「自分はダメ人間だ」と思ってほしくない…発達障害の息子に父が毎日している"自己肯定感を上げる声かけ"

2024年11月11日(月)17時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

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発達障害のある子どもにどう接すればいいのか。アナウンサーの赤平大さんは、息子に対して毎朝毎晩「今日も大好きだよ」「生まれてきてくれてありがとう」と言葉にしてきた。そして、障害のことを伝えるときには、3つのポイントを心掛けていたという——。(第1回/全3回)

※本稿は、赤平大『たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。


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■発達障害の子が傷つく「二次障害」


発達障害がとても繊細で難しいと感じるのは、問題が障害自体だけではない、というところです。


数々の困りごとや生きづらさ、親や家族、先生や友達といった周りにいる人から発達障害に由来する言動を叱られたり、からかわれたり、いじめられたりすることで、さらに傷つくのです。


「どうせ上手くできっこない……」
「僕はダメな人間なんだ……」


と自己肯定感が下がり続けてしまうこともとても深刻な問題です。成功体験に乏しく自己肯定感がずっと低いままの子どもは、それが原因となって、不安障害やうつ病、摂食障害や睡眠障害、ひきこもり、あるいは反社会的行動などの素行障害……といった「二次障害」を発症するリスクが上がることが報告されています。


息子の自己肯定感を下げることは、絶対に避けなければなりません。


「これから先、息子とその障害にどう向き合うのがベスト、ベターなのか?」
「どんなサポートが必要なんだろう?」
「どうしたら息子が学校で安心して過ごせるのか?」
「日常生活のストレスをなるべく少なくするには?」


息子が将来、自立して幸せに人生を送るために、今何をしなければいけないのか?


■大学の図書館で500本以上の論文を読んだ


当時、私はMBA取得のために早稲田大学のビジネススクールに通っていました。


その勉強の傍ら、大学の図書館に籠って発達障害に関して書かれた文献や論文を読み漁りました。これは、そのビジネススクールの恩師である入山章栄先生からのアドバイスに基づいています。


「何かを調べるなら、論文のような原典にあたったほうがいい」


大学院を卒業してからも発達障害の論文を読み続け、現在までに目にした論文は、恐らく500本を超えていると思います。


■先行研究から学んだ「失敗だけはしない方法」


息子の発達障害支援の勉強を始める時、「失敗だけはしない方法」をとることにしました。一個人の感想や成功事例では、当てはまる人もいるかもしれませんが、その逆もありリスクが高い。


一方で、論文が書かれている研究が進んだ方法や内容であれば、そのたくさんの先行研究を土台にできる——すなわち“巨人の肩に乗る”ことができます。このほうが失敗リスクが少なく、得策です。


論文からの知識に、発達障害動画メディア『インクルボックス』の活動を通じて触れた新しい知識や最新の理論を重ねていくことで、私は情報の多様性やアップデートを意識的に行ってきました。


さらに、発達障害の専門家である臨床心理士の村中直人先生に“弟子入り”し、発達障害を深く学び始めました。


学術論文や村中先生から得た知識や学びから、少しでも「息子のためになりそう」「効果がありそう」と思ったものは、自宅に持ち帰ってすぐに実践してみました。


まずはやってみる。生かしてみる。トライ&エラーの毎日です。


すると当然、息子と過ごす時間がどんどん増えていきます。発達障害に苦しむ息子を救いたいと悩む一方で、同時に息子と過ごせる幸せな時間でもありました。大変さの中で、成長や私の想像を超えた息子の発想を目の当たりにできる、やはり私にとっては「ワクワク」する時間です。私が自己紹介を書くとしたら、“趣味・特技”の欄は間違いなく「息子」になるはずです。


■愛情を言葉で伝えることが親の務め


その中で、私が一番心を砕いてきたのは「二次障害を引き起こさない」ということ。私は、とにかくことあるごとに、息子が自己肯定感を上げられるような言葉をかけ、意識的に行動するようになりました。私は息子に毎朝毎晩、こう伝えるようになりました。


「今日も大好きだよ」
「お父さんのところに生まれてきてくれてありがとう」


彼がベッドに入る時には、


「今日もお父さんを幸せにしてくれてありがとう」
「君のおかげで、お父さんは今日も幸せでした」


多くの論文に「子どもは親の愛情を拠り所にし、安全基地と感じることで自尊心の向上やチャレンジ精神が養われる」とあるからです。何度も何度も“言葉にして”伝え続けることで、ほんのわずかずつでも息子の自己肯定感を引き上げてくれるんじゃないか。


「きみの生きている意義は、ここにあるんだよ」


思うことと、声に出して何度も伝えることは大きく違います。障害に苦しむ子どもに、愛情を24時間365日、明確に示し続けることができるのは親しかいません。それを果たすことは、一番大事な親の務め——私の務めだと思うのです。


写真=iStock.com/RyanKing999
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

■子どもへの告知は「早めに丁寧に」


生活のストレスを減らすためには、その準備として、子ども本人に「きみにはこういう障害があるんだよ」ということを伝える、本人に自覚してもらう必要があります。


この「障害告知」は、親にとっても子どもにとってもセンシティブで難しい1つの関門です。私もかなり悩みました。できるだけ正しい情報を、できるだけ理解しやすく、そしてむやみに傷つけないように伝えなければなりません。


発達障害動画メディア『インクルボックス』で取材した専門家の多くは、「早めの障害告知」を勧めています。そこで、発達障害との診断を受けた頃から、息子と話し合いながら情報共有をし続けてきました。


「きみは“発達障害”という、ほかの人と少し違う特徴を持っているんだよ」


どんな特徴なのかは発達検査で具体的に知ることができます。世界中で用いられている“WISC(ウィスク)”ウィクスラー式知能検査は、現在、5つの指標で構成されていますが、息子が受けた時は4指標でした。そこから全体の知能水準が算出されるという検査です。


・言語理解(VCI)……言葉による理解力、推理力、思考力。
・知覚推理(PRI)……視覚情報を把握し推理する力。視覚情報に合わせて体を動かす能力や対応力、解決力にも影響。
・ワーキングメモリ(WMI)……一時的に情報を記憶しながら処理する能力。学習能力や集中力に関わる。
・処理速度(PSI)……視覚情報を処理するスピード。切り替えに関係。
・全検査IQ(FSIQ)……総合的な知能水準。

■言語理解力と情報のインプット力が高数値


この検査で見ているのは点数の高低というよりも「バラつき」です。4指標は、誰しも得手不得手がありますから、個人個人バラつきがあります。それ自体は問題ではありません。


発達障害の可能性があると判定されるのは、この4指標の点数の「高低の差が著しく大きい」場合です。その凸凹が大きければ大きいほど、生きづらさは大きくなると言われています。


息子は言語理解とワーキングメモリでとても高い数値が出ていました。言語理解の数値が高いということは、言葉の理解力や思考力が高いということ。ワーキングメモリは脳の中にある“黒板”のようなもので、一時的に情報を書き留めていく力です。


この数値が高いということは、一度に多くの情報を一時的に記憶することができる、ということを表しています。


■「病気じゃなくて個性だよ」「できることもあるよ」


一方で、処理速度の指標は相対的に低いという結果が出ていました。つまり、息子は大量の情報を脳内に一時的に入れることはできるのですが、それを出し入れしたり、取り出しやすいように整理整頓したり、いらない情報を処分することが苦手、ということです。


画像=iStock.com/Iryna Spodarenko
※画像はイメージです - 画像=iStock.com/Iryna Spodarenko

「キミには、できないこととか苦手なことがあって、頑張ってもなかなか上手くいかないかもしれない」
「でもそれはキミが悪いんじゃないんだ。発達障害という頭や神経の障害を持っているからなんだよ。これは病気じゃなくて個性だよ」
「できないこともあるけど、ほかの人よりもずっと、できることもあるよ」


私も言葉を商売道具にしている身です。わかりやすく噛み砕きながら、「ここまでは理解できているな」「ここはちゃんと理解できてないな」と探りながら、繰り返し何度も話して聞かせるようにしてきました。


■同じことを1万回伝えて“1”残ればOK


話して聞かせる際に、私が心がけていたポイントは3つ。


1つはそのタイミングです。日常生活や学校生活、あるいは勉強だったり遊びだったりの中で何か上手くできなかったり、良くない行動があった時に、その場ですぐに話して聞かせるようにします。


ADHDの特性として注意欠陥があるので、言われたことを覚えていられないです。どんなに怒られても、翌日には叱られたことも何で怒られたのかもすっぽり抜けてしまうことも多くあります。だから、その場ですぐに伝えます。


2つ目のポイントは、手数をできるだけ多くする、ということです。とにかく根気強く何度も伝え続けます。


以前話したことなのに忘れてしまって同じミスをする。そんな時も、「前に言われたでしょ!」と叱らないように心掛けました。


「忘れるのが普通」
「覚えていたら褒める」


同じことを1万回伝えて息子の中に“1”残ればOK、くらいのイメージで向き合ってきました。


でもこうして何度も語りかけることで、少しずつ……本当にわずかずつですが成長していきます。1つ例を挙げると、息子は幼い頃、自分の考えを相手に上手く伝えられないことで、癇癪を起すことがありました。しかし最近は、相手に伝えるのが苦手というのが自分の特性であると理解したのか、癇癪を起こすようなこともなくなりました。


■改善点を指摘したら、得意な点を2倍褒める


そして3つ目のポイント。これが何よりも大切なのですが、「キミには人よりもできること、得意なことがある」と伝えることです。


「あれは苦手かもしれないけれど、その代わりに、こんなすごいことができる」
「だから、こっちの得意なところを頑張ってみよう」


できることとできないことを、きちんと分離して、子どもにも理解させます。


かつて日本の学校教育には、ともすると「やればできる」「できないのは怠けているから」というような考え方が色濃くありました。昨今、だいぶ薄くなったとはいえ、そうした風潮が完全になくなったわけではありません。


その中で、“できない自分”を責めたりしないようにする必要があるからです。100回改善点の指摘をしたら、200回は得意なことの指摘をするようにしました。


ただ実際には、私もそんなに上手く褒められていないと思います。あくまでも“自分の気持ちの中では”です。


■担任の先生とも綿密なコミュニケーション


息子への告知と同じように、学校や担任の先生にも、息子の特性や状況について伝えるようにしました。


ほぼ毎日発生した困り事は、忘れ物や提出物の出し忘れ、授業中イスに座っていられない、教室をふらっと抜け出してどこかへ行ってしまう。上履きを履くことを嫌がりいつも裸足でウロウロするため怪我の心配もありました。


それに対応する手段の1つとして、小学1年生の時は、担任の先生と毎日のように電話をしていました。



赤平大『たった3つのMBA戦略を使ったら発達障害の息子が麻布中学に合格した話。』(飛鳥新社)

「赤平さん、明日はこの授業とこの授業があるので、コレを忘れないようにお願いします!」
「わかりました。ところで、今日は学校に何か忘れ物していませんか?」
「このプリントはおうちに持ち帰っていますか?」
「ないですね……。今から取りに行きます!」


学校の先生はとんでもなく多忙なのに、息子への対応も優しく、私への対処も細やかで、小学校6年間でお世話になった先生方には感謝しかありません。


こんなことが毎日のように繰り返されて、最終的には私が息子を学校まで送り迎えすることが日課になりました。結局忘れ物を取りに行くことになるのですから、迎えに行くのと変わらない……と気づいたのです。


ただ今振り返れば、毎日の息子との登下校は楽しく会話をしたりできる貴重な思い出の時間となりました。


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赤平 大(あかひら・まさる)
アナウンサー、ナレーター
1978年9月13日、岩手県出身。voice and peace代表取締役。2001年、テレビ東京入社。メインキャスターを務めた報道番組『速ホゥ!』をはじめとするニュース番組、バラエティー番組やスポーツ実況等を担当。2009年、退社しフリーアナウンサーに転身すると、ボクシングやフィギュアスケート、ラグビー等の実況や、番組ナレーション、経済番組キャスター、大学等で就職活動コンサルのほか、2015年から千代田区立麹町中学校の学校改革をサポート。2017年、早稲田大学大学院商学研究科を修了しMBAを取得。2022年から横浜創英中学・高等学校講師、2024年から代々木アニメーション学院で就活講師を務める。発達障害と高IQを持つ息子の子育てをきっかけに、発達障害学習支援シニアサポーターなどの資格を取得し、学校や企業向けの講演活動を開始。発達障害の知識を手軽にたくさん身につけるための動画メディア『インクルボックス』も運営。
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(アナウンサー、ナレーター 赤平 大)

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