来場者激増、こんなに変わった東京モーターショー

11月8日(金)6時0分 JBpress

トヨタ社長の豊田章男氏(左)は東京モーターショーの会場で同社の経営会議まで開いてみせ、ショーを大いに盛り上げた。中央は小林耕士副社長、右は河合満副社長(写真:つのだよしお/アフロ)

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 10月24日から11月2日までの12日間にわたり、東京モーターショーが開催された。

 2年に1度開催される東京モーターショーと言えば、かつては200万人を超える入場者数を誇った自動車産業とクルマ好きの人々の祭典だったが、近年は人口減少や若者のクルマ離れなどの影響で来場者も減少。一昨年に開かれた前回の入場者は77万人という状況だった。

 この状況に特に強烈な危機感を持ったのが、東京モーターショーを主催する日本自動車工業会の会長である豊田章男・トヨタ自動車社長である。


豊田章男氏のモーターショーにかける覚悟

「このままでは東京モーターショーは終わってしまう」との思いから、モーターショーを単なる販売促進の場ではなく、未来の生活が体感でき、大人も子どもも楽しめる場へと大きく舵を切った。

 また、自らが登場する同社のテレビCMでも、オウンドメディア『トヨタイムズ』編集長の香川照之氏の取材を受ける形で、東京モーターショーの開催を積極的にアピール。ショーを盛り上げるためならなんでもやるという覚悟がうかがえた。

 一方で自動車産業は「100年に一度」の「CASE」という大転換期を迎えている。CASEとは、Connected(つながる車)、Autonomous(自動運転)、Sharing(シェアリング)、Electric(電動化)である。近い将来、人々が移動に使うモビリティを担う主役は、もはや自動車メーカーではなく、巨大IT企業がとって代わる可能性もある。

 自動車メーカーは再び人々を惹きつけ、熱狂させることができるのか。そして、自動車メーカーはCASEにどう対応していくのか。それを調査するために、東京ビッグサイトに出向いた。


会場で豊田章男社長に直接質問した!

 筆者が訪れたのは、10月26日のこと。

 この日の午前中にはちょうど、青海棟トヨタ展示ブースで、トヨタの豊田章男社長とタレントの渡辺直美さんがおしゃれ等について話すトークイベントが開かれていた。最後に聴衆から質問を受け付けた。豊田社長に直接質問をする絶好のチャンスだったが、私はステージから遠くはなれていたので、残念ながらその機会は得られなかった。

 だが、チャンスは再び巡ってきた。この日の午後、南棟レクサス展示ブースでトークイベントが開かれた。トヨタの電気自動車(EV)の象徴となるレクサスEVコンセプトカー「LF-30 Electrified」の前であった。四輪にインホイールモーターを搭載している最高機種である。

 競技パイロットの室屋義秀氏と、TOYOTA GAZOO RacingアンバサダーでSUPER GT Team LeMans監督の脇阪寿一氏がゲストで、レクサスインターナショナル社長の澤良宏氏も参加されていた。

 突然、脇阪寿一氏が「マスタードライバーをゲストにお呼びしていいですか?」と3回も聴衆に聞いた。そして、マスタードライバーとして登場したのが、豊田章男社長だった。私を含め聴衆は一斉に驚きの声を上げた。

 そして、このトークイベントでも聴衆からの質問を受け付けたのだ。私は真っ先に手を挙げて、質問の機会を得ることが出来た。私は、電気自動車とディスプレイにおける「モジュール化戦略」を研究し、これまでも東京モーターショーやCES(Consumer Electronics Show)等で調査している。

——電気自動車や、トヨタでは燃料電池車MIRAIを開発されていますが、どのようにして拡げられるのですか?

「電動車には、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)の4つがあります。選ぶのは、『市場』と『お客さん』です。市場では、OEMメーカーや、規制、住宅事情、エネルギー事情により異なってきます」

 一言で言うと、「電動化は市場と顧客により決まる」ということだ。当たり前と言えば当たり前のことだが、市場に柔軟に対応し、そのときどき、地域によって最適な電動車を投入していくということだろう。

 ただ、トヨタのような大企業の経営者トップが、このように一般の聴衆からの質問に一つずつ答えるということは非常に珍しい。こういう試みがなされたのも、豊田社長自身の、トヨタ、さらには東京モーターショーの在り方を大きく変えたいという強い覚悟の表れからだろう。

 トヨタは、電動化として、レクサスEVコンセプトカー「LF-30 Electrified」だけでなく、1回の充電で100kmの走行が可能な超小型EV、2020年末の発売に向けた開発最終段階の燃料電池車「ミライ コンセプト」等も展示した。

 ちにみに、電動化についてレクサスインターナショナル・澤良宏社長は、プレスカンファレンスでこの様に述べている。

「まずは中国や欧州などピュアEV(純粋な電気自動車)へのニーズの高い地域に早急に商品を投入してまいります。具体的には、2020年発売予定のレクサスEVモデルを来月発表します。さらに、プラグインハイブリッドやEV専用モデルも2020年代前半に投入していく計画です。2025年には全機種に電動車を設定する計画です」

 完全EVの展開は、日本よりも中国や欧州を優先するつもりのようだ。


東京モーターショーへの期待と課題

 そもそも「東京モーターショー」は、世界五大モーターショーのひとつで、日本自動車工業会が主催する。1954年からはじまり、1975年からは2年に1度の開催となった。ピーク時の1991年には201万8500人の来場者を記録したが、前述のように2年前の前回は77万人にまで減少している。

 この状況を何とか変えようと、自工会は大胆なモデルチェンジに挑戦し、自工会会長の豊田章男氏は、「来場者目標100万人」を掲げた。その方策の一つとして、今回から高校生以下は入場無料とした。また今回、会場が有明エリアと青海エリアの2カ所に分散されて開かれることを逆手にとって、両会場を結ぶオープンロードを設け、電動二輪車等の体験ができるとともに、なかなか目にできない車両を多数展示した。このオープンロードは無料開放され、誰でも気軽に訪れることができる工夫もなされていた。

 以前、豊田章男氏は自工会の定例記者会見で、今回の東京モーターショーが目標とする事例として、米国ラスベガスで毎年1月初めに行われるCES(Consumer Electronics Show)を挙げていた。私は米国勤務とともに、スタンフォード大学客員教授をしていたので、CESには頻繁に参加しており、その目を見張る発展を実感していた。CESはもともと家電メーカーの見本市だったのだが、近年は自動車の電動化、自動運転化の進展に合わせて自動車産業を取り込んで拡大してきた。実際、豊田章男社長自身も、自動運転技術を使った次世代EV「e-Palette Concept」を公開し、世界の注目を集めたのは、昨年1月のCESのプレスカンファレンスの場だった。

 東京モーターショーが、CESの様に、関連産業を取り込んでいけるか。それも今回の大きなテーマだったと思う。


トヨタが描く未来のモビリティ社会

 先にも述べたように、自動車を巡る次世代技術CASEの競争は激しい。中でも電動化は、他の3要素のベースになる技術であるため、自動車産業が真っ先に取り組まねばならない課題だ。当然、今回の東京モーターショーも、電動化が大きな焦点になっている。そこで各社のブースを、電動化の視点で読み解いてみた。

 まずはトヨタだ。

 意外にも、トヨタ自体が、「今年のトヨタブースは斬新すぎる!?」と、青海棟のブースを位置づけているように、主役は車じゃなくて「人」だった。「PLAY THE FUTURE」として、これまでの展示だけのブースから、「参加・体験型」のブースに大きくモデルチェンジしていた。プレスカンフェレンスで、豊田章男社長が「このブースには来年発売されるクルマは1つもありません」と言った通りだった。展示されている実車は、「e-Palette」や「トヨタe-4me」、「トヨタe-RACER」といった近未来のモビリティばかりだ。過去の「販売促進の場」ではまったくない。

 未来のモビリティ社会は、社会と街とつながり、モビリティは人に移動やサービスを提供する。モビリティは、共有するものと、より個人的に所有するものに分かれる。そういう近未来の社会を、実車を展示して体験してもらおうというのがこのブースのコンセプトだ。

 トヨタe-Paletteは、みんなで共有するモビリティである。東京オリンピック・パラリンピックに、自動運転により選手村を巡回するEVとして提供される。乗員20名で、全長5.2mだ(【写真3】)。ゆくゆくはe-Paletteがオフィスになったり、お店になったり、ホテルになったり、様々なサービスになって移動していく。

 トヨタe-4meは、未来の「ちょっと贅沢な一人乗りモビリティ」で、移動時間を利用して好きなこと・人目を気にせず色々なサービスを楽しむことができる。

 豊田章男社長は、未来のモビリティ社会を、プレスカンファレンスで次の様に述べている。

「e-Paletteのような、みんなで共有するモビリティが馬車なら、e-RACERのような個人で所有するモビリティは愛馬ということになります。未来のモビリティ社会は、馬車と愛馬が共存する社会になるのではないでしょうか」

 単に自動車を製造しているだけでは、次世代技術「CASE」の大波の中で、巨大IT企業に太刀打ちできなくなる。むしろ自動車メーカーの側から、未来のモビリティ社会を提案し、IT企業をも巻き込んでいこうという気概がうかがえる展示だった。


日産は電気自動車「モジュール化戦略」刷新へ

 日本において電気自動車で先行する日産は、今回のモーターショーで電動SUV「アリア コンセプト」を世界初公開した。このクルマは、市販化計画もある。車両の前後に高出力のモーターを搭載し、前輪と後輪をそれぞれ駆動する「ツインモーター4WD制御システム」を採用している。

 詳細仕様については公表されていないが、駆動用バッテリーは、リーフが座席下に配置するのとは異なり、フロア下に配置するフラットな形状にすることで大容量化が可能になる。これは、電気自動車「モジュール化戦略」を刷新し、コスト削減と性能改善の可能性を秘めており、大いに期待される。

 また、軽自動車規格のEVコンセプト「ニッサン IMk」を世界初公開した。運転支援技術「プロパイロット2.0」を進化させて搭載している。日産は、EVのラインナップを軽自動車にまで拡大する計画だ。


いよいよホンダが電気自動車に参入

 ホンダは、東京モーターショー2017でEVコンセプトカーを展示していたが、今回はいよいよ量産型EV「Honda e」を日本で初出展した。新開発のEV専用プラットフォームを採用し、後輪駆動を採用した。蓄電池は、35.5kWhリチウムイオン電池を搭載し、航続可能距離は約218kmとなる。ドアミラーの役割を持つ「サイドカメラミラーシステム」を搭載している。「Honda e」は2020年に日本発売を予定しており、価格は250万円〜381万円程度と予想されている。

 ホンダは、欧州の環境規制クリアのために電動化車両の比率を上げる目標を掲げ、EVの開発にも力を入れている。航続可能距離の約218kmが顧客にどのように受け入れられるかが鍵と考えられる。


マツダ、初の量産型電気自動車を世界初公開

 マツダは、これまでの講演会等で、環境問題は内燃機関の燃料改善により対応できるという姿勢を貫いてきた。そして、マツダは、変心したのか(?)、または当初からの戦略か、東京モーターショー2019で初の量型EV「MX-30」を世界初公開したのだ。プラットフォームは、マツダ3、CX-30とほぼ共通しているが、床下に配置するバッテリー・パックのフレームを強度部材としているのが特長である。バッテリー容量は、35.5kWhであり、航続距離は200kmとされている。

 MX30は、欧州の企業別平均CO2排出量への対応のためである。欧州市場での先行受注を10月23日から開始しており、2020年秋頃から納車予定である。ヨーロッパでの価格は3万3990ユーロ(約410万円)なお、日本での発売計画は未定。


欧州メーカーの電動化に勝てるのか?

 メルセデス・ベンツは、最高級EVコンセプトカー「Vision EQS」を、東京モーターショーでアジア初公開した。100kWhのバッテリーで、最大700kmの走行が可能とのことである。最高出力約350kW、0-100km/h加速4.5秒未満、最高時速200km/h以上、とスペックもハイレベルだ。

 ただし、世界中で電動化において最も進んでいるのは、今回、東京モーターショーに出展しなかった独フォルクスワーゲン(VW)である。ディーゼル排出ガス不正問題により信用を失墜させた同社は、いま巻き返しのためにEV開発に全精力を注いでいる。

 そのVWは、2019年9月10日から始まったフランクフルト国際自動車ショーに、EV戦略車「ID.3」を世界初出展した。最廉価版はドイツで3万ユーロ(約350万円)未満であり、政府の補助金を含めばVWのゴルフと同等の価格を実現した。航続可能距離は、基本グレードで約320km、上位グレードで約550kmをそろえる。VWは、2018年までに約70車種のEVを投入し、全世界で2200万台を販売する計画である。

 さらには、2025年には世界販売の25%、2030年には40%をEVにすると公言している。まさにEVに生き残りをかけているのである。

 VWがこれを実現できるのは、2016年から開発してきたEV向けモジュール化戦略「Modular Electrification Toolkit(MEB)」の効果である。

 日本とドイツで、EV向けモジュール化戦略のアプローチが異なる。このアプローチの差異が、電気自動車の勝敗を決める可能性がある。これについては、稿を改めて報告したい。

 最後にグッドニュースを報告する。東京モーターショーが閉幕した翌11月5日、日本自動車工業会は来場者が130万900人に達したと発表した。目標の100万人を突破、2年前と比べるとおよそ1.7倍という大増員だ。2019年、モーターショーは再び輝きを取り戻した。

筆者:中田 行彦

JBpress

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