睡眠時間が「6時間未満」の人は要注意…脳内科医が警鐘「老害脳」を加速させる"危ない生活習慣"

2024年11月14日(木)16時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nambitomo

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「老害」にならないためにどうすればいいか。脳内科医の加藤俊徳さんは「睡眠障害は認知機能を衰えさせ、認知症の手前の状態としての「老害脳」を引き起こしかねない。予防するためには、無呼吸のない良質な8時間睡眠を取ることが重要だ」という——。

※本稿は、加藤俊徳『老害脳』(ディスカヴァー携書)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/nambitomo
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■睡眠障害が「老害脳」化のリスクを高める


私たちの日常生活の中で「老害脳」化に影響を与える見逃せない要因があります。それが「睡眠」です。


まず、うつ病の人の約8割が、睡眠障害を抱えていることが明らかになっています。そして、「老害」の被害がうつ病を引き起こすだけでなく、逆にうつ病が「老害脳」を引き起こすことも懸念しなければなりません。


これは、睡眠障害と閉塞性睡眠時無呼吸症(OSA)が、「老害脳」とも関係性が深い「アルツハイマー型認知症」の誘因になると考えられているためです。


睡眠障害とは、睡眠時間が短かったり、寝つけなかったり、途中で目が覚めてしまうなどのことです。また、閉塞性睡眠時無呼吸症は、睡眠時に何らかの理由で息の通り道が狭くなってしまい、無呼吸になってしまう症状であり、睡眠障害を引き起こす代表的な疾患です。


■注意力、記憶力、実行機能が低下


一方で、アルツハイマー型認知症は、脳にβアミロイドという物質がたまることで引き起こされると言われています。OSA患者は、夜間に断続的に酸素不足に陥ることで、髄液中のβアミロイドの値が低下し、乳酸値が増加します。これは、記憶障害との相関性があることがわかっています。しかし、CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)という治療を受けることで、このような相関性が無くなることもわかっています。


さらに高齢者ほどOSAになりやすく、放置すると認知機能が低下します。すると、認知症の手前である、SCD(主観的認知機能低下)患者の場合、症状がさらに悪化することも明らかになっています。


これらのことから、睡眠障害は認知機能を衰えさせ、認知症の手前の状態としての「老害脳」を引き起こしかねないことが理解できます。


中年期にはOSAがしばしば注意力や記憶力、実行機能を低下させます。そして、CPAP療法はその改善に役立つのです。


■40〜50代の日本人の約4割が睡眠不足


厚生労働省は、「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」(2024年2月)の中で、「睡眠は、こども、成人、高齢者のいずれの年代においても健康増進・維持に不可欠な休養活動である。睡眠不足は、日中の眠気や疲労に加え、頭痛等の心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下・学業成績の低下等、多岐にわたる影響を及ぼし、事故等の重大な結果を招く場合もある」と指摘しています。


さらに厚生労働省の「令和元年の国民健康・栄養調査結果の概要」(2019年5月)によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の者の割合は、男性37.5%、女性40.6%であり、性・年齢階級別にみると、男性の30〜50歳代、女性の40〜50歳代では4割以上を占めており、先ほどの「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」ではこれを取り上げ、「国民一人ひとりの十分な睡眠の確保は重要な健康課題となっている」と述べています。


すなわち、日本の40〜50代の約4割が睡眠不足であり、それが「老害脳」や「認知症脳」の積極的な進行に影響を与えていると考えられます。


■睡眠時間を削ったことは最大級の失敗だった


このガイドラインでは、現状を少しでも改善させるべく「6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」と目標値を設定しています。しかし、この6時間以上は、脳と体の健康にとって、デッドラインであって、目標睡眠時間ではないのです。


国際的な睡眠時間の目標値は、7時間半から8時間台です。平均睡眠時間が6時間を切ると、生活習慣病など、健康が明らかに脅かされることが医学的にはっきりしています。


かつて、私も「体が持てば、睡眠時間を減らしてもよい」という認識でいました。しかし、これは我が人生の大きな誤りで、最大級の失敗だと今は自覚しています。


60歳になり、1カ月間の平均睡眠時間を2時間以上のばして、現在は日々8時間以上の睡眠時間を保っています。


20代から40年間、苦闘してきた午後の眠気は、平均睡眠時間が7時間を超えても解消されませんでしたが、平均睡眠時間が8時間を超えると全く眠気の症状が消えたのです。人生で脳の調子が一番良いときが、60歳にやってくるとは夢にも思いませんでした。


明らかに50代より60歳になってからのほうが、脳の働きがよくなり、生きている実感が強いのです。「睡眠時間は4時間で大丈夫」という誤った思考の方は絶対に改めたほうがよいでしょう。


■「良質な8時間睡眠」がとても重要


また、ノンレム睡眠で深く眠ることで、βアミロイドの排出が促進されたり、記憶の定着が促されるとされています。最近の研究では、自己申告による睡眠時間の短さはβアミロイド値の高さと関連することが示されています。


さらに、レム睡眠中のOSAが重症であるほど、言語記憶が阻害される結果も出ています。睡眠時間が短くなると、睡眠の後半に起こりやすいレム睡眠が短くなります。質の高いレム睡眠を取ることで言語記憶が良くなることを裏づけています。


このように、無呼吸のない良質な8時間睡眠を取ることは、「老害脳」予防には重要な生活習慣になるのです。


また、私は、メラトニンという物質が「老害脳」予防の一役を担うと考えています。


メラトニンという物質には、抗老化作用があるほか、抗炎症作用、鉄キレート作用、抗酸化作用、アンジオテンシンII拮抗作用、時計遺伝子制御作用などがあると知られており、私もときどき、海外旅行中の時差ボケを改善するために愛用していますが、くずれた睡眠リズムを整え、8時間睡眠により近づけてくれます。


写真=iStock.com/Blueastro
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中年期の人が、日々忙しく働きながらも脳を若々しく保ち、自身の「老害脳」化を防いでいくには、質の高い睡眠や休養は必要不可欠なのです。


働く人の健康にも関わってきますし、組織内における「老害脳」のまん延を防ぐためにも、これらのことは、組織の人事部門や経営者なども十分に理解しておく必要があります。


■小さな会社こそ「老害」と向き合うべき


もしこの本をお読みの方が中小企業の経営者や幹部だった場合、社内において「老害」を防ぐことのメリット、あるいは放置しておくことの危険性は、大企業よりも大きいと認識していたほうがよいでしょう。


同じ「老害」加害者から、同じ状況で繰り返し継続して被害を受けている人は、格段にうつを発症しやすくなります。


産業医の一人として強調しておくのですが、この問題、実は全国のあらゆる職場で起きています。高ストレスを原因とした労働者の自殺は、警察庁の資料「令和5年中における自殺の状況」(2024年3月)によると、年間約6千人程もいるとも言われています。


■配置転換してもあまり効果がない


彼らはもともと能力も高く、大きな問題を抱えていなかったのに、ある企業、あるいは部署にたまたま巡り会ったことが残念な結果に結びついたわけです。これからを担う若い方たちが、こんなにも苦しんでいるということをまず知っておいていただきたいと思います。


そして、私が知る限り、会社がそうした事案に直面した中でも、その対応は「何もしない」「休ませる」「配置転換する」の3タイプに分かれます。特に、状況をある程度把握しているのに「何もしない」というのは最悪で、今後こうした無関心さに対しては、いっそう法律的な責任を問われる流れになっていくでしょう。


問題は残りの2つです。「休ませる」、つまり休職はひとまず正しい判断であることが多いのですが、中小企業の場合、「配置転換」をして加害者と被害者の引き離しができない、つまり、規模が小さいために、完全にストレスから遠ざけるような対応を人事的に取りにくいことから、せっかく一度回復しても、再び同じ状況になってしまうリスクがあるわけです。


■「老害」化の予防が会社の成長に直結する


したがって、そうした中小企業経営者、幹部社員の場合は、細かく配慮をしていく必要があります。意思決定のプロセスや指示の系統、直接的に組む人を変えるなど、工夫をしなければ、再発を招く確率が高くなってしまいます。



加藤俊徳『老害脳』(ディスカヴァー携書)

お断りしておくと、大企業であれば「老害」が起こりにくいというわけでは決してありません。ただ、大企業では比較的メンタルヘルスの維持に対して予算も人材も確保しています。


また過去に同様のケースを経験しているため、ある意味過重労働やパワハラなどと同様、「老害」の加害(と認識しているかどうかは別ですが)に対してもシステム的に、組織的に対処できる余裕とノウハウがあることが多いと考えられます。


一方で中小企業では、こうした問題が発生した場合も、余裕がないため、片手間で対処しなければならなくなります。


中小企業こそ、過重労働や各種のハラスメントを減らし、経営者や幹部の「老害」化を防ぐことが、実は成長に直結していると言えるでしょう。シンプルに考えれば、少人数、小規模だからこそ、みんなが楽しくまとまって働ける企業は魅力的だということでもあります。


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加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医
昭和大学客員教授。医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。MRI脳画像診断・発達脳科学の専門家で、脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや脳科学音読法の提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。著書に『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』(あさ出版)、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)など多数。
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(脳内科医 加藤 俊徳)

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