都市部も農村部も「トランプ優位」…歴史的な大接戦後も確実に残る性別・人種・貧富の差による「分断と遺恨」

2024年11月5日(火)19時15分 プレジデント社

米大統領選の最終盤で、支持を訴える民主党候補ハリス副大統領(左)と共和党候補トランプ前大統領=2024年11月3日 - 写真提供=共同通信社

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日本時間の11月5日20時から各州で順次、投票が始まる米大統領選(大勢判明するのは同6日午後以降)。統計データ分析家の本川裕さんは「各種調査を見ると性別・人種・貧富などハリス、トランプ両候補の支持層によって意見が真っ二つで、米国社会の深刻な分断状況を示している」という——。
写真提供=共同通信社
米大統領選の最終盤で、支持を訴える民主党候補ハリス副大統領(左)と共和党候補トランプ前大統領=2024年11月3日 - 写真提供=共同通信社

■ハリスvsトランプ 歴史的な大接戦を制するのはどちらか


4年に一度、夏季オリンピック開催の年に行われる米大統領選。2024年の米国大統領選の投開票が11月5日に迫った。直前の民主党のハリス候補、共和党のトランプ候補への支持率がそれぞれ48.3%、48.4%と伝えられるなど両候補は歴史的な大接戦を演じている。


両候補が接戦である点ばかりでなく、大統領選をめぐってあらわになっている両候補の支持層の間の亀裂が米国社会の分断状況を示すものとして注目されている。


今回は、こうした点について、大統領選における民主党・保守党支持層の違いを明らかにしている調査結果を見ながら、確認してみよう。


ピューリサーチセンターは8月末から9月にかけてハリス、トランプ両候補が打ち出している政策が種々の国民層にどう評価されているかという点から両候補の支持層を明らかにする調査を実施しているので、その結果を図表1に示した。


筆者作成

調査対象者に対して、両候補について支持しているかどうかを直接聞くのではなく、両候補の政策によって状況が「改善すると思うのか」それとも「悪化すると思うのか」を選ばせることによって間接的に支持か不支持かを判断しているところがミソである。有権者の個人的な好悪ではなく、あくまで政策への評価を調べようとしているのである。


図をパッと見て、米国大統領選におけるハリス、トランプ両大統領候補については支持層の違いがあまりに対照的な点が注目される。男女の違いが最も大きいが、白人vs非白人、富裕層vs貧困層、退役軍人vs労働組合員なども目立っている。


図は、カマラ候補の政策をプラスに評価する階層の回答から、逆にトランプ候補の政策をプラスに評価する階層の回答へと上から下に並べている。両候補の政策による「改善」が「悪化」を上回っている階層をそれぞれの候補について矢印で示した。


この図の特徴としては、まず、目立っているのは女性が一番上に位置し、男性が下から3番目に位置するというように遠く離れている点である(9行差)。次に、黒人と白人が8行差、貧困層と富裕層が7行差で距離が離れている。一方、都市部住民と農村部住民は1行差と距離が短く、都市部のほうが農村部よりカマラ候補支持に傾いているもののその差は小さいことが分かる。


男女、人種、貧富といった国民の基本属性でカマラ候補対トランプ候補の支持率差が大きくなっていることが如実である。男女はもっとも普遍的な属性差であり、夫婦で意見が対立している場合も多く、国民の分断はそれだけ深刻だとも言える。


■毀誉褒貶が激しいのはトランプ候補


もうひとつ気づくのは、トランプ候補のほうが支持層と不支持層とで、グレーで示した「状況が悪化」の構成比が大きく変わる点である。


同値は、女性は46%、貧困層は45%とかなりの割合である一方で、白人は13%、富裕層は5%とかなり小さい。ところがハリス候補の場合は「状況が悪化」の構成比が最大の農村部住民で39%、最小の女性や非白人で27%とせいぜい10%ポイント程度である。


トランプ候補は、階層によってはひどく不安がられているのに対して、ハリス候補の場合は、全体として、当選しても最悪のケースにはならないだろうと思われている。


それではトランプ候補よりハリス候補のほうが断然有利かというとそうでもない。住んでいる地域別の集計では「都市部住民」、「農村部住民」のどちらもハリス候補の場合は「状況が悪化」のほうが「状況が改善」を上回っており、トランプ候補はどちらも逆(「状況が改善」が「状況が悪化」を上回る)だから、米国全土ではトランプ候補のほうが、支持が大きいとも言えるのである。


なお、前々回2016年の大統領選でトランプ大統領誕生の引き金となったラストベルトの労働者層からの支持について、トランプ候補は再度支持を復活させようと必死である。


民主党のハリス候補は、学生時代にマクドナルドでバイトをしたといい、レジなどを担当したそうだ。これを「うそだ」とトランプ候補は決めつける。ハリス候補の約40年前の勤務記録が残っていないからだという。バイト経験で労働者層出身の苦労人をアピールするハリス候補に対し、庶民のふりをしているだけとトランプ候補はやや無理筋の理由まであげて批判している訳であり、当て付けか、マクドナルドのドライブスルーで接客するパフォーマンスまで見せ、日本のテレビでも報じられた。世界の最高政治職とでもいうべき米大統領選がこんな笑劇で左右されると当事者が考えているとしたら不思議な気がする。


■米国のマスメディア報道からでは大統領選の実態把握は難しい


日本の報道は米国マスメディアの報道を情報源としている場合が多いが、それでは実態が正しく把握できない可能性が高い。


筆者作成

図表2にはギャラップ社が調査しているマスメディア信頼度の推移を民主党、共和党、独立系ごとに示した。米国国民自体、特に共和党支持層は、マスメディア報道が偏向しているとしてその信頼度に疑問を投げかけるようになっていることが分かる。


実際、民主党のハリス候補を応援する方向でマスメディア報道が偏っている可能性があると同時に、共和党支持層がマスメディアからの取材に対してまじめに対応しないために実態が明らかにならないという側面もあろう。


こうしたマスメディアに対する支持者層の間の見解の大きな相違をさらにトランプ候補は煽っている。11月3日の東部ペンシルバニア州での集会で、トランプ候補は、もし自分への狙撃の巻き添えで、みずからが「フェイクニュース」と決めつけている報道機関の関係者が銃撃されたとしても「気にしない」と述べ、これに対しハリス候補陣営は「暴力的な演説だ」と非難したという(東京新聞2024.11.5)。こうしたやりとりもマスメディアに対する共和党支持層の信頼度の異常な低さが背景になっていると考えられよう。


■両候補支持者の間の驚くほど大きな見解の相違


マスメディア報道への信頼度だけでなく、トランプ支持者とハリス支持者とでは、社会的なものへの価値観がおそろしくかけ離れている。ピューリサーチセンターは4月と8月に行った調査でこの点を明らかにしている(図表3参照)。


筆者作成

図には、文化、法、政策、外交などに関する10個の見解について、賛同する回答率をトランプ支持者とハリス支持者とで比較したデータを掲げた。


社会保障の維持や世界一の軍事力保持に賛同する見解はそれほど大きな回答率の差はないが(といっても後者は20%ポイントの差があるのであるが)、多くの見解で50%ポイントを超える回答率の差がある。


最もポイント差が大きいのは「法を破らず自分を守るのであれば銃をもつことは安全性を増す」という銃器保有に関する見解についてであり、賛同者はトランプ支持者89%と9割近いのに対してハリス支持者は18%と2割を切っている。


次にポイント差が大きいのは「政府にはすべての米国人に保健医療を提供する責任がある」という国民皆保険に関する見解であり、賛同者はハリス支持者91%と9割を超えているのに対してトランプ支持者は32%と3割程度である。


その他、奴隷制の影響、対外オープン(移民・アメリカファースト)、性転換、貧困層援助に関して50%ポイント以上の差が開いている。


米国大統領選をめぐっては最初にふれた顕著な支持層の違いだけでなく、こうした基本的価値観について国民の間の底深い亀裂があらわになっている。


大統領選の結果、いずれにせよどちらかに決まるのであるが、新大統領は、いったい、こうした深刻な米国社会の分断をどう折り合わせて行くのかと途方に暮れるのは遠くから観察している我々よりも当の米国人じたいであろう。


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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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