アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?

2024年10月23日(水)4時0分 JBpress

「営業は断られてから始まる」と言われる。だが、話術だけで成約に導けるほど甘くはなく、1度成功したアプローチが2度通用する保証もない。「買う・買わない」の決定権を相手が握る中、営業担当にできることは何か、すべきことは何なのか? 本連載では、日本一の営業成績を認められ、初めて地方ボトラーから日本コカ・コーラへの出向を果たした山岡彰彦氏の『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(山岡彰彦著/講談社+α新書)から、内容の一部を抜粋・再編集。顧客視点や組織力の大切さに気付いていく学びの足跡をたどる。

 第4回は、日本コカ・コーラに出向後、外資系企業の生産性がなぜ高いのかを理解した際のエピソードを紹介する。

<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(本稿)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

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一度決まったことを蒸し返さない

 これまで多くの会議に出て感じていたことですが、1つの取り決めを進める際、最初に決めていた大きな枠組みに対して、細かな話に入った段階で、最初の枠組みに戻って、話を蒸し返す人が出てくることがあります。

 そうなると議事が上手く進まず、訳がわからなくなったり、なんとなく曖昧な結論で終わったりすることが少なくありません。

 ところが、日本コカ・コーラ社の会議ではこういった場面に遭遇することは稀でした。会議で合意がとれたものに関しては、そこに戻ることはなく、それを傘とした各論で自分たちの考えを出し合い、意見をぶつけ合うのです。口論のようになったりすることはありますが、各論から総論に戻るようなことはありません。

 その日は朝から会議です。会議の目的は次回の営業担当者会議でどういうテーマを取り上げるのかということです。最後に2つのテーマに絞られ、散々意見を出し合ったあと東阪名(東京・大阪・名古屋)の軸で営業施策を取り上げることに決まりました。

 もう1つの各地の施策を取り上げるテーマも捨てがたいのですが、明確なテーマを決めるのが目的なので1つに絞ります。たとえ49%対51%の支持の違いでも、一度51%でいくと決まれば、以降は49%の話は一切ありません。51%をいかに上手く進めるのか、それをどうするのかに全員が集中します。

 会議を終えて、隣に座っていた山本さんに話しかけます。

「ここでの会議は本当に結論がはっきりと出るんですね。私がいままで出ていた会議では、これほどきちんと合意がとれることはなかったので、ちょっと驚きです」

 山本さんは普通のことのように答えます。

「会議でも何でも同じで、最初にその場の目的、つまり何を決めるのかを全員に伝え、それに向かって話が進むよね。一度、大枠が決まれば、それに沿って話をするのは当然と言えば当然。ここは自分の考えを出し合う場であるけど、みんなで目的を達成させる場だからね。他のことはよくわからないけど、結構、曖昧な結論になってしまう会議をやっていると聞いたことはあるよ。でも、それじゃ、みんなの時間を奪うだけの場になってしまうでしょ」

 私はそういった場を何度も経験してきました。さらに山本さんが続けます。

「よく会議に出て、何も発言せずにいて、会議が終わってから、あれはどうだとか、こういうことが抜けているなどと言う人がいるでしょう。そういう人のことをここでは『臆病者』と呼ぶからね」

 なんとも厳しい言葉ですが、確かに何も発言しなくては貢献度ゼロ。会議が終わってから、あれこれ言ったところで何の意味もありません。せっかくの結論に水を差し、話を進めていた人の気分を損なうことになるだけです。

 会議だけではありません。2つのうち、どちらにすれば良いのか迷う場面には毎日のように遭遇します。でも自分が一方に行くと決めたら、それをいかに進めるかに集中しないと、ものごとを具現化することはできません。営業現場でも小さなことから大きなことまで、同じことが起こり、何らかの意思決定が要求されます。

 一度決まったことは蒸し返さない。その決定に基づいてどう行動するのか。後ろに戻っていたのでは目的は達成されません。基本的なことに改めて気づかされます。


10分で考える

 外資系企業の上司の下で働くようになってから驚いたことの1つは、仕事におけるスピード感の違いです。

「これについてアイディアを考えて欲しいんだけど、10分待っているから考えを聞かせてくれない?」

 これも藤野マネジャーからのリクエストです。

「え、じゅ、10分ですか」

 いままでこういった場面では、急いでいる状況であっても、明日までに考えてきてくれと言われるのが普通でした。書面でまとめて提出する場合には2〜3日程度の猶予があったものです。

 ところが、藤野さんから要求された時間はわずか10分です。とてもまともなものが出せるとは思えません。しかし、何らかの考えを形にして出さなければなりません。

 短い時間にアイディアを絞り出し、ほとんど殴り書きのような文字で考えをまとめます。とても社内で提出する書面とは言えない代物ですが、私が10分でできるものはこれで精一杯です。ところが藤野さんは私が出したアイディアを丁寧に読んでいきます。

 急いで書いた私の文字はところどころに判読できない箇所があり、彼女はその都度、私に質問します。以前の上司であれば「なんだ、この雑なレポートは」と叱り飛ばされるところですが、そのあたりはまったく意に介さない様子です。

 一通り目を通した彼女がおもむろに「この部分は面白いけど、この箇所はもう少し工夫が要るわね」などと指摘します。ちゃんと目を通して、ポイントを私に伝えてきます。

「承知しました。わずか10分なので、きれいにまとめることができませんでした。以前なら翌日までとか、もっと時間をいただいていました。作り直しましょうか」

「作り直す必要はありません。10分という時間はわずかなんかじゃないの。大事なのは集中して、いかに仕事の濃度を上げるかということ。確かにきれいなレポートが必要な時もあるけど、こういったものはそうでなくても全然構わない。要求しているのはそんなことじゃないの。集中して出したアイディアが欲しいの。そこのところがわかっていないと、無駄な仕事に時間を使うことになるからね。ここではそんな生産性が低いようなことをしていると持たないわよ」

 藤野さんは私が渡した紙を持って、さっさと自分の席に戻っていきました。

 日本人は勤勉だとよく言われてきました。それまで、私が働いてきた職場でもほとんどの人が遅くまで一生懸命に働いていました。もちろんそれは大切なことだと思いますが、先進国との比較では、日本の生産性はずっと低いままで推移しています。

 その原因の1つが、いま、彼女に言われたことのように思えました。彼女が言った「集中して、自分の仕事の時間を大切にする」ことができているのか、改めて考えさせられます。

 場面に応じた仕事をする。この場合であれば提出書類はきれいでなくても構わない。なぜなら要求しているのはそこではないから。遅くまで働いていると「頑張っているね」と言われることもありましたが、それまでの自分の仕事を振り返ってみると、結構、無駄な仕事を自分でつくりだしていたのではないかと思います。

<連載ラインアップ>
■第1回 「コカ・コーラを日本一売った男」が、上司のひと言で気づいた新規開拓のコツとは?
■第2回 持てる資産を全て生かせ! 日本コカ・コーラのアメリカ人副社長から学んだ「組織営業」の極意とは?
■第3回 日本コカ・コーラのセールスコンテストで日本一をとった男が、「社内営業」の大切さを知った“長老”の苦言とは
■第4回 アイデアは10分で出す、日本コカ・コーラの上司から学んだ仕事をスピーディに進めるための原則とは?(本稿)
■第5回 日本コカ・コーラで学んだ、仕事の成否を大きく左右する「6つのステップ」とは?
■第6回 組織の機能を使い切るには? 四国コカ・コーラ ボトリングで気付いたシンプルな「組織営業」の基本(11月6日公開)

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筆者:山岡 彰彦

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