イチローの母校も…注目高まる吹奏楽部の指導法

10月30日(火)6時0分 JBpress

 吹奏楽は高校野球に勝るとも劣らない人気の部活だ。毎年10月に行われる「吹奏楽の甲子園」、全日本吹奏楽コンクールは発売即ソールドアウトになるほどプレミアチケットで、部員たちのモチベーションも甲子園並だ。

 100人以上の部員を抱える学校も少なくない中で、各校の吹奏楽部はよりよい音楽、よりよい部活動のために邁進する。「強豪校」を率いる顧問の先生たちの異色の指導法とは? 吹奏楽作家のオザワ部長がレポートする。


メディアに引っ張りだこの「強豪校」

 前回の記事(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54451)では日本中に広まった吹奏楽の歴史や、「吹奏楽の甲子園」こと全日本吹奏楽コンクールで活躍する大阪桐蔭高校の「強さ」の秘密を解説した。

 実は、高校吹奏楽界には大阪桐蔭高校以外にも「強豪校・常連校」と呼ばれる学校があり、そこには毎年のように吹奏楽部を全国大会へと導く名顧問がいる。日本中の吹奏楽指導者にとっては、いわば「神」のような存在だ。

 そんな名顧問たちはいかに吹奏楽部という大所帯をまとめ、モチベーションを高めて、プロも唸る音楽を作り出しているのだろうか? その卓越したマネジメント術・教育法に迫ってみたい。


『題名のない音楽会』にも出演

柏市立柏高校吹奏楽部(千葉)

「イチカシ」の愛称で呼ばれる市立柏高校は、全国でもっとも有名な学校のひとつだ。全日本吹奏楽コンクールに通算29回出場し、17回の金賞を受賞。マーチングなどその他の大会でも常にトップレベルの成績を残している。また、テレビ朝日『題名のない音楽会』など各種メディアからもひっぱりだこだ。

 この市立柏高校吹奏楽部をゼロから作り上げ、現在では200名をゆうに超える部員たちをまとめ上げているのが顧問の石田修一先生である。

 石田先生の指導法は類を見ない独特なものだ。通常、コンクールの曲を練習し始める場合は、冒頭から楽譜のとおりに(多少テンポをゆっくりにして)演奏していくものだ。しかし、市立柏高校では楽譜に出てくる音符を一つひとつ、最初から最後までロングトーン(長く伸ばして吹くこと)していく。つまり、曲を構成しているすべての音を、じっくり時間をかけて隅々まで確認・点検していくということだ。気の遠くなるような作業だが、イチカシの音作りに一切の妥協はない。自分が出すすべての音、他の楽器とのピッチやハーモニーなどを確認するのだ。

「無駄な音などひとつもない」という石田先生の徹底したポリシーがそこにはある。

 また、通常では曲を練習していく際、楽器ごとに分かれて「パート練習」を行うのだが、市立柏高校では楽譜の特定の箇所で同じ音やフレーズを吹く楽器が集まる「パーツ練習」をする。パーツはいくつも存在するため、分刻みでスケジュールが決められており、部員たちは自分が担当するパーツの練習場所へどんどん移動しながら練習していく。

 一音一音、あるいは、いくつものパーツで練習したものを、最終的に石田先生が合奏という形で組み立てていく。先生はこういった練習法をトヨタなど日本が誇る自動車製造の工程をヒントに編み出した。だからといって、音楽が機械的なものになるかというとそうではない。むしろ、情感あふれるロマンティックな演奏は市立柏高校の得意としているところだ。

 妥協のない徹底した練習をベースとしているからこそ、より人間らしさや思いが引き立つ演奏ができるのである。


書籍にまでなった告別式の演奏

船橋市立船橋高校吹奏楽部(千葉)

 サッカー部や野球部などが有名な「市船」こと市立船橋高校は、実は吹奏楽部も強豪である。顧問の高橋健一先生は元サラリーマンで、吹奏楽や音楽の経験がないまま中学校の教員になり(担当教科は国語)、たまたま吹奏楽部顧問になったことから吹奏楽の世界にのめり込んでいったという異色の経歴の持ち主。2001年から市船で勤務している。

 多くの高校の吹奏楽部は4月に新入部員を受け入れて、春は基礎を高め、5月ごろから吹奏楽コンクールに向けて練習をスタートさせる。だが、市船では毎年6月に北海道で行われる”踊りの祭典”・YOSAKOIソーラン祭りに「吹奏楽部」として出演する。それまではよさこいの練習(ダンス)が主であり、ほとんど楽器を触らない日もある。よさこいによってチームワークを高め、部員たちポジティブな姿勢にするのがその狙いだ。吹奏楽界の「異端児」である高橋先生だからこそできる型破りな活動だ。

 また、「部活ノート」も活用している。

 部員全員が部活用のノートを持ち、日々の練習で感じたことなどを記して毎週高橋先生に提出。先生はそれをすべてチェックし、自身で感じたことはプリントにして部員たちに配る。約150人の部員がいる市船で全員のノートに目を通すのは大変な作業だが、部員たちの気持ちや問題を把握し、即座に対処するには最良の方法だと考えているからだ。

 部活ノートを書くことが促すのは、部員たちが「とことん自分自身と向き合う」こと。高校生たちはとかくまわりの目を気にしたり、他者を批判したりしがちだが(大人も同じであるが)、高橋先生は「そんなときは、ベクトルを自分自身に向けろ。自分と向き合い続けた末に生まれるのが“自信"だ」というメッセージを部員たちに発信し続けている。

 こういった指導の結果、市船は吹奏楽コンクールやマーチングコンテストで優れた成績を収めているだけでなく、人間的に成長した部員たちは卒業後も強い絆で結ばれることになる。

 2017年1月、市船吹奏楽部OBのひとり、浅野大義くんが20歳の若さでがんでこの世を去った。そのとき、告別式にはなんと市船の現役部員やOB・OGら約160人が集結。高橋先生の指揮で別れの演奏を行ったのだ。このことはテレビなどでも取り上げられた。詳しくは中井由梨子著『20歳のソウル』(小学館)をお読みいただきたいが、そのような奇跡の告別式が実現したのも市立船橋高校吹奏楽部だからこそと言えるだろう。


究極の自主性を重んじるイチローの母校

愛知工業大学名電高校吹奏楽部(愛知)

 イチローの母校として知られる愛工大名電。吹奏楽部は全日本吹奏楽コンクール・高校の部に最多出場している。部員は約180人だ。

 顧問の伊藤宏樹先生は、とにかく自主性と部員同士のコミュニケーションを大切にしている。合奏練習の際、一般的には顧問(=指揮者)が「ここはもっとこう演奏しなさい」といった指示を与える。もちろん、愛工大名電でも伊藤先生が指示することはあるが、合奏が止まると部員たちはすぐに隣りにいる他の部員と「ここはこうしよう」と自主的に相談し合う。あるいは、テンポやリズムが難しいところでは、隣にいる部員が奏者の肩を叩いてテンポをとり、演奏が止まったところでアドバイスをする。

 先輩も後輩も関係なしに指摘し合うのがポイントだ。「音楽の前にみな平等」「隣にいる人を先生だと思え」が伊藤先生のポリシーなのだ。180人という部員たちを顧問ひとりで引っ張っていくのは難しい。だからこそ、大所帯に自主性が必要なのだが、部員たちもお互いにアドバイスし合うことで、注意深く演奏を聴いたり考えを言葉に変換したりするトレーニングになる。

 部活動を続ける中では様々な問題が起きる。無断欠席する部員、まわりと衝突する部員、退部を申し出てくる部員・・・。そんなときも伊藤先生は部長・副部長などを中心に他の部員たちを相手のところへ会いにいかせる。当の部員を責めたり反省をさせたりするのではなく、「こんな事態になったのは、部全体に何か問題があったからかもしれない」という気持ちで接し、相手の意見や思いに耳を傾けるためだ。すると、退部しかけていた部員が戻ってきたり、部の雰囲気や運営が改善されたりする。

 徹底したコミュニケーションによって音楽もより良いものになり、それが全国大会での成績に結びついているのだ。

*  *  *

 今回は代表的な3つの吹奏楽部の指導法をご紹介したが、全国には他にもまだ多くの優れた指導者が存在している。思春期の高校生の大集団をマネジメントする手腕、人間的・音楽的な成長を促す方法は見事であり、それは最終的なアウトプットの「音楽」の素晴らしさによって証明されている。

 機会があれば、ぜひコンクールやコンサート、あるいはCDや動画配信サイトなどでこれらの高校吹奏楽部の演奏に触れていただきたい。なお、筆者がパーソナリティを務めるインターネットラジオ『Bravo Brass 〜ブラバンピープル集まれ!オザワ部長のLet's吹奏楽部〜』でも、毎週土曜の夜10時から高校生やプロの演奏を多数お届けしている。一度耳を傾けていただければ幸いだ。

筆者:オザワ部長

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