米中関係はどこまで悪化するのか

11月21日(水)6時0分 JBpress

パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の関連行事「CEOサミット」で、演説を終えて手を振る中国の習近平国家主席(2018年11月17日撮影)。(c)PETER PARKS / AFP〔AFPBB News〕

 現在までに米中貿易摩擦を巡る両国間の通商協議が4回開催されたが、8月下旬のワシントンでの次官級協議以降、同協議は開催されていない。

 報道によると米中ともに一歩も引かない姿勢を見せており、2018年11月末に予定されている米中首脳会議で大筋合意に達するのは難しいだろうと見られている。

 しかし、これまでの協議の経過をみると双方の思惑も見えてくる。

 来る米中首脳会議で何らかの合意が得られる可能性がある。そこで、本稿では米中貿易戦争の「落としどころ」について考察した。

 以下、初めに今回の中国製品に対する報復関税の根拠である301条の概要を述べ、次に米中貿易摩擦を巡る通商協議の経緯を述べ、次に米中貿易戦争における両国の狙い、最後に来る首脳会議における「落としどころ」について述べる。


1.301条の概要

 通常、米国1974年通商法301〜310条を総称して1974年通商法301条と呼ばれる。

(1)制定の経緯

 1962年通商拡大法による大統領への大幅な通商権限委譲により、大幅な関税引き下げによる貿易自由化が推進された。

 一方で、エスケープ・クローズ(緊急輸入制限措置規定)の適用の厳格化など、貿易自由化の原則を貫き、貿易自由化によって生じた被害に対する救済措置をあくまでも例外的なものとする試みが推進された。

 1970年代に入って、米国の貿易収支は悪化の一途を辿り、1971年には20世紀に入って初めての貿易赤字となった。

 そのうえ石油危機による追い打ちもあり、企業や労働組合は議会に対して貿易救済措置の発動要件の緩和を求めるなど、保護主義的な圧力を強めていった。

 このような経済情勢を背景に、エスケープ・クローズの発動要件を緩和すると同時に、外国の不公正貿易政策について制裁措置権限を大統領に与える301条などが盛り込まれた、1974年通商法が成立したのである。

 さらに、1980年代後半には、米国が巨額な貿易赤字を抱えたことから、ゲッパート修正条項に象徴される貿易赤字相手国に対する議会の不満が募った結果、1988年包括通商競争力法が成立した。

 この法律により1974年通商法301条の改正・強化が図られ、外国の不公正措置に対して調査から制裁発動までの手続を自動化することを規定し、米国が一方的措置をとりやすくした。

 すなわち、他国の貿易政策・措置について、WTO(世界貿易機関)協定などの国際的に認知された手続によることなく、自国の基準・判断に基づいて「(WTO協定等)国際的なルール違反である」または「不公正な措置である」などと一方的に判定し、これに対抗する手段として制裁措置を取りやすくしたのである。

(2)法律条文の構成

 第301条は、1974年通商法のタイトルⅢ「不公正な貿易慣行の除去」の第1章「貿易協定の下の米国の権利の執行及び外国の貿易慣行への対応」の条文である。

 既述したが301〜310条を総称して301条と呼ばれている。各条文の見出しは次の通りである。

第301条 米通商代表による措置(Actions by United States Trade Representative)
第302条 調査の開始(Initiation of investigations)

第303条 調査開始の協議(Consultation upon initiation of investigation)
第304条 通商代表による決定(Determinations by the Trade Representative)

第305条 措置の執行(Implementation of actions)
第306条 外国のコンプライアンスのモニタリング(Monitoring of foreign compliance)

第307条 措置の修正と終了(Modification and termination of actions)
第308条 情報の要求(Request for information)

第309条 管理(Administration)
第310条 通商上の執行措置の優先順位(Trade enforcement priorities)

(3)301条の内容

ア.趣旨:米国1974年通商法301条は、外国政府の不公正行為に対抗して、米国政府が報復措置をとる権限と手続きを規定する。

イ.不公正行為:

不公正行為とは、1) 通商協定違反行為および不正 (unjustifiable)行為、2) 差別 (discriminatory)行為、または3) 不合理 (unreasonable)行為をいう。

 不正行為とは国際義務(条約や協定はもちろん、国際慣習法も含めて)違反行為である。

 差別行為とは、合衆国産品またはサービスまたは投資に対する内国民待遇や最恵国待遇を拒否する行為を含む。

 不合理行為とは不公正かつ不公平(unfair and inequitable) な行為をいい、1)起業機会の拒否、2)知的財産権の適正かつ有効な保護の拒否、3)市場機会の拒否(合衆国製品のアクセスを制限する外国民間企業の組織的反競争活動に対する同政府の黙認をふくむ)、4)輸出ターゲティング、5)労働者の権利の常習的な拒否などを含む。

 いずれの場合も、それが米国商業に対する負担・制約になっていることが要件である。

ウ.担当官庁:調査者・措置の決定者は、大統領が上院の助言と承認を経て任命する合衆国通商代表(USTR)である。

エ.措置の種類:不公正行為が協定違反または不正行為の場合、措置は義務的である(USTRは措置をとらなければならない)。

 ただし、1)大統領が拒否権を発動した場合、2)相手国政府が協定違反や不正行為をやめるか補償提供に同意した場合、または 3)WTOの否定的決定がある場合、措置を免除する。

 不公正行為が差別行為または不合理行為の場合、措置は裁量的(措置をとるかどうするかUSTRが判断し決定する)である。

オ.措置の内容は大統領権限のすべてに及ぶが、対象外国産品に対する一定期間の報復関税(不公正行為による米国商業の被害と等価)の賦課が最も望ましいと規定されている。

カ.たすきがけ報復とカルーセル条項:不公正行為対象品目と報復措置対象品目はかならずしも同じでなくてもいい。

キ.調査開始:利害関係者による提訴またはUSTRの職権による独自の調査。調査開始は裁量的である。

ク.措置決定期限:一般の場合12か月以内、協定違反事件の場合18か月以内。措置の実施は最長180日延期可。措置は4年間の自動終結。


2.通商協議等の経緯

 今月17日までの公開情報に基づき、協議と関連する事象を含めて、次のとおり時系列順にまとめた。

① 2018年5月3−4日:米国のムニューシン財務長官、ウィルバー・ロス商務長官、ラリー・クドロー国家経済会議委員長、ロバート・ライトハイザー通商代表部(USTR)代表、ピーター・ナヴァロ通商製造業政策局(OTMP)局長らと中国の劉鶴国務院副総理が率いる中国代表団が2日間にわたって第1回の閣僚級通商協議を実施したが突破口は見つからなかった。

 この協議で注目されたのは米中の間の議論でなく、米政権内部の保護貿易主義者(ロス長官とナヴァロ局長)と自由貿易主義者(ムニューシン長官とクドロー委員長)との間の意見の調整であった。(CNN 5月8日)

② 2018年5月17−18日:ワシントンで開いた第2回閣僚級通商協議を受けた共同声明で「米国の対中貿易赤字を減らすため、中国が米国のモノとサービスの輸入を大幅に増やすことで合意した」と表明。

 ムニューシン米財務長官は20日に「貿易戦争を当面保留する」と述べ、中国への制裁関税をひとまず棚上げして協議を継続する考えを示した。

 また、中国による知的財産の侵害についても、両国が連携を強化し、中国が法整備を進めるとの表現にとどまった。(日経5月21日及びCNN5月20日)

③ 2018年6月3日:ロス米商務長官と中国の経済担当副首相劉鶴氏との第3回閣僚級通商協議を北京で開催。米中は共に、北京で行った通商協議で3750億ドル(約41兆円)に上る中国のモノによる対米貿易黒字の削減方法に関して一定の進展があったと発表。(Bloomberg News6月4日)

④ 2018年6月3日:中国の劉鶴副首相とロス米商務長官の会談後、新華社は、米中の合意は「両国が互いに歩み寄り、貿易戦争を行わないことを前提とすべきだ」とし、「米国が関税引き上げなど貿易制裁を導入すれば、両国が交渉した全ての経済・貿易合意は無効化される」と警告。(出典:ロイター6月4日)

⑤ 2018年7月6日:制裁関税第1弾を発動。

⑥ 2018年7月13日:米商務省は、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に科した米国企業との取引禁止の制裁を解除したと発表。

 商務省は4月中旬、ZTEがイランなどに米国製品を違法に輸出し、米政府に虚偽の説明をしたため米国企業との取引を7年間禁じる制裁を科した。

 ドナルド・トランプ大統領が5月中旬に習近平国家主席から頼まれたとして制裁見直しを表明。米中の貿易協議で中国側から譲歩を引き出す交渉材料とする構えをみせていた。(日経7月12日)

⑦ 2018年8月22−23日:米国と中国の貿易摩擦を巡る王受文次官とマルパス米財務次官(国際問題担当)との間で第4回(次官級)通商協議が22〜23日にワシントンで開催。

 米中の貿易協議は、6月初旬に劉鶴・中国副首相とロス米商務長官との間で開かれて以来。

 ただ、事情に詳しい関係者によると、目に見える具体的な進展はなく、貿易摩擦が早期に収束する見込みは低下しつつある。(WSJ8月24日)

⑧ 2018年8月23日:制裁関税第2弾発動

⑨ 2018年9月24日:制裁関税第3弾発動

⑩ 2018年9月24日:トランプ米大統領が近く第3弾の制裁関税の発動を表明する見通しとなったのを受け、中国の劉鶴副首相率いる代表団はムニューシン米財務長官らと27、28の両日に閣僚級の貿易協議をワシントンで開催する予定であったが中止した。(WSJ9月21日)

⑪ 2018年9月24日:中国国務院新聞弁公室は24日、「中米経済貿易摩擦に関する事実と中国の立場」白書を発表。

 中国国営新華社通信によると、中国政府は24日に発表した「中米経済貿易摩擦に関する事実と中国の立場」と題した白書の中で、中国の知的財産権保護の姿勢について、「明確かつ揺るぎないものだ。立法や法執行、司法レベルで保護を強化し続けることで明らかな効果を収めている」と強調するとともに、「中国の日増しに強まる知的財産権の保護は外国企業の中国でのイノベーション活動に効果的な保障を与えている」などと指摘。

 一方で、米国の対中貿易制裁については「米国政府による一連の既存の多国間貿易ルールに違反し、破壊さえするような不当なやり方によって、既存の国際経済秩序は著しく損なわれている」

 「米国政府による一方的な貿易戦争の挑発は、世界経済だけでなく米国の国益も損なうことになるだろう」などと反発。(recordchina9月25日)

⑬ 2018年10月1日:トランプ大統領はホワイトハウスで「中国は極めて強く協議を望んでいるが、率直に言って現時点では時期尚早だ。中国側の準備が整っていないため協議はできない」とし、「時期尚早な協議を無理に行えば、米国、および米国の労働者にとって正しい合意は得られない」と述べた。(ロイター10月2日)

⑭ 2018年11月1日:トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は、1日、電話会談し、11月末にブエノスアイレスで開かれる主要20カ国・地域(G−20)首脳会議にあわせて会談することを確認。

 トップ同士による打開を目指して対話を進めることでは一致。(朝日11月2日)

⑮ 2018年11月9日:米側はポンペオ国務長官とマティス国防長官、中国側は楊潔篪政治局員と魏鳳和国務委員兼国防相の米中両国の閣僚による「外交・安全保障対話」が9日、ワシントンで開催。

 終了後の共同記者会見で楊潔篪政治局員は、米中の貿易摩擦について、互いに受け入れ可能な解決策を模索することで一致したと説明。(読売11月10日)

⑯ 2018年11月17日:トランプ政権は5月、中国に対して、1)貿易赤字を2年で2000億ドル(約22兆5000億円)削減、2)先端産業の育成策「中国製造2025」による補助金の撤廃、3)米国並みに関税を引き下げ——など8項目を要求。

 トランプ米大統領は16日、「中国は142項目の行動計画を提出してきた」「取引で合意するかもしれない」と述べ、ただ、同大統領は「重要な4、5項目が解決されていない」と述べて「私にとって、まだ受け入れられるものではない」と記者団に述べた。(日経11月17日)


3.米中貿易戦争における米中の狙い

 次に、米中の貿易協議等から読み取れる両国の狙いなどを考察する。

 筆者は経済の専門家でないので、見当違いの考察になるかもしれない。大方のご教示を賜りたい。

(1)米国の狙い

 中国が不公正貿易慣行の全面的な中止を約束すれば米国の勝利である。

 しかし、米国が中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に科した制裁を解除したことから、米国は中国からそのような譲歩を得ることは無理であろうと見ており、何らかの妥協点を模索している様子がうかがえる。

 また、今回の制裁関税の発動の時期が米国の中間選挙の直前であったところから、国内に向けに強い指導者としての印象を与える狙いがあったものと考えられる。この狙いの役割は終了した。

 11月17日に中国が142項目の行動計画を提出したことにより、来る首脳会議で合意の可能性が出てきた。

 しかし、トランプ大統領が「大きな懸案がいくつか残っており、現時点ではまだ受け入れられない」と述べており、現時点では首脳会談で合意に至るかはなお不透明である。

(2)中国の狙い

 中国は、WTO紛争解決手続きを申し立てるなどして、WTOを重視するEUや日本を味方に引き入れて、米国を孤立させるようとしている。

 しかし、2016年7月の南シナ海仲裁裁判所の裁定を無視し続けているなど国際機関を軽視している中国を信頼・協力する国はないであろう。

 また、中国は、これまでの協議で輸入拡大や知的財産保護体制の改善を提示するなど対話による解決を目指している。

 しかし、輸入拡大や知的財産保護体制の改善は、米国にとっては最低限の要求事項であって、これで米国が満足するとは思えない。

 中国は今のところ米国に報復措置も辞さない強硬姿勢を取っているが、2期目の習近平政権の権力基盤が盤石となり、習総書記は、今後、国内の反対勢力の声などを気にせずに政策決定を行うことができることから、必要であれば譲歩の姿勢を見せる可能性もある。

 中国は産業発展の原動力は科学技術力であると見ている。

 そして、中国は製造業の高度化を目指す行動計画である「中国製造2025」を実現するために、海外から次世代情報通信技術やハイエンドデジタル工作機械、ロボット、航空・宇宙装備などの「中国製造2025」が定める10大重点分野に関連する技術を必要としている。

 従って、今回は、ある程度の譲歩をせざるを得ないであろう。11月17日に142項目の行動計画を提出したことは、それを物語るものである。


4.来る米中首脳会談における「落としどころ」

 本項では、貿易赤字の削減や関税の引き下げなどの貿易問題の解決策でなく、本貿易戦争の背景にある安全保障上の問題やインテリジェンス活動を巡る米中の対立に焦点を当てて述べる。

 2018年11月14日、米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は、中国の動向に関する年次報告書を公表。

 その中で「中国の国家主導の不公正貿易慣行は、ハイテク技術の流出につながり、安全保障上のリスクだ」と警告した(11月14日 時事通信社)。

 経済はパワーの源泉として安全保障に深くかかわっている。

 経済の繁栄は、経済力はもとより、技術力、軍事力といった国家のパワーを充実させ、反対に経済の衰退はかつての旧ソビエトのように国家の崩壊に至る可能性がある。

 これがゆえに、経済的手段によって安全保障の実現を目指す「経済安全保障」という概念が生まれたのである。

 すなわち、中国の経済力の発展は米国の安全保障上の脅威なのである。

 しかも、その経済力の発展が、米国の技術および知的財産を盗み、自分のものにして大きくなったとなれば、米国の憤りも理解できる。

 ちなみに、現在繰り広げられている「米中のインフラ支援競争」も「経済安全保障」の脈絡で捉えるべきである。

 中国は自国の情報機関を使って米国の技術および知的財産を盗んで国有企業または民間企業に提供している。

 インテリジェンス活動は国家の安全確保のために行われるもので、収集した情報を民間企業の経済活動のために提供することは考えられない。

 これは、民間企業の公正な競争を阻害している。

 公正は米国が最も重視する価値観である。ここに今回の米中対立の隠れたかつ根本的な原因がある。

 本年10月10日に米司法省が中国情報機関の幹部の訴追を公表したことも、これらの活動を絶対許さないという中国へのメッセージであろう。

 従って、来る米中首脳会議では、「中国が自国の情報機関による自国の国有企業または民間企業の経済的利益のためのスパイ活動(サイバー空間のスパイ活動を含む)をやめる」ことを約束すれば、さしあたって米中貿易戦争は沈静化すると思われる。

 しかし、2015年9月の米中首脳会談での首脳同士の約束をいとも簡単に反故にした中国に対して、この約束を遵守させ、その他の様々な義務の履行をきちんと担保する仕組みをどう構築するかという課題が残っている。

筆者:横山 恭三

JBpress

「米中関係」をもっと詳しく

「米中関係」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ