超小型EV購入に補助金、それでも普及は難しいワケ

11月13日(水)6時0分 JBpress

トヨタが東京モーターショー2019で公開した2人乗りの小型EV。2020年末に発売する(筆者撮影、以下同)

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(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 11月9日、一部メディアで「超小型EV(電気自動車)について、経済産業省が購入時の補助金支給を検討」という報道があった。これを受けて、ネット上では「超小型電気自動車が来年(2020年)あたりから、一気に普及するのではないか?」という論調の記事が出回り始めている。

 超小型EVとは、軽自動車と自動二輪車の中間の車両規格として、国土交通省が10年ほど前から検討してきた超小型モビリティを指している。

 今回報道されているように、話の出元が国土交通省ではなく経済産業省となっているのにはわけがある。経済産業省は今年(2019年)8月、「多様なモビリティ普及推進会議」として、超小型モビリティ、電動くるまいす、電動アシスト自転車など、小型の電動移動体に関して産学官による協議を始めた。ここでの話し合いが、今回報道があった購入補助金支給に直接結びついていると考えるのが妥当だ。


異なっていた国と民間の思惑

 超小型モビリティの実用化に向けて、これまでは国土交通省が主体となって全国各地で実証試験を行ってきた。筆者はそれらの現場を取材してきたが、自動車メーカーが開発方針を変えることも多く、その度に担当者から苦しい胸の内を聞いてきた。また、夢破れて開発プロジェクトを中止したベンチャー企業関係者とも、今後の日本における交通のあり方について議論してきた。

 そうした取材や議論を振り返ると、結局これまでのところ、国と民間では超小型モビリティに対する考え方、思惑が噛み合わなかった印象がある。

 国としては、超小型モビリティの活躍の場を、観光地での回遊、都市周辺での“買い物難民対策”、そして中山間地域での高齢者向けなどに設定して、成功事例を見出そうと実証試験を行ってきた。だが結果は、持続可能なビジネスという視点からは“はっきりとした成功”と呼べる事例はなかったと言わざるを得ない。

 一方、民間企業は、車両規定の規制緩和によってできるだけ安い価格で超小型モビリティを世に送り出し、並行してシェアリングエコノミーを活用するなど、新たなサービスモデルを構築しようと試みた。だが、そもそも国が描いた青写真における需要だけでは、民間企業がビジネスを成り立たせることが難しい。そのため多くの民間企業が超小型モビリティから撤退を余儀なくされた。


高齢ドライバー問題の対策として注目集まる

 そうした中、にわかに社会問題として国民の注目を集めるようになったのが、高齢ドライバー問題だ。

 ここ数年で、免許更新時の認知機能検査を厳格化するなど、高齢ドライバー事故対策が進んだ。さらに今年4月に発生した、いわゆる「池袋高齢者暴走事故」によって、高齢ドライバー問題に対する注目度は一気に上がり、国としては早期に様々な角度からの対策を打ち出す必要に迫られた。

 その対策の1つが「多様なモビリティ」であり、超小型モビリティに関する議論が再び熱を帯びてきたと言える。

 とはいえ、仮に経済産業省が来年度から購入補助金を数万円から数十万円単位で設定したとしても、超小型モビリティが一気に普及するとは思えない。

 超小型モビリティ実現に向けた過去10年間の経緯を振り返ると、超小型モビリティを取り巻く社会状況はいまだに大きく変わっていないからだ。


普及を妨げる2つの大きなハードル

 超小型モビリティが普及するためのハードルは、大きく2つあると思う。

 1つめは、社会受容性だ。「本当に超小型モビリティが社会に必要なのか」という根本的な話である。

 前述したように、全国各地での実証試験で“はっきりとした成功事例”がないのだ。

 その背景にあるのが、軽自動車の存在だ。超小型モビリティを運転するには、普通免許が必要であり、そうなると価格、装備、使い勝手などで“軽自動車にはかなわない”のである。実際にこの言葉を、全国各地の実証現場で筆者自身が関係者から数多く聞いた。運転免許制度の改正についての議論もこれまで産学官関係者の間で何度もあったが、そこまで大きく踏み込む動きは現時点でないように思える。

 また、軽自動車に勝る超小型モビリティの利点としてたびたび挙げられたのが、EVであることだ。近年、中山間地域でガソリンスタンド廃止が相次いでおり、自宅で充電できることのメリットがあると言われている。

 ところが、先日の東京モーターショーでも発表があったように、日産と三菱自動車の軽自動車開発合弁企業「NMKV」が近年中にEV仕様の軽自動車を量産する。そうなると、超小型モビリティの社会受容性に疑問を持つ声も増えるだろう。

 もう1つのハードルが、そうした軽自動車や軽EVと共存共栄するためのサービス事業の確立だ。

 たとえばトヨタは、消費者向けのサブスクリプション、またB2B(事業者向け)やB2G(地方自治体向け)など、新車や中古車の売り切り型モデルではないエコシステムをサービス事業として構築することを明らかにしている。

 ただし、その実現に向けては、ディーラーとの協業が必要となる。国内でトヨタと直接資本関係があるディーラーは東京エリアに集中している。いわゆる地場ディーラーが、超小型モビリティを組み込んだ新しいビジネスモデルの構築にどれだけ汗をかいてくれるだろうか?

 筆者は、トヨタの地場ディーラー各社と地方自治体が進めるプロジェクトに深く関わっており、地場ディーラーが抱えている今後のビジネスへの不安も承知している。その上で超小型モビリティは、住民と事業者を巻き込んだ地域社会全体の問題として、今後さらに議論を重ねるべきだろう。

筆者:桃田 健史

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