東京モーターショー"神プレゼン"社長ベスト3

10月30日(水)6時15分 プレジデント社

出展した主な自動車メーカー(東京モーターショーのウェブページ)

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2年に1度の東京モーターショーが開催中だ。一般公開に先立つプレスデーで、自動車メーカー20社のトップのプレゼンテーションを聞いたコミュニケーションストラテジストの岡本純子氏は「ステージ上を動き回る『ジョブズ風プレゼン』をする企業が一気に増えた。そのなかでもベスト3に挙げたい企業がある」という——。


出展した主な自動車メーカー(東京モーターショーのウェブページ)

■東京モーターショー“恥をさらせる”社長のプレゼンが最高なワケ


東京モーターショーが10月24日に開幕した(11月4日まで)。「出展社や入場者が減り、じり貧」といった声も聞かれるが、日本の基幹産業である自動車業界の「今」を見る絶好の機会であると同時に、各社トップの渾身のプレゼンを観察できる貴重な場でもある。


その現場で感じたのは、日本のエグゼクティブのプレゼンにも、確実にグローバルの潮流が押し寄せているということだ。今回はモーターショーに見る「世界水準のプレゼンの極意」について焦点をあてつつ、筆者の独断と偏見によるベストプレゼンターをご紹介したい。



■大手メーカー8社のうち7社が「ジョブズ風プレゼン」


筆者はエグゼクティブのコミュニケーションコーチングを生業とし、カンファレンスや見本市をのぞいては、トップの登壇をチェックして楽しむ大のプレゼンマニアである。特に楽しみなのが、2年に1度のこの東京モーターショーだ。


今回、コーチングの仕事で関わらせていただいたこともあり、10月23、24日のプレスデーには、足を棒にして、ほぼ全社のプレゼンを踏破した。


日本では、「結論→理由→事例→結論」「課題→原因→解決法→効果」「ポイントは3つ」など「型」を中心としたプレゼンのノウハウが数多く出回っている。しかし、最も大切なデリバリー(どう伝えるか)のスキルはまだまだ浸透していないのが現状だ。



写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

このため日本人のプレゼンレベルは世界的に見れば、決して高いとはいえない。前々回、前回のモーターショーでも、海外と日本のエグゼクティブの「プレゼン力」には大きな差が見られた。ただ、今回、その差がかなり縮まっているように感じた。


モーターショーでのプレゼンスタイルは、演台の後ろで原稿を読み上げるだけの「教壇型プレゼン」と、ステージ上を動き回りながら、身体全体を使って表現する「ジョブズ風(もしくはTED風)プレゼン」の2つに分けられる。


回を重ねるごとに「教壇型プレゼン」はどんどん減り、今回は見て回った自動車及び部品メーカー20社中8社と初めて少数派に回った。いわゆる大手8社と言われるメーカーでは、実に7社が「ジョブズ風プレゼン」と一気に欧米流が主流になっている。


別に、「教壇型」が悪いということではない。ただ、「演台」が壁となって、聴衆との「空気感」の共有や動きの妨げになり、話し手のエネルギーを届けにくい。だからこそ、アップルやグーグルはじめ、グローバル企業のプレゼンでは、話し手がまるで俳優やミュージシャンのようにステージ上を動き回るパフォーマンススタイルがデフォルトとなっている。


しかし、「教壇型プレゼン」から「ジョブズ風プレゼン」への移行は、実はかなりハードルが高い。演台という「盾」の向こう側で、原稿を読み上げるのと、表情やジェスチャーをつけながら、聴衆という「見知らぬ人々」の前に全身をさらし、その視線を浴びるのとでは、プレッシャーが段違いだからだ。


■初代「ジョブズ風プレゼン」はトヨタ自動車の豊田章男社長


日本の経営者として初めてこの「ジョブズ風プレゼン」への本格的な転身を図ったのが、トヨタ自動車の豊田章男社長だ。2011年、震災後初の東京モーターショーでのプレゼンで、両手を大きく広げて、「合言葉は、Fun to drive again! そしてNever give up! です」と叫び、松岡修造氏のようなパッション全開のスタイルを披露した。


しかし、当時、自動車業界の評判は決して芳しいものではなく、「やりすぎ」「わざとらしい」「あの人だから」という冷やかな声も多かった。



■「体当たりのパッションプレゼン」の3つの極意とは


あれから8年。各社は、豊田社長が先陣を切った「体当たりのパッションプレゼン」のスタイルへと舵を切っている。その背景には、そうせざるを得ない時代の流れがある。


ソーシャルメディアの隆盛とともに、プレス、メディアという目の前の「車オタク」にレクチャーをする時代から、動画を介して全世界に発信する場へと意義づけが変わってきている。実際に、プレゼン動画をウェブ上で公開する企業も増えており、もはや「プレス限定ブリーフィング」という名称にそぐわない全ステークホルダー向けのコンテンツとなりつつある。


その流れの先にあるのが、グローバルプレゼンの極意の1つ目の「エンタメ化」である。


今までのように、言葉で説明する、教育するといった堅苦しいプレゼンではなく、楽しませる、そして聴衆を巻き込むようなコンテンツへ、つまり、「Explain/EducateからEntertain/Engageへ」という変化の流れだ。


そのシフトの裏には、ネット上に情報があまたあふれる時代に、退屈な「講義」では、耳目を集めることができないし、ファンを増やしていくことはできないという企業側の気づきがある。


「プレゼンやスピーチはね、『フェス』なんですよ」



写真=iStock.com/toxawww
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/toxawww

安倍晋三首相のスピーチライターを務める谷口智彦内閣官房参与が筆者にこう話してくれたことがある。人は感情で動く生き物。その五感を刺激し、楽しませ、相手を喜ばせてなんぼのものであるということだ。相手の忍耐を試すかのように、「自分が伝えたいこと」だけをとうとうと「朗読」するプレゼンはやるだけ無駄なのである。


■「つまらないプレゼンター」ビル・ゲイツの変貌


2つ目の極意は「型を破る」ことだ。


前述のように「型」を重視するのが日本スタイルであるが、想定内のプレゼンほどつまらないものはない。予想を裏切る、驚きを呼ぶプレゼンほど、人々の記憶に残りやすい。例えば、かつては、つまらないプレゼンターとして有名だったビル・ゲイツ。近年では、マラリアの啓発について話す際に、ステージの上で瓶の蓋を開け、中に入れていた「蚊」を放したり、新しいトイレ技術についての話で、「うんち」を容器に入れて、観客に見せたりと、驚きを演出するプレゼンが話題をさらっている。


「秘すれば花」という言葉がある。能の大家、世阿弥の言葉で、一般的には「余計なことは何も言わないほうがいい」と解釈をされがちだが、これは実は全く逆。この言葉の真意は「人が舞台で発見する『珍しさ』」、この感動が花であり『面白さ』である。意外性こそが感動の源だ」ということである。


想定内のプレゼンの中には「花」も「驚き」もない。まるで舞台を見せるように、山場を作り、あっと観客を驚かせよう、ということだ。プレゼンにも、「型」を破り、「予定調和」を崩す度胸が必要とされる時代なのである。



■人気プレゼンの文章の約15%が質問や問いかけ


3つ目の極意は「対話」だ。残念ながら、今モーターショーでのプレゼンでも、自分が話したいことだけを一方的に話すモノローグスタイルが99%を占めたが、聴衆を巻き込む「対話性」を強く意識したものも、散見された。豊田社長のプレゼンでも、「いかがでしょうか」「ワクワクしませんか」という問いかけがいくつも入っていた。



写真=AP/アフロ
東京モーターショー2019 - 写真=AP/アフロ

あるアメリカ人ジャーナリストがTED TALKの最も人気のある上位25のプレゼンテーションを分析したところ、3つの特徴があったという。


笑いをとっていること、拍手や歓声を集めていたこと、そして、問いかけが多いこと。


「?」の数を数えたところ、579あり、ピリオド、つまり日本語の「。」は3910だった。「。」で終わらせる文が6に対し、「?」で終わる質問や問いかけを1、つまり約15%の割合で、質問や問いかけを入れるといい、ということだ。聴衆を置き去りにせず、まるで会話や対話をしているようなプレゼンがグローバルスタイルということだ。


■「2019東京モーターショー」プレゼンテーションベスト3発表


最後に、筆者が独断と偏見で選んだ「2019東京モーターショー」のプレゼンテーションベスト3をご紹介しよう。ランキングは、筆者独自の評価メソッドに基づき、声やボディランゲージ、演出やメッセージ性、個性やエネルギーなどといった指標を数値化して算出した。


第3位:

ホンダ・八郷隆弘社長

スピード感、ジェスチャー、柔らかい表情、抑揚など抜群の安定感。


第2位:

日野自動車・下義生社長

スクリーンに登場する未来の社長と今の社長との対話というユニークな趣向の演出。豊かな表情とジェスチャーで若々しさと躍動感が伝わる。



第I位:

トヨタ自動車・豊田章男社長

相変わらずの突き抜け感。「道化」に徹し、高いエネルギーで、未来社会のワクワクを体現する。



敢闘賞:

マツダの竹内都美子主査

数少ない女性のプレゼンターとして登場。堂々と、そして情感をこめたパフォーマンスで見事に大役を果たした。


いかがだろうか。たかがプレゼン、されどプレゼン。トップ自ら体を張って、「恥をさらす」覚悟があるかどうか。そこから見えてくるのは社風であり、風通しのよさであり、変革の機運なのである。



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岡本 純子(おかもと・じゅんこ)

コミュニケーション・ストラテジスト

早稲田大学政治経済学部卒、英ケンブリッジ大学大学院国際関係学修士、元・米マサチューセッツ工科大学比較メディア学客員研究員。大学卒業後、読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションコンサルタントを経て、現在、株式会社グローコム代表取締役社長(

http://glocomm.co.jp/

)。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリストとして、グローバルな最先端のノウハウやスキルをもとにしたリーダーシップ人材育成・研修、企業PRのコンサルティングを手がける。1000人近い社長、企業幹部のプレゼンテーション・スピーチなどのコミュニケーションコーチングを手がけ、「オジサン」観察に励む。その経験をもとに、「オジサン」の「コミュ力」改善や「孤独にならない生き方」探求をライフワークとしている。

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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)

プレジデント社

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