視聴率が証明した残酷な格差…ファッション好き20~40代独身女性がDeNAよりドジャースの男たちに虜のワケ
2024年11月6日(水)10時15分 プレジデント社
横浜DeNAベイスターズ(以下、DeNA)が26年ぶり3度目の日本一に上り詰めた。レギュラーシーズン3位からセ・リーグを制覇し、格上とされたソフトバンクにも2連敗からの4連勝という下剋上は見事というほかない。
大いに祝福すべきことだが、NPBの日本シリーズ第1戦がMLBのワールドシリーズ(以下WS、ドジャース×ヤンキース)第1戦と同じ10月26日に実施されたことで、両国プロ野球の格差を強烈に印象付ける皮肉な結果となった。
両シリーズの開始は同日の午前と夜、生中継で見比べるとさまざま面が段違いとの指摘が相次いだ。テレビ中継の視聴率やSNSでのBuzzなどにもそれは表れ、日本のプロ野球が大きく後れをとっていることが浮き彫りになってしまったのである。
■テレビ中継での差
DeNAと、WSを制した大谷翔平率いるドジャース。両チームのテレビ中継はどう見られたのか。第1戦を比較すると、MLBの地上波中継は、土曜午前。一方、DeNAvsソフトバンクは夕方から夜にかけての中継だった。
スイッチメディア「TVAL」データより、筆者作成
この日は休みのため、両試合の視聴環境に大差がなかった。もちろん夜のほうがテレビを見る人は多かったが、それでもWS中継は日本シリーズの1.2倍超の視聴率となった。
では、どの層がMLBをより見たのか。50歳より上と下の世代で大きな違いがあった。
49歳以下では、MTとM1(男性13〜34歳)はNPBが上。M2(男性35〜49歳)や、FT〜F2(女性13〜49歳)ではほぼ互角の勝負だった。
ところが、男女とも3〜4層(50歳以上)はMLBが上で、65歳以上だと1.8倍の大差だった。かつて巨人戦ナイターをよく見ていた中高年ほど、NPBでなくMLBに魅せられた格好となった。
性別・年齢以外の属性でもNPNよりMLBをより見たという層が多い。
例えば「国際問題に関心あり」層はある程度わかるとして、「企業に勤める役員・管理職」層はNPBの1.35倍となった。野球を楽しむのに加え、日米野球ビジネスのあり方に注目したのかもしれない。
また、「テレビドラマ好き」層でも1.4倍の差となった。8回裏に大谷の2塁打から同点に追いついて延長戦に突入したものの、10回表に1点勝ち越される。しかしその裏、足を怪我しているフリーマンがWS史上初の逆転サヨナラ満塁ホームランを放った。この劇的な展開が、ドラマ好きにはたまらなかったに違いない。
さらに突出していたのは「ファッション好き」層の20〜40代独身女性。2.3倍と格差が最大となったが、ゲーム展開の面白さ以外に、球場の華やかな雰囲気や選手のスター性など、日米の違いを敏感に感じ取っていたようだ。
もう一つ特筆すべきは、午前に生中継されたMLBのダイジェスト放送だ。NPBの生中継と同じ時間帯に編成されたが、再放送は日本シリーズ中継の6割以上の数字を稼いだ。再放送が上回った層も目立ち、ライブのNPBより、結果がわかっているMLBを選択した人が多かったのだ。
■SNSでの差
こうした差はSNSにも表れた。
Yahoo! JAPANのリアルタイム検索数で比べると、この日の「ドジャース」が出てくるポスト数は5万超。一方、日本シリーズ初戦の勝者である「ソフトバンクホークス」は1万5000にとどまった。
活躍した選手では、差はより開く。サヨナラ満塁本塁打を打った「フリーマン」6万超、「大谷翔平」4万3000に対して、NPBはどうだっかと言えば、投手ながらプロ初打点となる2点タイムリーヒットを打ち、かつ7回を投げ無失点に抑えた「有原航平」は1270止まりだった。他に日本シリーズの両チームでは、主力にもかかわらず数百どまりのプレイヤーが大半だった。
SNSの投稿内容にも、日米の差を指摘するものが多い。
「朝からMLBで夜はNPBだと、ほんまにあまりにもレベル差があって」
「(投球・打球・送球の速度など)素人でも見たらわかる部分がMLBはっきり上やからなあ。まったく同じ日程だと残酷」
「今のMLBってNPBとは完全に別競技だからねぇ……」
ちなみに、ドジャースとDeNAの優勝が決まった瞬間だと、様子は少し違った。
「ドジャース」の10万超に対して、「ベイスターズ」は12万6000と上回った(ただしMLBが平日お昼で、NPBは日曜夜と条件に違いがあったことを付け加えておく)。
さらに優勝を決めた試合の個別選手でも、格差は極めて大きい。
「大谷」が5万超、「山本由伸」「フリーマン」「ジャッジ」など主力選手が軒並み1万を超えた。一方の日本シリーズでは、最終戦で活躍した「筒香嘉智」が3000弱、シリーズMVPの「桑原将志」も2万5000だった。スター選手の存在感に雲泥の差があることがわかる。
写真提供=共同通信社
ワールドシリーズ進出を決め、シャンパンファイトでロバーツ監督(左)と喜ぶ米大リーグ、ドジャースの大谷翔平=2024年10月20日、ロサンゼルス - 写真提供=共同通信社
■市場規模の差
実はMLBとNPBの市場規模は90年代だとほぼ同じだった。
1995年時点では両者とも1500億〜1600億円台で拮抗していたが、四半世紀後でNPBは2割増にとどまり、MLBは一ケタ増やして日米差を9倍に広げた。
この差は選手の年俸にも反映している。
NPBでの歴代最高は一ケタ億円だが、ヤンキースのジャッジは約60億円。今年ドジャースに移籍した大谷の契約金は、10年で7億ドル(約1067億円)と発表された。各球団が支払う選手の総年俸額も、10倍ほどの差ができている。
なぜ、四半世紀でここまで差が広がったのか。
厳しい競争の中で改革を進めてきたか否かが最大の要因と言えよう。米国ではアメフト・バスケットボール・アイスホッケー・野球と4大スポーツがファン獲得にしのぎを削ってきた。その中でMLBは、テレビ放映権の高額化とグローバル市場の開拓で総売上の拡大を図ってきた。
具体的にはリーグ全体の価値最大化だ。
MLBは各チーム共存共栄のため、公平な立場のコミッショナーに大きな権限を与えた。テレビ放映権が個別チームごとに行われるNPBと異なり、独占的に交渉することで収入増を図り、各チームに配分する方式を採用した。
テレビ中継だけでなく、デジタル配信にも着手した。これもMLBの事業とし、利益を各球団に還元している。この全試合世界配信の試みは、グローバル市場の開拓にもつながった。
MLBの各球団には外国人選手に関する制限はない。その点、NPBには一軍登録5人まで、ベンチ入りは4人までと規制されている。制限のないMLBには当然各国から才能が集まり、世界中の野球ファンが注目する最高のリーグに成長した。
改めるに遅すぎることはない
すべてを単純比較できないが、こうした改革の影響もあって、日米格差は決定的となった。
要はファンを増やし単価を上げ、掛け算の結果が急膨張をもたらしたのである。今回のWSのチケットが、安くても10万円超で最高値は数百万円という数字をみても明らかだ。
では、NPBは今からでも、MLBを追って進化できるだろうか。
答えはもちろんイエスだ。2006年から3年ごとに開催されるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、日本代表は5回中3回優勝している。代表別通算成績でも、30勝8敗・勝率.789は断トツだ。
選手のレベルは世界の中でも超一級品である。後は野球ビジネスのやり方をMLBのように進化させることだろう。2004年の近鉄とオリックスの合併構想から端を発した「プロ野球再編問題」の時に、一球団が多数意見を封じる出来事があった。
NPBの最高議決機関が、コミッショナーではなく12球団のオーナー会議であり、“声の大きい”球団の意見が優先され全体最適化を図れない構造となっていることが最大の問題だとメディアは報じたが、その構造は現在も解消されたとは言えない。
今回も、NPBはフジの取材パス券を剥奪した。毎日新聞は、NPB幹部が「スポンサーを含めて、日本の野球界全体で日本一を決める試合を行っている裏に、わざわざワールドシリーズの番組をぶつけてくるのはおかしい」と語ったと報じている。
MLBがアメフトやバスケットなどとの競争を避けずに努力したのと対照的で、いかにも狭量で強権的という印象はぬぐえない。
お山の大将の利益が優先される姿勢。そうこうしているうちに日米の格差は拡大するばかりだ。このままではNPBがMLBの二軍として、優れた選手の供給機関という立ち位置に拍車をかけてしまいかねない。いや、すでにその傾向は否めない。
たまたま時期が重なった今回の日米頂上シリーズ。
両者の差を明確に認識できたことを奇貨として、ぜひNPBの進化に真剣に取り組んでもらいたい。
その際に大切なのは、時代の変化を拒まず、先端技術を巧みに取り入れ試合をショーアップする努力。MLBと並ぶワクワクするリーグへとNPBが改革に着手するのに遅すぎることはない。
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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)