海軍兵学校出身の先輩から教えられたこと

11月15日(水)9時15分 プレジデント社

高砂熱学工業 会長兼社長 大内 厚氏

写真を拡大

■大阪で発揮した営業マインド


1975年、大学院の機械系修士課程を終え、恩師の勧めもあり当社へ入社しました。いまは大学院を出た新人など珍しくありませんが、当時はまだ大学院出というと大学に残って研究者になるのがふつうでしたから、諸先輩から「学者が入ってきた」と冷やかされたものです。


空調システムの技術を生かして、人やものに対する快適な空間づくりと、地球環境に配慮したエネルギー運用の提案などを行っているのが当社です。若手社員の頃は、企業の技術力向上に貢献する一人前のエンジニアになろうと、現場業務に一心不乱に取り組んできました。当時は周囲に気を配る余裕もなく、客先へ当社の技術を生かしたシステムを納入しさえすれば、失礼はないものと思い込んでいました。




高砂熱学工業 会長兼社長 大内 厚氏

しかし現場運営を任されるようになり、業務担当範囲が広くなっていくことで、客先や協力企業に対する「節度ある対応」がいかに大事なことかを知ることになりました。


たとえばシステムトラブルが発生したら、遠方であろうと昼夜を問わず現地へ駆けつけ、お客様の不安を取り除き、事態の改善に注力する。協力企業に対しては、やり直しの必要のないきっちりとした計画で指示を出す。さまざまな失敗の中から、こういった姿勢で取り組むことが信頼につながり、次の仕事につながっていくことを学んだものです。


2005年、支店経営の次席である副支店長として大阪へ赴任することになりました。このときから、私の役割は大きく変わります。


それまではプロジェクトや部門の収益を高めることが私の使命でしたが、以後は支店全体の業績向上のためにどう動くべきかを考えるようになりました。お客様への対応も、御用聞き型のいわゆる「技術営業」から、より高い次元で顧客対応をさせていただくようになりました。



■大阪で直面した「文化の違い」


大阪では文化の違いにも直面しました。関東では通用した常識も、大阪を中心とした関西では通用しないのです。東京本店での仕事が長かった私には、少々面食らうことも多かった。


さらに、当時の大阪は東京など国内の他都市と比べて経済環境が優れず、客先である企業の設備投資も活発ではありませんでした。そうした諸々の環境があるために、当時の大阪支店の営業部門には、あきらめムードが漂っていました。


しかし、状況はどうあれ、あきらめるわけにはいきせん。赴任後すぐに、自らが範を示すつもりで積極的に外へ出ることにしたのです。その頃には私にも、責任感からくる物怖じしない社交性が身に付いていました。


積極的に外へ出れば、受注に結びつく出会いもあるし、そうでなくても人脈の幅が広がります。そうした姿を見せることで、部下にはアクションを起こすことの大切さと、仕事のやり方に工夫を凝らすことの大切さを学んでもらいました。


営業ではこんな工夫をしました。たとえば新規の投資を手控えているお客様には、予算範囲内の設備改善を行うことで年間のランニングコストが下がり、短い期間で投資回収ができるというプランを提案しました。新規プロジェクトの受注には至らなくても、客先の設備リニューアルのお手伝いをすることで、先方の利益になり、当社の業績にもつながるというやり方です。


■何気ない行為が見られている


また、こうした営業活動では大事なことに気づかされました。お客様と直接向き合うことで、先方の意向を誤解することなく取り入れることができるし、状況の変化にもすぐ対応できます。そして何よりも、直接お会いすれば、会わないでいるよりも真意が通じやすいのです。


大阪支店在勤中の08年には取締役に任じられ、会社全体の利益のために働く立場となりました。ちょうどその頃のことです。当時の石井勝会長が大阪へ出張に来ては、私にあれこれと話をしてくれるようになったのです。



■ほかの人と同じことをやっていてはダメだ


石井は社長在任18年、会長在任6年の「業界の顔」というべき大物経営者で、一言で言うならカリスマです。海軍兵学校の出身で、私より二まわりも年上。東京時代はほとんど会話をした記憶もありませんが、この頃はたまに大阪へ出張に来て、今思えば私に経営の手ほどきをしてくれたのです。たとえば、こんな言葉が記憶に残っています。


「営業をするときは、ほかの人と同じことをやっていては仕事に結びつかない。大事なのは、当社や自分に興味を持ってもらうことだ。それには相手に強い印象を植え付けなければならない。これができるかどうかで、結果は大きく変わるものだ」


たしかにその通りだと思いました。受注活動では、競合他社と同じ動きをするのではなく、先手を取って、しかも他社を上回る提案をすること。そしてお酒の入った会合の場では、相手の真情を汲み取り、仕事の話を持ち出すべきか、懇親に徹するべきかの判断も重要になります。どちらの場面でも、相手の記憶に残るよう、メリハリをつけて対応することが大事だと教えられました。


そこにはマナーの教本はありません。付け焼き刃のマナーではなく、もっと深いところから自然に出てくる振る舞いが、結局は相手に伝わります。


古くから交流のある経営者が私を評価してくださるので、「なぜ気に入ってくれたのですか?」とうかがったことがあります。その答えは、何かの行事の後片付けの際、私が椅子を運んでいる姿に感銘を受けたというのです。会社での立場とは一切関係なく、私は手があいていたから何も考えずに手伝っただけです。しかし、そういう些細な行為をしっかりと見ている人がいて、評価してくれることがあるのです。


マナーは誠意から生まれるものだ。私は常にそう思っています。


----------


大内会長の作法

1 年賀状はどうしているか(枚数など)

出している。ビジネス1000枚以上。

2 普段のお礼状はどうしているか

出している。

3 仕事絡みのゴルフはするか

する。プライベートより仕事上のほうが多い。

4 日常の勤務時、ネクタイはするか

する。

5 会食の回数

週3回(ビジネス)。

6 服は誰が選ぶか

自分。

7 初対面の相手で見るところ

顔。表情によって、その人の歴史観を読み取る。

----------


----------


大内 厚(おおうち・あつし)

1949年生まれ。水戸一高、東北大学工学部卒。同大学院修士課程を修了後の75年入社。東京本店技術1部長などを経て2005年大阪支店副支店長。08年取締役常務執行役員大阪支店長。10年から社長。16年から会長を兼務。

----------



(高砂熱学工業 会長兼社長 大内 厚 構成=石川拓治 撮影=的野弘路)

プレジデント社

この記事が気に入ったらいいね!しよう

先輩をもっと詳しく

BIGLOBE
トップへ