Go Toとコロナ第3波、本当に関係があるのか?

11月15日(日)6時0分 JBpress

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(高橋 義明:中曽根平和研究所・主任研究員)

 欧州の現在の感染爆発は、感染者のゲノム配列の分析によるとスペインの北東部からバカンスによって各地に拡散した可能性が指摘される。日本でも感染が各地で急拡大し、「第3波到来」にGo Toキャンペーンの影響を指摘する声も聞かれる。

 一方、政府発表によるとGo Toトラベルが7月22日に始まってからの感染者は、利用者で31都道府県の84施設(北海道12、東京9、大阪7など)を利用した138人、従業員で21都道府県の74施設(東京21、沖縄8、北海道・福岡6など)の133人(11月12日)とされる。Go Toトラベルの利用者が2518万人泊(9月末時点)、3976万人泊(10月末日時点)とされるのに対して感染者はごく少数に見える。加藤官房長官もGo Toトラベルについて「利用者に起因して旅行先のホテルや観光施設の従業員に感染が広がったという報告は受けていない」(11月10日)と述べている。

 Go To Eatについては10月1日に開始され、利用者は1091万人(10月15日時点)とされる。感染者については北海道、大阪、千葉などの参加飲食店で従業員計16人が報告されたが、利用者ではゼロだという(11月10日時点)。菅総理は11月13日、記者団のGo Toへの対応に関する質問に「専門家も現時点において(Go To見直しの)そのような状況にはないという認識を示している」と答え、専門家の判断に委ねている。

 どのような政策も上手く行っているのか、上手く行っていないのであればどのような影響がみられたら政策を休止するか、そうした判断には政策の適切な効果測定が不可欠である。では、Go Toトラベル、Go To Eatの効果と影響はどのように測定されているのであろうか。


Go Toキャンペーンの「便益」と「費用」

 政策評価は世界的に「費用便益分析」が活用されることが多い。費用便益分析では、政策が行われた場合と行われない場合の便益と費用を計算し、便益と費用のどちらが多いかを比較する。費用が便益を上回ると政策中止などの判断がされる。

 便益には、事業者の利益や消費者の効用などが政策によってどれだけ増えたかが含まれる。費用は事業実施経費などである。道路整備の例で言えば、便益には渋滞緩和による交通時間の短縮やガソリン代などの経費の節減効果、そして交通事故の減少などが挙げられる。一方、費用としては道路整備・維持費用や自然環境の悪化などが該当する。

 Go Toトラベル、Go To Eatで言えば、便益は宿泊施設、観光施設、土産物屋や飲食店が得た経済的利益、利用者の心理的ストレスの改善などが考えられる。一方、費用はキャンペーン事業運営経費に加えてキャンペーンによって感染が拡大した場合の感染者・死亡者の治療費、入院の結果としての所得の機会損失、治療手控えによる病院経費、倒産した企業の負債などが該当しうる。つまり、Go Toトラベル、Go To Eatの評価にはキャンペーン事業に起因する感染拡大を的確に把握する必要がある


Go Toトラベル、Go To Eatの感染者の把握方法

 Go Toトラベル事務局から「新型コロナウイルス感染者が発症した際の対応および従業員の感染防止対策について」が公表されている。それによると、ホテル、旅館など参加事業者は従業員や宿泊客に感染が確認された場合(疑い例含む)にGo Toトラベル事務局に報告することとされている。宿泊客については(1)チェックイン時あるいは滞在時に感染が判明した場合、(2)チェックアウト後に感染が判明した場合、の2つに整理されている。

 一方、農林水産省から公表されている「Go To Eatに参加する飲食店が守るべき感染症対策」には、Go Toトラベルのように事務局や保健所などに対する感染者の報告義務に類する記載は見当たらない。ただし、都道府県ごとのGo To Eatキャンペーンにおいては、例えば、宮城県、東京都、千葉県、愛知県などの事務局による事業者向け参加同意書を見ると、「従業員から新型コロナウイルスの感染者が発生したことを把握した場合には、速やかに保健所に報告」とされている。Go Toトラベルのように、お客である利用者に感染者が出た場合に事業者に報告する義務の規定は、同意書に見当たらない。上述の通り、農水省からの感染者数の報告では従業員のみで利用者の感染例がゼロなのは、「従業員」とする規定しかないことも影響している可能性がある。


保健所はどこまで把握しているのか?

 これまでGo Toトラベルの利用者で感染した者について個別の報道があったのは、長崎県と佐賀県を訪れていた東京都の女性1名、関西地方からの北海道ツアー参加者14名の2件である。

 前者は発表した佐賀県がGo Toトラベルの利用者であることを確認していた。一方、後者について北海道知事が10月23日の会見で「道では直ちに旅行会社に事実関係の確認を行った」と述べているとおり、北海道の保健所は旅行会社の発表まで把握していなかった。

 それでは上記以外にGo Toトラベル、Go To Eatに関連する感染者(利用者および事業所従業員)を保健所は一般的に把握しているのであろうか。

 そこで各地の自治体に確認した。東京都からの回答はまだだが、現時点で回答をもらった北海道、大阪府、愛知県、神奈川県、宮城県など220カ所の保健所の所管部局は異口同音に「調査しておらず、把握していない」とのことであった。具体的な回答例をいくつか挙げると次のとおりである。

「疫学調査上必ずしも必要としているものではなく、データは作成していない」(長野県)

「国立感染症研究所が定める新型コロナウイルス感染症患者に関する積極的疫学調査実施要領に基づき、感染源の推定や、次なるクラスターの連鎖を防ぐことを目的とし、場所や日時、接触した人物を特定するものであり、患者がGo Toキャンペーンを利用していたか、患者の勤務先がGo Toキャンペーン事業に参加しているかどうかは、直接調査目的に資する情報ではないため、調査は行っていない」(群馬県)

「積極的疫学調査の中で、感染者のGo Toトラベル、Go To Eatの関連を調べる調査項目はなく、利用者数や事業登録施設の関係者の数を把握していない」(奈良市)

「保健所では行動歴を調査しているが、その方が受けている割引サービス等の情報は調査対象ではないため、データを所有していない」(那覇市)

 以上の回答の中には感染者の発生を自ら公表しているGo Toトラベル登録事業者を管轄する保健所も含まれる。つまり、Go Toトラベル、Go To Eat感染者数の報告はあくまで事業者⇒観光庁・農水省であり、保健所⇒厚労省⇒観光庁・農水省のルートは使われていないようだ


感染判明者が訪れた旅館、飲食店への連絡

 そこで問題になるのは、旅行者や飲食店利用者に感染者が発生した場合、宿泊施設、観光施設や飲食店がその事実を一般的に知りうるのかである。

 保健所がGo Toトラベル、Go To Eat利用者か否かを知らなくても、保健所からの連絡で感染事実を事業者が知ることができれば、今の仕組みでも観光庁や農水省に報告されうる。つまり、保健所⇒事業者⇒観光庁・農水省のルートである。

 そこでいくつかの保健所に対して、“管轄内の市民に感染が確認され、旅行などで他府県を訪問した場合に管轄の保健所に知らせるか?”をヒアリングした。

 まず、誰かから感染させられた可能性が高い発症14日前から発症2日前までの感染推定期間に訪問していた場合は「連絡することは一般的にない」とのことだった。例えば、A県のホテルAにB県、C県、D県、E県、F県という5県の住民が別々にGo Toトラベルを利用して同時期に宿泊し、その後発症しても、宿泊期間が発症14日前から発症2日前であった場合にはそのホテルに連絡が行くことがない。結果として、ホテルAが感染源となっているかもしれないことが見逃されうる。

 では感染者が誰かに感染させるかもしれない発症2日前以降に訪問していた場合はどうか。この場合には「(旅行先の保健所に)連絡することはありうる」とのことである。しかし、連絡を受けた保健所が更に感染者の立寄り先であるホテル、飲食店などに連絡するかは「把握していない」とのことであった。当該保健所が事業者に連絡するかはその施設で感染拡大の可能性が高いか否かの判断に左右されるためである。

 以上を踏まえると、Go Toトラベル手引でいう「チェックアウト後に感染が判明した場合」では、多くのケースで把握できていない可能性が高い。


因果関係を推論する統計的手法で影響測定を

 海外の研究では無症状者が8割を占めると言われる中、Go Toトラベル、Go To Eat利用者の中にも、感染していたが無症状だったので本人も気付かずに旅行や会食に出かけた人が含まれうる。上記で挙げた東京都から佐賀県への旅行者の場合もその例に当たると言える。このケースで感染が判明したのは会社の同僚が陽性だったとの連絡があったためであり、そのような状況になければ気付かずに自宅に戻っていたかもしれない。

 こうした明示的でない影響評価には、海外のようなゲノム解析もありえ、国立感染症研究所に第2波の起点がどこだったかを把握しているか確認したところ、「分かる文書を保有していない」という驚きの回答であった。そうであるならば、「ある特定の地域への人の流れが、その地域での感染拡大を生んでいるのか」について因果関係を推論する統計的手法で評価することが求められる。道路整備の費用便益分析でも、どこからどこにどれくらいの交通量が流れるのかというデータが基礎になっている。


現在はデータ収集・分析、公表が不十分

 鈴木北海道知事は11月10日に総理官邸を訪れた際、「基本的にGo Toトラベルが理由の感染が相次いで確認されているわけではない」と述べたとされる。しかし、北海道の保健所を所管する道庁・札幌市・函館市・旭川市・小樽市に確認したが、いずれもGo Toトラベル、Go To Eatによる感染状況について「調査をしていない」との回答だった。以上を踏まえると、北海道ではGo Toトラベル、Go To Eatに関連する感染者の全容を把握できていないと考えられる。

 それではどのような対応が必要なのであろうか。

 まず保健所の積極的疫学調査時に発症前14日前から陽性判明までの間にGo Toトラベル、Go To Eatを利用していた場合にはフラグを立てて、保健所から国に報告するルートを確立することが不可欠だろう。そのためには国立感染症研究所の積極的疫学調査実施要領の改定が必要になる。

 Go To Eatに関して北海道では職業としての飲食業や会食由来の感染例数が公表されていないので状況が明らかではない。しかし、例えば、大阪府の分析によると、陽性者のうち、居酒屋、飲食店、バーの従業員と客の感染は9月30日から11月10日までで445人とされる。東京都の公表データでは職業非公表も多いものの10月1日以降、飲食業の従業員が236人(11月9日現在)、濃厚接触者の中で会食による感染は313人(11月10日現在)である。保健所側のデータから政府のGo To Eat利用者における感染ゼロを検証することも必要である。

 2つ目の対応として、気付かずに自宅に戻っていたケースなどを評価するには、Go Toトラベル、Go To Eat利用者の人の流れを把握することが出発点になる。

 Go Toトラベルでは、利用者がどこに住んでいて、旅先としてどこに行ったのか、Go To Eatでは利用者がどこに住んでいてどこにある飲食店で食事をしたかが分かる「ODデータ」と呼ばれているものを準備することが不可欠になる。例えば、札幌市にGo Toで東京から何人行っているのかなど、人手の何割がGo Toの影響かが分かれば、Go Toを一時停止した場合に何割人出が減らせるかを推計することが可能となる。

 しかし、現状、観光庁、農水省からはそうしたデータは公表されていない。そこでGo Toトラベルについて筆者は観光庁に対して現在、「旅行先都道府県別・市町村別利用者数」「利用者の居住都道府県別利用者数」「利用者の居住都道府県別・旅行先都道府県別利用者数(OD表)」「性別・年齢階層別利用者数」などの提供依頼をしている。こうしたデータが収集できていて、提供されるのか注視をしたい。

 繰り返しになるが、政策が上手く機能しているのかの評価は、適切なデータを収集して初めて可能になる。しかし、Go Toトラベル、Go To Eatが現下の第3波に影響を与えているかどうかを判断するには、データ収集・分析、公表が明らかに不十分である。第3波を的確にコントロールする上でも見直しが求められている。

筆者:高橋 義明

JBpress

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