デジタルの力で改善! 年500万円の薬剤ロスをゼロに

11月15日(木)6時0分 JBpress

アクセラレータープログラムへ参加した感想を語ってくれた「9lione」の廣田雄将氏

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 10月8日、デジタルガレージのアクセラレータープログラム「Open Network Lab(オープンネットワークラボ)」のDemoDayが開催された。今回ベストチーム賞とオーディエンス賞を勝ち取ったのが、クラウド医薬品管理システムの「9lione」(クリオネ)だ。

 アクセラレータープログラムとは、大企業や自治体が公募で選ばれた有望なスタートアップに対し資金や人材などのリソースを提供することによって、スタートアップの成長を「加速(acceleration)」させる取り組み。

 9lioneは、アクセラレータープログラムに参加することで事業を見事「加速」させることに成功した。同社はOCR読み取り機能を使い、処方箋を撮影するだけで簡単に医薬品の管理を行うことができる、SaaS型のサービスを提供している。日本の医療機関において誤発注などにより生じる薬剤ロスは1機関あたり年間で500万円にものぼるとされ、同社のサービスはこの薬剤ロスを減らすことを目的としたものだ。

 9lioneのサービス立ち上げ経緯や、事業立ち上げにアクセラレータープログラムを利用するメリットについて、代表の廣田雄将氏に話を聞いた。


異業種だからこそ気付けた「芽」。デジタルの力でアナログな医療現場を変える

 昨今、医療系スタートアップが増えているというが、その中でも投資家たちから評価された9lioneの強みとは何なのだろうか。まずは起業の経緯について伺った。

「実は、起業自体は初めてではないんです。学生時代にプロモーション系の会社をやっていました。その時(の事業内容)は、全然医療系ではなかったですね」

 最初の起業後、紆余曲折を経て事業を売却した経験もあると語る廣田氏。祖父の入院をきっかけに、医療に携わりたいという思いが生まれたという。

「9lioneの前は医療系のM&Aアドバイザーとして活動していました。その際、実際にクリニックやグループ病院の現場に入って業務改善等をしていたんですけれども、特に医薬品の管理が大変だったんです。その経験から、今回このような形で起業しようということになりました」

 本職の「現場の人」でないからこそ、気付く点が多かったのでは、と振り返る廣田氏。実際の医療現場では未だに手書きやExcelを使って膨大なデータを人力で捌いていることも多いという。9lioneはこうしたアナログな現場にデジタルの力を投入することで、業務改善を図ろうとしているのだ。

 従来から、医薬品の管理サービスは存在するが、初期費用が100万から300万円程と高額な上に、毎月安くはない利用料金がかかってしまう物も多い。その点、初期費用ゼロ円かつ月々数万円という低コストで利用できる9lioneが優位だ。加えて同社が採用しているOCR技術は手書きにも対応しているため、技術面でも競争優位性が高い。

「やっぱりメインの顧客になるのは薬局さんなんですが、それ以外にもクリニックや病院、歯医者さんや動物病院さんからもお申し込み頂いています」とのことで、医療機関からの反応も上々だ。

 だが、9lioneのサービスが現在の形に固まるまで、実は4回ほどピボット(方針転換)しているのだという。アクセラレータープログラムに参加したことで固まったという事業の方向性と、将来設計について詳しく聞いた。


アクセラレータープログラムに参加して定まった方向性

 既存の医薬品管理サービスの中には、二次流通によって廃棄される残薬を減らす仕組みを提供している物もあり、9lioneも初めはそちらからのアプローチを検討していたという。そもそもロスが出ない仕組みを作ろう、という現在の方向性に変わった理由について、廣田氏はこう語る。

「もともと9lioneの構想自体は2年前ほど前からあったんです。初めはAmazon Dash ButtonのようなIoTボタンで薬を注文できる仕組みや、院内残薬の即時買い取りサービスを考えていたりもしたんですけど、どちらも現実的ではなくて。その次に考えたのが二次流通です。医薬品のフリマアプリのような形で起業しようと考えていて、実は今回のアクセラレータープログラムの申し込みもそちらで応募していました」

 しかしプログラム期間中にメンターの意見を聞くことで「二次流通に直接アプローチするのではなく、管理自体を明確かつ簡単に行えるサービスを作り、互いに在庫データを参照しながら売買ができるようなシステムを構築していった方が良いのでは」と考え、医薬品「管理」にピボットしたそうだ。

「ゆくゆくは、もし院内残薬が出たとしても、データを元に在庫のある所から無い所へと流通させられる、二次流通のマッチングサービスのようなフューチャープランも考えています。それを実現するには、そもそもの管理方法を変えていかないといけないんじゃないのかな、と思ったんです」

 管理の最適化を図る過程で「いつ、どこで、どんなものがどのくらいの量必要とされているのか」というデータや、「どこにどんなものが余っている(足りない)」というデータが蓄積され、プラットフォームを構築していくことになる。これを応用することにより、いずれ薬だけでなく、ガーゼやマスク等の消耗剤や医療機器の売買などにも手を広げることができる。いうなれば、9lioneが「医療品業界のAmazon」になっていくわけだ。


プログラムに参加するメリットや、応募先を選ぶ基準は?

 起業の経験はあった廣田氏だが、アクセラレータープログラムへの参加は今回が初めて。プログラムに参加することで、先々の展開まで見据えたサービスへとアイデアを進化させていくことができた。プログラムのメリットについても、やはり一人での起業と違い、他者の意見が聞ける点が大きかったと話す。

「自分一人だけで(起業の準備を)やっていると、自分が考えたサービスが間違いない、という風に思い込んでしまうんです。プログラムのメンターとして来て頂いている方や、他のプログラム参加者の意見を聞くことで視野がすごく広がりましたね」

 加えて資金面でのスピードアップが図れるのはもちろん、他の参加者が身近にいることで、「自分ももっと頑張らなければ」と思えるのだという。自分一人で起業を目指すとなると、モチベーションを維持するのは相当難しいのだろう。廣田氏も、9lioneの構想を思いついてから2年間、一人で準備を進めていた際はなかなかサービスを形にできなかったことを振り返り、「もっと早く(アクセラレータープログラムに)参加していれば良かったです」と苦笑する。

 また、ビジネスの成り立たせ方や失敗しにくい立ち上げ方を学べたことも、プログラムに参加することで得られた大きなメリットだという。各プログラムによって学べることは異なるだろうが、視野が広がる点は共通だろう。初めての起業であれば尚更、独りよがりの起業になってしまわないコツを学べる場として非常に有用と言える。

 このように、アクセラレータープログラムに参加するメリットは大きいが、こちらの記事で紹介されているように、現在かなりの数のプログラムが存在する。特にシード段階では参加したくとも、自分たちに合っているプログラムはどれなのか、応募先を選ぶ段階で迷ってしまうのではないだろうか。選択基準は人それぞれだろうが、廣田氏は以下の基準でOpen Network Labへの応募を決めた。

・歴史の長さや実績の多さ
・今後協業していけそうか

「歴史の長さや実績の多さ」は経験豊富なメンターが居るかどうかなど、プログラムの質に関わってくる。さらに将来設計を考えると、目先の資金面だけでなく当然、「協業できそうな企業」との関係性を構築していった方がいいだろう。

 迷った時は、各プログラムを上記の視点から見比べてみるのが良さそうだ。


事業を「加速」させる強力な手段

 資金面やモチベーション面で成長速度のスピードアップや、メンターから得られるフィードバックなどメリットばかりのように思えるが、アクセラレータープログラムに参加するデメリットは無いのだろうか?

 デメリットも無くはない。例えば、シードの段階で目立ってしまうと、他社にアイデアを盗まれてしまう危険性が生じる。また、資金提供を受ける代わりに株式を渡さなくてはならない場合も多い。こうした事態を避けたいのなら、応募はよく検討する必要があるだろう。

 しかし、基本的には「もし応募を迷われているのなら、まず間違いなく応募した方が良いと思います」と廣田氏。最後に、アクセラレータープログラムへの応募を検討しているスタートアップ企業に向けてアドバイスを頂いた。

「アイデアはあっても起業経験がなくて不安、という場合でもメンターの意見が聞けますし、資金提供を受けられるプログラムもあります。DemoDayのような発表の場も頂けますし。地方だと特にVC(ベンチャーキャピタル)との接点も持ちにくいと思うので、こうしたプログラムを利用して(東京に)出てきて起業することもできるんじゃないのかな、と思います」

 アクセラレータープログラムに参加することで、元々のアイデアをより将来性のあるビジネスモデルに昇華させることができた9lione。同サービスによって収集される価値の高いデータ群は、製薬会社からも注目を浴びている。

 シード段階の企業の場合、投資家は「人」を見て投資先を決めるという。本気で業界や社会を変えるサービスを世に出したいという強い思いがあるのなら、アクセラレータープログラムへの応募をおすすめする。思いを形にするための、具体的な手段が得られるはずだ。

筆者:松ヶ枝 優佳

JBpress

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