イーロン・マスクの元部下がテスラで学んだ「危機感の作り方」

11月15日(水)8時0分 Forbes JAPAN

シリコンバレーで最も注目される日本のスタートアップの一つであるドライブモード。その共同創業者である上田北斗は、世界を代表する起業家イーロン・マスクとともに働いてきた経験を持つ。

2017年10月19日、一般社団法人「at Will Work」主催、岡村製作所の後援で、上田と早稲田大学ビジネススクール准教授 入山章栄の特別対談が実現。第1回に続き、第2回で紹介するのは、あまりに壮大なビジョンを各人の行動に落とし込むイーロンの手法について。まさに革命と呼ぶべきテスラの創造は、あまりにストイックで現実的なマネジメントによって成り立っている。

人がテスラを買わない理由を、ひとつずつ潰していく

会場:イーロンは細部を大切にするそうですが、マーケティングやアカウントなどあらゆるジャンルに精通しているのですか?

上田:全部ですね。リソースマネジメントについても、社外のベンダーは嫌だといってテスラに特化したものを自社で作っていました。

入山:在庫管理やITの知識もありますか?

上田:はい、自動車業界の常識をすべて塗り替えようとしていますから。というよりも、人がテスラを買わない理由を1つ1つ潰そうとしていました。

入山:面白いですね。例えば?

上田:アメリカのディーラーは騙しにも近い手口を使う、ネゴシエーションのプロとして嫌われています。だからテスラではこれを変えるために、ディーラーを介さない直営店でショールームを開いているんです。

他にも販売システムからペーパーワークをなくすために、タブレットで2、3カ所サインするだけで契約できるようにしています。イーロンは「新車に乗ってタッチスクリーンにサインするだけで販売が終わるようにしろ」と言っていましたね。

入山:要するに顧客目線ですね。顧客のベストな体験を具現化できるよう徹底しています。

上田:そうですね。「このようにやれ」ではなく「こうなるべき」を追求していました。

入山:上田さんとしては、そういうイーロンの世界観に納得していたのですか?

上田:僕もディーラーは嫌いだったから、納得はしていましたね。ビジョンに納得してついていくから、説明が少なくても感覚で理解していました。

入山:それは重要ですね。日本では「ビジョン」という言葉が青臭いと言われがちで、これが決定的に欠けていると思うんです。欧米では大企業でもビジョンを大事にしていますよね。

「イノベーション」という言葉を聞いたことがない

入山:イーロンはビジョンを自分で伝えるタイプですか?それとも彼の考えを上田さんが察していたのでしょうか。

上田:初期は小さい会社だったので全員を招集して伝えることもありましたが、規模が大きくなってからはメディアをうまく活用していました。インタビューでの発言やツイートを通じて、社員は彼の思想に触れることができるんです。これが彼のすごい点だと思います。

他にも、ツイッターで仕事の指令を知ることもありました。例えばギガファクトリーを手がけているときに、「ギガファクトリー全体を再生可能エネルギーで稼働する工場にする」というイーロンのツイートを見て、「あ、やばい。計画練り直そう」って(笑)。



入山:他には何かありますか?

上田:彼はシークレットマスタープランという最終的なゴールと、それにたどり着くための3つのステップを公開しています。最終的なゴールとは、すべての家庭に電気自動車を置くこと。そのためにまず「ロードスター」と自社開発の「モデルS」を作り、第3ステップとしてこれからローンチする大衆向けの「モデル3」を作ります。これらのステップは最初から決まっていたんです。

ゴールとそこにどうやってたどり着くかだけを公表して、社内では次に行うべきことを社員が全総力を捧げるよう徹底しています。例えば、工場を4カ月で立ち上げるとか、コストを25%カットするとかですね。

それまでコストのことは気にしなくていいと言っていたのに、ある時から急にコストカットを要求するのです。目標を1つ1つクリアにして複雑なことを考えさせず、とにかく簡略化して全員で取り組みます。デリバリーの面で問題があれば、セールス担当じゃなくても週末に出社して全員でアイデアを練りましたね。

入山:目指すべきゴールとそのためのステップを提示したら、あとは1つずつ乗り越えるべき壁に集中するということですね。

上田:それともうひとつ、テスラでは「イノベーション」という言葉を聞いたことがありません。社員にはイノベーションをやろうという意識は全くないのです。なぜならイーロンの問題設定が不可能・矛盾なことばかりだから。

例えばモデルSの構想は、プリウスの2倍の燃費なのにポルシェより早く、かつミニバン並みのスペースがあってセダンなのに7人乗り……というように、車の世界ではトレードオフで成り立っていることを要求しています。でもこの矛盾を解決できれば、間違いなくブレイクスルーが起きるはずです。

入山:面白い!トレードオフの解消がそのままブレイクスルーにつながるということですね。

上田:まず矛盾した問題を設定してしまう。もちろんそれはなかなか解決できないのだけど、解決策を見つければ。そうやってトレードオフをなくせば、他より絶対的に優れた車になるはずです。

入山:でもそれって、子供がおもちゃを欲しがって無茶を言っているようにも受け取られないですか?

上田:イーロンのバックグランドは物理学なので、あくまで物理的に無理なことは言いません。ギリギリ不可能ではないことを注文します。

入山:上田さんはエンジニアですが、イーロンはその基礎にあたる物理的な限界の感覚を持っているということですね。

会場:会社の規模が大きくなってもマネジメントを行うための秘訣はありますか?

上田:危機感をつくることですね。僕も起業してみてわかりましたが、危機感は自然には生まれないので人工的に作るしかありません。イーロンは絶対にやらなければならないと思わせるのがとにかくうまいんです。

入山:具体的には何かありますか?

上田:まずはマインドセットですかね。彼は常に「自分たちが不可能なゴールにたどり着けないと思っているならすぐに辞めて資金を投資家に返し、できると思っている人に再投資してもらうべき」と言っていました。「自分たちが問題解決のために最適なチームじゃないと思うならすぐにやめろ」と何度も言われながら、がむしゃらに走り続けた4年余りでした。

入山:ここまでのあまりにストイックな話を受けて、テスラの働き方を他人事のように感じる日本人も少なくないかと思います。テスラで働く中で日本企業と関わったこともあるかと思いますが、彼らのワークスタイルをどう感じましたか?

上田:できないことを前提に、ネガティブな話をすることが多い印象です。日本企業との打ち合わせは「難しいですね……」という単語を頻繁に耳にします。だから、アメリカ人たちは「難しい」という単語を覚えてしまうんです(笑)。

それで僕が「難しい」の意味を説明してあげると、会議の後に彼らは一同に「とても良い話し合いだったね」と口にするんです。ここにあるのは、前提的な違い。彼らは「難しい」という言葉を「大変だけどやればできる」、つまりは快諾の言葉だと認識したみたいなんです。

同じ言葉についての認識がここまで異なるものかと、当時はかなり驚きました。

Forbes JAPAN

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