米国議会が怒る“係留はしけ”状態の最新原子力空母

11月7日(木)6時0分 JBpress

建造中の最新鋭原子力空母CVN-78(写真:ハンチントン・インガルス社)

写真を拡大

(北村 淳:軍事社会学者)

 トランプ政権は、アメリカの安全保障上最優先の目的を「国際テロリスト集団との戦いに勝利すること」から「軍事大国との対決に打ち勝つこと」へと転換した。その国家戦略にしたがって米軍当局は主たる仮想敵を中国とロシアに設定し直し、新たな戦略の策定と、それを遂行するための組織や装備の見直しを推し進めている。

 しかしながら、オバマ政権下での国防予算大幅削減の影響はいまだに大きい。とりわけ建造にもメンテナンスにも莫大な予算と日時を擁する軍艦を運用しなければならない海軍は、355隻艦隊構築という法的バックアップを受けたとはいえ、国防戦略の抜本的転換への適合に苦闘しているのが現状だ。


連邦議会が危惧する空母戦力

 とりわけ問題になっているのは、米海軍が依然として主たる戦力とみなしている空母戦力に関してである。

 たとえば、アメリカ連邦議会では共和党・民主党を問わず、アメリカ海軍力の表看板とされている空母戦力が惨憺たる状況に陥りつつあることに対して、海軍首脳の責任が追及されている。

 連邦議会は予算割り当てを通して軍隊を制御する(いわゆるシビリアンコントロール)責務を負う。そのため連邦議会が、「空母建造やメンテナンスに莫大な国家予算を投入しているにもかかわらず、空母戦力が海軍の運用計画とはかけ離れた状態に陥っているのは、税金の大いなる浪費である」と財政的側面から海軍首脳を批判するのは当然である。

 連邦議会の海軍への批判はそれだけにとどまらない。現時点における米海軍空母戦力の有事即応状況は、アメリカの国防上重大な危機をもたらしかねないほど貧弱な状況であり、海軍が打ち出している運用計画や空母建造計画そのものを見直さねばならないのではないか──という軍事的側面からの海軍当局に対する追及も強まっている。


トラブル続きの最新鋭原子力空母

 連邦議会で取り上げられている空母問題の筆頭は、最新鋭原子力空母ジェラルド・R・フォード(CVN-78)の実戦配備が遅れに遅れている状況である。

 2017年7月に、それまで8年近くの年月をかけて建造された新型ジェラルド・R・フォード級原子力空母の1番艦ジェラルド・R・フォード(以下、CVN-78)が米海軍に引き渡された。当初の予定では、CVN-78は2020年中には実戦配備が開始されることになっていた。しかしながら、実戦配備に向けての各種テストが開始されると、様々な欠陥や問題点が噴出した。

 CVN-78には、電磁カタパルト式発艦装置をはじめとする多くの最新テクノロジーが盛り込まれている。そのため、運用に向けての各種テストにある程度の長時間が必要となることは予想されてはいた。ところが、実際に要した時間は予想以上だった。目玉装備である世界初の電磁カタパルト式航空機発艦装置、先進型航空機着艦制御装置、先進型兵器用エレベーター、デュアルバンドレーダーシステムなどに問題点が見つかった上、動力システムまで不調であったため、就役早々15カ月にわたる大規模メンテナンスが必要となった。

 ようやく長期にわたるメンテナンスが完了し、メンテナンス後初の海上テストを終えたCVN-78は、10月25日にニューポートニューズ造船所に無事帰還した。海軍当局は、CVN-78が抱える様々な問題点の解決は着実に進んでおり、海上テストにおいても「見事に高速ターンを成し遂げた」と、順調にメンテナンスが完了した旨を強調している。

 しかしながら、かねてよりトラブルが続いている先進型兵器用エレベーター11基のうち、作動するのはいまだに4基だけである。そのうち、実戦運用テストに合格したのは3基に留まっている。本年(2019年)1月、海軍首脳はトランプ大統領に対して、このエレベーターの不具合はメンテナンス後の海上テストまでには解消させると確約していた。しかし海軍はその約束を果たすことができなかった。

 空母に設置されている兵器用エレベーターは、艦載機が積載するミサイルや誘導爆弾や機銃弾などの兵器弾薬を格納庫から上部甲板に搬送するために用いられるエレベーターである。それらの兵器を戦闘機に装着するスピードは空母艦載機運用の死命を制すると言われている。このように重要な最新装置類が実戦運用可能になるまでには、いまだ数年にわたる各種テストが必要となる。


ショックテストの実施をためらう海軍首脳

 さらに連邦議会は、米海軍が大統領との約束が果たせなかったこと以上に、あることについて海軍首脳の姿勢に強い疑義を呈している。それは、新造軍艦を実戦配備するために課されている「ショックテスト」を、海軍がCVN-78で実施しようとしていないことに関してだ。

 ショックテストとは、軍艦の直近海中で大容量の爆薬を爆発させることにより、軍艦が過酷な戦闘状況でどの程度耐えうるのかを確認する大がかりな実地試験である。このテストではかなりの衝撃が軍艦を直撃するため、それなりのダメージが生ずることは避けられない。そのため、全ての米海軍軍艦に義務づけられてはいるものの、新型軍艦の場合同型軍艦が2〜3隻誕生してから実施されることが多い。

 しかし、海軍専門家たちの多くは、「CVN-78には多数の新機軸の装置が装着されているため、2番艦、3番艦を完成させる前に、それら新装置の戦闘適合性を確認する必要がある。したがってCVN-78でショックテストを実施することが不可欠である」と指摘しており、連邦議会もそのように海軍当局に要求している。

 これに対して海軍首脳はショックテストの実施をためらっている。そのような姿勢が、ますますトラブル続きのCVN-78に対する不信感を増大させているようだ。


CVN-78は1兆4000億円の「はしけ」?

 海軍当局によると、メンテナンス後の海上テストが完了した現時点において、CVN-78が実戦に投入可能になるのは2024年を待たねばならないとのことである。さらに、最新型の航空機発艦装置や航空機着艦装置には問題点があるために、海軍が鳴り物入りで調達を進めているF-35Cステルス艦上戦闘機の運用も不可能な状態である。

 このような状況であるため、連邦議会による海軍首脳に対する強い批判は続いている。

 下院軍事委員会の公聴会で、元海軍将校であった(海軍中佐、原子力空母やイージス駆逐艦に乗り込み、イージス巡洋艦アンツィオの副長も勤めた)エレイン・リューリア議員は、「130億ドル(およそ1兆4000億円)の係留はしけ」と、CVN-78およびCVN-78問題が米海軍空母戦力全体にもたらす悪影響を取り上げ、米海軍首脳の空母戦力に対する姿勢を強烈に批判した。彼女の専門的知識と分析に基づいた質問は、空母戦力問題の本質を突いていたため、海軍専門家の間では高く評価されている。

筆者:北村 淳

JBpress

「空母」をもっと詳しく

「空母」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ