン(一度も犯罪に使われていない)は値が張ります。詳細な名簿なら1件あたり1万する場合もある。一方、使い古された名簿(通称「出がらし)は、1件300円、500円と安くなる。おそらく、ルフィ事件で使われた名簿は、金を持っている、家に入ったら金がありそうな家の名簿を使ったと思います。


■一般人→情報屋→犯行グループ


——裏社会において闇名簿を集める、通称「名簿屋」は、どうやって名簿を手に入れるのか。


【取材先】名簿屋は、情報屋から情報を買います。情報屋はカタギから情報を買うんです。デイサービスや家政婦派遣の情報、学校職員の家族名簿、市会議員や村会議員の名簿と、いろいろあります。


名簿屋は、情報屋から名簿を買うとき、安く叩いてナンボ。だから、マスコミさんは相場を知りたがりますが、それは企業秘密です。相場を作らせないためですね。


名簿の流出はカタギ(=一般人)個人のケースもありますが、会社ぐるみの場合もあります。たとえば、正規の合法な名簿屋がある。これは、セールスマンのための名簿を扱う会社です。


学習教材会社なら、ファミリー名簿を売るんです。しかし、こうしたカタギの名簿屋さんも、名簿のオイシサ知ったら、カネのために悪い方に流れてゆくケースもあります。


名簿屋や特殊詐欺の実行犯が、直接被害者に電話を掛けて情報収集するケースもあります。


電話の場合は、有名テレビ番組の制作班を語ったりして情報収集を行っています。


たとえば「○○テレビの『△△ワイドショー』です。来月、日本人のタンス預金に関する特集番組をつくるので、インタビュー調査をしているのですが……。おばあちゃん、タンス預金とかやっていますか」などと、言葉巧みに聞き出します。


写真=iStock.com/yamasan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

■キャッチ、キャバ嬢が情報を売る


——それなら、電話を受けた側も、まさか犯罪のための事前調査とは思いもしないので、つい、本当のことを喋ってしまっても不思議はない。


【取材先】ブランドや高級車の購入者名簿が欲しければ、従業員に接触して、カネをチラつかせてデータのコピー取らせるとか、さまざまな方法があります。


あるいは、カタギさんに「家にカネありそうなところ知らないか。そこに本当にカネがあれば、(儲けの)10%やるから教えてくれない」って言うと、必死で調べてきますよ。こうした生の情報はありがたい。自分がタタキの実行犯(強盗犯)にならなかったとしても、情報自体が売れるんですから。


以上が、これまでの取材で得た情報の一部だ。


最後に出てきた「情報を売るカタギ」は、飲み屋街のキャッチの男性や、キャバクラで働く女性が多いという。にわかには信じがたい話だが、筆者は、この情報収集方法を別の取材先からも聞いている。


確かに、こうした直接的な情報収集方法は効率がいい。裏社会の名簿屋から買った名簿の精度は、使用してみるまで分からない。サラピンだと偽って使い古された名簿を売り付けられたら、強盗に入っても当てが外れる。名簿屋から買う「他力本願」ではなく、自分たちで情報を集める方が、鮮度が高く、正確な情報が手に入るのかもしれない。


もっとも、暴力団がバックに付いているようなトクリュウ(筆者註「匿名・流動型犯罪グループ」)組織には、名簿屋も使い古された名簿を高く売りつけるようなペテンは用いないと思われる。後の報復を恐れるからだ。


■知らない業者は家に入れてはいけない


記事冒頭で、犯行グループは、犯行前の調査を行うことがあると記した。犯行の前に資産状況や家族構成などを確認する「アポ電」が有名だが、別の方法もある。その一端を知る機会があった。これは、闇名簿作成のための情報収集ではないかと県警と情報共有した一例を紹介する(捜査中の案件につき、詳しい業務内容は一部伏せている)。


筆者は保護司の立場で、保護観察対象者たちと面会を行っている。ある日、その対象者から入社した会社の業務内容を聞いた。その内容は、営業として各家をまわり、「○○の状態を確認させてほしい」というものであった。


そして○○の状態、訪問時間、住人の情報(何時に誰が居たか)、○○の修繕をする代金(高額)が出せそうかなど、を記録していたと言うのだ。


違和感を覚えた筆者は、その会社(HPでは大都市圏で事業展開と紹介)を調べてみた。すると、HP上の会社紹介文が非常に稚拙で、社員募集欄には待遇が明記されていない。さらに、ある支社の住所が筆者が住む自治体にあったので検索してみると、それらしい会社は存在しなかった。非常にこれは怪しい会社だと判断し、警察に情報提供した次第である。


関東で相次ぐ強盗事件でも、リフォーム業者、水道業者、屋根修繕業者、電気業者など、さまざまな業者を偽って下調べを行っている疑いがある。知らない業者が訪問してきた場合、家に入れないことが、下調べされないためにも肝要だ。


写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

■犯人は暴力団でもトクリュウでもない


関東では強盗事件が頻発し、住民の方々を恐怖に陥れているが、被害金額を見ると数十万〜数百万円だ。強盗の際に住人に対し暴力を振るえば強盗致傷罪になる。その法定刑(法律で決められてる刑罰)は無期懲役または6年以上の懲役だ。懲役の上限は最長で20年となる。語弊を恐れずに言えば、犯行の内容に見合うものではない。


暴力団をはじめとする反社会的勢力は、リスクとリターンの計算ができる。たとえば、1000万円を奪って、万一刑務所に収監された場合、10年の刑だと割に合わない。しかし、数億円を奪って5年の刑なら割に合うと考えるのだ。


昨今、互いに面識のない「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」が話題だが、彼らにとっても強盗などの強行犯は主流ではない。ハイリスクの割にローリターンだとわかっているからだ。


頭のいい犯罪者は、「SNS型投資詐欺」や「ロマンス詐欺」(最終的に投資詐欺に誘導、もしくは投資名目で金銭を詐取)にシフトしている。


日本経済新聞のネットニュースによると、2024年1月から6月のSNS型投資詐欺被害額は、506億3000万円にのぼり、前年同月比7倍であった。1件あたりの平均被害額は1418万円で、被害者は50〜70代が全体の70.9%を占めているという(2024年7月31日)。


投資詐欺は、ローリスク・ハイリターンである。人を騙すツールがSNSのため、アカウントを消去したり、「テレグラム」など匿名型のSNSを利用すれば、追跡が極めて困難になるからだ。


では、いったい誰が関東の連続強盗事件の主犯格なのか。計算もロクにできない犯行グループの正体はどんなものなのか。


■「負け組」ゆえに犯行は凶悪化する


裏社会の人間は、時代遅れな強盗などの強行犯を行う彼らを「犯罪社会の負け組」と呼ぶ。


大きな組織に属したりその庇護を受けることもできず、またITの知識もないのでハイリスク・ローリターンの犯罪に従事せざるを得ない。頼みは「匿名流動型犯罪グループ」の名が示すように匿名性だけ。そのか細い綱を頼りに、形だけのリスクヘッジをしながら金を稼ぐのだ。



廣末 登『闇バイト』(祥伝社新書)

だが、彼らはその無能さゆえに凶悪化する可能性があるから非常に厄介なのだ。


最低限の防犯対策(窓に防犯フィルムを貼る、寝室に鍵を付ける、ダミーでいいので防犯カメラを設置、センサーライトを設置するなど)は必須だろう。


万一、夜間に異常を感じたら、異音の元を確認することはせずに、部屋を施錠した上で、躊躇わず#9110に電話することだ。侵入者の足を止めて時間を稼ぎ、躊躇なく迅速に行動することが、あなたの生命を守る。


なにより、たとえ知名度のある会社の業者やセールスマンであったとしても、見知らぬ第三者を家に入れないように徹底していただきたい。


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廣末 登(ひろすえ・のぼる)
龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学)
博士(学術)。1970年福岡市生まれ。北九州市立大学社会システム研究科博士後期課程修了。専門は犯罪社会学。青少年の健全な社会化をサポートする家族社会や地域社会の整備が中心テーマ。現在、大学非常勤講師、日本キャリア開発協会のキャリアカウンセラーなどを務める傍ら、「人々の経験を書き残す者」として執筆活動を続けている。著書に『若者はなぜヤクザになったのか』(ハーベスト社)、『ヤクザになる理由』(新潮新書)、『組長の娘 ヤクザの家に生まれて』(新潮文庫)『ヤクザと介護——暴力団離脱者たちの研究』(角川新書)など。
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(龍谷大学嘱託研究員、久留米大学非常勤講師(社会病理学) 廣末 登)

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