生物ライター平坂寛さんによる著書『虫への愛が止まらない』。虫嫌いだった担当編集者が明かす制作秘話
2023年11月14日(火)13時0分 PR TIMES STORY
実務教育出版では、生物ライターとして知られる平坂寛さんの虫への愛が溢れるエッセイ『虫への愛が止まらない 刺されて咬まれて食べまくったヤバい探虫記』を2023年9月26日に出版しました。平坂さんは大学院在学中に執筆活動を始め、過去に外来魚や深海魚、危険生物などに関する著書を出版し、現在はYouTuberとしても活動されています。このストーリーでは、世界中を飛び回り体を張って生き物と向き合う平坂さんの生き物愛と著書の魅力について、虫が大の苦手だったのに、そんな平坂さんと彼が真摯に見つめる世界に心惹かれてしまった担当編集からお伝えします。
大人はみんな虫嫌い?企画中の子ども向けの虫図鑑の制作から見えた、新たな可能性
「苦手な虫の写真があって、企画書を読むことができませんでした」
社内でそんな感想が出た企画が、本書『虫への愛が止まらない』です。
そんな発言が出るのも無理はないのかもしれません。
実は、当初の企画は「子ども向けの虫図鑑」でした。
子どものときは虫に触ることができても、大人になるとなぜか虫への嫌悪感が育まれ、苦手に感じる人が多いのではないでしょうか。
そのため、子どものための楽しく読める虫図鑑、当初はそんなイメージで情報収集にあたっていました。ですが、本書の著者である平坂寛さんを知るにつれて、別の可能性を見出すことになりました。
当初の企画書資料の一部。子どもでも読みやすい構成を想定していた。
実は『虫への愛が止まらない』の担当編集の私も同様に、虫は大の苦手です。
自分から虫に触りたくないので、蚊に血を吸われてもぐっと我慢して飛び立ってくれるのを待つほど。視界に入るだけで悲鳴を上げ、室内で見かけたら部屋から飛び出すくらい虫は恐怖の対象でした。
そんな私が、虫オンリーの本を編集したいと思ったのは、ひとえに本書の著者である平坂寛さんに魅了されたからです。
虫への無限の好奇心。平坂寛が伝える、読者を揺さぶる虫への価値観
人から紹介されたことをきっかけに、恐る恐る平坂さんが書かれたWeb記事を読み、動画を視聴しました。
平坂寛さん YouTubeチャンネル
ある時は、クモの神経毒を体験するため大阪に噛まれに行き、時間経過とともに身体が少しずつ動かなくなる恐怖を味わったり。そしてある時は、寄生虫がいる危険性が高いうえ、動物の糞まで食べてしまう野生のカタツムリ(アフリカマイマイ)を収穫、しかも生の味にこだわりほとんど味付けせず食べようとしたり、など……。
なぜそんなことをするのだろう。
最初に浮かんだ疑問でした。
その理由は、本書にこう書かれています。
『飛び抜けて力が強い』『毒をもつ』などの能力を備えた虫たちについては、その個性をできる限り身を呈して受け止めていこう。それが最も確実に、詳細に、深く、愛すべき虫たちを知る唯一の方法であるのだから。(本文よりp.18)
生き物に噛まれたり刺されたり、自ら危険な目に遭う理由は、ひとえに生き物への愛ゆえ。生き物のことをもっと知りたいという知的好奇心が平坂さんを動かしていました。
その思いは、言葉だけではなく、動画内のちょっとした動作にも表れています。
虫の毒や武器を体験する"セルフ人体実験"に協力してもらった虫に感謝を伝えたあと、優しく地上に下ろし、お別れの挨拶を告げる。そして実験の無理はさせない。
なにより、顔や腕を歩き回る虫たちを見守る平坂さんの、うれしそうな声音や表情は虫を嫌悪していた私をハッとさせました。
そして読者や視聴者に向けて、「かっこいい」「かわいらしい」と虫のことを褒めるのです。
常識を飛び越えた行動をする平坂さんに衝撃を受けつつも、「次は何をしてくれるのだろう」という好奇心に突き動かされ、次の記事、動画を見る手を止められませんでした。そして段々と、そうした行動に秘められた平坂さんの真摯さ、真面目さ、生き物への愛情に魅了されていきました。
そんな平坂さんの行動に感化されて、私に大きな変化が訪れました。
本書にも登場する「リュウジンオオムカデ」(20cmほどの大きさ! )が平坂さんの顔の上をのそのそと這っている映像を見たとき、自然に「かわいらしい」と感じたのです。
平坂寛さんYouTubeより
虫嫌いの人間が、虫を愛らしいと感じるように。
そんな変化を起こすパワーが平坂さんの魅力だ、と確信しました。
平坂さんの行動で価値観を変えられた自分のように、 平坂さんの行動を通して、虫の愛らしさ、かっこよさ、強さ、弱さ、多彩さに気づいて、虫好きな人はもちろん虫嫌いな人も新たな虫の魅力を感じることできる、読者の価値観を揺さぶる面白い本を作ることができるのではないか、と強く思いました。
そう考えて、作戦として「虫を主役にした虫図鑑」ではなく、「平坂さんを主役にした本」を作りたいと思いました。
虫を愛する平坂さんのフィルターを通すことで、虫の行動が愛らしく目に映るようになるのではないか、と。
結果、平坂さんと虫の魅力を伝えるため、強さもビジュアルも強い虫を選び、噛まれた、食べたエピソードを載せて企画書を作りました。そこで、冒頭の「苦手な虫の写真があって、企画書を読むことができませんでした」という言葉を投げかけられたのでした。
描くは空想の怪物。平坂さんの表現を通して見る、未知でも楽しい小さな世界
平坂さん自身は、虫の魅力を以下のように表現しています。
強いていうならその造形や生態が、人間の常識からかけ離れていることに好奇心を刺激される、といったところだろうか。脚が多いとか、全身が鋭いトゲに覆われているとか、幼虫から蛹、成虫へと変態を遂げるだとか、毒があるとか、そういった特殊性に惹かれているわけだ。(本文よりp.220)
まるで「空想の怪物」のような、畏れを抱く存在を偏愛している平坂さん。
本書では、平坂さんの表現というフィルターを通して、その独特な感性を読者に追体験してもらいたいと思いました。
そこで、平坂さんには「たとえ」をお願いしました。
この虫は、平坂さんにはどう見えていて、虫同士にどんな違いがあるのか。虫初心者にもわかりやすく、かつ平坂さんにしか伝えられない、デフォルメ化された虫の魅力を表現してもらいました。
大行列で林床を蹂躙するグンタイアリが「軍隊」だとすれば、森林内に居住を築いて来訪者を暗殺してまわるブルドックアントは、さながら時代劇に登場する「忍者軍団」のようではないか。(本文よりp.113)
軍隊のように統制された「グンタイアリ」と忍者のような「ブルドックアント」。
本書では、アリ編、クモ編と近縁種でまとめていますが、近い種のなかでも個性があり、見た目や武器、性格の違いなど、平坂さんの言葉のおかげでイメージしやすいと思います。
グンタイアリ
ブルドックアント
虫の知識が豊富な人が見えている世界を、そこまで詳しくない人にも伝えることができるのが平坂さんの魅力です。知識がない人でも理解しやすい内容になっているでしょう。
まるでウルトラマンに出てくる「怪獣」のかっこよさを熱く語っているような本書ですが、面白いところはそこだけではありません。
"実験"を通して知る虫の体、行動の意味。解き明かされる謎を通して味わう、痺れるような虫の奥深さ
本書には、「刺されて噛まれて食べまくったヤバい探虫記」とあるように、『ファーブル昆虫記』に影響を受けた平坂さんによる、身を呈した"実験"によって虫の生態を暴いていく“研究記”の要素も多分にあります。
本書では、その毒の効果時間、強さ、種類を分析することで、なぜこの虫がこの毒の効果をもっているのか、なぜこの環境で、この武器をもっていて、どうしてこんな行動に出るのか、ということを分析しています。
たとえば、その「孫にも食べさせたい」とおいしさを絶賛する「シロスジカミキリの幼虫」を食べたときのエピソード。
「シロスジカミキリ幼虫の体には食味を邪魔する自衛策がまったくといっていいほど見られない。毒や悪臭、苦味がなく、薄い皮にも物理的な武装はない。クセのない良質なクリームを、薄く柔らかな皮ではち切れんばかりに包んだ、天然の腸詰といったところである。
なぜこんなにも無防備なのか? それは木の幹で暮らす生き方が、限りなく理想的な鉄壁の守備となっているためだろう。
<中略>
ほら、食べてみるとわかるだろう。虫の味にはその虫の生態が反映されるということが。うまさにも不味さにも、理由があるものなのだ。」(本文よりp.162-163)
他にも、バナナナメクジの調理に苦戦した理由や、2種類の日本産サソリの形状の違いなど、全編にわたり実際の体験を通してそれぞれの特殊性を分析しています。
自分たちとはかけ離れた見た目、行動をする虫ですが、平坂さんの考察を読むと、その進化や生存戦略に感心します。
自分の目で見て、手で触って、危険な目に遭いながら虫の生態や謎を解き明かしていく平坂さんの行動は、冒険譚のようで興奮し、原稿を読んでいてワクワクしました。
本書は噛まれて刺されて“毒味”をしたエピソードだけではなく、虫の奥深さを実感できる作りになっています。
この本は、平坂さんの虫への愛と探究心に満ちた一冊です。
虫の魅力について詰め込んではいますが、なにより読者のみなさんに伝えたいいのは、この本は新しい世界を開いてくれるきっかけになる、そんな読書体験をもたらしてくれる知的エッセイということです。
価値観を揺さぶられたい人、日常に新たな視点がほしい人、どうかこの本を読んで、著者の原液のような濃いエネルギーを感じてほしいと切に願っています。
担当編集:川名
平坂寛さんからメッセージ
皆様はじめまして。著者の平坂寛です。
本書の執筆に際しては「虫が好きでない人へ虫の魅力を伝える」ことを意識しました。 この本には虫を食べる!刺される!と、なかなか刺激の強いお話が頻出します。
でも実を言うと、当初はもう少しマイルドな内容にするつもりでした。 あまり激しいエピソードは虫への嫌悪を増してしまうかもしれない。ならば「こんなにキレイな虫もいるんだよ、虫のこう言う仕草がかわいいんだよ〜。」という論調で甘口に仕立てた方がいいのではないかと。
しかし、そうした「ここがスゴいんだよ!ほら見て!」というアピールは押しつけがましいかもしれない。虫オタクのよくないところが出てしまう。 あるいは地味で危ない虫には価値がないと思わせてしまいかねない。それでは元も子もありません。
ならばありのまま、自身が虫にハマっていった過程を骨つき、殻つきでお出しするのがベストだろなあ。そう考えてこのような野趣あふれ気味な本に仕上がった次第です。
私は彼らの魅力は身近さとバリエーションの豊富さ、そして怪獣めいた奇抜さと美にあると思っています。 毒がある、咬まれると痛い、という恐ろしさはチャームポイントでもあるのです。「危険=強い=カッコいい」の図式です。ゴジラと一緒。
もちろん、この本で虫の魅力そのすべてが語りきれるものではありません。あくまで本書は奥深い虫の世界への入口、オリンピックでいえば開会式のパフォーマンスでしかないのです。 本書を読んで「うわぁー、なんか虫ってすげえなあ」「でも面白いかな」と思っていただけた方はぜひぜひ、世に無数ある「虫本」たちも手にとってみてください。
平坂寛さんYouTubeより
【書誌情報】
書名:虫への愛が止まらない 刺されて咬まれて食べまくったヤバい探虫記
https://jitsumu.hondana.jp/book/b628335.html
著者:平坂 寛 著
発売日:2023年9月26日
定価:1,760円(税込)
発行:実務教育出版
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