予算ゼロから新規事業 連続「社内起業家」の軌跡

11月8日(木)13時12分 Forbes JAPAN

「非連続なところにイノベーションが起きる、と言われますが、飛んだ発想や自社の事業領域外の提案が受け入れてもらえない状況の連続でした」

こう語るのは、前職・現職合わせて7〜8年にわたって新規事業に携わるデンソー技術企画部の坪井聡一郎氏。

シリアルイントレプレナーとして数々の新規事業を立ち上げてきた特異な存在だが、「そもそも会社に新規事業創出活動への理解がない状況から物事を進めることがすごく大変で。理解がないから伝わらない、伝わらないから共感されない、という悪循環」でもがき苦しんできたという。

イントレプレナーに必要な3要素

いざ、自身が新規事業部門に拝命されたとする。その時皆さんは何から始めるだろうか? イノベーション関連のイベントに行き、インプットしたり、近しい立場の人々と情報交換することだろうか。それとも、イノベーション支援に従事している企業へのヒアリングだろうか?(筆者の会社もそのひとつだ)

どれも間違っていないが、坪井氏に聞いてみると、「インストラクション」「アイデア」「仲間づくり」の3つを挙げた。

インストラクションについては、時間をかけて教育することが大事だという。「前職では、段階を踏んで意思決定者に対して新規事業に対する理解を深めてもらうための活動を行いました。イノベーション理論のレクチャーから、リーンスタートアップやデザインシンキングなど手法についての情報発信、外部講師を招いたセミナーなどを1年半ほど続けました。人はすぐには変わりません。言い続けることが重要なのです」と坪井氏。

しかし同時に、「何がやりたいのか」というアイデアも当然持ち合わせている必要がある。それがないとイントレプレナーとしては難しい。坪井氏に言わせると「単なるお勉強になってしまうから」だ。

そしてもう一つ、切磋琢磨してくれる仲間づくりも欠かせない。「隣にいる人や同僚が共感してくれるよう働きかけること。若い世代は比較的新しいことに前向きです。巻き込みながら熱を広げていくことが必要です」。坪井氏自身は、活動当初のメンバーが社内外の有志でなかったため、土日等の業務時間外を使い地道に進めていたという。



出会いがさらなる出会いを呼ぶ

ある新規事業を進めていたときのこと、坪井氏に試練がのしかかる。業績悪化の影響を受け、割り当てられていた予算がカットされることになったのだ。

事業部をたたむ選択を余儀なくされそうだが、会社のジャッジは「予算を割り当てることはできない。代わりに時間をあげるから好きなことをやっていい」というもの。不幸中の幸いで続けられることにはなったものの、ふと気づくと、社内向けの説明資料を作ることに明け暮れていた。

「これではイノベーションは起きない」

坪井氏は、「その頃知りたかったのは、大手企業での事業の立ち上げ方や予算がないときの活動方法、上司への説得の仕方など。ネットや本には載っていない情報でした」

そこで坪井氏は行動に移す。外部の人に会って話を聞き、一つひとつイシューを蓄えていった。

「Give firstの精神の方が沢山いて、彼らのコミュニティで同じような悩みを持つ人と課題を共有することができました」

どうやるか、だけでなく、アイデアについても相談した。社内で新規事業を提案すると、近視眼で粗探しされてしまうこともあるが、その対策についてもアドバイスとしてもらえたという。

「同じ日本にいて、こんなにも考えも物の見方も違うのか」と驚くほどの衝撃をくれたのは、デンソーアイティーラボラトリ元代表取締役社長の平林裕司氏。多くの賢人を紹介してもらい、視野も視座が広がったという。いまデンソーに籍を置いているのも、この出会いがきっかけだ。

地道な継続が逆転を生む

予算ゼロは困難を生んだが、ポジティブな結果ももたらした。会社のバックアップなしでの新規事業立ち上げだ。

当時、坪井氏は、農業分野でカメラが扱われていないことに着目していた。食品の品質管理を画像処理システムを使っていた経験を活かし、様々なアプローチを考えていたが、予算がなくプロトタイプがなかなか作れない。社内にも農業の知見が少なく、「適正がない」という言葉で片付けられ苦しんでいた。

そんな折、農林水産省の「農業・食品産業技術総合研究機構」が「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業」の公募をしていることを知る。締切2週間を切っていたが、応募してみると採択され、委託研究として続ける機会を得た。この間に大学教授やJA、関連事業者などと話し合いながらブラッシュアップを続けた。

1年後、再び上司に提案するも、「ビジネスモデルが甘く、収益性がなっていない」と却下される。ほどなくして、今度は締切前日に、経済産業省主催の「始動 Next Innovator 2015」に応募。見事選出され、シリコンバレー訪問のチャンスを得た。

「現地で、世界的に名の知れたイノベーターから、ビジネスモデルに対するアドバイスがもらえてビルトアップされました」

この取り組みが新聞に載ると、社長や広報の目に止まり、会社のなかで注目を浴びるように。これまで情報を出す立場から一転、情報が集まるようになり、最終的に開発予算もリソースもついたという。

坪井氏は「セレンディピティみたいなもの。運がよかったです」と謙遜するが、どんな苦境に立たされても諦めず、目の前のことに真摯に取り組み、アンテナを張り巡らせていたからこその成果であることは、誰の目にも明らかだ。

予算獲得はイントレプレナーにかかっている

社内で新規事業を提案するにあたり、いくつか抑えておきたいポイントがある。中でも坪井氏は、「予算の伝え方」がカギだという。



「予算には、『意思を示すもの』『予測するもの』という2つのテーマがあります。当然嘘は良くありません。騙して通しても自分に降りかかるだけです。ただし、期待を持たせるためにどう話すかは、イントレプレナーの力量にかかっています」

ハードの場合は比較的売上予測がつくが、サービスでの新規事業はJカーブになりがち。いずれにしても、指数関数的にグロースする部分はイメージしづらいが、「未来はこうなります」「未来はこういうステップになります」と語る努力が必要だという。

現在、デンソーでMaas(Mobility as a service)領域を推し進める坪井氏は、プライベートで3年ほど、イノベーション創出支援拠点「大阪イノベーションハブ」の大企業イントレプレナーミートアッププログラムにてメンターを続けている。

「これまで助けてくれた人達へどのように恩返ししようか考えています。そのためにもこれからもイントレプレナーとして事業を立ち上げ、ミートアップの場もつくりたい。また、その人なりの新規事業を通し方みたいなものもサポートできればと思っています」

新規事業のチャンスや仕組みは、いまや多くの企業に存在する。デンソーでは、アイデア作品の企画・製作を通じてグループ社員の発想力や創造力の向上を目指す「デンソー夢卵(ムーラン)」という全世界規模のコンテストを2年に一度開催。今年は、1万3140件の応募が寄せられた。


コンテスト以外にも、モノづくり体験・ステージショーなど、子どもから大人まで楽しめるイベントが行われる

連続社内起業家は決してラクな道ではないが、挑戦者しか見えない景色と圧倒的経験、人脈が形成されるのもまた事実だ。それを地で行く坪井氏に、今後の日本について予測してもらった。

「イントレプレナーがますます活躍する機会が増えると思っています。この10年ほどで、日本のイノベーションは、ハッカソンやアイディアソン、CVCと来ていますが、大手企業からのイノベーションはそこまで起きていません。だからこそ、いいイントレプレナーの手法やノウハウが国内企業に展開されて、続々と事業が立ち上がるようになって欲しいし、諦めないで欲しいです」

連載 : 世界を目指す「社内発イノベーション」事例
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